2023-04-25
低収入の学習塾経営を打破するM&A!譲渡直前に従業員が一斉退職もピンチにも動じなかった理由とは
買い手(個人):山本幸平さん(30代)

<個人の多角化を目的としたM&A・買収事例>
- ➤ 塾を一生の仕事に。でも“この先ずっと月給25万円”と知り、新たな収入源を確保
- ➤ 引き継ぎ予定の従業員がまさかの全員退職も、リスクを想定した先回り採用が功を奏す
- ➤ 美容室買収で塾のスタッフも昇給する道ができた!Z世代がSNSマーケで力を発揮
- ➤ 学習塾⇔美容室で、予期せぬ採用の好循環も実現!
大阪府泉大津市~岸和田市を中心に学習塾を経営する山本幸平さんは、 子どもたちへの教育を一生の仕事にしたいと考え、新卒で学習塾に就職しました。
しかし、 業界の給与体系により昇給が期待できないことを知り、別の事業の柱が必要だと危機感を感じました。
経営者になり学習塾と不動産事業を安定経営の柱にしてきた山本さんは、さらなる事業多角化を目指し、 初めてM&Aに挑み泉大津市内の美容室を買収しました。
交渉中、 条件に含まれていた「従業員の引き継ぎ」ができないトラブルに遭遇しましたが、リスクを先読みして準備していた山本さんは見事にピンチを乗り越えました。
今回は、M&Aの体験談や事業多角化の考え方、経営者としての心構えなど、山本さんにお話を伺いました。
【塾を一生の仕事に。でも“この先ずっと月給25万円”と知り、新たな収入源を確保】
- 山本さんのご経歴から教えてください。
私は大学で塾講師のバイトをして、新卒で中小の塾運営企業に就職しました。若いうちから多くの仕事を任せられていましたが、中小塾の限界として、 40代や50代でも月収25万円以上が厳しいと早い段階で分かりました。
この収入では結婚や子育てに不安があり、将来が見えません。しかし、仕事への情熱や塾業界への愛着があります。だから、 「塾だけでは不十分。塾と他の事業を組み合わせて収入を安定させるべきだ。」と考えました。
- 塾講師を一生の仕事にしたいと思ったのは、何かきっかけがあったのですか?
大学時代、得意な勉強で簡単に稼げると思い、塾のバイトを始めました。しかし、最初の1年間は自身の学業の都合もあり、少し手を抜いてしまいました。
その結果、私が担当した生徒が志望校に落ちてしまい、「もっと全力で指導すれば合格できたかも」と落ち込みました。
それでも生徒は「先生、頑張ってくれたのに、ごめんね」と言ってくれました。 その言葉に胸が痛み、申し訳ない気持ちでいっぱいになり、本気で塾講師の仕事をしてみたいと思うようになりました。
- そういったルーツがあったんですね。塾の収入だけでは未来が開けないと感じ、別の事業をする必要性を感じてからは、どんなことに挑戦されましたか?
塾で働きつつ貯金し、銀行から融資も受けて、不動産投資を始めました。駐車場やテナントビルを買って家賃収入を得ました。 塾の仕事と不動産経営を並行して行い、29歳で独立し学習塾を立ち上げました。
現在は3つの校舎があり、 2つは購入した建物内にあるため家賃がかからず、高い利益率を得られています。他の不動産物件も校舎からそれほど遠くない場所を選んでいるので、非常に管理しやすいです。
- 基本的には、不動産経営と塾経営の二軸で事業を展開してこられたのですね。
テナントや塾経営で余裕が生まれ、新たな物件を購入し家賃収入が増え、従業員を増やす好循環が生まれました。そんな時、M&Aで小規模事業を買うという選択肢に興味を持ちました。
多くのM&Aサイトは高額な手数料がかかるものの、TRANBIはリーズナブルで利用しやすかったです。
M&Aで事業を拡大し、塾のスタッフに他の事業も手伝ってもらうことで、人件費を抑えながら成長できると考えました。ただし、遠い拠点は移動が難しく交通費もかかるため、なるべく塾の近くで様々なビジネスを展開する方が良いと判断しました。

(山本さんが運営する「才塾」)
【引き継ぎ予定の従業員がまさかの全員退職も、リスクを想定した先回り採用が功を奏す】
- 今回購入された美容室に注目された理由を教えてください。
重要だったのは、 塾のエリア内だったのと既存のノウハウの活用です。泉大津市にある塾と近い場所に美容室があるため、塾のスタッフが美容室の雑用・手伝いが可能だと考えました。
また、学習塾で培った教育やマニュアル作成のノウハウが美容室で役立つと思いました。私自身は美容師の資格は持っていませんが、優秀な美容師に店舗運営を任せられれば問題ないと考えていました。
- M&Aの交渉はどのように進みましたか。
まず、 客数や売上・利益の内訳、費用などを確認しました。次に、シャンプーやお茶のサーバー代などの費用詳細を聞いて、契約日や保健所への申請手続きなど、引き継ぎの手順を細かく整理しました。
- 交渉の中で、思い通りに進まなかったことはありましたか。
従業員の引き継ぎが思うようにいきませんでした。3名の美容師が事業譲渡後も働くという条件で交渉しました。しかし、美容師たちと話すと 「オーナー交代に伴ってスタイリスト全員の給料を倍近くにして欲しい」と無理な要求をされました。
結局、譲渡直前に3名全員が退職を申し出ました。おそらく、オーナー交代を機に辞めるタイミングを狙っていたのでしょう。 売り手も予想外の事態でした。
- 美容師が誰もいないとなると、美容室の運営もできず、M&Aを辞退する選択肢もあったように思いますが、どのようにしてその危機を脱したのですか?
最初からリスクを予測し、別に3名の美容師を採用していました。6つの鏡と椅子があるので、3名が仮に辞めたとしてもその新しい3名でスタートできると考えました。
そしてこの引継ぎのトラブルがあっても、 あえて値下げ交渉はせず、交渉決裂を避けました。
むしろ私の心の中では、店の発展のことを考えず自分のことばかり考える旧従業員は無茶なことを言い続けるなら出ていってほしいとまで考えていましたし、 新従業員にとっては「彼らにとっての理想の店作りがしやすくなる」と思っていました。
- 美容師の採用は難しそうな印象があります。どのようにして3名の美容師を個人的に採用できたのですか。
不思議なご縁から始まりました。以前、私の塾の敷地で無断駐車があり、注意した方が怒って帰りました。その無断駐車の方が隣りの美容室のお客様だったため、私は謝りに行きました。そしてその美容師さんと意気投合していました。
そして今回の美容室のM&A交渉中に引継ぎでトラブルがあった際、悩みをその美容師の方に相談しました。
すると(その3名が働いていた店にもケジメをつけたうえでの話ですが)、 トントン拍子に3名が集いました。全くの偶然なのですが、幸運にもその3名のうち2名は大手美容チェーンの幹部で、多店舗展開の経験とノウハウがありました。
多店舗展開を考えている私にとって、彼らは理想的なパートナーでした。
起業をする者には運も必要だとよく言われますが、この日ほど納得した日はありません。
- 偶然のご縁から、素晴らしい美容師の方を採用できたのですね。なぜ、その方たちは前職でのキャリアを捨ててでも、山本さんが新しくオープンする美容室に来ることを選ばれたのでしょうか。
「泉大津を中心に美容室と塾を広げたい」という私のビジョンに、彼らは興味を持ってくれました。
美容室経営の経験がない私は、 「素晴らしい美容室を増やしたいが、力を貸してくれる人が必要で、あなたに店長を任せたい」と私の熱意を伝え、彼らが協力してくれることになりました。
美容師は、職人気質で自信とこだわりを持っていることが多いと思います。そういった人は、嘘や駆け引きを嫌います。正直な気持ちを伝えることが、良い関係を築く秘訣だと考えています。

(山本さんが買収した美容室)
【美容室買収で塾のスタッフも昇給する道ができた!Z世代がSNSマーケで力を発揮】
- 11月から美容室の運営を始められて、現在はどんな状況ですか。
11月と12月はプレオープン期間で、1月からは店名を変更し、グランドオープンしました。現在は4名の美容師が業務委託契約で働いており、黒字化も達成しています。今後は美容師を増やし、売上向上を目指していきます。
また、塾のメンバーが美容室の業務を手伝ってくれています。空き時間にレジの両替やタオル交換、そしてクラウドファンディングを利用してオリジナル商品を開発・販売してくれています。
- 塾以外の事業の業務を行うことで、社員の方の給料が上がることもあるのでしょうか。
他業種からの収益が塾のボーナスに影響を与えることもあり、新しい業務を担当する社員の給与も上がることがあります。
例えば、 塾は月次報告で会計が十分だったのですが、美容院では日報レベルの会計が必要になり、この業務を担当した社員の給与が上がりました。
業務内容が増えることで昇給の動機が生まれました。 このような変化は塾だけのM&Aでは起こらなかったでしょう。だからこそ、事業の多角化に挑戦して良かったと感じています。
- さっそく黒字化しているようですが、効果的な集客方法などが機能しているのでしょうか。
最大の要因は、 価格戦略とサービス内容の大幅な改善です。サービス内容と価格を改善し、ホットペッパービューティーで新規顧客を急増させました。
さらに、InstagramやTikTokでの集客も順調です。これらのSNS運用には、塾でアルバイトしている学生も協力しています。
実は昨年、塾のTikTokで30秒以内の教科知識動画を投稿し、半年で1万5000人のフォロワーを獲得し、SNSの可能性を感じました。
そこで、今年1月から美容室のTikTokとInstagramも開始しました。 実際に、Instagramから月に約10~20件の集客に成功しています。集客方法は、地元の町名を検索し、潜在的な顧客に魅力的な案内を添えたダイレクトメールを適度に送るものです。
学習塾は校舎のブランドに信用が紐づくものですが、美容室は美容師個人への信頼が大切です。そのため、投稿では美容師の技能の魅力をアピールしています。
- SNSを活用した集客で、実際に結果を出せた秘訣はどんなところにあると思いますか。
積極的にZ世代の若者を採用し、塾講師やSNS運用で活躍させていることが要因だと思います。 現代はSNSの活用は必須で、美容室も塾も活用しないと生き残れないことを理解しています。
しかし37歳の私にはSNS運用で理解できない部分が多いです。 彼らには、成果報酬型で「成果が出たら報酬を渡す」と明確に伝えています。 細かい指示はせず、目標と自由を与えることで、若者たちがセンスを活かし、SNS運用で成功を収めています。
例えば、Instagramで夜遅くに返信が来ても、彼らが素早く対応し、丁寧な返信をすることで集客に繋がっています。正直言ってトップダウン型経営です。
私は 「偉そうに言うが、必ず責任は全部自分が持つ」と皆に伝えています。戦略は私が決め、方向性を皆に伝えます。細かい戦術に関しては皆が意見を出し合い活動しています。
- その結果、うまくいかないことも時にはあるのでしょうか。
印象に残るのは、塾でのTikTok運営です。 美人女性講師の授業風景を投稿し、反応があったためライブ配信も行いましたが、次第にファンサービスが求められるように。
教育のモラルから逸脱していくことに疑問を感じ、打ち止めを決めました。教育とSNS上のニーズが合致しないと思いました。
この経験から、「本業」と「守りたいもの」を常に強く持たなければ方向性を間違うと学びました。我々トップダウン型の経営の仕方だと、それは破滅を意味すると思います。

(山本さんが運営する塾と講師の方)
【学習塾⇔美容室で、予期せぬ採用の好循環も実現!】
- M&A以降、変化したことはありますか?
アルバイト応募が増え、多い週では数日に1回のペースで来るようになりました。小さい学習塾では、通常「月1回応募があれば良い」という基準が普通です。
この塾は、塾の仕事だけでなく美容室の仕事もできることから、楽しいとの口コミが広がり、地域での求人集客力が上がっています。良い先生も採用しやすくなりました。
さらに、 今月3名が美容室を経由して入塾を決定しました。受験対策に悩む人に、美容師が「オーナーが塾も経営している」と宣伝してくれたためです。
今後、塾の生徒や親御さんが美容室に通う循環が生まれるかもしれず、さまざまな相乗効果が期待できます。
もちろん、そこまで予想していたわけではありません。逆にM&Aが成立してから、どのように相乗効果を生み出そうかと毎日考えています。
- M&Aを振り返ってみての感想を教えてください。
M&Aに初挑戦するにあたり、多くの書籍を購入して読み、YouTubeで経験談を調べ、情報収集を行いました。
予想外の従業員引き継ぎのトラブルはありましたが、自分で調べられることは全て調べ、後悔なく進めることができました。売り手側に仲介会社がいたため、契約書類の準備などを主導してもらい助かり、学ぶこともありました。
ただ、関係者が増え確認ステップが増えたことで、M&Aの進行速度は遅くなる印象を受けました。
- 山本様が、経営者として大切にしていることを教えてください。
塾の勉強や不動産、美容室、M&A、SNSなどの学習では、まず書店で関連本をまとめ買いし、学んだ内容や現状、ノウハウ活用法をノートにまとめます。
基礎知識を身につけた後、「不動産なら不動産会社」のように専門家に話を聞き、深く学びます。 新しい知識を得たら帰宅後ノートにまとめ、自己研鑽を怠らず、周りの優秀な人の力を借りて学ことが大切だと考えています。
- 今後の展望を教えてください。
どんな事業にも関わりたいですが、私の根底にあるのはやはり塾です。現場は私抜きでも回る体制が整っていますが、今も一部の授業で教壇に立ち、やりがいを感じています。
「合格したわ。先生ありがとう」の言葉には飽きず、塾に関わり続けたいと思います。
10年後には泉大津市や泉州近隣で多様な事業に取り組み、持ち株会社を別で用意して各事業で法人化し、株主として各社の社長を育てたいです。 40~50代で泉大津市に根ざした事業を拡大し、泉州の雇用拡大に貢献することが今の私の夢です。
- 事業拡大にあたって、またM&Aという手段を使いたいと思いますか。
M&Aを活用することで、コストを抑えて迅速に事業展開ができるため、今後も積極的にM&Aを利用したいです。最初に目指すのは、美容室の2店舗目を近隣や1駅離れた程度の場所でオープンすることを考えています。
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■今回山本さんが買収した事業はこちら
■山本さんが運営している塾はこちら
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