2023-05-23

「シナジーを目的としたM&Aはすべきでない!」売上10億円の異業種を買収した事業再生請負人が語るM&Aの極意

買い手(法人):ハルクホールディングス株式会社

<中小企業の多角化を目指したM&A・買収事例>

 

広島に本社を置き、 中四国No.1のインテリア資材の総合卸商社・株式会社池田ハルクなどのマネジメントを手掛けるハルクホールディングス株式会社。事業多角化を目的に、 同じ中国地方の雑貨小売業を約1億5500万円で買収します。

山口県に6店舗を構えており、店舗面積も広く、売上も良かった雑貨小売店ですが、 実態は債務超過のため、私的整理を含めた分割会社の株式譲渡というものでした。しかし、ハルクホールディングスで今回のM&Aを担当した五家様は、慎重にデューデリジェンスを行って購入を決断します。

交渉過程や買収後の戦略、そして「シナジーを求めてのM&Aはすべきでない」という独自の考えなどについて、五家様にお話を伺いました。

【コア事業が衰退産業ゆえ、リスクヘッジに迫られた】

- はじめに、ハルクホールディングス株式会社や五家様のご紹介からお願いします。
インテリア資材を扱うハルクグループのホールディングス会社として、子会社のマネジメントや事業支援を行っています。中核となる株式会社池田ハルクは、創業60年を誇る中四国No.1のインテリア資材の総合卸商社です。

私はハルクホールディングスで取締役として、グループ会社すべての経営企画を担っています。約1年前に入社しましたが、 これまでは事業再生請負人のような立ち位置で長くキャリアを積んできており、今回のようなM&Aの先導役として期待されてヘッドハンティングで入社しました。

- 今回ハルクホールディングスがM&Aを検討し始めたのは、どのような目的からですか。
第二、第三の事業の柱を作るためです。 少子高齢化に伴って労働生産人口が減少し、今後さらに住宅の着工件数が減少することが予想できます。この波に抗うことはできず、池田ハルクが手掛けている内装資材の卸事業も、長い目で見ると衰退産業であることは間違いありません。

かつ、私たちは卸会社であるため、もしもメーカーさんが直販を開始した場合に今の事業が成り立つのだろうかという不安も抱えています。 リスクヘッジのためにも、新しい事業に挑戦していく必要性を考えていました。

新しい事業の柱を作るにあたり、業種はまったく絞っていませんでした。極端な話、将来的に飲食店を運営している可能性があるほど、変化の波が激しい時代だと捉えています。

- 事業をゼロから立ち上げるのではなく、M&Aという手法を選んだのはどうしてですか。
異業種の事業を立ち上げるにあたり、人的資源面で割くことのできるリソースが限られていたからです。

M&A後には、インテグレーション(統合)の過程もあります。異業種の会社に入って事業を軌道に乗せていくことのできる人材は社内におらず、外部から採用することも難しかったので、M&Aという選択肢を選びました。M&Aの手段としてTRANBIを活用したのは、合理的かつスピーディーに案件を見つけて交渉を進められそうだったからです。



(今回取材を伺った五家さん)

【売上・地域でのブランド力・会員数の面では申し分なしの案件だった】

- 案件を探す上では、ハルクホールディングスの本社がある広島周辺エリアの案件を対象にされていたのでしょうか。
はい、中四国エリアの案件を探していました。ただ、リアルビジネスやネットビジネスなど、業種へのこだわりはまったくありませんでした。

今回、服飾・生活雑貨・インテリア・食品など幅広い商品ラインナップを揃える山口県の雑貨小売業の案件に惹かれたのは、 池田ハルクがまだ着手できていないBtoC領域のビジネスだったことが大きな要因でした。

池田ハルクのバリューチェーンを俯瞰して、現状の課題や同業他社の状況、業界のリーダー的立ち位置になるために何が必要かを逆算して考えると、「BtoC領域のビジネスが必要」という結論に行き着き、これまでBtoB事業が主であったところから、BtoC事業の強化を目指していたからです。

- エリアや業種以外に、案件のどんなところに魅力を感じましたか。
初期の段階で、仲介会社様を通じて店舗面積も教えていただいたのですが、各店100~200坪ほどの店舗面積で、ロードサイドに6店舗も構えていると聞いて驚きました。

かつ1店舗あたりの売上が1.5~2億円、合計で約10億円ということで、小売業でこの売上はすさまじく規模が大きいと思い、興味を持ちました。

山口県内では一定のブランドが確立されていて、当社の山口営業所のメンバーに聞いてもこのお店のことを知っていました。業歴が長いこともあり、会員数は約5万人いて、商品券の発行やポイント活用などの販促活動を定期的に実施することで、根強いファンが定着している点にも惹かれました。



(ハルクホールディングスで働く方々)

【実態は債務超過!慎重に面談とデューデリジェンスを行い購入を決断】

- 交渉はどのように進みましたか。
実は、今回のM&Aは少々特殊で、私的整理を含めた分割会社の株式譲渡でした。売り手様が債務超過に陥っていて、債権者への返済が滞っている状態だったのです。

まず債務超過に陥った原因を確認したところ、多店舗展開を急ぎすぎたために資金繰りがうまくいかなくなったという事情を知りました。

今回、当社がM&Aをさせていただくのは、売り手様企業が複数持っている事業のうちの1つです。多角化経営をされながらなんとかやりくりをしていたようですが、とうとう資金繰りに余裕がなくなったようで。 全体では黒字ですが、赤字の店舗もありました。

そうした背景を知った上で、仲介会社様からいただいた財務系の資料や従業員の給与状況の資料などを見ながら財務のデューデリジェンスを行い、取引先との契約関係の書類を参考に法務のデューデリジェンスを行いました。

財務の資料を見ていると、「この売上で、これだけの在庫を抱えているのか?」と疑問に思う点や辻褄が合わないこともあって。指摘したところ、仲介会社様も把握しておられて、後ほど修正後の資料が届きました。

- デューデリジェンス後は、どのように交渉を行いましたか。
売り手様の社長様と面談を行い、その場で改めて、事業を売却しなければいけなくなった事情を伺いました。 財務的な見立ては完了していましたし、事業を譲渡いただいた場合に黒字化は堅いと思っていましたが、なぜ赤字になってしまったのかや、なぜこの状態で放置していたのかといったことを確認するためです。

話してみると、社長様はとてもお人柄が良くて、信用できる方でした。債務超過になってしまったのもトラブルの重なりだったとわかったこともあり、購入を決意できました。このプロセスまでに、一次意向表明と二次意向表明をすでに行っていましたが、社長様と何度かお会いした後、三次意向表明を行いました。

もう1社ライバルがいて、最終提示金額も100万円単位まで同じだったようですが、社長様との信頼関係が構築できていたことや当社の事業規模に安心感を抱いてくださったこともあって、優先交渉権をいただき、基本合意契約を締結できました。

- 譲渡金額はどのように決まりましたか。
当初、売り手様は2億円を超える譲渡希望金額を提示されていました。

事業を引き継ぐことと継続させていくことが今回のM&Aにおける双方の主たる目的のため、DCF法を利用したバリュエーションが妥当だと思い、修正後の財務諸表を参考に実施したところ、譲渡希望金額は7000万円ほどでした。

ただ、事業再生の案件で相手に債権者がいるため、金融機関にある程度はお返しすべきだとも考え、上乗せをして。最終的に約1億5500万円になりました。

この上乗せは仕方なく行ったものではあるものの、投資回収期間を考えたときに、5~6年で回収できる金額だと思ったため、GOを出しました。

- 売り手様は仲介会社を付けられていましたが、交渉はスムーズに進みましたか。
今回の仲介会社様は、事業再生の請負会社だからこそ、財務や取引先に関するレポートはきっちりとしたものを提出していただけました。社長様とお会いする前から就業規則も共有いただけるなど、こちらの要求に対してフレキシブルに対応していただいたので、積極的に関与していただいてとても助かりました。



(ロードサイドの雑貨小売業)

【「シナジーを生む」以外の目的や理由を持って、M&Aをせよ】

- 引き継がれた後の体制はどうなるのでしょうか。
運営している事業、従業員の雇用、取引先との契約はそのままスライドします。常勤ではないものの、私が代表取締役として中に入り、経営改革を実行していきます。

すでに経営課題は抽出しています。小売業に必要であるにもかかわらず、現時点で欠けてしまっているものを洗い出して改善策を組み立てることと、お客様が何を求めているのかを今一度確認することを徹底しようといった方針で経営改革を行う予定です。

端的に言えば、受発注と在庫の管理さえきちんとできていれば、小売業は絶対に失敗しないはず。その実現のためには、お客様がどのようなニーズを持っているのかを正確に捉えて、必要のない仕入れをしないことに尽きると思っています。あとは、会員様とコアなファンを増やしていくことでしょうか。

- 今後はどのようなことに取り組んでいく予定ですか。
ターゲティングと、ターゲットが必要としている商品群の充実です。

当初聞いていた話によると、今回買収した雑貨小売業の店舗は40~50代の富裕層をターゲットにしており、贈答品を購入される方が多く、平均購買単価も高めということでした。 しかし店頭に置いてある商品群の中には、ターゲットのニーズに合っておらず、当店で扱う必要のなさそうな商品もあって

今後は、エビデンスに基づき、ターゲットとするお客様の年齢層や志向を再定義すべきだと考えています。ターゲットが決まれば、自分たちが本当に扱うべき商品が自ずと見えてくるからです。

なおかつ、社員に「自社の強みはどこにありますか?」と聞いても明確な答えが挙がらないところも課題だと捉えているので、 強みに磨きをかけてオンリーワンのブランドを築き、市場で勝負できる体制を築きたいです。

- 今回のM&Aに対する、社内の反応はいかがですか。
当初は、「経験のない事業に進出して大丈夫なのか」といった反対意見もありました。ただ、オーナーや上層部は「経験のない事業だからこそ社員のモチベーションアップにも効果を及ぼすのではないだろうか」と期待しています。

実際にM&Aを行ってみると、「異業種への進出もアリなんだ」や「楽しそうだ」といった声も聞こえてきています。中には「新しく買収した会社に出向したい」と希望を伝える社員も出てきているようで、うれしい限りです。

- 買収した会社の代表取締役に就任されるということで、不安やプレッシャーはありますか。
ありません。というのも、当社はホールディングスの形態を取っているものの、 子会社間でシナジーを及ぼすことを期待されているわけではなく、“子会社がそれぞれ自走して、利益を稼げる状態であればいい”という考えだからです。

今回のような新しい挑戦の結果、社員のモチベーションが上がれば成功だと考えているので、従業員の意識変革のための投資と考えると安いようにも思います。

- 数々のM&Aや事業再生に携わってきた五家様から、M&Aを検討している買い手様にアドバイスをお願いします。
既存事業とのシナジーを期待したM&Aは、やめた方がいいと思います。 もちろん、M&Aを行って経営改善を続けていくうちに、結果としてシナジーが生まれるシーンはあるかもしれませんが、最初からシナジーの創出を目的にしたM&Aが成功した例は見たことがないなと。

それよりも、“なぜ、M&Aをするのか”の理由をしっかり見つめて言語化してほしいのです。

当社の場合は、既存事業の将来を考えたときに、不景気のリスクヘッジのためや、既存事業が衰退しても社員が長く働き続けられる場を用意するためには新しい事業が必要だと判断して、M&Aに至りました。

こうしたモチベーションが根幹にあると、M&A成立に向かうための原動力にもなります。

なぜM&Aをしないといけないのかを、今一度考えていただきたいです。

そして、M&Aは結婚のようなものだからこそ、交渉相手との信頼関係を築き、M&Aを行うことで事業がきっちり黒字化するのかどうかを冷静に判断しながら、M&Aを進めることをおすすめします。

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■今回ハルクホールディングスさんが買収した事業はこちら

「地域ブランド力を有するロードサイド型の雑貨小売業」

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