2022-03-29

後継者不在に悩む、光学機器メーカーを個人でM&A!長年、事業縮小に悩んでいた老舗メーカーを立て直すビジョンとは

買い手(個人):土屋好儀さん

<個人の起業独立を目指したM&A・買収事例>

 

長年、光学レンズメーカーの販売会社の代表を務めていた土屋好儀さん。しかし、2021年に製造部門と販売部門が親会社に吸収されることとなります。

「自らが経営者として、裁量権を持ってビジネスをする」ことを大事にしたかった土屋さんは、吸収された会社で役職に就くよりは独立を目指すことに決めました。TRANBIで、老舗光学機器メーカー・千代田光機株式会社の譲渡案件を見つけて、「自分の経験やノウハウを生かせるかも」と交渉を申し込み、M&Aが成立しました。

後継者不足に悩んでいたその会社は、ここ10年ほど事業が縮小し、赤字が続いていました。それでも再建できる自信を持ってM&Aに踏み切った土屋さんに、交渉過程や引き継ぎ後の現状、ビジョンについてお話を伺いました。



(千代田光機の様子)

【経営していた会社が吸収合併…「経営者としてビジネスがしたい」とM&Aに挑戦】

- まずは、土屋様のキャリアについて教えてください。
もともとは工業用の画像処理用レンズに特化した光学レンズメーカーに勤めていました。そこで製造部門と販売部門を分社化しようという動きがあり、私が関西エリアの販売部門を担う立場として会社を独立させて18年ほど営業活動を進めてきました。

しかし、親会社が数年以内のIPOを目指している関係で、「企業価値を考えた時に分社化のメリットがない」という結論に至り、2021年10月から東西の販売部門を担う会社が本体に統合されました。

現在はフルタイムではないものの、親企業がM&Aを行った会社の役員に就任して在籍はしています。

- ちょうど前職の統合時期と重なる、2021年の秋頃に個人でのM&Aを決断されたのはどうしてですか。
トップとして事業を率いて、会社経営を行っていきたいという気持ちが強かったからです。もちろん、合併後の会社で役員などの業務にフルコミットする選択肢もありました。しかし、裁量権を持ってビジネスを行いたい思いが強かったため、新たな道を選ぼうと思い、M&Aという手段を活用し、2021年の夏頃から案件を探していました。

- どのような条件で案件を探していましたか。
これまでの経験を生かせるものとなると、やはり光学機器の業界だと思いました。TRANBI上で、「光学」や「レンズ」といったキーワード検索をして。ニッチな業界なので多くの案件がヒットしたわけではありませんでしたが、1つ気になる案件を見つけました。すぐにTRANBIの有料会員に登録して、売り手様に問い合わせをしました。

興味を持ったのは、都内の顕微鏡・医療用光学機器・精密光学レンズ系の設計や製造を行っており、医療系機器メーカーや精密測定器メーカーをクライアントに持つ千代田光機株式会社です。調べてみると、非常に歴史の長い会社だとわかりました。

売却理由は、「社長が高齢であり、後継者がいないから」というものでした。また、現在の業績があまり芳しくないと聞いて、「自分が裁量権を持って改革に取り組むことで、再建したい」といった思いも生まれてきました。

ただ即決はせず、比較を行うためにTRANBI以外のプラットフォームでも案件を探してみました。しかし、数か月から半年ほど待っても、その案件以上に魅力的なものには出会えなくて。まだ買い手様が決まっていなかったため、交渉を申し込み、M&Aが成立しました。



(千代田光機が持つ製品ラインナップ)

【事業縮小・売上赤字…。課題山積みも、経験と人脈を活かして解決できると確信】

- 交渉はどのように進みましたか。
TRANBIを通じて問い合わせた時に返信をくれたのは、社長の奥様でした。ただ交渉に関しては、代理人である信用金庫の法人支援部の担当者の方々が窓口になられていたので、基本的にはその方々とやりとりを行いました。

当社も、デューデリジェンスはエージェントに依頼しました。営業利益は赤字で負債も多く、デューデリジェンスを行う中で財務面においては厳しい評価が下されましたが、「この案件しかない」と思っていましたし、自分で立て直す気持ちになっていたので、引き下がることはしませんでした

- 直接やりとりの機会は少なかったようですが、売り手様にはどのような印象を持ちましたか。
社長も奥様も非常に真面目な方だったので、企業に対していい印象を持ちました。

体制について伺うと、社長と奥様を含めて11人の規模で。営業ができるメンバーがいない、ものづくりはできるけれど設計ができるメンバーもいないという状況でした。

売り手様の1代前の社長は技術者でしたが、営業・開発までも広く見ていたようです。しかし、突然亡くなられて跡を継ぐことになったようです。売り手様は職人ではありましたが、営業や開発を手掛けられるわけではないので、ここ10年ほどは先代が築き上げた案件のリピート受注によってなんとか経営を続けている状況だったようです。

ただ、次第に部品の支給を受けて組み立てだけ担うようになったり、扱える機種が10機種から5機種になったりと、請け負える範囲が縮小する一途だったようです。営業がいないため、お客様との交渉もできず、どんどんお客様が他社に切り替えていかれたようです。

こうした背景に加えて、新しいことに取り組むことができず、新規顧客も開拓できないままでは、業績が落ちてしまいますよね。「このままではいけないが、自分たちで立て直すのは難しい」という課題意識はお持ちで、2人とも「社員のことを考えると、早くM&Aの話をまとめたい」と思っていたようです。

お話を聞いて、厳しい状況に置かれていることは十分理解しました。ただ同時に、「自分の経験やノウハウを生かして、改善できる」とも確信できたのです。

- 譲渡金額はどのようにして決まりましたか。
先方の譲渡希望金額は3500万円で、内訳は譲渡株式分2000万円と退職金1500万円でした。

決して手頃な金額ではないので、金額について交渉しようかとも考えました。ただ、今後も売り手様には会社に残って働いてもらうので、気持ち良く引き継ぐことを第一に考えて、金額は交渉せずにそのまま受け入れることにしました。



(千代田光機の製造現場)

【会計や法律のプロは積極的に頼るべし】

- 交渉過程で困ったことなどはありませんでしたか。
交渉の代理人であった、信用金庫の担当者の方とのコミュニケーションが円滑に進まないことがありました。たとえば、話し合いによって最終契約書をこちら主導で作成することになり、法律事務所の先生に作成していただいた原案を送ったら、なかなか返答がなかったり、別のフォーマットで作られた契約書を送り返されたりといったことがありました。

文言や言い回しについてもかなりこだわりが強くて。結果的に、こちらがかなり譲歩する形で落ち着きましたが、苦労しました。先方からの提案が妥当かを判断するためにも、専門家の先生に付いてもらっていて良かったです。

- プロに依頼しつつ、M&Aの交渉を進められて心強かったですか。
私は、会計事務所と法律事務所の先生方にサポートをしてもらったのですが、依頼してよかったです。

たとえばデューデリジェンスの場面で難しい項目をわかりやすく説明されていたり、時にユーモアを交えて笑いを取りながら先方にお話をされたりしていて。買い手様に安心感を与えるという意味でも、心強かったです。

- M&Aの成立以降、どのように引き継ぎを進めましたか。
2021年12月1日から引き継いだのですが、その前に社員の皆さんと個人面談を行いました。ただスペースの都合上、周りに他の社員が大勢いるフロアでの面談になってしまったので、本音を聞き出せた自信はありませんが…。

それでも、社員の顔を見ていると、皆が明るく前向きな表情をしていて。「これから頑張るぞ」という気概を感じました。

引き継ぎを進める中で、社内にPCが2台のみ、メールアドレスが1つだけだったり、いまだにお客様とのやりとりも電話やFAXメインだったりと、カルチャーギャップもたくさんありました。そうした体制でも仕事が回ってきたのでしょうが、今後は必要に応じて整備していきたいですね。

2月からようやく新しい案件に取り組み始めたり、そのための作業スペースを確保すべく皆で社内の断捨離を行ったりしています。

- 売り手様との関係性はいかがですか。
売り手様ご夫婦は、ご高齢ということもあって無理に働き続けていただく必要はないと思っていました。

ただ、「できる限り働き続けたい」ということで、売り手様はほぼフルタイムで勤務してくださっていて。9時~16時で勤務されている奥様には、運営面を取り仕切っていただいています。私は現在、前職の会社と兼務という形なので、いろいろとお任せできる体制であることをありがたく思います。

売り手様は、「自分は営業や設計の体制を整えることもできず、会社運営において当たり前であることができなかった」といつも反省するようにおっしゃっていて、私に期待を掛けてくださっています。こちらからは、「力が必要なので手伝ってください」、「一緒にやっていきましょう」と声を掛けています。

【組織と事業を変革し、2年で2倍以上の売上を目指す】

- 今後どんなことに取り組んでいく予定ですか。
私のこれまでの人脈を生かして、営業や開発を手掛けられるメンバーを採用しようと思います。ものづくりに関しては今の組織でできるので、私としては新しいお客様を開拓したり、オリジナル製品を立ち上げたりといった新しい挑戦をしていきたいなと。

また、顕微鏡の老舗企業であるため、たとえば歴代の顕微鏡をショールームに展示するような構想もあって。長くやってきた歴史は財産です。社員にも誇りを持ってほしいという意図もあります。今すぐ取り掛かるわけではありませんが、そうした未来を見据えて、千代田ブランドである過去の製品も大事に保管しておこうと思います。

これまでは売上のピークが9000万円ほどだったらしいのですが、社員には「1年目で売上1億達成、2年目で2億達成を目指しましょう」と伝えています。

また、社内の意識改革も必要だと思っています。というのも、たとえば社員に「なぜこの作業を、このやり方でしているんですか?」と問い掛けると、「ずっとこのやり方でやってきたから」「前任者がこのやり方をしていたから」といった回答が返ってくるんです。

思考停止に近いと言いますが、改善の意識を持って仕事に取り組めていなかった部分も見られるので、「今のやり方を当たり前と思わず、より良い方法を模索する」マインドを育てていきたいと思います。

- 会社の改革に取り組む上で、経営者としてはどんなことを意識したいですか。
やはり社員とコミュニケーションを取ることです。以前経営していた企業では、自分より年下のメンバーを新しく採用して仲間に迎え入れてきました。しかし、今回は歴史の長い企業をM&Aしたため、長く勤めてこられた方が多く、最年少の方でも40歳前後で、自分より年上の方も多くいらっしゃいます。

今後新しいメンバーの採用も行いますが、組織の雰囲気が変わることで戸惑いや不安を感じる社員もいると思っていて。既存の社員と新しく加入するメンバーが協力していけるような雰囲気や関係性づくりは、意識しなければいけません。

とはいえ、テクニックのようなものは何もなくて、大事なのは日々のコミュニケーションの積み重ねだと思うため、朝出社したらこちらから挨拶に回ったり、見かけたら声を掛けたりといったことを意識しています。

- 最後に、今後M&Aに挑戦される方に向けてアドバイスをいただけますか。
デューデリジェンスと契約書の作成や内容確認は、専門機関に依頼することをおすすめします。契約書については、専門用語がたくさんあって自分で読んだだけで内容をしっかりと把握することはなかなか難しいものです。

今回の売り手様は大変誠実な方でしたが、中には買い手にとって不利な条件を契約書に盛り込んでくる方がいないとは限りません。的確なアドバイスも貰えるので、スムーズにM&Aを進めたいならプロにサポートしてもらうといいと思います。

***今回土屋さまが買収した案件はこちら*****

「柔軟な受注生産が可能 精密光学機器製造業」

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  • 倉本祐美加
  • ライター紹介倉本祐美加

    関西学院大学卒業後、クラウド製品を扱うIT企業のインサイドセールス職を経て2016年にライターとして独立。企業取材を中心としたインタビュー原稿の制作に従事していますが、エンタメ・スポーツ・文化等幅広く好みます。

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