買収予算1円のM&A案件の特徴
買収予算1円の案件は、多くが債務超過や赤字が継続している事業です。業種としては、競争環境が厳しい小規模なWebメディアやECサイト、あるいは許認可の維持を目的とした建設業などが挙げられます。
事業規模は個人事業主やマイクロ法人が中心で、オーナーの健康問題や事業整理など、廃業コストを回避するために売却されるケースがほとんどです。
最大の魅力は、許認可やウェブサイト、僅かな顧客基盤などを実質ゼロコストで獲得できる点にあります。また、負ののれんが発生し、会計上の利益を計上できる可能性も考えられます。
しかし、その裏には帳簿に現れない簿外債務や偶発債務といった深刻なリスクが潜んでいる可能性が極めて高いです。事業モデル自体が立ち行かなくなっているケースも多く、買収には抜本的な事業再生が前提となります。
買収予算1円でのM&Aのポイント
ポイント①:簿外債務や偶発債務のリスクを徹底的に洗い出す
1円で譲渡される案件で最も警戒すべきは、財務諸表に記載されていない「隠れた負債」です。例えば、滞納している社会保険料や税金、従業員への未払い賃金、将来の訴訟に発展しかねない顧客とのトラブルなどが考えられます。
このようなリスクを見過ごすと、買収後に想定外の資金流出を招きかねません。そのため、専門家によるデューデリジェンス(買収監査)は省略せず、むしろ通常以上に法務面・財務面から徹底的に行う必要があります。
契約時には、売主が負うべき責任の範囲を表明保証条項で明確化し、万一のリスクに備えることが不可欠です。
ポイント②:事業不振の根本原因と売主の協力姿勢を見極める
1円での売却には、単なる経営者の属人性を超えた、事業構造上の深刻な問題が潜んでいることが大半です。なぜ事業が立ち行かなくなったのか、市場環境の変化や競争激化、提供価値の陳腐化といった根本原因を正確に突き止めなければなりません。
また、事業再生を円滑に進めるためには、売主の協力が不可欠です。主要な取引先や従業員との関係性をスムーズに引き継げるか、必要な情報を誠実に開示してくれるかなど、交渉過程を通じて売主の協力姿勢を慎重に見極めることが重要です。
ポイント③:再生計画(PMI)の現実性と追加投資を見積もる
買収価格が1円であっても、事業を立て直すためには多額の追加投資が必要になるのが一般的です。運転資金の補填はもちろん、老朽化した設備の更新や新たなマーケティング施策の実施など、想定すべきコストは多岐にわたります。
「安く買ってから考える」のではなく、M&Aの検討段階で具体的な事業再生計画(PMI)を策定することが成功の鍵です。自社のリソースをどのように投下し、いつまでに黒字化を達成するのか、現実的な計画とそれに伴う追加投資額を厳密に見積もる必要があります。
