表明保証保険(W&I保険)とは?売主用・買主用の仕組みとメリットを徹底解説

表明保証保険(W&I保険)とは?売主用・買主用の仕組みとメリットを徹底解説

表明保証保険(W&I保険・R&W保険)とは、M&A契約の表明保証違反による損害を補償する保険です。売主用・買主用の仕組み、メリット・デメリット、活用シーン(中小M&A・海外・大型・補助金連携)、免責事項、保険会社の選び方まで体系的に解説します。

目次

「表明保証保険ってどんな保険?」「売主用と買主用、どちらに加入すべき?」「メリットやデメリットは?」──M&Aの実務で、このような疑問を抱く方は少なくありません。

表明保証保険は、M&A契約における表明保証違反によって生じる経済的な損失を補償する保険です。英語では「R&W保険(Representations and Warranties Insurance)」、欧州実務では「W&I保険(Warranty and Indemnity Insurance)」、業界では「レプワラ保険」とも呼ばれ、いずれも同じ保険を指します。

表明保証保険には売主用買主用の2タイプがあり、それぞれメリットや活用シーンが異なります。中小M&Aや事業承継分野でも、2020年以降に国内向け商品が登場し、保険料を抑えた中小規模の取引でも活用が広がりつつあります。

本記事では、表明保証保険の意味・仕組みから、売主用・買主用の違い、メリット・デメリット、活用シーン、免責事項、主要な保険会社まで、表明保証保険の活用方法を体系的に整理します。M&Aを初めて検討する方にも、保険活用を比較検討したい方にも参考にしていただける内容をまとめています。

表明保証保険とは?(1分でわかる定義)

表明保証保険は、M&A契約における表明保証条項の違反によって生じる経済的な損失を補償する保険です。表明保証違反が発覚した際、補償金を売り手に請求する代わりに、保険会社から保険金で補填してもらう仕組みです。

表明保証保険は、英米法に由来する保険商品であり、もともとはクロスボーダーM&Aや大型取引で利用されていました。近年は、中小M&A・事業承継分野でも国内向け商品が普及し、活用の場が広がっています。

表明保証保険の基本定義

表明保証保険(Representations and Warranties Insurance)とは、M&A契約の表明保証違反によって生じる損害を保険会社が補償する仕組みです。買い手と売り手の双方が加入でき、いずれかが保険契約者となるのが一般的です。

表明保証違反が起きた場合、通常は売り手が買い手に対して損害賠償や補償金を支払う必要があります。しかし、表明保証保険に加入していれば、その損失を保険会社が肩代わりしてくれるため、当事者間の紛争リスクを軽減できます。

なお、表明保証は英米法に由来する概念で、日本の法律上での扱いは定まっていない部分があります。表明保証保険も、これと同様に英米法の実務から発展した保険商品といえます。

別名(W&I保険・R&W保険・レプワラ保険)とは

表明保証保険には、いくつかの呼び方があります。

  • R&W保険(Representations and Warranties Insurance):米国実務で一般的な呼称
  • W&I保険(Warranty and Indemnity Insurance):欧州・英国実務で一般的な呼称
  • レプワラ保険:R&Wの「Rep(レップ)」と「Warranty(ワラ)」を略した業界用語

これらはすべて同じ保険を指す呼び方であり、案件や保険会社、地域によって表記が異なるだけです。日本国内では「表明保証保険」と呼ばれることが多く、英文契約や海外案件では「R&W」「W&I」が用いられます。

表記揺れ(表明保障保険・表明補償保険)について

実務では、「表明保証保険」が異なる表記で記載されることもあります。

  • 表明保証保険:正式な表記(本記事でも統一して使用)
  • 表明保障保険:「保障」(状態の維持)の漢字が使われた表記
  • 表明補償保険:「補償」(損害の埋め合わせ)の漢字が使われた表記

いずれも同じ保険を指しますが、契約書や保険商品名では「表明保証保険」が一般的に使われます。本記事では、原則として「表明保証保険」と表記して解説します。

表明保証(条項)との違い

表明保証保険を理解するうえで、その前提となる表明保証条項について押さえておく必要があります。

  • 表明保証(条項):M&A契約書に盛り込まれる、売り手が買い手に対して開示情報の真実性を保証する条項
  • 表明保証保険:上記の表明保証条項の違反によって生じる損害を補償する保険

つまり、表明保証条項という「契約上の約束」があるからこそ、表明保証保険という「補償の仕組み」が成立しているといえます。

表明保証条項そのものの意味・対象項目・違反時の対応・キャップやバスケット条項・サンドバッギングなどの詳細は、本記事の主旨から外れるため、別記事で解説しています。条項の理解が必要な場合は、以下の関連記事をご参照ください。

表明保証とは?違反時の損害賠償・契約解除・キャップ・ひな形まで徹底解説
用語説明
表明保証とは?違反時の損害賠償・契約解除・キャップ・ひな形まで徹底解説

表明保証とは、M&A契約で売り手が開示情報の真実性を保証する条項です。意味・対象項目、違反時の損害賠償・契約解除、キャップ・バスケット・コベナンツ・サンドバッギング、事業譲渡での扱い、条文例・ひな形まで体系的に解説します。

表明保証保険の仕組み(売主用・買主用の2タイプ)

表明保証保険には、保険契約者の違いによって「売主用」「買主用」の2つのタイプがあります。それぞれ仕組みやメリットが異なるため、案件の性質に応じて使い分けることが重要です。

実務上は、買主用保険のほうが利用されるケースが多いとされていますが、近年は売主用保険の活用も増えつつあります。

売主用保険の仕組み

売主用表明保証保険は、売り手が保険契約者となるタイプです。表明保証違反が発覚し、買い手から損害賠償請求を受けた際、売り手が買い手に支払う補償金を保険会社が肩代わりする仕組みです。

売主用保険に加入していない場合、売り手は自己資金で買い手への補償金を支払う必要があります。しかし保険に加入していれば、保険金から補償金が支払われるため、売り手の自己負担を大幅に軽減できます。

この仕組みにより、売り手はM&A後の賠償責任リスクから解放され、売却資金を安心して活用できるようになります。

買主用保険の仕組み

買主用表明保証保険は、買い手が保険契約者となるタイプです。売り手の表明保証違反によって買い手が被った経済的損失を、売り手にではなく保険会社に直接補償請求できる仕組みです。

買主用保険に加入していない場合、買い手は売り手に対して損害賠償請求を行う必要があり、交渉や訴訟に時間と労力がかかります。また、売り手に十分な資力がない場合は、補償金を回収できない可能性もあります。

買主用保険であれば、信用力の高い保険会社から早期に補償金を受け取れるため、損失回復の確実性が高まるのが大きな利点です。実務では、買主用保険のほうが利用される傾向にあります。

売主用と買主用の主な違い

売主用と買主用の主な違いを整理すると、次のとおりです。

  • 保険契約者:売主用=売り手 / 買主用=買い手
  • 補償の流れ:売主用=売り手が買い手に支払う補償金を保険金で補填 / 買主用=買い手が保険会社から直接補償金を受領
  • 主な目的:売主用=売却後の賠償責任リスクの軽減 / 買主用=損失回復の確実性向上・売り手との関係維持
  • 利用頻度:買主用のほうが利用されるケースが多い

どちらに加入すべきかは、案件の性質、当事者の意向、コスト負担の分担方法などによって異なります。M&Aアドバイザー保険ブローカー(保険仲立人)に相談しながら検討することが望ましいといえます。

国内M&A向け保険の登場(2020年〜)

表明保証保険は、かつて買収金額10億円以上の大型M&Aや海外企業との取引で主に利用されていました。引受審査が英語で行われるなど、中小企業にとってはハードルが高い保険商品だったといえます。

しかし、中小企業の事業承継でM&Aを選択する企業が増加したことを受け、2020年頃から国内M&A向けの表明保証保険が販売されはじめました。

あいおいニッセイ同和損害保険・東京海上日動火災保険・三井住友海上火災保険・損害保険ジャパンなど、主要な損保各社が国内向け商品を取り扱っており、買収金額1億円以上の中小規模M&Aにも対応した保険料設定がなされています。

関連書類・引受審査・証券発行がすべて日本語で行われるため、中小企業や個人事業主にとっても活用しやすくなりました。各保険会社の特徴は、本記事後半の「主要な保険会社の特徴」章で整理します。

表明保証保険のメリット(売り手・買い手・共通)

表明保証保険には、買い手・売り手それぞれに固有のメリットがあるほか、双方に共通する利点もあります。ここでは、3つの視点から表明保証保険のメリットを整理します。

買い手のメリット

買い手が表明保証保険を活用する主なメリットは、次のとおりです。

  • 補償請求の手間が不要:売り手に補償請求する代わりに、保険会社へ直接請求できるため、当事者間の紛争を回避できる
  • 損失回復の確実性が向上:売り手の資力に依存せず、信用力の高い保険会社から補償金を回収できる
  • 売り手との関係維持:売り手への請求を回避することで、事業上のパートナーシップや継続的な関係を保ちやすい
  • 海外M&Aでも有効:言語・法制度の違いによる紛争リスクを軽減できる
  • 入札案件で優位に立てる:売り手側に責任追及をしない設計を提示することで、競合より優位な交渉が可能になる

特に、売り手側に十分な資力がない場合や、海外案件で売り手の責任追及が困難な場合に、買主用保険は大きな効果を発揮します。

売り手のメリット

売り手が表明保証保険を活用する主なメリットは、次のとおりです。

  • 売却後の賠償責任から解放:M&A後の賠償リスクが保険会社に転嫁され、売却資金を自由に活用できる
  • クリーンエグジットが可能:損害賠償リスクを排除した上で、当該事業から完全に手を引ける
  • エスクロー設定が不要:売却代金の一部を第三者に預託せずに済み、売却利益を早期に手元に受け取れる
  • 交渉が円滑に進む:賠償責任の不安から解放されることで、買い手との交渉で柔軟な対応が可能になる

事業承継型のM&Aでは、売却後にリタイアや次のキャリアに移る経営者も多く、賠償責任に縛られないことのメリットは大きいといえます。

売り手・買い手共通のメリット

表明保証保険には、売り手と買い手の双方に共通するメリットもあります。

  • 補償条件の隔たりを埋められる:売り手と買い手で補償上限額や補償期間の希望が異なる場合、保険を活用してギャップを埋められる
  • 交渉の円滑化:表明保証違反時の責任分担を保険でカバーすることで、契約交渉がスムーズに進む
  • 事業承継・M&A補助金の対象:中小企業庁の補助金で保険料の一部を補填できる可能性がある

特に、事業承継・M&A補助金は、専門家活用型の補助対象経費に保険料が含まれており、要件を満たせば保険料の負担を軽減できます。資金に限りのある中小企業にとっては、表明保証保険の活用ハードルを下げる重要な制度といえます。

【2025年・令和6年度補正】事業承継・M&A補助金の対象と申請方法(11次公募)
事業承継
【2025年・令和6年度補正】事業承継・M&A補助金の対象と申請方法(11次公募)

事業承継・M&A補助金とは?活用方法によっては費用負担を大きく軽減できる可能性があります。2025年度を基に制度の概要と特徴を詳しく解説しますので、公募要領を理解し、自社が対象となるか確認してみてください。

表明保証保険のデメリット・注意点

表明保証保険には多くのメリットがある一方で、活用にあたっては理解しておくべきデメリットや注意点もあります。加入を検討する際は、メリットだけでなくコストや審査、補償範囲の制限についても把握しておくことが重要です。

ここでは、表明保証保険のデメリットと、加入前に押さえるべき主な注意点を整理します。

保険料の負担が発生する

表明保証保険を活用する最大のデメリットは、保険料の負担が発生することです。一般的に、補償限度額の1〜3%程度が保険料の目安とされています。

例えば、補償限度額が3億円の場合、保険料は数百万円〜1,000万円規模に達することもあります。中小規模M&A向けの商品でも、保険料は数十万円〜数百万円となることが多く、M&Aの規模に対して一定割合のコストがかかる点を理解しておく必要があります。

保険料の詳細な相場や、保険料を抑えるコツについては、別記事で詳しく解説しています。

引受審査(アンダーライティング)がある

表明保証保険に加入するためには、保険会社による引受審査(アンダーライティング)をクリアする必要があります。申し込みをしたからといって、必ず加入できるとは限らない点に注意が必要です。

引受審査では、保険会社が選任した弁護士によって、M&A契約書(SPA)・表明保証条項・デューデリジェンス(DD)レポート・決算書類などが細かくチェックされます。審査にかかる弁護士費用は申し込み者の負担となるのが一般的です。

審査の終盤では、申し込み者・保険会社・M&Aアドバイザーによる電話会議が行われ、M&Aの動機・進捗・デューデリジェンスの状況などについての質疑応答が中心になります。スムーズな受け答えができるよう、事前の準備が必要です。

補償対象には免責事項がある

表明保証保険には免責事項(Exclusion)が設定されており、表明保証違反が発生していても、免責事項に該当する場合は保険金が支払われません

代表的な免責事項には、次のようなケースがあります。

  • デューデリジェンスで調査が不十分だった事項
  • 被保険者やM&A担当者が認識していたリスク
  • 経営計画や過去実績から予測できるリスク
  • M&A契約書の価格調整条項に反映されているリスク

免責事項の詳細は、本記事の「補償の対象とならない免責事項」章で詳しく解説します。

M&Aの規模に合わない場合の割高感

表明保証保険には、取引規模に応じたラインナップがあります。M&Aの規模に保険商品が合っていない場合、保険料や引受審査の費用だけが高くつき、保険料に対する効果が薄くなる可能性があります。

例えば、買収金額が数千万円規模の小規模M&Aで、買収金額数億円規模を想定した保険に加入すると、保険料の負担割合が大きくなりすぎることがあります。

近年は、損害保険各社から、保険金額1,000万円から選択でき、最低保険料を抑えた小規模M&A向け商品も登場しています。具体的な保険商品の取り扱い状況や保険料・補償範囲については、各保険会社や保険ブローカーへの確認が必要です。

表明保証保険の活用シーン(活用事例)

表明保証保険は、M&Aのあらゆる場面で活用されているわけではなく、特定のシーンで効果を発揮します。ここでは、表明保証保険が活用される代表的なシーンを整理します。

自社が検討するM&Aがどのシーンに該当するかを把握することで、保険活用の必要性を判断しやすくなります。

中小M&A・事業承継での活用

近年、もっとも活用が広がっているシーンが、中小M&A・事業承継です。

中小企業の事業承継では、売り手が高齢の経営者であることも多く、売却後の賠償責任に縛られたくないというニーズがあります。一方、買い手は、売り手の資力に不安を抱える場合があります。表明保証保険を活用することで、双方のニーズと不安を保険会社が橋渡しする形で解消できます。

2020年以降、国内損保各社が中小M&A向け商品を展開しており、買収金額1億円以上の取引で実務的に活用されるケースが増えています。事業承継を円滑に進める手段として、表明保証保険は重要な選択肢となっています。

海外企業とのM&A(クロスボーダー案件)

海外企業とのM&A(クロスボーダーM&A)も、表明保証保険が活用される代表的なシーンです。

海外案件では、言語の壁法制度の違いにより、売り手の責任追及が困難になることがあります。また、海外売り手の中には、買収完了後の補償請求に応じない可能性もゼロではありません。

表明保証保険に加入していれば、表明保証違反が発覚した場合でも、信用力の高い保険会社から損害を補償してもらえるため、海外取引特有のリスクを大幅に軽減できます。海外案件では、もともと表明保証保険の活用が一般的だった経緯もあり、現在もクロスボーダーM&Aの定番リスクヘッジ手段として位置づけられています。

大型M&Aでの活用

買収金額が数十億円〜数百億円規模の大型M&Aでも、表明保証保険は広く活用されています。

大型M&Aでは、表明保証違反による損害も巨額になる可能性が高く、売り手単独でリスクを負うことは現実的ではありません。また、買い手にとっても、巨額の賠償金を回収できるかどうかが取引の成否を左右します。

このような大型案件では、表明保証保険を活用してリスクを保険会社に転嫁することが、買い手・売り手双方の合意形成を促進します。とくに、ファンドが関与するM&Aや、上場企業の関連取引では、表明保証保険の活用が前提条件となるケースもあります。

事業承継・M&A補助金との連携

中小M&Aで表明保証保険を活用する際、事業承継・M&A補助金との連携を検討することで、保険料の負担を軽減できる可能性があります。

事業承継・M&A補助金は、中小企業庁が運営する制度で、小規模・中小企業のM&Aを支援することを目的としています。専門家活用型の補助対象経費には、表明保証保険の保険料が含まれており、要件を満たせば補助対象経費の1/2以内(上限額あり)で補助を受けられます。

資金に限りのある中小企業にとって、補助金を活用することで、表明保証保険のコスト負担を実質的に軽減することができます。事業承継・M&A補助金の詳細(申請枠・補助率・補助上限額)は、本記事末尾の関連記事もあわせてご参照ください。

クロスボーダーM&Aとは?中小企業が海外企業を買うときの注意点
用語説明
クロスボーダーM&Aとは?中小企業が海外企業を買うときの注意点

中小企業の成長戦略の一つにクロスボーダーM&Aがあります。新市場の開拓で収益増加が期待できる一方、国内でのM&Aと比較してリスクが高く、必ず成功するとは限りません。中小企業が海外企業を買収するメリットや、各プロセスでの注意点を解説します。

補償の対象とならない免責事項

表明保証保険には免責事項(Exclusion)があり、表明保証違反が発生していても、免責事項に該当する場合は補償の対象外となります。

免責事項は保険会社や保険商品によって異なりますが、一般的に共通する代表的なケースを整理します。表明保証保険に加入する際は、契約前に免責事項の範囲を必ず確認しておくことが重要です。

デューデリジェンスが不十分だった場合

買主用保険でもっとも代表的な免責事項が、デューデリジェンスで調査が不十分だった事項です。

デューデリジェンス(DD)は、対象企業の価値やリスクを正しく把握するための買収調査で、財務DD・法務DD・税務DDなどがあります。DDが十分に行われていない事項は、保険会社としてもリスクの有無や程度を判断できないため、免責事項とされるのが一般的です。

また、「デューデリジェンスの調査範囲外の事項」も免責事項となります。例えば、買い手が環境DDを実施していなかった場合、土壌汚染リスクは免責対象となる可能性があります。免責事項を最小化するためには、適切な範囲のDDを実施することが前提条件となります。

認識していたリスクは免責対象

被保険者やM&A担当者が事前に認識していたリスクも、免責事項に該当します。

例えば、売り手から提供された情報の中に、明らかな計算ミスや申告未提出があった場合、それを買い手側が認識していれば既知のリスクとして扱われる可能性があります。表明保証違反が後から問題化しても、認識済みのリスクであれば保険金は支払われません。

この免責事項は、保険を「想定外のリスク」に備える仕組みとして機能させるための設計です。既に分かっている問題を保険で補償することは、保険の趣旨に反するため、免責対象とされるのが原則です。

経営計画から予測できるリスクなどの免責

そのほか、次のようなケースも一般的に免責事項とされます。

  • 経営計画や過去実績から明らかに予測できるリスク
  • M&A契約書の価格調整条項に反映されているリスク
  • 故意・重大な過失による表明保証違反
  • 環境問題・年金債務など特定リスク(別途特約で対応する場合あり)

一方で、表明保証違反があると知っていながら、売り手が買い手に事実を開示しなかった場合は、買主用保険では保険金の支払い対象となります(売主用保険では免責)。免責事項は商品ごとに細かく規定されているため、契約前に保険会社や保険ブローカーと十分に確認することが必要です。

デューデリジェンス(DD)とは?M&A買収監査の種類・流れ・費用を解説
用語説明
デューデリジェンス(DD)とは?M&A買収監査の種類・流れ・費用を解説

デューデリジェンス(DD)とは、M&Aで買い手が売り手企業を多角的に調査する重要プロセスです。買収監査の基本知識から、財務・税務・法務・人事・事業・IT/技術・環境・ベンダーDDの8種類、進め方のプロセス、期間・費用の相場、専門家・代行の選び方まで解説します。

国内で表明保証保険を取り扱う主な損保

2020年以降、国内の主要損害保険会社が、中小M&A向けの表明保証保険を取り扱うようになりました。ここでは、代表的な国内損保の取り組みを概観します。

なお、各社の具体的な商品名・保険料・補償限度額などは時期や条件によって変動するため、最新情報は各保険会社の公式サイトや保険ブローカーへの確認が必要です。

国内主要損保の取り扱い動向

国内M&A向けの表明保証保険は、主に次の損害保険会社が取り扱っています。

  • あいおいニッセイ同和損害保険
  • 東京海上日動火災保険
  • 三井住友海上火災保険
  • 損害保険ジャパン

各社の取り組みは、中小M&A・事業承継分野への対応を強化する方向で進んでおり、日本語による引受審査、買収金額1億円以上の取引対応、小規模M&A向け商品の展開など、ニーズに合わせた多様化が進んでいます。

具体的な保険商品名・保険料・補償限度額・引受条件は、各社のラインナップによって異なります。詳細は各社の公式サイトや保険ブローカーへ直接ご確認ください。

保険会社・保険商品の選び方

表明保証保険を比較検討する際は、次のような観点で確認すると整理しやすくなります。

  • 取り扱い対象のM&A規模:小規模(数千万円〜)・中型(1〜数億円)・大型(数十億円〜)など、対応規模を確認
  • 補償限度額・保険料水準:対象会社の企業価値に対する補償カバー範囲と、保険料率の比較
  • 免責事項の範囲:DD前提条件・想定外リスクへの対応
  • 引受審査の手続き:必要書類・審査期間・電話会議の有無
  • カスタマイズ可能性:基本プランとワイドプランなど、補償範囲の調整可否

保険ブローカーやM&Aアドバイザーと連携しながら、自社のM&A案件規模・リスク分担方針に合った商品を選ぶことが重要です。保険料の相場や加入手続きの詳細な流れは、別記事で解説しています(本記事末尾の関連記事をご参照ください)。

FAQ:表明保証保険に関するよくある質問

表明保証保険の活用方法や、売主用・買主用の選び方、保険料、補助金との連携などについて、よく寄せられる質問をQ&A形式でまとめます。

Q1.表明保証保険って何の保険ですか?

表明保証保険(W&I保険・R&W保険・レプワラ保険)とは、M&A契約の表明保証条項違反によって生じる経済的損失を補償する保険です。買主用・売主用の2タイプがあり、表明保証違反が発生した際、保険会社が損害を補填します。日本では2020年頃から国内中小M&A向け商品が登場し、活用が広がっています。

Q2.売主用と買主用、どちらに加入すべきですか?

案件の性質や当事者の意向によって異なりますが、実務では買主用保険の利用が多いとされています。

買主用は、売り手の資力に依存せず保険会社から直接補償金を受け取れる点がメリットです。一方、売主用は、売却後の賠償責任から解放され、クリーンエグジットを実現できる点がメリットです。詳細は本記事の「メリット」章を参照ください。

Q3.保険料の相場はどのくらいですか?

一般的に、補償限度額の1〜3%程度が保険料の目安とされていますが、案件規模・対象会社の業種・リスク評価により大きく異なります。中小M&A向けの商品では、最低保険料を抑えた設計がなされているケースもあります。

具体的な保険料の相場や見積もりの取り方、加入手続きの流れについては、別記事で詳しく解説しています(本記事末尾の関連記事をご参照ください)。

Q4.中小M&Aでも加入できますか?

はい、加入可能です。2020年以降、国内損保各社が中小M&A向けの表明保証保険を取り扱うようになり、買収金額1億円以上の取引でも実務的に活用されています。保険金額1,000万円程度から選択できる小規模M&A向け商品も登場しており、加入のハードルは年々下がっています。

Q5.事業承継・M&A補助金の対象になりますか?

事業承継・M&A補助金の「専門家活用型」では、補助対象経費に表明保証保険の保険料が含まれており、要件を満たせば補助対象経費の1/2以内(上限額あり)で補助を受けられる可能性があります。資金に限りのある中小企業にとっては、表明保証保険の活用ハードルを下げる重要な制度といえます。

まとめ

表明保証保険は、M&A契約における表明保証違反によって生じる経済的損失を補償する保険です。買主用・売主用の2タイプがあり、それぞれメリットや活用シーンが異なります。

本記事の要点を整理すると、次のとおりです。

  • 表明保証保険(W&I保険・R&W保険・レプワラ保険)は同じ保険を指す呼び方
  • 売主用は売却後の賠償責任から解放、買主用は損失回復の確実性向上が主なメリット
  • 保険料・引受審査・免責事項といったデメリットや注意点も理解した上で検討する
  • 中小M&A・海外M&A・大型M&A・補助金連携など、活用シーンは多様化している
  • 具体的な保険会社・保険商品の選定は、保険ブローカーやM&Aアドバイザーと連携することが望ましい

表明保証保険は、当事者間の紛争リスクを軽減し、M&A取引を円滑に進める有効な手段となります。一方で、表明保証保険そのものの理解だけでなく、前提となる表明保証条項の設計や、保険料・期間・加入の流れといった実務手続きもあわせて確認しておくことが大切です。

表明保証条項の設計や違反時の対応については、別記事「表明保証とは?違反時の損害賠償・契約解除・キャップ・ひな形まで徹底解説」で詳しく解説しています。また、保険料・期間・加入の流れなど実務面の詳細は、別記事「M&Aで表明保証保険への加入は必要?保険料、期間、加入の流れ」をあわせてご参照ください。

TRANBIでは、M&Aの情報収集から案件探索まで幅広くサポートしています。まずは無料会員登録して、案件の相場観や進め方をつかむところから始めてみてはいかがでしょうか。

表明保証とは?違反時の損害賠償・契約解除・キャップ・ひな形まで徹底解説
用語説明
表明保証とは?違反時の損害賠償・契約解除・キャップ・ひな形まで徹底解説

表明保証とは、M&A契約で売り手が開示情報の真実性を保証する条項です。意味・対象項目、違反時の損害賠償・契約解除、キャップ・バスケット・コベナンツ・サンドバッギング、事業譲渡での扱い、条文例・ひな形まで体系的に解説します。

表明保証保険の加入は必要?保険料・期間・必要書類を実務目線で徹底解説
具体的事例
表明保証保険の加入は必要?保険料・期間・必要書類を実務目線で徹底解説

表明保証保険の保険料の相場(補償限度額の1〜3%)、補償限度額別の保険料目安、保険期間の設定方法、加入の5ステップ、必要書類と引受審査の詳細、小規模M&A向け保険の選び方、事業承継・M&A補助金との連携まで、表明保証保険の実務を体系的に解説します。

M&AのSPA(株式譲渡契約書)とは?記載項目7つ・表明保証・締結を解説
用語説明
M&AのSPA(株式譲渡契約書)とは?記載項目7つ・表明保証・締結を解説

SPA(株式譲渡契約書)とは、M&Aで最終的に交わされる株式譲渡の最終契約書です。DA・SHA・LOI・MOUとの違い、記載項目7つ(表明保証・補償・CP・誓約事項)、締結からクロージングまでの5STEP、MAC条項・印紙税まで実務目線で解説します。

記事監修: 株式会社トランビ 代表取締役CEO 高橋 聡
【プロフィール】
アスクホールディングス株式会社代表取締役社長、中小企業庁中小M&Aガイドライン作成委員。アクセンチュアを経てアスクホールディングス株式会社を先代から事業承継。中小企業におけるM&A活性化の必要性を痛感しトランビを創業。
著書: 「起業するより会社は買いなさい」サラリーマン・中小企業のためのミニM&Aのススメ
「会社は、廃業せずに売りなさい」後継者不在の問題は、ネットで解決!