資本コストの計算方法。企業価値評価の重要指標WACCを知ろう

資本コストの計算方法。企業価値評価の重要指標WACCを知ろう

資本コストは企業が資金調達をするときに必要な費用です。また資本コストを構成する負債コスト・株主資本コストを用いると、WACCを求められます。企業価値評価を考える上で重要な役割を果たす指標について確認しましょう。

企業価値はどのように評価する?企業価値を決める要因と評価方法
用語説明
資企業価値はどのように評価する?企業価値を決める要因と評価方法

企業価値とは、企業の経済的価値を金額で表したものです。上場企業は株式時価総額が明確に算出できますが、非上場企業の場合どのように価値が決まるのでしょうか?投資やM&Aにおける企業価値評価の重要性や、代表的な評価方法を解説します。

事業価値はどう決まる?算出方法や企業価値・株主価値との違いを紹介
用語説明
事業価値はどう決まる?算出方法や企業価値・株主価値との違いを紹介

M&Aで事業の譲渡価格を決めるには、対象企業の『事業価値』を見極めることが重要です。事業価値は企業価値の一部であり、将来的にどれだけの収益を生み出せるかを示します。企業価値・株主価値との違いや、価値の算出方法を解説します。

資本コストとは

事業の拡大や継続・新規事業への進出など、企業が活動を続けるには資金調達が欠かせません。資金調達をするためにかかる費用が『資本コスト』です。資本コストには、どのような特徴があるのでしょうか?まずは基本的な特徴を紹介します。

資金調達に伴い発生する費用

資金調達をするためにも費用が必要です。この費用のことを『資本コスト』と言います。資本コストというのは、資金を受け取る企業側から見た呼び方です。

貸付や株式を購入する投資家は、ほかの投資機会を断念し、自社へ資金を投入しています。企業はその投資に対して報いる責任があります。

責任を果たすため投資家へ還元するのに必要なのが資本コストです。投資家サイドからは『期待収益率』と呼ばれます。

期待収益率とは?株式投資やM&Aに欠かせない考え方を解説
用語説明
期待収益率とは?株式投資やM&Aに欠かせない考え方を解説

将来の利益が不確実な投資において、投資家はリスクを踏まえた『期待収益率』を考慮する必要があります。M&Aの企業価値評価や収益性分析にも活用できるため、会社買収を考えている人は、期待収益率の考え方や推計方法を理解しておきましょう。

サーチファンドの仕組み。対象会社の探し方、気になる成功報酬も
手法
サーチファンドの仕組み。対象会社の探し方、気になる成功報酬も

サーチファンドは、主に『資金力はないが経営に意欲がある個人』を対象とした投資モデルです。PEファンドやM&Aと類似していますが、いくつかの相違点もあります。サーチファンドを用いて経営者になるメリットや、報酬が得られる仕組みを解説します。

資本コストは主に二つに分けられる

資金調達の主な方法は、借入と株式発行の2種類です。そのため資本コストは『負債コスト』と『株主資本コスト』の二つに分類できます。それぞれのコストにはどのような特徴があるのでしょうか?

銀行融資の利息などの負債コスト

負債コストは金融機関や債権者からの借入にかかる費用のことです。資金を借りている間は『利息』の支払いが発生します。また債券を発行する費用も必要です。この利息と発行に必要な費用が負債コストです。

負債コストのうち、利息は借りる金融機関によって変動します。利用する金融機関によって負担が変わるため、比較検討した上での決定する点がポイントです。

株主への配当などの株主資本コスト

資金を調達するために株式を発行すると、株主は「配当金」と「値上がり」というリターンを求めます。これが株主資本コストです。

株主資本コストは株主が最低限求めるリターンとも言い換えられます。そのため配当金や値上がりが株主資本コストを下回るようであれば、ほかの投資先に資金を投入すべく、資金を引き上げられてしまうでしょう。

このような事態を避けるには、株主資本コストを上回るリターンを支払うことが必要です。

M&Aの価格の相場はいくら?一般的な評価方法や価値を決める要素
具体的事例
M&Aの価格の相場はいくら?一般的な評価方法や価値を決める要素

M&Aの成約価格の相場は、業種や規模によって異なります。価格はどのように決まるのでしょうか?中小企業のM&A価格を決める際、参考として用いられる算出方法や、価格を左右する要素を確認しましょう。買収の可否の判断に役立つ指標も紹介します。

DESとは何か?経営者が知っておくべきメリットとデメリットを解説
用語説明
DESとは何か?経営者が知っておくべきメリットとデメリットを解説

企業が財政難で倒産の危機に陥った際、再建支援の選択肢として『DES』が用いられます。債務の株式化で財務改善が期待できる一方で、新たな株主による経営への干渉や法人税の増加などのデメリットもあります。慎重に検討を重ねた上で実行しましょう。

資本コストの計算方法、WACC

WACCは資本コストの代表的な計算方法です。負債コストと株主資本コストを用いて求めます。具体的にどのような計算式を使うのか、確認しましょう。

資金を1円調達するのにかかる費用を示す

企業が資金調達するためにかかる平均コストが『WACC(Weighted Average Cost of Capital、加重平均資本コスト)』です。資金を1円調達するのにかかる費用を指します。

加重平均は各項目の重みを考慮して算出する平均です。WACCにおいては、負債コストと株主資本コストを、それぞれの重みを加えた下記の式を使い計算します。

WACC=RE×{E/(E+D)}+RD×(1-t)×{D/(E+D)}

この計算式に用いる各項目は下記の通りです。

  • RE:株主資本コスト
  • RD:負債コスト
  • E:株主資本
  • D:有利子負債
  • t:実効税率

負債コストの求め方

WACCの計算式に登場するRD(負債コスト)は、WACCの『RD(1-t)』の部分です。分かりやすく示すと『支払利息の利率×(1-法人税率)』となります。

利息のため比較的簡単に計算可能です。ただし機会損失がある場合には、年利換算してプラスしましょう。例えば当座預金に一定の資金を預け入れることによる機会損失や、手形割引の割引料などです。

また割引発行があるなら、負債額を市場価格に換算する必要もあります。負債の利子を損金算入できるのもポイントです。損金として扱えば、その分の税金額を抑えられます。

その点を考慮するために用いられているのが『(1-法人税率)』の部分です。

株主資本コストの求め方

株式資本コストはWACCの『RE』にあたる部分です。REを計算するには『R(f)+β×R(p)』を使います。各項目は下記の通りです。

  • R(f):リスクフリーレートで、10年物国債利回りを利用するのが一般的
  • β:ベータ(市場全体に対する個別株式の感応度)
  • R(p):マーケットリスクプレミアムを意味し、投資家が安全な形態の資産をリスク資産に投入するときに求める超過収益率

計算式から分かるのは、投資家は高リスクな投資対象に求めるリターンが高いという点です。

なお、βは株式を公開している上場会社しかデータがないため、非上場会社の場合には、類似する上場会社をいくつか選定し、その平均を用いることが一般的です。

PERの目安と注意点。指標の意味や算出法、活用シーンを把握しよう
用語説明
PERの目安と注意点。指標の意味や算出法、活用シーンを把握しよう

PERは、株価に対してどれほどの利益を生み出せるかを示す指標です。M&Aや株式投資の場で用いると『元を取るのに何年かかるか』を判断できますが、数値だけで判断せず相対的に分析することが重要です。計算方法や適正とされる目安について解説します。

EPSで分かることは何?数字を分析して投資判断を行う理由
用語説明
EPSで分かることは何?数字を分析して投資判断を行う理由

EPSは、M&Aや株式投資を行う際に用いられる財務指標の一つです。『1株当たりの当期純利益がいくらあるか』を示すもので、企業の収益性や成長率を判断する材料となります。EPSが変動する要因や、EPSと組み合わせて活用できる指標を確認しましょう。

WACCを意識した経営が重要

企業価値に影響を及ぼし、投資判断にも用いられるWACCは、経営をする上で重要な指標です。具体的に何を意味するのか見ていきましょう。

WACCの値は企業価値に影響

企業価値評価法の一つである『DCF法』では、将来生み出す価値であるフリーキャッシュフロー(FCF)をもとに計算します。このときFCFをWACCで割り引くのが特徴です。

そのためWACCが小さいほど分母が小さくなるため、それに伴い企業価値は大きく算出されます。

WACCはハードルレートになる

WACCは投資をするときの判断基準である『ハードルレート』>/b>としても使われます。獲得が予測される利益の水準から導き出される利益率がWACCを上回っていれば投資し、下回っていれば投資しません。

利益率がWACCを上回っているなら、その企業は投資家に対する株主資本コストを払ってもリスク以上のリターンが得られると判断されます。成長の可能性がある企業であれば、資金に余裕のある投資家は、その企業にに投資したいと考えるはずです。

反対に利益率がWACCを下回っていると、その企業は投資家への株主資本コストを十分に支払えない可能性が高いと判断されます。これでは投資をしても期待できる利益を得られないため、投資家は資金の投入を控えるはずです。

資金調達のしやすさに関わる数値と言えます。

株式分割にはどんなメリットがある?目的、事例などを紹介
用語説明
株式分割にはどんなメリットがある?目的、事例などを紹介

株式会社では、資本金を変えずに一つの株を複数の株に分ける『株式分割』を行う場合があります。株の分割は、企業や投資家にとってどのような恩恵をもたらすのでしょうか?目的やメリット、株式無償割当てとの違いについて解説します。

バリュエーションの目的とポイント。三つの手法の違いを理解しよう
用語説明
バリュエーションの目的とポイント。三つの手法の違いを理解しよう

M&Aにおけるバリュエーションとは、買収対象の企業価値を評価することです。売り手と買い手は、その評価をもとに価格交渉の妥協点を探っていきます。バリュエーションの目的と、評価に用いられる三つの手法について詳しく解説します。

まとめ

資本コストは企業価値に影響を及ぼします。中でもWACCは重要な計算方法です。投資家が資金を投入する判断基準にもなるため、適切な管理をしながらの経営がポイントと言えます。

WACCは小さいほど企業価値が高まり、ハードルレートは下がります。負債コストや株主資本コストを下げる方法が代表的ですが、場合によってはWACCが上がるケースもある点に要注意です。

企業価値評価で用いられるDCF法。将来のFCF、TVの算出とは
手法
企業価値評価で用いられるDCF法。将来のFCF、TVの算出とは

DCF(Discounted Cash Flow)法は、将来のキャッシュ・フローを現在の価値に割り引いて、企業価値を算定する方法です。精度の高い事業計画書を使用することで、企業価値をより適正に判断できます。DCF法で企業価値を算出する流れと大まかな計算方法を解説します。

株式分割にはどんなメリットがある?目的、事例などを紹介
用語説明
株式分割にはどんなメリットがある?目的、事例などを紹介

株式会社では、資本金を変えずに一つの株を複数の株に分ける『株式分割』を行う場合があります。株の分割は、企業や投資家にとってどのような恩恵をもたらすのでしょうか?目的やメリット、株式無償割当てとの違いについて解説します。

個人で後継者のいない会社を買う方法と注意点|メリット・デメリット・探し方を徹底解説
手法
個人で後継者のいない会社を買う方法と注意点|メリット・デメリット・探し方を徹底解説

個人で後継者不在の会社を買う方法を徹底解説。スモールM&Aの探し方・相場と資金調達、買収の流れ、DD・契約〜PMI、注意点と失敗回避を事例とQ&Aで網羅。

記事監修: 株式会社トランビ 代表取締役CEO 高橋 聡
【プロフィール】
アスクホールディングス株式会社代表取締役社長、中小企業庁中小M&Aガイドライン作成委員。アクセンチュアを経てアスクホールディングス株式会社を先代から事業承継。中小企業におけるM&A活性化の必要性を痛感しトランビを創業。
著書: 「起業するより会社は買いなさい」サラリーマン・中小企業のためのミニM&Aのススメ
「会社は、廃業せずに売りなさい」後継者不在の問題は、ネットで解決!