期待収益率とは?株式投資やM&Aに欠かせない考え方を解説

期待収益率とは?株式投資やM&Aに欠かせない考え方を解説

将来の利益が不確実な投資において、投資家はリスクを踏まえた『期待収益率』を考慮する必要があります。M&Aの企業価値評価や収益性分析にも活用できるため、会社買収を考えている人は、期待収益率の考え方や推計方法を理解しておきましょう。

期待収益率とは

投資家は株式や債券、不動産などに投資するにあたり、どれだけの収益が見込めるかを見極める必要があります。期待される収益率は『期待収益率(Expected rate of Return)』と呼ばれ、投資の可否を判断する重要な指標です。

獲得が予想できる収益率のこと

預金や国債はあらかじめ利率が決まっていますが、株式投資は将来的にどれだけのリターンが見込めるかは分かりません。そのため、投資家は『この株に投資をしたら、将来いくらもうかるか』を予想した上で投資をするのが通常です。

資産運用や投資において、将来的に予測(期待)できる平均的なリターンは『期待収益率』や『要求収益率』『期待リターン』と呼ばれます。複数の名称がありますが、どれも意味は同じです。

また、投資家からの資本を受け入れる企業からすると、期待収益率は『株主資本コスト(株式による資金調達にかかるコスト)』を意味します。

過去の収益を用いた計算方法とは

期待収益率の推計方法としては、ヒストリカルデータ方式・ビルディングブロック方式・シナリオアプローチ方式がありますが、中でも客観性に優れているのが『ヒストリカルデータ方式』です。

これは、過去のデータからリターンを推計する『過去平均法』で、主観による恣意的な要素を排除できるのがメリットです。具体的には、過去の収益率をデータとして抽出し、その平均値を求めます。

ただし算出結果は、あくまでも過去に基づいた予測であって、将来にわたる正確な収益率が分かるわけではありません。

また、過去2年分のデータと20年分のデータを用いるのでは、値が大きく変わります。より適切な値を出すためには、一定のデータ量を確保しなければならない点にも留意しましょう。

リスクプレミアムが加えられる

リスクプレミアムと期待収益性の関係性についても、理解しておきましょう。投資のリスクとは、収益の不確実性です。

株式や不動産は預金や国債と違い、価格変動リスクが高い傾向があります。そのため、リスク資産に投資する際は、以下のような『リスクプレミアム』を加味して投資の可否を判断します。

  • リスクプレミアム=期待収益率-無リスク資産の収益率(リスクフリーレート)

リスクプレミアムとは、リスク資産の期待収益率から無リスク資産の収益率を引いた差です。『無リスク資産の収益率』とは、国債や無担保コールレート(無担保で借りて翌日返す場合の金利)などの収益率を指します。

株式投資と無リスクの金融商品が同じリターンの場合、株式投資を選択する人はほとんどいません。引き受けるリスクが大きいほど、上乗せされるリスクプレミアムも大きくなります。

リスクフリーレートを期待収益率の下限とし、『無リスク資産の収益率にいくらのリスクプレミアムが上乗せされたらその株式を買おうと思えるのか』を判断します。

期待収益率は、将来の収益率を算出するシーンであれば、どこにでも応用できますが、主に株式や不動産などの投資に用いられます。具体的にどのように活用できるのかを見ていきましょう。

現在価値から将来価値を知る

投資の世界では、『現在と将来のお金の価値は同じではない』という考え方が前提です。

手元の100万円が1日で107万円に増えるケースは通常ありませんが、100万円を年利7%の金融商品で運用すれば、1年後には107万円になります。将来の価格変動によって価値が高まるだろうという期待は『時間的価値』と呼ばれます。

投資をする際、期待収益率を活用すると、現在の価値から将来の価値を割り出すことが可能です。例えば『年利10%の金融商品』の場合、期待収益率は年利10%の部分にあたります。年利10%で運用すると、100万円は1年後に110万円の価値になると分かるでしょう。言い換えると、1年後の110万円は現在の価値では100万円です。

反対に、将来の収益額(将来価値)と期待収益率(利回り)が分かれば、『今いくらの額を投資すればよいのか』が割り出せます。

  • 将来価値÷((1+利回り)^投資年数)=現在価値

利回り10%の場合、10%を割引率として110万円を現在価値に換算します。(『^』は乗数)

  • 110万円÷((1+0.1)^1)=100万円

1年後に110万円を受け取るには、100万円を投資する必要があると分かるでしょう。

ポートフォリオ理論とは

投資における『ポートフォリオ』とは、株式や債券、不動産といった複数の資産の組み合わせを指します。それぞれのリターン・リスクを明らかにした上で、最適な構成を考える方法が『ポートフォリオ理論』です。

ポートフォリオ理論の期待収益率は、各資産の期待収益率を構成比率に応じで加重平均(※)することで算出できます。例えば、期待収益率20%のA株式と期待収益率10%のB株式に対して6:4の比率で投資する場合、ポートフォリオの期待収益率は16%(20%×0.6+10%×0.4)です。

将来の円高や円安の外国為替リスクを加味する場合は、レート変動(円高・円安・不変)の発生確率(%)における期待収益率をそれぞれ算出した上で、加重平均を行います。

※加重平均:平均値の算出方法、各項の条件や量の重みを考慮して平均すること。

企業価値評価やM&Aでも重要

企業価値評価(バリュエーション)とは、M&Aで会社や事業を買収・売却する際などに、自社の企業価値を客観的に評価する行為です。期待収益率は株式投資だけでなく、企業価値評価やM&Aの収益性判断にも活用できます。

買収額やM&A実行の可否を判断する

M&Aでは、買収額のほかにさまざまな費用や手数料が発生します。取引の規模によってはコストだけで数千万円にも上るため、買い手はM&Aの実行の可否を慎重に判断しなければなりません。

M&Aの採算性や収益性を見るために、M&A後に創出される期待収益率を算出し、M&Aに費やされるコストと比較します。少なくとも、期待される収益が買収額やコストを上回らない限り、M&Aを実行する意味は薄いでしょう。

なお、M&Aにおける期待収益率の算出や分析は、専門家のサポートを受けるのが望ましいといえます。M&Aのマッチングサイト『TRANBI(トランビ)』では、直接的な専門家サービスは実施していませんが、サイト内でM&Aの専門家を無料で紹介しています。

事業承継・M&Aプラットフォーム TRANBI【トランビ】
専門家
事業承継・M&A専門家のご紹介|トランビ 【M&Aプラットフォーム】

M&A専門家一覧

DCF法による企業価値評価

株式が市場に公開されていない中小企業は、『自社の価値がどのくらいあるか』が分かりません。M&Aで取引価格を決定するにあたり、企業価値評価を実行して価格の目安を割り出す必要があります。

DCF法は企業価値評価法の一つで、将来獲得できるフリーキャッシュフロー(FCF)を予測し、それを現在価値に換算して企業価値を算出します。

FCFを現在価値に換算する際、WACC(加重平均資本コスト)を用いますが、このWACCの算出に必要なのが、株主の期待収益率(株主資本コスト)です。

  • WACC(%)=有利子負債総額/(有利子負債総額+株式時価総額)×(1-実効税率)×負債コスト+株式時価総額/(有利子負債総額+株式時価総額)×株主資本コスト

WACCは、株主資本コスト(株主の期待収益率)と負債コスト(債権者の期待収益率)を加重平均したものと考えましょう。

まとめ

期待収益率は、『投資や資産運用で将来期待できる収益の割合』を指します。主に株式投資やM&Aで用いられるケースが多く、投資の判断には欠かせません。

今回は過去のデータに基づくヒストリカルデータ方式を取り上げましたが、期待収益率の算出方法は複数あります。特にM&Aの実行において期待収益率を用いる際は、専門家の助言の下で適切な方法を選択し、正しい分析を行う必要があるでしょう。

記事監修:小木曽公認会計士事務所 小木曽正人(公認会計士、税理士)
【プロフィール】
1999年公認会計士2次試験合格後、大手監査法人にて法定監査、IPO支援等に従事したのち、2004年より東京と名古屋にてM&A専門チームの主力メンバーとして100件以上のM&A案件に従事。2014年12月に独立開業し、M&A、事業承継、株価評価といった特殊案件のみを取り扱った会計事務所を展開している。