PMIはM&Aの成否を分けるプロセス。重要性や必要な期間を解説

PMIはM&Aの成否を分けるプロセス。重要性や必要な期間を解説

M&Aの成功の鍵を握るのは『PMI(統合作業)』です。急激な統合は従業員の混乱を招くため、現状を把握しながら計画的に進めていく必要があります。100日プランの立て方やPMIの準備を始める適切なタイミング・期間について解説します。

M&AにおけるPMIとは

M&Aの成立後は『PMI』と呼ばれる統合作業を行います。複数の企業が一つになる合併・買収では、統合作業をいかに円滑に進められるかが成功の鍵です。

合併や買収後の企業統合作業のこと

PMIは『Post Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)』の略で、合併や買収後の『企業統合作業』を指します。M&Aが成功している企業は、プロセスの比較的早い段階からPMIを計画していることが大半です。

PMIは『経営面』『業務面』『意識面』などの複数の領域に及びます。クロージング後は、経営理念やビジョンを社内全体に共有すると同時に、業務フロー・ポジション・事業拠点などの統合を進めていきます。

設備やシステムなどのハード面だけでなく、企業文化や価値観といったソフト面での統合も欠かせません。

業績、企業価値の向上を目指す

PMIの目的の一つに、『シナジー効果によって企業価値を高めること』が挙げられます。シナジーとは、複数の企業や異なる部門の協力により、利益や価値が相乗的に増えていくことです。

ビジネスにおいては、企業が単独で行うよりも、複数社が連携した方がより大きな結果が生み出せるケースが多く見受けられます。ただ、優秀な企業同士が提携をしても統合がうまくいかなければ、十分な効果は発揮されません。

戦略上の課題やリスクを最小に抑えながら、企業に大きなシナジー効果をもたらすのがPMIの役目といえます。

従業員の流出を防止する

PMIには、優秀な人材が企業から流出するのを防ぐ目的もあります。合併や買収で組織が新しくなると、企業文化や雇用制度、業務フローなどに馴染めない従業員が出てきます。

統合作業をせずに進めた場合、従業員の不満や負担が増大し、離職率が上がる恐れがあるでしょう。優秀な技術や能力を持った従業員の離職は、企業にとって大きな痛手です。

PMIでは、体制の整備や企業文化の共有などを行い、企業間の相違点を埋めていきます。どちらが優れているのかを競うのではなく、互いのよい部分を尊重し合いながら統合を進めることが肝要です。

PMIの進め方

PMIの準備は早ければ早い方がよいとされています。数日や数週間で完了できるものではないため、綿密なスケジュールを策定し、確実に実行していくことが求められます。

準備はM&A成立前から進める

企業は統合作業を効率よく進め、想定したシナジー効果を1日でも早く実現させなければなりません。多くの企業では、M&Aの成立前からPMIの準備を始めます。以下はM&Aの大まかな流れです。

  • M&Aの交渉
  • 基本合意書の締結
  • 買い手による売り手のデューデリジェンス(買収監査)
  • 最終条件の交渉
  • 最終契約書の締結
  • 経営権の移転の手続き(クロージング)
  • PMIの実施

PMI実施はクロージングの後ですが、PMIの準備は基本合意書の前後からスタートするものと考えましょう。デューデリジェンスではM&Aの課題やリスクが抽出されるため、これらを踏まえた上でPMI計画を策定します。

売り手に対し、将来の見通しやシナジー効果を明確に示せれば、最終交渉もスムーズに進むはずです。

PMIにかかる期間

企業の成長にとって、『基礎固め』は最も重要なプロセスの一つです。PMIに必要な期間は企業によって異なりますが、M&A成立から少なくとも1年間は見ておきましょう。問題点が発覚すれば、期間はさらに長引く可能性があります。

ただ、PMIにあまりにも多くの時間や労力を費やせば、肝心の本業にリソースが回せなくなってしまうため、最初に『ランディングプラン』や『100日プラン』をしっかりと策定し、スケジュールに沿って進めるのが望ましいといえます。

課題や統合に必要な作業を整理する

PMIに際し、『いつ・誰が・何を・どのように』を明確化したシナリオが必要です。合併・買収後の人材流失やモチベーション低下を防ぐためにも、買い手に売り手も協力して、明確な統合プランを打ち出す必要があります。

ランディングプラン

『ランディングプラン』とは、M&A成立後3~6カ月以内に行うことを記した計画書です。

プランの範囲は、経営・事業・組織・財務などのあらゆる分野に及びます。まずはデューデリジェンスで抽出された課題やリスクを基に、半年以内にやるべき事項をリストアップしましょう。

プランを実行に移すことは重要ですが、合併・買収直後は従業員の心情を考慮し、急激な統合作業は控えるのが賢明です。既存の体制やシステムを維持しつつ、買い手側は現状を把握するところからスタートしましょう。

100日プラン

ランディングプランが短期的なのに対し、『100日プラン』はM&A成立後100日間で行う中長期的な計画です。

PMIは実施範囲が幅広いため、できるだけ早く計画を策定し、実行に移さなければなりません。買い手が中長期計画やビジョンを明確にすることで、売り手企業の経営者や従業員は安心してついていけるでしょう。

合併や買収に漠然とした不安や不満を抱えていた従業員も、企業の成長に期待が持てれば、離職を踏みとどまるでしょう。

具体的な流れとしては、売り手・買い手の混合でチームを編成し、現状の課題を洗い出します。課題解決のための具体的な『アクションプラン』を策定した後、現場を巻き込んでプランを実行していきます。

クロージング後に行うこと

経営権の移行が完了した後は『引継ぎ』を進めながら、統合作業を実行します。トップダウンで伝えるだけでなく、従業員の心情や立場への配慮も重要です。従業員の協力なしではM&Aは成功しないという点を、忘れないようにしましょう。

売り手から買い手への引き継ぎ

クロージング後は、売り手企業から買い手企業に『引継ぎ』を行います。引継ぎに時間をかけず、できるだけ早く統合作業を進めたいと思うのが買い手の本音かもしれません。

しかし、引継ぎが不十分な場合、余計な仕事が増えて生産性が低下したり、取引先や顧客との信頼関係が崩れてしまったりと、M&Aの成功を妨げる問題が生じます。

仕事の進め方に関して、従業員同士の対立が起こるケースもあるため、十分な時間を確保しましょう。

引継ぎ期間は数カ月から1年間が目安です。状況によっては、売り手の元経営者と一定期間の顧問契約を結び、引継ぎ作業に関与してもらうこともあります。引継ぎと同時進行で、『取引先への挨拶回り』や『従業員同士の懇親会』も進めていきましょう。

業績管理、決算体制の統合

『業績管理』とは、ある目標やゴールに対し、企業及び部門がどのような状態にあるかを把握することです。単に売上高を見るだけでなく、データや重要業績評価指標を活用し、課題を探ったり、アクションプランを策定したりするプロセスも含まれます。

管理の方法やタイミングは企業ごとに異なります。年1回の決算期にまとめて把握する企業もありますが、事業収益を維持していくには、より短いスパンで管理するのが理想です。

上場企業は四半期(3カ月)ごとに決算を行い、決算報告書を発表しなければなりません。財務データの収集や集計には多くの時間や労力を必要とするため、業績管理や決算体制の統合は最優先事項といってよいでしょう。

意識、企業文化のすり合わせ

意識面の統合では、『経営層のビジョンを全体に浸透させること』や『従業員同士の相互理解』が主な課題です。買い手の企業文化を売り手に押し付けるのではなく、両者を融合した新たな企業文化の構築が求められるでしょう。

経営層はビジョン・ミッション・価値を明確に示すと共に、『社内研修』や『ワークショップ』などを積極的に開催し、意識面での共有を進めていきます。とりわけ、ワークショップは『横のつながり』を強化するのに役立ちます。

M&Aのプロセスで、従業員が合併・買収の事実を知るのは、最終契約書が交わされた後です。受け入れるのが難しいと感じる従業員もいるため、心情に配慮しながら統合を進める必要があります。

業務や人事面での課題を解決する

M&Aで大きな負担を強いられるのは『従業員』です。業務面や人事面での課題は早期に解決し、内部統制のルールやシステムを構築していきましょう。PMIがうまく進まない場合、優秀な人材や技術が外部に流出する可能性があります。

効率的な社内システムを構築する

業務面においては、社内システムをいかにスムーズに統合するかがポイントです。多くの場合、『どちらか一方のシステムに統一する』『新たなシステムを導入する』『既存システムと新たなシステムを組み合わせる』のいずれかが選択されるでしょう。

『総務』『人事』『財務』のシステムの変更は、取引先にも影響を与えるため、統合後の効果をよく検証した上で最適な方法を選ぶ必要があります。

買い手企業のシステムに統一した場合は、売り手企業の従業員の負担が大きくなります。フローやマニュアルを作成し、業務の効率化を図りましょう。

評価制度や社内規程の見直し

合併の場合、人事・労務面でのPMIが適切に行われない場合、新たな企業文化や労働環境に馴染めない従業員が続出します。離職率が上がったり、経営層と労働組合で紛争が生じたりすれば、M&Aの目的達成に大きな影響を与えるでしょう。

制度や規程の見直しでは、売り手と買い手の従業員間で不平等が生じないようにする必要があります。

  • 人事評価制度
  • 労働協約・組合
  • 報酬・退職金制度
  • 福利厚生制度
  • 社内規程
  • 労働条件(有期契約者を含む)

買い手企業のルールに無理に合わせるのではなく、現状を把握しながら、一から制度を構築するイメージで進めていきましょう。

適材適所の人員配置で成長を促す

組織の統合では、従業員のスキルや勤務年数、人間関係などを踏まえながら、『人員配置』や『職務分掌』を行います。

従業員にとって大規模な配置転換や職務変更はストレスといえますが、多様な人間が集まれば、職場が活性化する上、個人のステップアップにもつながるでしょう。既存社員だけでなく、新たに人材を採用するのも有効です。

統合直後は、個々の能力や人間関係を把握している人をリーダーにし、意見を取り入れながら人員配置を進めていくのがポイントです。配慮やコミュニケーションが不足すると、従業員同士の摩擦が起こりかねません。

PMI成功のために必要なこと

M&Aが成立しても、その後のPMIに行き詰まり、当初設定した効果が得られない企業は少なくありません。PMIを成功には何が必要なのでしょうか?

従業員のケアを重要視する

経営者同士が意気投合しても、実際の業務を担う従業員の協力が得られなければ、M&Aの成功は遠のきます。経営層は、事業継承や収益の拡大といった経営面ばかりに注力して、『人の心』が置き去りになっていないかを振り返りましょう。

会社の買収や売却を告知する際は、従業員の立場や心情を考える必要があります。『代表者が変わる=ポストや給与が変わる』と認識している従業員は多く、有期契約社員は雇用の継続に対する不安に駆られます。

経営指針や戦略を語る前に、従業員の将来がどうなるのかを明確に伝えましょう。『雇用が継続されること』『成長が見込めること』『一方的な待遇の変化はないこと』が分かれば、従業員の不満や不安は解消されます。

適切なPMI担当者を配置する

PMIが失敗に終わる原因の一つに、経営層や管理層の『リーダーシップの欠如』が挙げられます。

合併や買収では、利害対立や摩擦で現場が大混乱する可能性が高く、本来、部下に指示を出すはずの管理層までもが統制能力を失ってしまうケースがあります。

スムーズな統合作業には、各部署を強力なリーダーシップで取り仕切る『責任者』の存在が欠かせません。PMIを推し進める『プロジェクトチーム』を立ち上げ、各部署に適切なPMI担当者を配置しましょう。

KPIの設定とモニタリングを行う

『KPI(Key Performance Indicator)』とは、目標の達成度合を定量的に観測するための指標で、『重要業績評価指標』とも呼ばれます。言い換えれば、最終目標に至るまでのプロセスごとの中間目標です。

KPIを設定すると、『目標までの距離感』『今取るべき行動』『達成までの期限』などが可視化されます。メンバーと同じゴールに向かって進んでいるという実感がわき、モチベーションも向上するでしょう。

リアルタイムのモニタリングで効果を検証し、目標値から結果がかけ離れていれば、『計画の修正・見直し』『問題点の洗い出し』などを行います。

まとめ

PMIは、M&Aの成功を左右する最も重要なプロセスの一つです。多くの経営者は、交渉から合意までのプロセスに力を注ぐ傾向がありますが、M&Aの本当の難しさは、『異なる二つの企業をどう統合させていくか』でしょう。

従業員への告知のタイミングを誤れば、企業と従業員の信頼関係が崩れ、離職者が急増します。意識や企業文化のすり合わせが手薄になれば、出身企業が異なる従業員同士が対立する結果となるでしょう。

PMIはクロージング後から着手しますが、PMI計画策定は早ければ早いほどよいといわれています。目標や期限を設定した上で着実に実行に移しましょう。