シナジー効果とは?意味や事例、譲渡対価への影響について解説

シナジー効果とは?意味や事例、譲渡対価への影響について解説

多くの企業は『シナジー効果の創出』をM&Aの目的の一つとして掲げます。日本語では相乗効果を意味しますが、具体的にはどのような事例を指すのでしょうか?対義語である『アナジー効果』の意味や、シナジー効果に関連するフレームワークも紹介します。

シナジー効果とは

M&Aを実行する目的は企業によってさまざまですが、シナジー効果を経営戦略の一つに掲げる企業は少なくありません。『シナジー』が示す意味と、会社にもたらすメリットについて確認しましょう。

複数の事業の統合で新たな価値を生むこと

M&Aのシナジー効果とは、複数の企業の協力によって、単独では成し得ないような大きな成果や新たな価値が生み出されることです。1+1=2という単純な足し算ではなく、10倍、20倍の利益がもたらされる可能性を秘めています。

『シナジー(synergy)』は、薬学や生理学で用いられてきた専門用語です。『複数の要素の相互作用によって、それぞれが持つ力の和を上回る効果が得られること』という意味があり、日本語では『相乗効果』と訳されます。

シナジーの概念をビジネス分野で初めて提唱したのは、アメリカの経営学者イゴール・アンゾフです。成長戦略のフレームワーク(成長マトリクス)でシナジー効果の重要性を説いて以来、経営学用語としても用いられています。

競争力強化、信用力アップにつながる

シナジー効果は企業活動のあらゆる場面で重要視されますが、中でも大きなシナジー効果が期待されるのがM&Aです。

M&A(Mergers And Acquisitions)は、『企業の合併と買収』を意味する用語で、広義では『資本提携』や『業務提携』などの経営権の移行を伴わない提携も含まれます。

事業統合や業務提携でシナジー効果が発揮されると、企業にどのような恩恵がもたらされるのでしょうか?

まず期待できるのは『競争力の強化』です。具体的な事例は後述しますが、ヒト・モノ・カネ・情報の共有によって組織力が向上すれば、市場における競争優位性を獲得できます。

競争優位性の確立は、企業価値の向上に直結します。知名度や信用力がアップすれば、金融機関からの融資が受けやすくなり、財務基盤の安定が実現するでしょう。

スケールメリットとの違い

シナジー効果と混同されやすい用語に『スケールメリット』があります。シナジー効果と同様、M&Aで期待できるプラスの効果の一つですが、シナジー効果とスケールメリットは本質が異なります。

スケールメリットは、同種のものを多く集めることにより、単体の場合よりも大きな効果が生み出されることです。『規模のメリット』とも呼ばれ、規模の拡大は生産性や経済効率の向上につながるという考え方が根底にあります。

他方シナジー効果は『同一のもの』から生まれるとは限りません。複数の要素の組み合わせによって、規模が拡大したり、新たな価値が生み出されたりすることを指します。

企業価値評価とシナジー効果

M&Aでは、対象企業(売り手)の取引価格を決めるため、『企業価値評価(バリュエーション)』を実施します。バリュエーションでは、現在の価値だけでなく『M&Aによって生み出されるシナジー効果』を適切に評価することが肝要です。

バイヤーズバリューとは

企業買収を検討する買い手は、『バイヤーズバリュー』について理解しておく必要があります。バイヤーズバリューとは文字通り、『買い手にとっての買取価値』です。

買取価値は客観的な評価手法によって算出されますが、算出結果に以下のような『買い手が求める価値』を加えたものがバイヤーズバリューとなります。

  • 目指すべきシナジー効果
  • 利益を生み出す可能性のある資産

売り手が希望する企業価格は『セラーズバリュー』と呼ばれます。バイヤーズバリューがセラーズバリューを下回っていれば、M&Aは成立しないと考えてよいでしょう。

また、バイヤーズバリューと取引価格の差が買い手の利益となるため、買い手にとっては『バイヤーズバリュー>実際の取引価格』の公式が成り立つことが重要です。

最終的には交渉で金額が決定する

シナジー効果に対する評価は、立場や着目する観点によって変わります。高額で取引したい売り手は、シナジー効果を過大評価するのに対し、高値づかみを避けたい買い手はシナジー効果やリスクを厳しく精査する傾向があるのです。

実際の取引価格は企業価値評価の結果を基に、双方の話し合いで決まります。中小企業のM&Aでは、『時価純資産+のれん(営業権)』で企業価値を評価するケースが多く見受けられます。

時価純資産法とは、企業が保有する資産の時価総額から負債総額を控除した額を企業価値と見なす手法です。この方法は、将来の利益やシナジーが加味されていないため、3~5年の見込み利益や利益の源泉となる無形資産(のれん)を上乗せします。

コストシナジーの例

シナジー効果にはさまざまな種類があります。『コストシナジー』は、売り手と買い手の協働によって、企業活動におけるトータルコストが削減されることを意味します。具体的な事例を挙げて詳しく説明しましょう。

共同での仕入れ

例えば小売業や飲食業を営む企業同士が提携関係を結べば、共同での大量仕入れ・一括仕入れが可能になります。仕入れにおいては、数量が多くなればなるほど単位量あたりの価格交渉を有利に運べるため、原材料費の大幅なコストカットが実現するのです。

コストの削減ができるのは、原材料費にとどまりません。仕入れ先から店舗に原材料を運ぶためには『輸送費』がかかりますが、複数企業の荷物をまとめて運んだ方が小口配送よりも費用が抑えられます。

重複部門の見直しと統合

異なる二つの会社が協働する場合、重複部門の廃止や統合は不可欠です。人事・会計・総務といったバックオフィス業務を一つにまとめて一元管理すれば、『管理コスト』を大きく削減できる上に、業務効率が向上します。

全国に営業拠点がある場合は、統廃合によって『賃料』や『人件費』を抑えられるでしょう。拠点統合には、コストを下げるだけでなく、技術やノウハウ、情報が容易に共有できるようになるというメリットもあります。

売上シナジーの例

売上シナジーとは、それぞれが持つ販売チャネルや流通網、ブランド効果などによって、売り上げや収益が向上することを指します。双方の売り上げの単純加算ではなく、10倍、20倍と指数関数的に増加するイメージです。

クロスセリング

クロスセリングとは、既存の顧客やサービスを検討している見込み客に対して、関連製品をすすめる営業手法を指します。M&Aにおけるクロスセリングは、複数の企業が保有する顧客網を共有し合い、顧客に自社のサービスを販売することです。

例えば、化粧品を扱うA社と健康食品を扱うB社が協力関係にある場合、B社の商品を販売する際にA社の関連商品を一緒におすすめすれば、売り上げアップにつながるでしょう。

事前に十分なマーケティング調査を行い、どれだけの売り上げ増加が可能かを見極める必要があります。

販売チャネルの共有、拡大

販売チャネル(販売経路)とは、企業が顧客に商品やサービスを提供する方法や場所を指します。企業がどんなに優れた商品やサービスを提供していても、販売チャネルがなければ企業の売り上げにはつながりません。

販路開拓には多くの時間やコストがかかりますが、相手企業が持つ販売チャネルがそのまま活用できれば、売り上げが飛躍的に伸びる可能性があるでしょう。

例えば、関東エリアにあるA社が関西エリアに顧客基盤を持つB社を買収した場合、A社は関西エリアでも自社サービスを販売できるようになります。

ブランドの獲得

対象企業の持つ『ブランド力』が活用できるのも、M&Aの大きなメリットです。通常、市場で新たなブランドを確立させるまでには、相当の時間がかかります。

一方、知名度の高いブランドには既に多くのファンが付いているため、対象企業を買収すれば、既存の顧客やファンをそのまま取り込むことが可能です。事業のブランド名を譲り受けて、自社の商品・サービスを新たにラインアップに加えるという戦略も考えられるでしょう。

競合との差別化を図り、売り上げアップを目指す企業にとって、ブランド力の獲得は必要不可欠といえます。

投資シナジーの例

投資シナジーとは、投資面で得られる相乗効果です。複数の企業の統合によって資金力が向上し、余剰資金を有効に使える可能性が高まります。技術やノウハウの共同活用で、新たな商品やサービスが生まれることも期待できるでしょう。

余剰資金の活用

対象企業の業績が好調な場合、会社の買収や統合によって余剰資金が生まれる可能性があります。A社とB社の資金を合わせて、より大きな事業への投資もできるでしょう。資金調達や会計、財務に関する相乗効果は『財務シナジー』とも呼ばれます。

また、『資金力はあるが投資先のない会社(A社)』と『資金力はないが将来性のある会社(B社)』とが協力すれば、A社の余剰資金が有効に使えます。投資の最適化によって、企業の競争力がさらに強化されるでしょう。

研究開発や技術、ノウハウの活用

M&Aにおいて投資シナジーというと、研究開発や技術、ノウハウなどの共有により創出される成果を意味します。

技術やノウハウが生み出されるまでには、多大な時間・コスト・労力が費やされます。それぞれが持つ技術やノウハウを共有し合えば、それほど時間をかけずに新たな商品やサービスを開発できる可能性が高いでしょう。

技術や情報の共有だけでなく、研究開発に関わる人的リソースも確保できます。

実現できることはほかにも

M&Aにより複数の企業が統合することで、ほかにもさまざまなプラスの効果が生まれます。経営面ではノウハウの共有が可能となるほか、統合する企業のブランドやイメージによって自社の信用力が強化されるケースもあります。

経営ノウハウの共有

M&Aによって、売り手と買い手の経営層が統合されると、『経営シナジー(マネジメントシナジー)』が生まれます。

経営シナジーとは、経営ノウハウの共有によって生まれるプラスの効果です。それぞれの強みを生かした新たな経営戦略が策定できるため、企業の業績が改善したり、市場シェアの獲得に成功したりといった変化が期待できるでしょう。

特に『新たな分野』への参入を目指す企業にとって、経営シナジーは欠かせないものといえます。ゼロからの事業開発は困難を極めますが、他社が培ってきた経営ノウハウがあれば、リスクを最小限に抑えて順調に事業を拡大させていくことが可能です。

信用力の補完

M&Aで大手企業の傘下に入ると、企業の知名度や信用力は向上します。無名の零細企業にとって、新規顧客を獲得するのはそう簡単ではありませんが、『大手A社のグループ企業』というだけで、販路開拓が容易になったり、優秀な人材が集まりやすくなったりするケースがあるのです。

大手により買収されることで、財務基盤や信用力が強化され、融資が受けやすくなる可能性もあるでしょう。なお、大手のブランド力によって信用力が補完される場合もあれば、逆に売り手のブランドを大手が活用するケースもあります。

シナジー効果の注意点

M&Aの成功は、想定していたシナジー効果がいかに発揮できるかにかかっています。特に、買い手は売り手の将来性やのれんに期待して価格を設定します。損益の見込みの甘さが致命的なダメージとなる点にも注意しなければなりません。

想定通りの効果が生まれるとは限らない

買い手はシナジー効果や将来の収益性を見込んで取引価格を設定しますが、M&A成立後、必ずしも想定通りの効果が生まれるとは限りません。シナジーが発揮されない上に資金も回収できなければ、M&Aは失敗といえるでしょう。

会社の存続やさらなる事業の発展を望んでいた売り手にとっても、期待外れの結果となります。

M&Aが失敗する要因の一つに、対象企業の評価額を正確に算出できない点が挙げられます。シナジー効果に期待しすぎて損益の見込みが甘くなり、高値づかみをしてしまうのです。買い手候補が複数いる場合、競争によって価格はどんどん上昇していきます。

マイナスのシナジー効果が出る可能性も

想定していたシナジー効果が得られないばかりか、マイナスのシナジー効果のみが現れるケースもあります。マイナスのシナジー効果は『アナジー効果』と呼ばれ、M&Aでは以下のようなものが該当します。

  • 事業の多角化で負担やコストが増大した
  • 企業買収によって従業員の士気が下がり、離職者が増えた
  • ブランドイメージの変化が顧客離れを加速させた
  • 買収した対象企業が長年の取引先の競合だった

アナジー効果は企業経営にネガティブな影響を及ぼします。M&Aのプランニングは綿密に行い、万が一の際の対応策も考えておく必要があるでしょう。

マイナスの効果を生み出さないために

シナジー効果を最大限に発揮させるには、リスクの把握が不可欠です。対象企業の分析や企業価値算定を適切に行うと同時に、事業の方向性を再確認しましょう。

お互いの事業の方向性を確認

アナジー効果が発生するのは、売り手と買い手の事業の方向性が大きくかけ離れているケースです。

もちろん、自社とまったく関連のない事業で収益を上げた事例もありますが、基本戦略においては、『本業に近い事業』でのM&Aが望ましいとされています。お互いの事業内容や方向性を十分に吟味した上で判断するようにしましょう。

M&Aの初心者は特に、仲介会社やアドバイザーの言葉をうのみにしやすい傾向があります。経営戦略を策定していても、仲介会社から案件を紹介されるうちに方向性を見誤ってしまうケースもあるでしょう。

買収リスクを把握する

マイナスの効果を生み出さないために、買い手はデュー・デリジェンス(買収調査)によって対象企業のリスクや課題を洗い出し、企業価値を見極める必要があります。

デュー・デリジェンス(以下、DD)とは、財務・法務・労務などの面から対象企業を調査し、買収するのにふさわしい企業なのか精査するプロセスです。DDをおろそかにすると、シナジーの恩恵がゼロになる状況に追い込まれる場合も珍しくありません。

例えば以下のようなケースがあり得ます。

思わぬ債務が発覚し、損失計上につながった

過去の税務処理に申告漏れがあり、追徴課税を受けた

契約違反や権利の侵害により、多額の損害賠償請求を受けていた

労使トラブルにより、多くの従業員が退職届を出していた

M&A成立後の統合作業は『PMI(Post Merger Integration)』と呼ばれます。企業価値の向上やシナジーの実現に欠かせないプロセスで、PMIがM&Aの成否を分けるといっても過言ではありません。DDの段階から、PMIやシナジーの実現性について検証することが肝要です。

M&Aでの成功を目指すポイント

M&Aが失敗する要因の一つに、目先の利益や成果にばかり気を取られて、本来の目的を見失う点が挙げられます。シナジー効果を求めるのはもちろん大事ですが、何のためにM&Aを実施するのか、M&Aでなければならない理由は何かを明確にしましょう。

シナジー効果にとらわれすぎない

シナジー効果にばかりとらわれすぎると、本来の目的や経営の基本を忘れてしまう恐れがあります。

例えば収益拡大やコスト削減に目が行きすぎると、顧客の意に沿わない商品やサービスが生まれてしまい、そもそも『誰のためのサービスなのか』が分からなくなってしまうという事態も珍しくありません。

この場合、商品やサービスの価値をいかに上げるかを第一に、シナジーはあくまでもおまけと考えるのが望ましいでしょう。

また経営者によっては、『シナジー効果よりも事業単体での成長を目指す』と考える人もいます。本来の目的を見失ってまで、既存事業とのシナジーや関連性を求める必要はないという点を押さえておきましょう。

M&Aが必要な理由、目的が重要

M&Aは企業の成長戦略の一つとして位置付けられています。M&Aによってシナジー効果を発揮できれば、企業価値の向上と継続的な発展がもたらされるでしょう。ただし、明確にしておきたいのが『なぜM&Aでなければならないのか』という理由です。

シナジー効果は、M&A以外の方法でも実現が可能です。リスクを冒して企業買収をするよりも、業務面での提携によるシナジーを求めた方がよい場合もあるでしょう。

M&Aに失敗する企業の中には、M&Aの目的が曖昧で、M&Aそのものがゴールになっているケースもあるのです。

自社の強みと弱みを把握する

M&Aを実行するにあたり、最初に『自社にはどのような経営資源が必要なのか』『何を補完しなければならないのか』を考えなければなりません。そのためには、自社の強みや弱みを客観的に把握した上で、戦略を立てる必要があります。

自社分析の方法は複数ありますが、よく活用されているのが『SWOT分析』です。外部環境・内部環境において、以下のどのようなS・W・O・Tがあるのかを洗い出し、さらにそれをプラス要因とマイナス要因に区別します。

  • S(Strength):強み
  • W(Weakness):弱み
  • O(Opportunity):機会
  • T(Threat):脅威

多面的な分析ができるため、企業が事業戦略を立てる際に用いられるケースが多いものです。事業全体だけでなく、『製品』『サービス』『従業員』といったように、項目ごとにSWOT分析を行うと課題がより明確になります。

「アンゾフの成長マトリクス」とは

ここからは、シナジー効果を生み出すための経営戦略のポイントについて解説します。シナジー効果をビジネス分野で初めて提唱したのは、アメリカの経営学者イゴール・アンゾフ(1918~2002年)です。

アンゾフは、成長戦略の基本として『アンゾフの成長マトリクス』というフレームワークを生み出しました。

経営戦略策定で使われるフレームワーク

市場環境の変化が目まぐるしい中、どのような経営戦略を選ぶかに悩む企業は多いものです。『アンゾフの成長マトリクス』は、『自社の製品』と『市場』から成長戦略を考えるフレームワークで、自社の方向性を考える上での道しるべとして役立ちます。

アンゾフの成長マトリクスの全体像を簡単に説明すると、横軸に『製品(商品)』、縦軸に『市場』を置きます。それらを『新規』と『既存』に分け、以下のような4象限のマトリクスを作成します。

  • 市場浸透戦略:既存市場×既存製品
  • 新製品開発戦略:既存市場×新規製品
  • 新市場開拓戦略:新規市場×既存製品
  • 多角化戦略:新規市場×新規製品

それぞれの要素に従って、どのような戦略で事業を拡大させていくのかを突き詰めていきます。マトリクスを構成する四つの要素について詳しく解説しましょう。

市場浸透戦略

『市場浸透戦略』は、『既存市場×既存製品』の組み合わせから考える戦略です。既存の市場から離れずに、既存の顧客に既存の製品を提供し続けるパターンと考えましょう。既存の製品を投入し続ければ、市場シェアの拡大が目指せます。

四つの中では最もリスクが低いパターンですが、競合他社が増えれば売り上げも伸び悩むため、いかに購買意欲を高めるかが課題となるでしょう。新機能の追加や販売方法の変更、ターゲットの絞り込みなどがポイントです。

新製品開発戦略

『既存市場×新規製品』の組み合わせによる『新製品開発戦略』は、既存市場に新製品を投入し、売り上げアップを狙う戦略です。換言すれば、今いる顧客に自社の新しい製品・サービスを提供することです。

具体的には、現行商品をアップグレードさせたり、新たな商品を開発したりして、市場での売り上げ拡大を狙います。M&Aで特殊技術やノウハウを持つ企業を買収するという戦略も有効でしょう。

新製品の開発には多額の資金や人件費の投入が必要なため、市場浸透戦略よりもリスクは高めです。ニーズの把握や競合との差別化が成功の鍵となるでしょう。

新市場開拓戦略

『新市場開拓戦略』は、『新規市場×既存製品』の組み合わせをベースに既存製品を新たな市場に投入する戦略です。

具体的には、日本国内から海外へ、地方から全国へといったように、自社が進出していなかった国・地域に商品を拡大させます。40代向け製品を20代にも販売するなど、ターゲット層を変更する取り組みも該当するでしょう。

市場開拓に際し、専門的な市場調査や分析が必要なのは言うまでもありません。競合他社が存在する場合は、営業力やネットワークの強化が課題となるでしょう。認知度を高めなければ、いくら製品がよくても売り上げにはつながりません。

M&Aの戦略として、自社と異なるエリアに販路を持つ同一事業を営む企業を買収する方法があります。

多角化戦略

『多角化戦略』は、新規市場で新規製品・サービスを広めていく戦略です。マーケティングや製品開発に膨大なコストがかかる上、必ずしも成功するとは限りません。そのため、四つの中では最もリスクが高いパターンとされています。

多角化戦略は、以下の四つに区別されます。

  • 水平型:同一業種・同一分野で事業拡大を図る
  • 垂直型:既存のサプライチェーンの上流または下流に事業を拡大させる
  • 集中型:既存事業と関連があるもので新市場の開拓を図る
  • 集成型:既存事業と関連性がないもので新市場の開拓を図る

中小企業の成長戦略では、中核となる事業に経営資源を投入する『選択と集中』が重要視される傾向があります。ただし、主力事業に依存しすぎると、企業の衰退や停滞を招くのが現実です。

リスクを冒してでも新しい収益源を求めなければならないケースでは、多角化戦略が選択されます。

積極的にシナジー効果を生み出す会社の例

企業買収や業務提携などによって、シナジー効果を積極的に創出しようとする大手企業の事例を紹介します。M&Aの規模は異なりますが、経営戦略を策定する際の参考にしましょう。

楽天グループ

楽天グループは2000年以降、ポータル・サイトの『Infoseek(インフォシーク)』や『Lycos Japan(ライコスジャパン)』、旅行のオンライン予約サイト『旅の窓口』などを買収してきました。

買収後は、会員IDの共通化や楽天ポイント制度の導入、システムの統一などによって顧客を囲い込み、収益拡大に成功しました。

また楽天グループは、自社の子会社である『株式会社チケットスター』を『楽天チケット株式会社』に社名変更しており、楽天ブランドを冠して認知度を高める狙いがうかがえます。

ソフトバンク

通信事業大手『ソフトバンク』は、MVNO事業者(※)である『LINEモバイル株式会社』の全株式を取得し、完全子会社化しました。モバイルビジネスの分野において自社と関連性のある企業を買収し、シェアを拡大させるのが狙いです。

企業買収により、ソフトバンクグループはターゲット層の異なる『SoftBank』『Y!mobile』『LINEモバイル』という三つのブランドを抱えることに成功しました。

特にLINEモバイルは10~20代のユーザーが多く、オンライン経由での顧客獲得に大きなポテンシャルが見込めます。ソフトバンクが知見やノウハウを提供すれば、さらなる成長が期待できるでしょう。

※MVNO事業者:移動体通信事業者から通信設備を借り受けて、自社の独自ブランドでサービスを展開する事業者、格安SIM会社

まとめ

M&Aでは、自社事業とのシナジー効果が期待されますが、想定通りの成果が現れるかどうかは、事前調査や経営戦略の精度に左右されます。状況や場面に応じて、専門家やM&Aアドバイザーの力を借りることも検討しましょう。

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