2019-05-28

60歳目前でのリストラ、再就職市場での不利…。逆境のなか、個人でのM&Aという道。

学習塾の事業譲渡

個人がM&Aで会社や事業を買うというと、一財産を築いた成功者か、はたまたリスクと引き換えにチャレンジしようという若者の姿を思い浮かべる人が多いかも知れません。

けれど、実際の事業承継のあり方は多種多様です。

今回取材させていただいた、学習塾事業の買い手である藤田優作(仮名)さんが買収を考えたきっかけは、お勤め先でリストラにあったことでした。

60歳を目前にした早期退職と、転職市場での厳しい評価。

藤田さんは日系企業に20年以上勤め、6年前に外資系大手メーカーに転職しました。
営業職として活躍し、直近ポストは部長職、海外駐在経験もありと、順風満帆と言っていい社会人生活。

転機が訪れたのは60歳目前だった2018年夏のこと。
会社都合による早期退職の話が持ち上がり、8月には実際に退職することになったのです。

再就職を目指した転職活動でも苦戦を強いられます。

「何度か転職は経験してきましたが、今回の転職活動は勝手が違いましたね。書類で片っ端から落とされ、面接にすら辿り着けない。ああ、年齢で落とされてるんだなとはっきり感じました」

その後、地方に本社がある従業員数1桁の企業の東京支社に職を得たものの、そこでの仕事の進め方や企業文化は藤田さんが過去に勤めた会社とは大きく異なりました。

昔ながらの手法から更新されない営業スタイル、社長の一声でガラリと変わってしまう事業方針…。
収入面でも譲歩していたこともあり、別の道を考えたときに思い浮かんだのが、個人でのM&A、つまり事業買収でした。

1,000万円までなら、失敗しても取り返しがつく。

三戸政和氏の著書『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい 人生100年時代の個人M&A入門』が話題になって間もない時期。藤田さんもこの本を読んでいました。

いつかは事業経営を、という憧れはもともとありました。
若い頃から株式投資を続けていたため、投資への抵抗もありません。

まずはリサーチからと、いくつかのM&A仲介サービスに申し込んだのは、前職退職から3ヶ月経った11月のことでした。

「2人いる子どもも、上の子はすでに就職して、下の子ももう大学4年生で、そろそろ手が離れようというときでした。妻も『60歳過ぎて人に雇われるより、自分でやったほうがいいんじゃないの?あなたの性格なら』と応援してくれました」

事業投資に使える総額は1,000万円。

最悪、全額失うことになっても、身を粉にして働けばなんとか返せるだろうと覚悟を決めて設定した金額でした。
余った資産の活用でも、夢のためでもなく、生活の糧としての個人でのM&Aでした。

事業を探すときには何より、価格レンジと収益性を重視しました。
その他の条件は、軌道に乗るまでは現職を続けたいため副業でスタートできること、現在住む関東近郊か故郷の神戸に近い関西に事業基盤があることでした。

現場に立つのではなくオーナーとして経営参加のみを行うこともあり、事業内容の選り好みはしませんでした。
リサーチを進めるなかで、案件の傾向が見えてきます。

まず、藤田さんの予算上限である1,000万円までのレンジの案件は、TRANBI以外のサービスでは取扱いが少ないこと。
このことから、日常的に目を通すのは、大きな案件から小さな案件まで取り扱いに幅があるTRANBIのみにほぼ絞りました。

次に分かったのが、予算内で探すと、当てはまる案件は、基本的には学習塾やエステ等の幾つかの業態にある程度限られるということ。

「先に実名交渉に至ったのは、実はエステ店でした。何案件か交渉させていただいて分かったのが、エステ業界は入れ替わりが激しいということ。顧客をしっかり掴まないとやっていけないけれど、そのために駅近に店舗を構えたり、新しい装置をどんどん取り入れたりと、かなりの投資が必要で、私の予算では戦えないと判断しました」

成約したのは地域密着で15年続く学習塾。

設備投資額が少ない学習塾メインにシフトした藤田さんの目に留まったのは、大阪で15年運営続く学習塾。
継続的に黒字を出していましたが、売り手である前オーナーが別事業に集中するために譲渡先を探していました。

すぐに実名交渉の依頼を出し面談になったのですが、なんとこの1回目の交渉で、藤田さんはぜひ買収したいという意思を伝えたといいます。

藤田さんも前オーナーも東京在住、交渉は東京で行われたため、塾スタッフにも会っておらず、教室も見ていない状態。
そんなタイミングで決断した理由は、前オーナーの人柄にありました。

「数字上の投資効率は事前に確認できていたので、不安はありませんでした。そして、実際に前オーナーにお会いしてみて、こちらの疑問や不安に対して親身に回答していただけて、譲渡後もサポートしますよ、とまで言っていただけました。信用できる方だと思いましたね」

藤田さん以外にも複数の交渉者がいましたが、判断の早さからからも本気さが伝わったのか、譲渡先に選ばれたのは藤田さんでした。

TRANBI掲載開始が1月中旬、2月中旬に成約というスピード感からも、人気案件であったことが伺えます。

やってみなはれ精神で、現場が伸び伸び働いて欲しい。

塾経営を行ううえで、藤田さんが目指すのは、現場に気持ちよく働いてもらうこと。
藤田さんはオーナーとして経営のみを行い、塾運営の現場に出る予定はありません。

現場を取り仕切るのは、前オーナー時代から塾長を任されている正社員女性。
生徒や親御さんのことは、塾長やアルバイト講師のほうがよく知っているため、彼女たちのモチベーションを高く保つことを大事にしたいというのが藤田さんの考えです。

「現場から出てきたアイデアは、可能なかぎり取り入れたいと思っています。やる気があるからこそ、自発的に提案してくれるわけで、その気持ちを汲みたい。私自身は、会社員時代に上司に頭ごなしに否定されて嫌な思いをした経験があるので、その揺り返しかも知れません(笑)」

塾の備品は、机や書籍など比較的安価に揃うものが多いため、比較的設備投資にお金がかからない業態です。
だからこそ、要望が上がったものはなるべく取り入れることにしており、実際にiPadを取り入れることが決まっているそうです。

TRANBI活用のコツは、最初の交渉申請メッセージにあり。

見事、希望案件を射止めた藤田さん。
TRANBI活用のコツを聞くと、交渉開始となる最初の交渉申請メッセージを送る際に、予算の上限や事業への携わり方の希望など、条件面を詳しく書くことを挙げました。

「自分にとって条件の良い案件は、他の買い手にとっても良い条件であることが多いものです。画面越しで見れる情報は限られていますので、会ってみないと分からないことも多くあります。但し、交渉を始める場合、売り手さんの時間を取るわけですから、闇雲に交渉申請するのではなく、自分の希望・条件を端的に伝えることが大事だと思います」
これをするかしないかで、返信率が大きく変わるそうです。

交渉を断られたとしても、条件の噛み合わない交渉をせずに済んだということだから、効率的と言えます。

「あとは、TRANBIとは関係ない部分ですが、私のように副業スタートで事業承継する方は、手続き周りをサポートしてくれる方を探されたほうがいいかもしれません。年金事務所や税務署に何度も足を運ぶ必要があります。私の場合、現職が1人支社で時間を自由に使いやすいためなんとかなりましたが、普通のサラリーマンの場合は日中にそう何度も抜け出すのは難しいと思うので」

50代以上の方の買い手登録も増えています。

譲渡手続きも完了し、2019年4月1日から晴れてオーナー経営者となった藤田さん。
ゆくゆくは事業拡大を目指しており、この塾の経営状況次第で、別の塾の買収や、まったく違う事業の買収も考えているそうです。

「70から75歳くらいで引退かなと考えています。普通のサラリーマンだと65歳くらいまではたらく人が多いですよね。それより少し長く働けるように、自分の足場をつくっていきたいですね」

いつ訪れるかわからない人生の転機。
個人でのM&Aによる事業の買収という選択肢も、徐々に一般的になってきました。

TRANBIでも、50代以上の方に買い手登録いただくことが増えてきています。
ご興味をお持ちの方は、ぜひ参考にしてみてください。

  • 田中 ヤスヒロ(typo)
  • ライター紹介田中 ヤスヒロ(typo)

    コピーライター/京都大学理学部卒業後、広告制作会社にてコピーライターとして勤務。WebサイトやSNSなど、デジタル媒体を中心に広告コンテンツの企画・制作を担当する。ビジネス、科学など固いものを柔らかく伝えることが得意。2018年より屋号「typo(誤字脱字)」として独立。その名の通り、ケアレスミスが多いタイプ。