2019-09-17
完全受注生産のネットショップ事業を購入 運営は夫、商品開発は妻、夫婦で始めるために個人M&Aを実施
インテューイラ株式会社様
静岡県在住の柳川さんご夫妻が引き継いだのは、スマホケースや電子タバコケース、パスポートケース、財布など主に女性向けの小物を扱うネットショップ。一口に小物といっても、一つ一つが好みに合わせたハンドメイド、いわゆる一点ものだ。以前からネットショップに興味があったという夫と、商品開発に妄想が広がるという妻、今回の譲渡の経緯と今後の抱負について二人にお話を伺った。
Q.そもそも起業しようと思ったのは、なぜでしょうか。
(夫) もともと製薬会社に勤めていました。最初は研究職として入って、家からすぐ近くの研究所に通っていました。そこに14年いて、その後、退職までは本社の購買部にいました。 原材料や部品など業務に必要なものを、なるべくコストを抑えながら購入するといったことが購買部の仕事です。
もともと、この会社の経営職は退職の選択肢が、55歳、60歳、65歳と3パターンあったんです。その選択を54歳ですることになっていたのですが、私は50代に入ったときから55歳で辞めて独立しようと決めていました。そう考えると定年まで、あと4、5年。その間にどんなことをするか考えてみようという気持ちでしたが、あるビジネス書で事業を買えるということを知り、ピンときました。ゼロからの起業は大変な部分があり、会社自体を個人で買えるような環境になっている、そういった状況を知って、いてもたってもいられなくなったんですね。それで、これはぜひやりたい、と55歳の定年を待たずに、今年の6月、51歳で退職したわけです。成約も同時期でした。
(妻) 起業したいというのは、ずっと言っていたので、どういうことをしたいの? どうやって計画するの? と折に触れて聞いていました。それで会社を買って退職だ、となったときに、いよいよこの人は起業するんだなという感じで。
(夫) でも最後に背中を押してくれたのは妻なんです。僕は最後の最後までどうしようって。だまされることはないだろうけれど、だまされたら笑いものだろうなって。でも妻が「失敗しても私も働いているから大丈夫よ」って言ってくれて。妻は私と同じ会社で、今も研究所で働いていますから。
(妻) 夫が大成するのを見届けるまでは辞められません(笑)。
「夫婦で会社経営を考えるのは、マイホームを建てるときと似ている」と二人。
Q.登録から交渉、成約まで、どのような形で進みましたか?
(夫) トランビに登録したのは、昨年の秋ごろ。特に最初の頃は業種を絞らず、予算と照らし合わせながら幅広く見ていました。実際にお会いした会社は3社です。
一つ目はボルダリングの際に使う滑り止めの接着剤、というニッチな商品を扱う会社。社長さんご自身がボルダリングの経験者で、こんな商品があったら、と開発されたものでした。二つ目は、青汁を作っている会社です。青汁というのは、一般的に健康をうたうものですが、これは美容をうたっているのが面白いと思いました。高級デパートにも卸していて、セレブ向けでしたね。そして三つ目が、このネットショップです。
業種はバラバラでしたが、共通しているのは“新商品が作れそう”ということ。自分で何か新しいものを作って、それが売れたら面白いだろうなという気持ちがありましたから。でもそのなかで、このネットショップに決めたのは、相対的に規模が大きく、新商品を出して売るというイメージが自分の中で作りやすかったからです。また在庫を持たない完全受注生産でリスクが少ないということ、受注システムが確立されていることなども大きなメリットでした。さらに自宅でもできる“ネットショップ”という業態も魅力的でした。実は九州の和菓子屋さんの案件も気になっていたのですが、さすがに九州は遠いかな……と断念しました。
交渉は、いたってスムーズでした。実際に売り手さんとお会いしたのは2回。1回目は妻も同席し、商品やシステムなど現状の説明を受けました。概略を教えてもらったという感じで、特にこちらからアピールすることはありませんでした。2回目は、もうこちらから買う意思を伝えて、ほとんど内諾という形で。あとは今後のスケジュールを確認したのかな。特に苦労したことはありませんでしたが、退職金でお支払いするので、それまで待ってくださいとだけお伝えしました。
選ばれた理由は正直わかりませんが、売り手さんがおっしゃっていたのは「いい人に売りたい」ということ。売ったあとも何度もやりとりすることになるので、あまり会いたくないという人には売りたくないと(笑)。僕がいい人かどうかはわかりませんが、僕も売り手さんをいい方だと思ったので、もしかしたら売り手さんも同じように思ってくださったのかもしれません。
(妻) 私が聞いたのは、主人は他の人と真剣さが違っていたということです。このために会社を辞めて、退職金をつぎ込んで、と取り組むわけですから、主人としては真剣にならざるを得ないですよね。そういう思いが率直に伝わっていたのかもしれません。
(夫) ここだけに限らないことですが、僕は最初のメールの文面には非常に気を遣いました。メールは顔が見えないだけに、人間性が出てしまいますから、少しでも上から目線だと、相手側にすぐに伝わってしまいます。ですから、なるべく丁寧に誠実に書くように努めていましたね。それが良かったのかもしれない。
Q.この商品のどんなところに魅力を感じましたか?
(夫) 商品はある程度、ひな型がありますが、そこにストーンや押し花など好みのあしらいを加えて、ハンドメイドで仕上げます。セミカスタマイズできる一点ものというところが、この商品のいちばんの魅力です。生産を委託しているのは中国が最も多く、次に日本、タイ。注文が入ったら発注をかけ、出来上がった商品は、いったんこちらで受け取り、改めて梱包して発送します。でも今のところ、商品については妻の方が思い入れが強いので、新商品を開発するときは妻に任せたいですね。
(妻) 最初の面談で初めて商品を見せていただいたときに、思わず「わあっ」と歓声を上げてしまいました。あしらいがすごく可愛らしくて、よくあるスマホケースとは全然違う。女性は、こういう一点ものが好きですよね。すぐにこういうのもいいな、ああいうのもいいなと妄想が広がりました(笑)。若い方なら流行に合わせて、どんどん買い替えていくのかもしれませんが、年齢が上がると自分の好みのものを持っていたいという気持ちが大きくなります。そういった個人の趣味に合わせて、商品を提供できるのは面白いですよね。
雑貨が大好きという妻。部屋のあちこちにもかわいらしい雑貨がディスプレイされている。
Q.現状と今後の展開についてお聞かせください。
(夫) 今はまだ引き継ぎ中で、まさに売り手さんとも頻繁にやりとりしています。特に懇意にしている中国の製作会社には、これから売り手さんといっしょにご挨拶に行く予定です。
その中国の会社というのが、特に技術力が高く、代替がきかないから大切にしたほうがいい、女性社長の息子さんには、何かプレゼントを持って行ったほうがいい、なんてアドバイスももらっています。
僕自身、前職で社外、それも外国の方とよくやりとりしていましたので、こういった場面には比較的、慣れています。また購買部にいた経験を活かすなら、輸送費などのコストダウンもはかりたいですね。多く発注するほど安くなるでしょうから。
今後は、現状の商品リストは、そのまま引き継ぎ、あとは製作会社の方とも相談しながら、どんどん新商品を出していきたいと思っています。商品数が増えれば増えるだけ、売り上げが上がる可能性が高くなるので。売り手さんはは楽天市場でしか販売していませんが、私はYahoo!ショッピングやau Wowma!などにも出店して販路を広げていきたいですね。今はまだ審査を出しているところですが、それが通ったら、元のショップは閉めていただくことになります。
「商材を広げられるしくみに惹かれた」。夢は新商品をどんどん作って輸出すること!
(妻) 私は、お客様にお届けする商品の梱包にもこだわりたいですね。かわいい包装にしたり、「ありがとうございました」といったメッセージカードをつけたり、そうしたらリピーターが増えるかもしれない。
(夫) それから売り手さんからは、Instagramもしたほうがいいとアドバイスをいただいています。このあたりは20代の娘2人にも、アドバイスを求めたいところですね。
「私の妄想に対してこんなのもいいんじゃないって娘も反応してくれています」。ゆくゆくは家族経営!?
今は本当に売れるのかなという不安もありますが、商品をどんどん増やして、将来的には輸出して海外のユーザーも増やしたいという夢もあります。まだ新商品を出していないので、当面は月商200万円いければいいかなと思っていますが、目標としては3年後には年商1億円!始めたからには前進あるのみです。
インテューイラ株式会社 代表者:柳川幸治
https://www.rakuten.co.jp/intuira/
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ライター紹介池田純子
大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーのライター・編集者に。暮らしやお金、子育てにまつわる雑誌記事の執筆や単行本の製作に携わる。さまざまな生き方を提案するインタビューサイト「いま&ひと」を主宰。