2019-12-17

人材派遣会社が畑違いのM&Aで得た思わぬシナジー:直接交渉で築いた信頼関係が成功のカギ



企業が既存事業とは違う分野の事業を買収する際の目的として、多角化によるリスク分散と並んで挙げられることが多いのが事業間のシナジー。複数の事業を経営することで新しい価値を生み出すことは、M&Aの醍醐味の1つです。
今回お話を伺ったのは、人材派遣事業を主事業とするA社(社名非公開)で買収したタピオカ専門店事業を担当する村田雄一さん(仮名)。人材業とタピオカという縁遠そうな2つの事業から、どのようなシナジーが生まれたのでしょうか?

若年層との接点をつくるためにはじめた、トレンドビジネスへのチャレンジ。

人材派遣会社に登録する人の年齢は徐々に上昇しています。一般社団法人日本人材派遣協会の調査では、2013年に37.9歳だった平均年齢が2018年時点で41.9歳に。5年で4歳も平均年齢が上昇しているというデータからは、業界として若い登録者を獲得できていない傾向が見て取れます。 SEをはじめとする技術系職種に強く、比較的若い登録者が多いA社も、20代の登録者の比率はあまり高くありません。もちろんベテランの力が求められる派遣先も多くありますが、若手を希望する声があるのも事実です。

「20代を中心とする若年層の獲得は重要な課題です。そんな背景もあって、会社としてチャレンジしているのが、若い世代との接点を持てるであろう事業のM&Aです。ここ3~4年で飲食やアパレル、留学支援など若い人をターゲットにしたトレンド感のある事業を買収してきました」

そう話すのは、A社の関西地区の事業を推進する村田さん。今回、トランビを通して成約した生タピオカ専門店Halong(ハロン)事業の管轄も担当されています。

決め手は、売り手の人間性。

実は、村田さんが買収した事業の管轄を担当するのははじめて。もともとはA社代表の大野さん(仮名)がトランビ上で見つけた案件でしたが、店舗の所在地が神戸だったため、対面交渉から村田さんが担当しました。

「代表は普段からいろいろな案件に目を通しているようです。今回の案件に目が留まったのは、タピオカというトレンド真っ只中の事業であったことと、店舗が彼自身の出身地である神戸三宮の駅ごく近くだったことだと聞いています」

売り手である前オーナー(2名が共同出資)のうちの1人も三宮出身。同郷だからこその親近感も手伝い、トランビWebサイト上の交渉はスムーズに進んだと言います。ただ、その時点ではあくまで興味を持ったという程度でした。ところが、対面交渉を終えた村田さんはオーナーに「これはぜひやるべきです」と伝えました。決め手になったのは、前オーナー2名との会話で感じた、事業への情熱や愛情でした。

「これは本業の人材ビジネスにも通じるのですが、数字だけでは判断できることは稀で、結局は人間性が1番大事だと思っています。人材派遣の場合、スキルやキャリアも求められますが、それ以上にキャラクターが合うかどうかが派遣先で活躍できるかどうかを左右します。今回のM&Aでも、売上や利益、客層などの経営的な数字はもちろん精査したものの、1番惹かれたポイントは事業の生みの親である前オーナーの人柄でした」

自走するアルバイトスタッフに舌を巻く日々。

以降、ぜひやらせてほしいという意志を伝えた上で交渉を続けました。買い手と売り手で上下意識を持たないこと、事業を立ち上げたことに対するリスペクトを払うことを意識しながらコミュニケーションを取ったことが功を奏し、2019年9月頭に事業譲渡が成約。取材時(2019年9月末)は譲渡後1ヶ月足らずというタイミングでしたが、村田さんはすでに今回のM&Aに手応えを感じていました。

「店舗運営を引き継いで驚いたのは、アルバイトスタッフの優秀さです。現在4名のスタッフがいるのですが、平日 13:00 – 20:00、休日 12:00 – 20:00の営業時間を彼女たちだけで回しています。店頭には常時1名体制なのですが、シフトを組むのは彼女たち自身。体調不良で誰かが休むときも、4人で相談して穴を空けないようにフォローし合います。4人中3人が製菓学校出身なこともあり、新メニューも考案してくれます。寒い季節に冷たいメニューは売れにくいからと、冬用のメニュー開発を自発的にはじめてくれていたのにはちょっと感動しましたね」

おかげで自分は何もしなくていいんです、と笑う村田さん。理想の人材の条件に挙げられることも多い自走力を備えたスタッフは、前オーナー時代に採用したメンバー。店舗や商品だけでなく、人材の採用や育成にも力を入れていたことが伺えます。

若者の行動をヒントに、主事業の業務ツールを見直し。

そんなアルバイトスタッフの年齢は10代後半から20代前半。知りたかった若者の考えや行動を知るヒントにもなっています。

「1番印象的なのは、スマホの使い方が我々世代とは根本から違うことですね。40代の私は、PCがないと仕事が進みませんが、彼女たちはスマホでなんでも済ませられてしまいます。連絡を取り合うにしても、シフトスケジュールの作成にしても、お店のレジにしても、店舗運営はスマホとタブレットだけで完結しています。それでふと、主事業の人材事業で関わる20代の人たちに「ホントはスマホの方がスムーズにできる業務ってある?」と聞いてみたら「実は……」という声がいくつも上がったんです」

そうした声を受けて、人材事業で使うツールの見直しをはじめました。タピオカ屋をはじめたら、業務ツールの改善につながったという、予想外のシナジーが生まれたのです。

「店舗運営は順調で、予想以上のシナジーもありました。正直、ここまで上手く回るとは思っていなかったというのが正直なところです。実を言うと、過去にM&Aした事業は、それぞれが自走するまでには至っていません。今回うまく行っているのは幸運も重なってのことだと思いますが、最初から最後まで売り手さんと直接コミュニケーションできたのも大きいと感じています。これまでの案件は銀行の紹介だったんです。交渉は常に銀行を介する必要があったので、売り手さんの人柄を見る機会が足りなかったのかもしれません」

当事者同士の直接コミュニケーションで納得感のあるM&Aに。

今回のM&Aでは、前オーナーとの良い関係が譲渡後も続き、頻繁に食事に行く仲だそう。前オーナーから店舗運営に関するフォローをしてもらいつつ、A社からは前オーナーの東京進出に関するアドバイスを行っています。M&Aからはじまった付き合いが、M&A以外の協力関係に発展しました。これも予想外のメリットといえるかもしれません。

鍵となったのは、買い手と売り手の本音のコミュニケーション。トランビでのM&Aは、基本的に当事者同士の直接交渉によって進行します(オプションで、専門家による条件の精査や書類手続きのサポートが受けられます)。交渉スピードが早く、相互理解も進みやすい直接交渉が納得の行くM&Aを導きました。

  • 田中 ヤスヒロ(typo)
  • ライター紹介田中 ヤスヒロ(typo)

    コピーライター/京都大学理学部卒業後、広告制作会社にてコピーライターとして勤務。WebサイトやSNSなど、デジタル媒体を中心に広告コンテンツの企画・制作を担当する。ビジネス、科学など固いものを柔らかく伝えることが得意。2018年より屋号「typo(誤字脱字)」として独立。その名の通り、ケアレスミスが多いタイプ。