2018-03-01
赤字債務超過の会社を上場企業が2週間で買収
東海地方上場企業×語学サービス企業
外国語学習関連の事業を行うスタートアップ企業が、東海地方でIT関連の事業を行う上場会社に事業を承継した事例です。
この事例では、売り手の会社は3期連続赤字、財務的にも債務超過の状態でしたが、株式譲渡代金とその後の事業成長資金をあわせて合計2億円以上の資金の調達に成功しています。また、売り手様がトランビに案件を掲載されてから、なんと1ヶ月以内にM&Aの成約、株式譲渡の実行までが行われた爆速M&Aという意味でもデジタル時代の事業承継・M&Aを象徴するような事例です。
債務超過の赤字会社でもM&Aはできる
売り手の会社のオーナーであるL様は数年前に実店舗型の外国語学習関連事業をスタートしました。
英語やその他の外国語習得に対する社会的なニーズの高まりを受けて、売上自体は急成長をしていました。しかし、その成長を実現するための先行投資がかさみ、業績としては赤字が続いており、直近の決算においては数千万円レベルの赤字の状態でした。また、財務状態も数千万円程度の債務超過に転落しており、資金の調達ができなければ倒産を免れない非常に苦しい経営状況に陥っていました。
これまでの資金調達は銀行借入を中心に行ってきましたが、これ以上の資金調達を間接金融から行うことは難しく、また、借入には個人保証がついており、L様の負担も大きくなってきたことから、更なる成長のための資金調達と借入の個人保証リスクの解除を両立するための手法としてM&Aによる第三者への事業売却を考え、トランビに案件を掲載されました。
掲載後は、繁忙期までに事業をドライブ出来る体制を整えたいとの思いもあり、早期に交渉頂ける方を希望されていました。
一方、買い手となった会社様は東海地方のIT関連の上場企業で、特にウェブマーケティングに強みを持つ会社様でした。上場後は、株式市場からの成長に対する高いプレッシャーもあり、新規事業の種になるビジネスをトランビ上で探されていました。
熱いプレゼンテーションが買い手に響き、案件掲載から2週間で爆速M&Aが成約
トランビ上での匿名の交渉後、すぐに両社は実名の交渉に移り、ほどなくトップ面談となりました。
売り手さまは、トップ面談の場に入念な準備をして望まれ、決算書や今後の事業計画などの必要資料を提出された他、買い手様との協業により自社が4年後に如何に大きく成長するかをプレゼンテーションされたそうです。その甲斐もあり、買い手の社長様からは「事業自体の成長力はよくわかった。間違い無く伸びていくだろう。是非うちと一緒に組んでやらせて欲しい。LさんがOKなら今すぐにでもやりたい」との返事を勝ち取ることができました。
その後のデューデリジェンスのフェーズでは、複数ある実店舗に対して実地調査が入るなど、上場企業として求められる相応に費用のかかるデューデリジェンスが行われましたが、その費用は全額買い手さまの負担でした。また、短期集中で行ったため、デューデリジェンス自体は1週間かからずに負えられたそうです。そのため、事業運営への影響は最小限で行うことができたそうです。
最後は熱意が決め手になる
案件掲載後、10数社と交渉を進められていたL様ですが、買い手様を決められたポイントはどこにあったのでしょうか。
ポイントは3つです。
①スピード感のある交渉
TRANBI(トランビ)へのM&A案件の掲載から、繁忙期が始まるまでは3ヶ月しかありませんでしたが、それまでにM&Aの交渉から売却までの手続きを実行し、繁忙期に本格的にアクセルを踏んで事業を伸ばせる体制を整えたいというニーズありました。その観点から交渉はスピード感がある会社を優先して行っていたそうです。そのような中で、上場企業でありながらもスピード感を持って対応頂けたのは非常にありがたかったとのことです。
このスピード感での成約はTRANBI(トランビ)でもかなり異例の早さですが、スピード感を持って交渉を進めることは、買い手としては非常に重要なスタンスです。事業承継・M&Aは小さくない金額が動く話ですので慎重に検討したくなる側面は確かにあります。しかし、買収して本当に意味があるのかどうかは、未来の話でありどこまで検討しても証明はできません。最後は思い切って腹を括るしかないのです。TRANBI(トランビ)上での話に限らず、買い手としてM&Aが上手な会社の特徴は、スピード感のある意思決定です。
②信用力と資金力の補完が大きな魅力
L様の会社は、売上の成長はできていたものの、借入金で成長してきたこともあり、財務的には非常に苦しい状況にありました。そのため、上場会社の子会社となり信用力と資金力を調達することで、事業をさらに伸ばせると感じられたことも、譲渡の決め手の理由としてあったそうです。
③成長を実現できる事業シナジー
L様の会社は実店舗のオペレーションや提供されるサービスの質は業界他社からも高い評価をされるノウハウを持つ会社でしたが、ウェブマーケティングはあまり得意とするところではありませんでした。一方、買い手の会社様はウェブマーケティングに強みと実績を持っていましたが、実店舗などのマネジメントのノウハウは不足気味でした。双方の強みを上手く活かすことができる組み合わせで、シナジーを生み出せると感じたとのことです。
事業シナジーの創出には、ノウハウの相互補完や事業領域の相互補完、規模拡大によるスケールメリットなど様々なパターンがあります。買い手としては、具体的な案件を検討する前に、自社としては何を期待してM&Aを検討しているのかを予め明確にしておくことが重要です。M&Aを戦略的に行う企業の代表例として日本電産というモーターメーカーがありますが、自社に足りない事業領域・技術・ノウハウが何なのかを常に検討しており、それを埋めるためにどんな会社を買うべきなのかを考えています。
良い買い手は、売り手に対してなぜ自分に売るべきなのかをプレゼンできます。それは、売り手に出会う前から、頭をフル回転させて探し求めているからです。なんとなくの買い手と本気で口説きにくる買い手とでは、売り手も全く違う反応をします。買い手としてM&Aを検討している方は、どんな会社を買うべきなのか、具体的案件の検討の前に、今一度よく考えてみてください。出会う前から真剣に考えてこそ、熱意を持って売り手を口説くことができるのです。
会社を売却する=買う価値のある会社を育てたということ
デューデリジェンスの終了後は速やかに譲渡契約の締結に移られ、トランビに案件を掲載されてから1ヶ月以内での案件成約・譲渡実行となりました。引き継ぎも大きな問題もなくスムーズに行われており、早くもウェブマーケティングや内部管理体制構築などの面で支援が行われているそうです。
L様も当初は、“会社を売る=負け組”という考えをお持ちだったそうです。
しかし、M&Aの交渉を進める中で「株式シェアにこだわらないほうが、事業の可能性を広げることができる」ということに思い至り、譲渡を決められたそうです。譲渡後も引き続きL様は社長として経営を続けられており、「これからが本当のスタートです」とおっしゃっていました。
大きな会社のグループに入り、事業面・資本面の支援を受けることで、独立独歩では難しかった事業展開の可能性が開けるケースは多くあります。
経営株主の株式シェア・所有権は経営における重要な要素ではありますが、それにこだわらなければ、新しい展開がひらける。それがたとえ赤字でも債務超過でも、シナジーを通じて事業を伸ばすことができるということを示せれば、そこに価値を見出してくれるヒトは必ず存在し、億単位での資金調達もできるということを示している事例だと言えるでしょう。
誰かがおカネを払ってまで欲しいと言う事業を創り上げることは並大抵の努力でできることではありません。会社を売却するということは、決して負け組などではなく、価値あるものを社会に残した勝者の証そのものなのです。