債務超過や赤字、資金ショートの意味とは。原因と対策を紹介

債務超過や赤字、資金ショートの意味とは。原因と対策を紹介

自社が債務超過に陥っているなら、赤字経営や倒産を回避するための対策が必要です。債務超過になる原因や対処法を知っておけば、状況の改善に役立てられるでしょう。赤字・資金ショートとの違いや、債務超過による影響についても解説します。

債務超過の意味とは

債務の意味や貸借対照表の見方など、まずは債務超過の基本をおさらいしておきましょう。赤字との違いについても解説します。

純資産がマイナスの状態

債務超過とは、資産の合計額が債務の合計額を下回っている状態のことです。全ての資産を返済に充てても債務がゼロにならない、純資産がマイナスの状態を指します。

売上が増えている状況でも、債務超過に陥る場合があります。経費が大き過ぎて利益を出せていなかったり、負債の利息しか支払えていなかったりするケースが主な例です。

債務超過に陥った企業は、倒産のリスクが高まります。信用力が低下し、銀行からの融資を受けにくくなるのもデメリットです。

中小企業庁の調査によると、2016年度までの10年間、常に30%台の中小企業が債務超過に陥っています。利益を確保できている会社と、自己資本比率を改善できていない会社に二極化しているといえる状況です。

出典:中小企業白書 2019 「第1部第3章 財務データから見た中小企業の実態」P.38 | 中小企業庁

債務とは

企業における債務とは、金銭や特定行為などを権利者に与える義務を意味します。債務を負う側が債務者、金銭や特定行為などの請求権を持つ側が債権者です。

債務の代表例としては借金が挙げられます。企業が金融機関から借金をしているなら、金融機関に借入金を返済する義務が債務です。

商品やサービスの購入代金を後払いにしている場合、購入時に発生する売掛金も債務に該当します。支払いが済んでいない間は、会社の債務として扱わなければなりません。

従業員に支払う給料も債務の一つです。従業員による労働の対価として、雇い主は従業員に対する賃金支払いの債務を負います。

貸借対照表の見方

一般的に、債務超過の判断には『貸借対照表』を用います。貸借対照表とは、決算時点での財政状況を示す決算書です。

貸借対照表では、左側に『資産の部』、右側に『負債の部』および『純資産の部』が記載されます。右側の負債と純資産を合計した金額は、左側の資産の金額と同額です。

純資産とは、返済の義務がない自己資本を指します。株主から集めた資本金や繰越利益剰余金などで構成される部分です。

純資産の金額がマイナスになっていれば、債務超過の状態となります。負債の部の金額が資産の部の金額を上回っている状況です。

債務超過=赤字ではない

債務超過と似た意味の言葉に『赤字』があります。赤字とは、一定期間において支出が収入を上回る状態です。

会社の赤字を判断する際は、貸借対照表と同時に作成される『損益計算書』を使います。損益計算書とは、1会計期間の収益と費用について記載した書類です。

損益計算書で赤字になっていても、貸借対照表で必ず債務超過になっているとは限りません。赤字と債務超過の判断材料がそれぞれで異なるためです。

ただし、赤字と債務超過のいずれも、会社経営に不利な状況を示している点は共通しています。最終的な倒産を防ぐためにも、さまざまな改善策を講じる必要があるでしょう。

債務超過になる原因を2例紹介

会社が債務超過に陥ってしまう主な原因を見ていきましょう。以下に挙げる二つのケースが、大きな理由として考えられます。

赤字経営が続いている

債務超過になる大きな原因の一つに、赤字経営が挙げられます。1会計期間が赤字になってもすぐに債務超過になるとは限りませんが、赤字が何期も続くと債務超過に陥ってしまうでしょう。

損益計算書で赤字が発生すると、貸借対照表の純資産が減少します。純資産が1億円あっても、3000万円の赤字が4期続けば純資産がマイナスに転じるため、債務超過となってしまうのです。

1期で大きな赤字が出れば、あっという間に純資産が減少する恐れもあります。大きな利益を見込んで多額の設備投資をしたものの、十分な利益を上げられなかったようなケースでは、本業の赤字に加えて設備の特別損失も計上しなければならないでしょう。

会社を設立したばかり

会社を設立してからしばらくの間は、債務超過になりやすい傾向があります。設備投資の効果が現れるまでには、ある程度の時間を要する場合が多いためです。

少ない資本金で会社を立ち上げるケースが近年増えていることも、設立後すぐに債務超過となる理由に挙げられます。自己資本が少額の場合は、赤字が小さくても債務超過に陥りかねません。

設立したばかりの会社は信用が低いため、資金調達の手段も限られています。債務超過の状態が続き、資金集めにも苦労する状況なら、事業の継続が困難になってしまうでしょう。

債務超過になるとどうなるのか

債務超過は会社に悪影響を与えかねない要素の一つです。具体的にどのような影響が出やすいのか解説します。

融資の審査に落ちやすくなる

債務超過に陥ってしまうと、民間金融機関からの融資を受けにくくなります。融資審査の際に返済能力が低いと判断され、審査に落ちやすくなるためです。

債務超過でも融資を受けようとするなら、説得材料を用意する必要があります。今後の増益を見込める展望がある場合や、融資を受けることで利益を出せる根拠がある場合は、金融機関も前向きに話を聞いてくれるでしょう。

会社や経営者が価値の高い不動産を所有しているなら、不動産を担保にすることで借入ができる可能性があります。

国や地方自治体が運用する融資制度を利用するのも一つの方法です。公的な融資制度なら、民間金融機関に比べ借入のハードルは低くなります。

債務超過の状態が1年以上続くと上場廃止

上場企業の場合は、債務超過の状態が続くと上場廃止になるのが基本です。一般的には、2期連続の債務超過となるケースで廃止基準に抵触します。

上場廃止になると、市場で株式が自由に売買できなくなる上、新株発行による資金調達も困難になります。再上場するためには一定額の利益実績が必要です。

ただし上場後3年間は、債務超過に陥っても上場廃止にはなりません。特別な事情があるケースでは、上場廃止までの猶予期間が2年以上に延長される場合もあります。

債務超過より倒産に近いのが資金ショート

債務超過に陥ってもすぐに倒産するわけではありません。一方、倒産リスクがかなり高くなっている状況が資金ショートです。意味や原因、債務・債権管理の重要性を押さえておきましょう。

資金ショートとは

手元の資金が不足している状態を資金ショートといいます。各種支払いを行おうにも、手持ちの現金や預金が足りずに支払いができない状況のことです。

資金がショートすると、取引先への入金や人件費などの支払いが困難になり、経営を維持できなくなる恐れがあります。取引先からの信用を失いかねない点もデメリットです。

経営が黒字の状態でも資金ショートは起こり得ます。掛取引で販売した分の売上が増加したとしても、売掛金を回収するまでは販売代金を資金化できません。

売掛金を担保に融資を受けようとしても、簡単に借入できないことも多いのが実情です。資金繰りが悪化して手遅れにならないよう、資金ショートには十分に注意する必要があります。

資金ショートの主な原因

資金ショートに陥ってしまう主な原因の一つとして、各種支払いに対する経営者の認識不足が挙げられます。税金の支払いや借金の返済など、見落としやすい支出への認識が甘いケースで、資金が足りなくなりがちです。

本業が忙し過ぎる状況でも、資金ショートが発生しやすくなります。売上を増やすことばかりに力を注ぎ、支払いのタイミングで売掛金の回収が間に合わないといったケースはよくあるパターンです。

資金ショートを起こさないためには、資金繰りを意識した経営を常に心掛けておく必要があります。その場しのぎの経営を行っている場合は、支払い直前になって資金集めに奔走することになるでしょう。

債務・債権管理の重要性

資金ショートを防止するためには、債務・債権管理の実施が効果的です。債務・債権管理とは、自社の債務や債権を正確に把握し、お金の出入りまで管理する業務を意味します。

債務・債権管理を行えば、売掛金の回収予定日が明らかになるため、各種支払い日までの資金繰りを維持しやすくなります。売上に対する入金が確実に行われているかのチェック機能を備えている点も、債務・債権管理のメリットです。

取引先の数が多く債務や債権が煩雑になりやすい企業にとっては、適切な債務・債権管理が大きな効果を発揮するでしょう。資金繰りが安定すれば、取引先からの信用度も高まります。

債務超過を解消する方法は?

債務超過の状態を放置していると、最終的に倒産を選択しなければならなくなる恐れがあります。債務超過の解消につなげられる代表的な三つの方法をチェックしておきましょう。

遊休資産を売却する

遊休資産を売却することで、債務の超過分を減らせる可能性があります。所有しているだけの事業用の土地や稼働させていない設備が、遊休資産の代表例です。

遊休資産の売却代金を借金の返済に充てれば負債が減るため、債務超過の解消につなげられます。手元の現金を増やして資金繰りに役立てることも可能です。

ただし、遊休資産の売却で必ずしも債務超過を完全に解消できるとは限りません。遊休資産を売れば資産も減ることになるため、含み益がなければ超過分すら減らせないばかりか、含み損がある場合には逆に債務超過額が大きくなる恐れもあります。

DESを行う

債務超過を解消する有効な手段として、DES(デット・エクイティ・スワップ)を行うことが挙げられます。DESとは、負債の一部を株式に振り替えることです。

DESを行うと、債務を減らせる一方で資本金を増やせるため、自己資本比率が上昇し債務超過を解消へと導けます。借金の利息がなくなることや、元本の返済負担を軽減できることも、DESのメリットです。

金融機関からの借入金をDESにより資本の組み入れる場合には、金融機関がその会社の株式を保有することとなります。ただ、金融機関がDESに応じることは稀なため、実務で実施されるDESの対象となる借入金はオーナーからの借入金です。

経営体質改善の実施

債務超過に陥る企業の多くは、赤字経営が続くことにより債務が増える状況となっています。経営体質の改善策を講じて収支を黒字に転換させれば、債務超過の解消を図ることが可能です

経営体質の改善を目指すなら、『経営安定特別相談室』への相談が有効です。経営安定特別相談室とは、全国の商工会議所や都道府県商工会連合会に設置されている、中小企業向けの公的機関です。

倒産の恐れがある中小企業に対し、回復の見込みがある場合は経営のプロがさまざまな支援を行ってくれます。金融機関との間に入り、金融調整や再生計画作成などをサポートしてもらえる点もメリットです。

M&Aで債務超過を解消できる?

債務超過を解消したいなら、M&Aを検討するのも一つの方法です。自社に何らかの魅力が備わっていれば、債務超過でも売れる可能性は十分にあります。

価値のある会社は債務超過でも売れる

自社のみの努力では債務超過を解消できそうにない場合、M&Aも検討してみましょう。自社に一定の価値を見出してくれる会社なら、債務超過の状態でも売却できる可能性があります

優れた技術や魅力的な販路を持っていれば、債務超過に陥っていても買い手は見つかるものです。他業種への進出を考えていたり、自社とのシナジー効果を見込んでいたりする買い手が現れれば、M&Aが成功する確率も高まります。

ただし、黒字企業に比べると、売り手として不利な立場であることは事実です。財務状況が悪化するほど身売りが困難になっていくため、早めに決断する必要があります。

M&Aは専門家の意見を聞きながら進める

債務超過会社をM&Aで買収する企業には、少なからずリスクが発生します。適切な手法でM&Aを進めなければ、買い手が多額の負債を抱えてしまうことにもなりかねません。

また、売り手が事業譲渡の手法を選択した場合、黒字の事業や価値の高い資産など譲渡自体が売り手の債権者にとって不利益な行為であるとみなされれば、詐害行為に該当してしまう恐れもあります。詐害行為はM&Aが無効となる事由の一つです。

財務状況に大きな問題がない会社に比べ、債務超過会社はM&Aをより慎重に進めていく必要があります。プロの意見を聞きながら手続きを進めることが重要です。

まとめ

債務超過とは、純資産がマイナスの状態になっていることです。赤字経営が続いていると債務超過に陥りやすくなります。貸借対照表で債務超過を判断することが可能です。

遊休資産の売却やDESを行えば、債務超過を解消できる可能性があります。価値を持つ会社は債務超過でも売れる可能性があるため、M&Aも検討してみましょう。