事業承継税制とは?要件・仕組み・メリット・デメリットと失敗リスクを徹底解説

事業承継税制とは?要件・仕組み・メリット・デメリットと失敗リスクを徹底解説

事業承継税制とは何かをわかりやすく解説。要件や仕組み、メリット・デメリットに加え、適用外となるリスクや一括納税・利子税の注意点まで実務目線で整理します。M&Aとの違いや使うべきケースも紹介。

目次

事業承継税制は、中小企業の事業承継における税負担を大きく軽減できる制度として注目されています。しかし一方で、「仕組みが難しい」「本当に使うべきかわからない」「後からリスクにならないか不安」と感じている方も多いのではないでしょうか。

実際、事業承継税制は単なる節税制度ではなく、長期間にわたって要件を満たし続けることが前提となる仕組みです。途中で条件を満たせなくなった場合には、一括納税や利子税といった負担が発生する可能性もあります。

また、近年では親族内承継だけでなく、M&A(第三者承継)という選択肢も一般的になっており、「どの方法を選ぶべきか」で悩むケースも増えています。

本記事では、事業承継税制の基本的な仕組みや要件から、メリット・デメリット、失敗リスク、さらにM&Aとの違いや判断のポイントまで、実務目線でわかりやすく解説します。

「自社にとって本当にこの制度を使うべきか」を判断できるようになることを目的に、順を追って整理していきます。

事業承継税制とは?仕組みをわかりやすく解説

事業承継税制とは、後継者が会社の株式を引き継ぐ際に発生する相続税や贈与税の納税を猶予・免除できる制度です。中小企業の円滑な事業承継を目的として設けられており、特に非上場企業にとって重要な制度のひとつといえます。

一般的に、企業の株式はその評価額に応じて課税されます。業績が安定している企業ほど株価は高くなり、事業承継時には多額の相続税・贈与税が発生します。しかし、非上場株式はすぐに売却できるものではないため、後継者は納税資金の確保に大きな課題を抱えることになります。

こうした問題を背景に、事業承継税制では一定の要件を満たすことで、納税を将来に繰り延べることが可能になります。

ただし、ここで重要なのは「非課税ではない」という点です。あくまで納税が猶予される制度であり、要件を満たし続けることではじめて最終的な免除に至ります。途中で条件を満たせなくなった場合には、猶予されていた税額を支払う必要があるため、制度の仕組みを正しく理解しておくことが重要です。

非上場企業の事業承継で問題となる税負担

非上場企業の事業承継では、株式の評価額に応じた相続税や贈与税が発生します。特に長年利益を積み上げてきた企業では株価が高くなり、数千万円から数億円規模の税負担となるケースもあります。

一方で、非上場株式は市場で自由に売買できないため、納税資金を確保する手段が限られています。結果として、後継者が資金調達に苦しむ、あるいはやむを得ず事業を手放すといったケースも少なくありません。

このように、「株はあるが現金がない」という構造的な問題を解消するために設けられているのが事業承継税制です。

法人版と個人版の違い

事業承継税制には「法人版」と「個人版」があります。

法人版は、会社の株式を対象とし、後継者が株式を取得する際の相続税・贈与税の納税猶予が適用される制度です。一方、個人版は個人事業主の事業用資産(不動産や設備など)を対象としています。

実務上、多くの中小企業で問題となるのは株式の承継であるため、本記事では法人版事業承継税制を中心に解説を進めます。

特例措置と一般措置の違い(2027年までの重要ポイント)

現在の事業承継税制には、「一般措置」「特例措置」の2種類があります。

特に重要なのが、2018年の税制改正で導入された特例措置です。この特例により、従来よりも大幅に要件が緩和され、より多くの企業が制度を活用できるようになりました。

特例措置の主な特徴は以下の通りです。

  • 納税猶予の対象が原則100%に拡大
  • 複数の後継者への承継が可能
  • 雇用維持要件の柔軟化

ただし、この特例措置は2027年12月31日までの時限制度であり、利用には事前の計画提出が必要です。

「事業承継税制は使えるのか」「今からでも間に合うのか」といった疑問を持つ場合は、この特例の適用条件を早めに確認しておくことが重要です。

事業承継税制の仕組み|いつまで猶予?免除のタイミングも解説

事業承継税制は、「納税猶予 → 要件の継続 → 最終的な免除」という流れで成り立っています。一見すると税負担がなくなる制度のように見えますが、実際には長期間にわたって条件を満たし続けることが前提となる仕組みです。

ここでは、制度の流れを具体的に理解し、「どのタイミングでリスクが発生するのか」も含めて解説します。

納税猶予の仕組み|税金はなくなるわけではない

後継者が先代経営者から株式を贈与または相続によって取得すると、本来であればその時点で贈与税または相続税の納税義務が発生します。

しかし、事業承継税制を適用すると、これらの税金の納付が猶予されます。つまり、税金が免除されるのではなく、「支払いを先送りしている状態」です。

この段階では、将来的な納税義務は残っているため、制度の要件を満たし続けることが前提となります。

この「猶予」という仕組みを正しく理解していないと、「思っていた制度と違う」と感じる原因になります。

継続要件|経営を続けることが前提条件

納税猶予を維持するためには、後継者が一定の条件を満たし続ける必要があります。
代表的な要件としては以下の通りです。

  • 後継者が代表者として経営を継続すること
  • 取得した株式を保有し続けること
  • 一定の雇用を維持すること(特例では柔軟化あり)

これらの要件は一時的に満たせばよいものではなく、長期間にわたって維持する必要があります。

そのため、将来的に経営体制の変更や株式の売却(M&A)を検討している場合は、制度との相性を慎重に見極める必要があります。

免除されるタイミング|3代目承継が前提

事業承継税制の大きな特徴は、納税が最終的に免除されるのが「次の世代への承継時」である点です。

具体的には、2代目が経営を継続し、その後3代目へ株式を承継するなど、一定の免除事由に該当したタイミングで、猶予されていた税額が免除されます。

つまり、この制度は1世代で完結するものではなく、長期的な事業承継を前提とした制度です。そのため、将来の承継計画まで見据えて利用することが重要です。

取消リスク|要件を満たせないと一括納税に

事業承継税制が「使いにくい」「リスクが高い」と言われる最大の理由が、この取消リスクです。
以下のようなケースに該当すると、納税猶予が取り消される可能性があります。

  • 後継者が代表者を退任した場合
  • 株式を売却した場合(M&Aなど)
  • 会社が解散した場合

納税猶予が取り消されると、それまで猶予されていた税額を一括で納付しなければなりません。 さらに、猶予期間に応じた利子税も課されるため、実際の負担は想定以上に大きくなる可能性があります。

このように、「途中で条件を満たせなくなった場合のリスク」を理解しておくことが、制度を活用する上で非常に重要です。

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事業承継税制は誰でも使える?適用要件のポイント

事業承継税制は有効な制度ですが、すべての企業が自由に利用できるわけではありません。適用には、会社・先代経営者・後継者それぞれに対して細かい要件が定められています。

これらの要件を満たしていない場合、制度を利用できないだけでなく、途中で要件を満たせなくなると納税猶予が取り消されるリスクもあります。そのため、事前に適用条件を正しく理解しておくことが重要です。

会社に関する要件|中小企業であることが前提

事業承継税制は、中小企業の円滑な承継を目的とした制度であるため、対象となるのは一定の要件を満たす中小企業に限られます。
具体的には、資本金や従業員数などの基準を満たしている必要があります。また、上場企業や一定規模以上の大企業は対象外となります。

さらに、風俗営業など一部の業種については適用対象外となるため、自社が制度の対象となるかを事前に確認しておく必要があります。

先代経営者の要件|株式の保有と承継の条件

先代経営者にも一定の要件が求められます。代表的なものとしては、会社の株式を保有していることや、後継者へ適切に株式を承継することなどが挙げられます。
また、承継前の時点で会社の経営に関与していることなども条件となるため、形式的な株式移転だけでは適用されない点に注意が必要です。

こうした要件は、制度を利用した「形式的な節税」を防ぐために設けられています。

後継者の要件|経営者としての関与が必要

後継者については、制度の中でも特に重要な要件が定められています。

例えば、後継者は会社の代表者として経営を担うことが求められ、一定の議決権(一般的には過半数)を保有する必要があります。また、筆頭株主であることも条件となるケースが多くなっています。

これらは単に株式を持つだけでなく、「実質的に経営を担う存在」であることを前提とした要件です。

継続要件|承継後も条件を満たし続ける必要がある

事業承継税制の特徴は、承継時だけでなく、その後も継続的に要件を満たす必要がある点です。
例えば、後継者が代表者であり続けることや、株式を保有し続けること、一定の雇用を維持することなどが求められます。

これらの要件は一度満たせばよいものではなく、長期間にわたって維持する必要があるため、将来的な経営方針との整合性を考慮することが重要です。

特例措置の適用条件|期限と事前手続きに注意

現在、多くの企業が活用している特例措置を利用するためには、追加の条件があります。

特に重要なのが、特例承継計画の提出です。この計画は一定の期限内に都道府県へ提出する必要があり、これを満たさなければ特例措置は適用されません。

また、特例措置自体も時限制度であるため、「いつまでに何をすべきか」を把握しておくことが不可欠です。

制度の適用を検討する場合は、スケジュールを含めて早めに準備を進めることが重要です。

事業承継税制のメリット・デメリット

事業承継税制は非常に強力な制度ですが、メリットだけでなくデメリットも明確に存在します。制度の仕組みを理解した上で、自社にとって本当に適しているかを判断することが重要です。
ここでは、実務で特に重要となるポイントに絞って、メリットとデメリットを整理します。

メリット|納税負担の軽減と資金繰りの安定

事業承継税制の最大のメリットは、事業承継時に発生する多額の税負担を抑えられる点です。

通常、自社株の評価額が高い企業では、相続や贈与の際に高額な税金が発生します。しかし、納税猶予を活用することで、こうした税金の支払いを先送りできるため、後継者の資金繰りを大きく改善できます。

特に非上場企業の場合、株式を売却して現金化することが難しいため、「納税資金がない」という問題が起きやすいのが実情です。事業承継税制はこの課題を直接的に解決する制度といえます。

また、株式を後継者に集中させることで、経営権の分散を防ぐことができる点もメリットです。意思決定のスピードが向上し、経営の安定にもつながります。

デメリット|要件の厳しさと長期的な制約

一方で、事業承継税制には無視できないデメリットがあります。

まず、制度の適用には多くの要件があり、それらを長期間にわたって満たし続ける必要があります。経営環境や人材状況は変化するため、将来にわたって条件を維持できるとは限りません。

また、制度を維持するためには、株式の売却や経営体制の変更が制限される場合があります。そのため、柔軟な経営判断が難しくなる可能性があります。

特に、将来的にM&A(第三者への売却)を検討している場合は、制度との相性が悪くなるケースもあるため注意が必要です。

最大のリスク|取消による一括納税

事業承継税制における最大のデメリットは、納税猶予が取り消された場合のリスクです。
要件を満たせなくなった場合、それまで猶予されていた税額を一括で納付する必要があります。さらに、猶予期間に応じた利子税も発生するため、想定以上の負担となる可能性があります。

例えば、後継者が代表者を退任した場合や、株式を売却した場合、会社が解散した場合などは、納税猶予の取消事由に該当します。

このように、「制度を使えば安心」というわけではなく、条件を満たし続けられなかった場合のリスクを十分に理解しておく必要があります。

誤解されやすいポイント|すぐに免除されるわけではない

事業承継税制についてよくある誤解が、「税金がすぐに免除される」というものです。
実際には、納税が免除されるのは3代目への承継時であり、それまではあくまで猶予の状態が続きます。

そのため、制度を活用するには長期的な事業継続が前提となります。短期的な視点で制度を利用すると、「思っていたよりも制約が大きい」と感じる可能性があります。

制度のメリットを最大限に活かすためには、「どのタイミングで免除されるのか」「どのような条件で維持されるのか」を正しく理解しておくことが重要です。

事業承継税制は使えない?使いにくいと言われる理由

事業承継税制は税負担を軽減できる有効な制度である一方で、「使いにくい」「実際には使えない」と感じる経営者も少なくありません。
これは単に制度が複雑であるだけでなく、実務上の制約やリスクが大きく影響しているためです。ここでは、なぜ事業承継税制が使いにくいと言われるのか、その理由を具体的に解説します。

要件が細かく制度が複雑

事業承継税制を利用するためには、会社・先代経営者・後継者それぞれに対して細かい要件が定められています。
例えば、後継者については「同族関係者で過半数の議決権を保有すること」や「筆頭株主であること」などの条件があります。また、会社側にも中小企業であることや事業継続に関する要件が求められます。

これらの条件はひとつでも満たさなければ適用されないため、「制度はあるが使えない」と感じる原因になりやすいポイントです。

さらに、制度の理解には専門的な知識が必要となるため、自社だけで判断するのが難しい点もハードルのひとつといえます。

長期間にわたる制約がある

事業承継税制は、一度適用すれば完了する制度ではなく、長期間にわたって条件を維持し続ける必要があります。例えば、後継者は代表者として経営を継続し、株式も保有し続けなければなりません。さらに、一定期間は雇用維持などの要件も課されます。

こうした制約があるため、将来的に経営方針を変更したい場合や、組織再編・M&Aを検討する場合には、柔軟な意思決定が難しくなる可能性があります。その結果、「制度に縛られる」という印象を持たれることも少なくありません。

途中で適用外になるリスクがある

事業承継税制の大きな特徴は、途中で要件を満たせなくなると適用外となる点です。

例えば、後継者が代表者を退任した場合や、株式を譲渡した場合、会社が解散した場合などは、納税猶予の取消事由に該当します。このようなケースでは、それまで猶予されていた税額を一括で納付しなければならず、さらに利子税も発生します。

「将来の不確実性」を考慮すると、このリスクを完全にコントロールすることは難しく、制度活用をためらう要因になっています。

専門家への依存とコスト負担

事業承継税制の手続きは複雑であるため、税理士や会計士、認定経営革新等支援機関などの専門家に依頼するケースが一般的ですが、事業承継税制は専門性が高く、すべての専門家が十分な知識や経験を持っているとは限りません。そのため、適切なアドバイスを受けられないリスクもあります。

また、特例承継計画の作成や各種申請、継続届出などの手続きにはコストがかかります。制度を維持するためのランニングコストも含めると、負担は決して小さくありません。

こうした点から、「コストに見合うのか」という観点で慎重になる企業も多いのが実情です。

事業承継税制は失敗するとどうなる?適用外・一括納税のリスク

事業承継税制を検討するうえで最も重要なのが、「途中で適用外になった場合に何が起きるのか」という点です。制度のメリットだけで判断してしまうと、後から想定外の負担を抱えるリスクがあります。ここでは、納税猶予が取り消された場合の影響や、実務上よくある失敗パターンについて解説します。

納税猶予が取り消される主なケース

事業承継税制は、一定の要件を満たし続けることが前提となる制度で、条件を満たせなくなった場合には、納税猶予が取り消されます。
主な取消事由としては以下のようなケースが挙げられます。

  • 後継者が代表者を退任した場合
  • 株式を譲渡した場合(M&Aや一部売却を含む)
  • 会社が解散・廃業した場合
  • 継続届出書の提出を怠った場合

これらは特別なケースではなく、経営環境の変化によって十分に起こり得るもので、「自社でも起こり得るリスク」として捉えることが重要です。

一括納税のインパクト|想定以上の負担になることも

納税猶予が取り消されると、それまで猶予されていた相続税・贈与税を一括で納付しなければなりません。

事業承継時の株式評価額が高い場合、猶予されていた税額は数千万円から数億円規模になることもあります。この金額を一度に支払う必要があるため、資金繰りに大きな影響を与える可能性があります。

特に、事業承継税制を前提に資金計画を立てていた場合、突然の納税負担によって経営が不安定になるリスクもあります。

「猶予されているから安心」と考えるのではなく、「将来支払う可能性がある負債」として認識しておくことが重要です。

利子税の負担|時間が経つほど負担が増える

納税猶予が取り消された場合、本税に加えて利子税も支払う必要があります。利子税は猶予期間に応じて課されるため、長期間制度を利用していた場合ほど負担が大きくなります。本則は年3.6%ですが、市中金利に連動して軽減されており、2026年分(令和8年分)の適用割合は年0.6%です。低い水準に見えても、猶予期間の全体にかかるため、数年単位で見れば無視できない金額になります。

なお、猶予期間が5年を超えた場合は、特例経営承継期間(5年間)に対応する分の利子税が免除されます。具体的な計算方法はよくある質問で解説しています。

そのため、「長く猶予を受けるほど得になる」と単純に考えるのではなく、取消時のトータルコストも含めて判断する必要があります。

よくある失敗パターン|制度と経営戦略のミスマッチ

実務上、事業承継税制の失敗は「制度の理解不足」よりも、「経営戦略とのミスマッチ」によって起こるケースが多いといえます。

代表的な例としては以下のようなケースがあります。

  • 将来的にM&Aを検討していたが、途中で株式売却が必要になった
  • 後継者の事情により、代表者の変更が発生した
  • 業績悪化により、事業継続が困難になった

これらは制度上のミスではなく、「将来の不確実性」を十分に織り込めていなかったことが原因です。

事業承継税制は長期前提の制度であるため、短期的な視点だけで判断するとリスクが高まります。

リスクを避けるための考え方

事業承継税制のリスクを完全に排除することはできませんが、事前に対策を講じることで影響を抑えることは可能です。
重要なことは、「制度ありき」で考えるのではなく、「将来の経営方針から逆算して制度を選ぶ」ことです。

例えば、将来的に第三者承継(M&A)の可能性がある場合は、事業承継税制を選択しないという判断も合理的です。

制度のメリットだけでなく、「適用外になった場合に耐えられるか」という視点を持つことが、失敗を避けるポイントといえるでしょう。

事業承継税制とM&Aの違い|親族内承継と第三者承継の比較

事業承継を検討する際、「事業承継税制を使うべきか、それともM&A(第三者承継)を選ぶべきか」で迷うケースは少なくありません。

特に近年は、親族内に後継者がいない「親族外承継」のニーズが増えており、M&Aという選択肢が現実的なものになっています。

ここでは、事業承継税制とM&Aの違いを整理し、それぞれがどのようなケースに適しているのかを解説します。

前提の違い|親族内承継か第三者承継か

事業承継税制は、基本的に親族内・従業員承継など一定の後継者への承継を前提とした制度です。後継者が株式を引き継ぎ、経営を継続することで納税猶予が適用されます。

一方、M&A(第三者への売却)第三者に会社や事業を引き継ぐ手法です。親族に後継者がいない場合や、外部の資本・経営資源を活用したい場合に選択されます。

つまり、両者は競合する手段というよりも、「承継先が誰か」という前提が異なる選択肢といえます。

資金面の違い|納税猶予か現金化か

事業承継税制は、税金の支払いを猶予することで資金負担を軽減する制度です。一方で、税金自体がなくなるわけではなく、条件次第では将来的に支払いが発生します。

これに対してM&Aでは、株式を売却することで現金を得ることができます。売却益に対して税金は発生しますが、納税資金を確保したうえで手元に資金を残すことが可能です。

そのため、「納税資金がない」ことが課題の場合は事業承継税制が有効ですが、「資金を確保したい」場合はM&Aの方が適しているケースもあります。

経営の自由度|制約があるか柔軟か

事業承継税制を利用する場合、株式の保有や経営体制に関して一定の制約が生じます。例えば、株式の売却や代表者の変更が制限されるため、柔軟な経営判断が難しくなる可能性があります。

一方、M&Aは売却後に経営から退くことも可能であり、経営者の選択肢は広がります。また、企業としても新たなオーナーのもとで成長戦略を描くことができます。

将来的な選択肢の広さという観点では、M&Aの方が柔軟性が高いといえるでしょう。

リスクの違い|取消リスクか売却リスクか

事業承継税制の最大のリスクは、要件を満たせなくなった場合の「納税猶予の取消」です。一括納税と利子税の負担が発生するため、長期的なリスクを抱えることになります。

一方、M&Aのリスクは、希望する条件で売却できない可能性や、売却後の統合(PMI)がうまくいかないといった点にあります。

どちらにもリスクは存在しますが、その性質は大きく異なるため、「どのリスクを許容できるか」が判断のポイントになります。

事業承継税制とM&Aのどちらを選ぶべきか|判断の考え方

事業承継税制とM&Aのどちらを選ぶべきかは、以下のような観点で判断すると整理しやすくなります。

  • 親族内に後継者がいるか
  • 長期的に事業を継続する意思があるか
  • 将来的にM&Aを検討する可能性があるか
  • 納税負担と資金確保のどちらを優先するか

例えば、親族内承継が確定しており、長期的な事業継続が見込める場合は事業承継税制が適しています。一方で、後継者がいない場合や、将来的に売却も視野に入れている場合は、M&Aを前提に検討した方が合理的なケースもあります。

制度のメリットだけで判断するのではなく、「どの承継方法が自社にとって最適か」という視点で考えることが重要です。

事業承継の費用はいくら?相場・手数料・税金と誰が払うかを解説
具体的事例
事業承継の費用はいくら?相場・手数料・税金と誰が払うかを解説

事業承継にかかる費用は、親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)で構造が変わります。相続税・贈与税、株式の買取資金、仲介手数料の相場と算定基準、税理士など専門家報酬の見方、そして誰が負担するのかまでを整理。費用を抑える補助金や事業承継税制の使い方も解説します。

事業承継税制を使うべきケース・使わない方がいいケース

ここまで見てきた通り、事業承継税制は大きなメリットがある一方で、長期的な制約やリスクも伴う制度です。そのため、「使えるかどうか」ではなく、「使うべきかどうか」で判断することが重要です。

ここでは、実務でよくあるケースをもとに、事業承継税制が向いているケースと、慎重に検討すべきケースを整理します。

事業承継税制を使うべきケース

以下のような条件に当てはまる場合は、事業承継税制の活用が有効と考えられます。

  • 親族内または社内に明確な後継者がいる
  • 長期的に事業を継続する前提がある
  • 自社株の評価額が高く、納税負担が大きい
  • 納税資金の確保が難しい

特に、自社株の評価額が高い企業では、相続税・贈与税が経営に大きな影響を与える可能性があります。このような場合、納税猶予によって資金繰りを安定させるメリットは非常に大きいといえます。

また、後継者がすでに決まっており、経営体制の変更予定がない場合は、制度の要件を維持しやすく、リスクも相対的に低くなります。

事業承継税制を使わない方がいいケース

一方で、以下のようなケースでは、事業承継税制の利用は慎重に検討する必要があります。

  • 将来的にM&A(第三者承継)を検討している
  • 後継者が不確定、または変更の可能性がある
  • 事業の将来性に不確実性がある
  • 経営の自由度を重視したい

特に注意すべきなのが、将来的なM&Aとの関係です。事業承継税制を適用した状態で株式を売却すると、納税猶予が取り消される可能性があります。

そのため、「いずれ売却も選択肢として考えている」という場合は、制度を利用しない方が柔軟な経営判断ができるケースもあります。

判断のポイント|制度ありきで考えない

事業承継税制を検討する際に重要なのは、「制度が使えるか」ではなく、「自社の将来に合っているか」という視点です。

制度には強力なメリットがありますが、その分だけ制約も大きくなります。短期的な税負担の軽減だけで判断してしまうと、将来的に大きなリスクを抱えることになりかねません。

まずは、自社の事業承継の方向性(親族内承継か、第三者承継か)を明確にし、その上で制度を活用するかどうかを判断することが重要です。

必要に応じて、税理士やM&Aアドバイザーなどの専門家に相談し、複数の選択肢を比較しながら検討するのが望ましいでしょう。

事業承継税制の手続きと期限|特例承継計画はいつまでに提出する?

制度を使うと決めたら、次に確認すべきは手続きと期限です。事業承継税制は事前の計画提出が必須で、しかも期限を1日でも過ぎると特例措置は使えなくなります。ここは制度のなかで最も取り返しがつかない部分です。

特例承継計画の提出期限|2027年9月30日まで延長された

特例措置の適用を受けるには、あらかじめ特例承継計画を都道府県知事に提出しておく必要があります。この提出期限は、令和8年度税制改正で延長されました。

法人版の特例承継計画は、従来の2026年3月31日から2027年9月30日へ1年6か月の延長。個人版の個人事業承継計画は、同じく2026年3月31日から2028年9月30日へ2年6か月の延長となっています。

ただし、ここに大きな落とし穴があります。計画の提出期限は延びましたが、実際に贈与や相続を行う「適用期限」は延長されていません。

区分 計画の提出期限 贈与・相続の実行期限
法人版(特例承継計画) 2027年9月30日 2027年12月31日
個人版(個人事業承継計画) 2028年9月30日 2028年12月31日

表を見るとわかるとおり、計画の提出期限を目一杯まで使ってしまうと、実際に承継を実行するまで約3か月しか残りません。株価の評価、後継者への代表権の移転、贈与契約や遺言の準備を考えれば、3か月はあまりに短い期間です。

「期限が延びたから余裕ができた」と受け止めるのは危険で、むしろ「駆け込みではなく計画的に準備してほしい」という趣旨の延長と考えるべきでしょう。なお、適用期限が到来した後の制度のあり方については、令和9年度税制改正で結論を出すとされています。

手続きの流れ|認定支援機関の指導から継続届出まで

事業承継税制の手続きは、承継の前後で長期間にわたって続きます。全体像を把握しておきましょう。

  1. 計画の作成:認定経営革新等支援機関(税理士・金融機関など)の指導と助言を受けて特例承継計画を作成する
  2. 確認申請:作成した計画を都道府県知事に提出し、確認を受ける
  3. 承継の実行:贈与または相続によって、後継者へ株式を移転する
  4. 認定申請:承継後、都道府県知事に認定を申請し、認定書の交付を受ける
  5. 税務申告:認定書を添付して、税務署へ贈与税または相続税の申告を行う(この時点で納税猶予が開始)
  6. 承継後5年間:都道府県に年次報告書、税務署に継続届出書をそれぞれ年1回提出する
  7. 5年経過後:税務署への継続届出書を3年に1回提出し続ける

見落とされやすいのが6と7です。届出を1回でも失念すると、それだけで納税猶予が打ち切られます。承継から数十年にわたって続く手続きであり、担当していた税理士や後継者が代替わりしたタイミングで抜け落ちる事故が実際に起きています。誰が管理し続けるのかを、制度を使う前に決めておきましょう。

担保の提供|猶予税額に見合う担保が必要になる

事業承継税制は税金を免除する制度ではなく、あくまで納税を待ってもらう制度です。そのため、猶予される税額に見合う担保を税務署に提供する必要があります。

とはいえ、後継者が別途の不動産を差し出すケースばかりではありません。この制度の適用を受けた非上場株式のすべてを担保として提供すれば、担保として十分であるとみなす取り扱いがあります。実務上はこの方法が使われることが多く、追加の資産を用意しなくても済みます。

ただし、担保に入れた株式は自由に処分できなくなります。猶予期間中に株式を売却すれば猶予は打ち切られるため、いずれにしても保有し続けることが前提です。担保の提供は、その前提を形にする手続きだと理解しておきましょう。

なお、申告期限までに担保関係の書類がそろわない場合には、速やかに提出する旨の確約書を添えて対応する運用もあります。書類の準備には時間がかかるため、申告直前ではなく早めに着手してください。

相続時精算課税との併用|取消時の負担を抑える保険になる

贈与で事業承継税制を使う場合、相続時精算課税制度と併用することができます。平成29年度の税制改正で認められた取り扱いで、実務では併用が広く選ばれています。

理由は、万が一納税猶予が取り消されたときの負担がまったく異なるためです。暦年課税のままだと最高55%の累進税率で贈与税が一括課税されますが、相続時精算課税なら特別控除を差し引いた残りに一律20%で済みます。

項目 暦年課税 相続時精算課税
控除 基礎控除110万円 基礎控除110万円+特別控除2,500万円
税率 累進課税(最高55%) 一律20%
取消時の贈与税(株価1億円の例) 約5,040万円 約1,500万円
その後の扱い 納付して課税関係は完結 相続時に持ち戻して相続税を再計算
課税方式の変更 一度選ぶと暦年課税には戻れない

※一般税率を適用した概算です。2024年1月以降は相続時精算課税にも年110万円の基礎控除が設けられているため、実際の税額はさらに下がります。

ただし、併用が常に有利とは限りません。相続時精算課税を選ぶと、贈与した株式は先代経営者の相続時に持ち戻して相続税を計算することになります。先代の相続財産が大きく相続税の限界税率が高い場合、取消時の贈与税と後の相続税を合計すると、暦年課税より重くなるケースもあります。

それでも実務で併用が選ばれるのは、取消という最悪のシナリオで一括納税額が跳ね上がる事態を避けられるからです。節税策ではなく保険として位置づけるのが、この併用の正しい捉え方といえるでしょう。有利不利の判定は個別性が高いため、必ず税理士に試算してもらってください。

事業承継税制に関するよくある質問(FAQ)

ここでは、事業承継税制について多くよく寄せられる質問や疑問とその回答についてご紹介します。

事業承継税制はいつ免除されますか?

A. 事業承継税制による納税猶予は、次の世代(3代目)へ株式を承継したタイミングで免除されます。それまではあくまで猶予の状態が続くため、長期的な事業継続が前提となります。

事業承継税制は途中でやめることはできますか?

A. 制度の適用を途中でやめることは可能ですが、その場合は納税猶予が取り消され、猶予されていた税額を一括で納付する必要があります。さらに利子税も発生するため、慎重な判断が必要です。

事業承継税制は親族外でも使えますか?

A. 使えます。特例措置では後継者が親族であることは要件になっておらず、従業員や役員など親族外の後継者にも適用できます。
ただし、実務上のハードルは親族内承継より高くなります。

  • 後継者が株式を「贈与で受け取る」形になるため、個人資産の大きな移転を受け入れる覚悟が必要
  • 贈与を受けた後継者は、猶予が続く限り株式を売却できず、代表者であり続ける制約を負う
  • 先代の親族が他にいる場合、株式の集中について相続時に争いが生じる余地がある
  • 取消となれば、後継者個人が一括納税の責任を負う

親族外の後継者にここまでの負担を求めるのが難しい場合は、第三者への譲渡(M&A)と比較したうえで判断するほうが現実的です。M&Aであれば、後継者は自己資金や融資で株式を買い取る形になり、納税猶予のような長期の制約は生じません。

事業承継税制を使うとM&Aはできなくなりますか?

A. M&A自体は可能ですが、株式を売却した場合は納税猶予が取り消される可能性があります。そのため、将来的に売却を検討している場合は、制度との相性を慎重に判断する必要があります。

利子税はどれくらいかかりますか?

A. 本則は年3.6%ですが、実際には大きく軽減されており、2026年分(令和8年分)の適用割合は年0.6%です。
各年の利子税特例基準割合が7.3%を下回る場合、その年の利子税の割合は「3.6% × 利子税特例基準割合 ÷ 7.3%」(0.1%未満は切り捨て)で計算されます。

年分 利子税特例基準割合 事業承継税制の利子税
2025年分(令和7年分) 0.9% 年0.4%
2026年分(令和8年分) 1.3% 年0.6%

利子税特例基準割合は市中金利に連動して毎年変わるため、最新の割合は国税庁「延滞税の割合」(利子税の割合も掲載)で確認してください。近年は金利上昇を受けて緩やかに上がっており、2026年分の平均貸付割合は4年ぶりに引き上げられました。

また、納税猶予の期間が5年を超えた場合、特例経営承継期間(5年間)に対応する利子税は免除されます。承継から6年目以降に取り消しとなったケースでは、最初の5年分は利子税の対象から外れるということです。

ただし、軽減されているとはいえ利子税は猶予期間の全体にかかります。そして何より、一括で納める本税そのもののインパクトが圧倒的に大きい点は変わりません。利子税の水準だけを見て「取り消されても大したことはない」と判断しないよう注意してください。

事業承継税制が使えないケースはどのような場合ですか?

A. 後継者が要件を満たしていない場合や、会社が中小企業の要件を満たさない場合などは適用できません。また、将来的に要件を維持できないと判断される場合も、実務上は利用が難しいケースがあります。

事業承継税制と相続税はどちらが得ですか?

A. 一概にどちらが得とは言えず、会社の状況や将来の事業承継方針によって最適な選択は異なります。
事業承継税制を利用すれば、相続税や贈与税の納税を猶予できるため、短期的には資金負担を大きく軽減できます。ただし、制度を維持するためには長期間にわたって要件を満たし続ける必要があり、途中で適用外となった場合には一括納税と利子税の負担が発生します。
一方、通常の相続では税負担は発生するものの、制度による制約はなく、将来的な経営判断やM&Aなどの選択肢を柔軟に残すことができます。

そのため、「親族内承継が確定しており長期的に事業を継続する場合」は事業承継税制、「将来的な売却や経営の柔軟性を重視する場合」は通常の相続(またはM&A)を選択するケースが多いといえます。重要なことは、税額の大小だけでなく、「将来の経営方針と整合するか」という視点で判断することです。

まとめ|事業承継税制は「使えるか」ではなく「使うべきか」で判断する

事業承継税制は、相続税や贈与税の納税を猶予できる非常に強力な制度ですが、その一方で長期的な制約や取消リスクも伴います。

特に重要なことは、この制度が「納税の免除」ではなく「猶予」であり、要件を満たし続けることで初めて最終的なメリットを享受できる点です。途中で適用外となった場合には、一括納税や利子税の負担が発生する可能性もあります。

そのため、事業承継税制を検討する際は、税負担の軽減だけで判断するのではなく、将来の経営方針や承継方法と整合しているかを見極めることが重要です。

親族内承継を前提として長期的な事業継続が見込める場合には有効な制度ですが、将来的にM&A(第三者承継)も選択肢として考えている場合は、他の方法と比較したうえで慎重に判断する必要があります。

制度ありきではなく、「自社にとって最適な事業承継の形は何か」という視点で検討することが、後悔のない意思決定につながるでしょう。

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