個人のスモールM&Aとは?案件の探し方やポイント、成功事例など解説
個人でのスモールM&Aの基礎から案件の探し方・資金調達・リスク対策・成功事例までを解説。副業・独立や事業承継に向けて、失敗しない小規模M&Aの進め方を学べます。
個人での事業買収や新たな起業の形として「スモールM&A」に興味を持ち始めたものの、具体的な進め方や必要な資金額、潜在的なリスクや失敗の可能性について、断片的な情報しか得られず、なかなか確かな一歩を踏み出せずに悩んでいませんか。
近年、深刻化する後継者不足という社会課題などを背景に、従来の大企業間M&Aとは異なり、法人だけでなく意欲ある個人も主体となって小規模な事業を買収・承継する「スモールM&A」が、市場で急速に注目を集めています。
この記事では、個人がスモールM&Aを行う方法と最新の市場動向、メリット・デメリット、案件の探し方や資金調達の実務、成功のためのポイントや注意点までを、実践的かつ丁寧に解説します。
本記事を最後までお読みいただくことで、個人によるM&Aの全体像と具体的な進め方が整理され、不安や疑問の解消につながります。そのうえで、事業承継や新たな起業への第一歩を踏み出すイメージを持ちやすくなるはずです。
まずはこの記事で、個人によるスモールM&Aの全体像と成功の秘訣を掴んでいきましょう。
個人のスモールM&Aとは?概要と市場動向
スモールM&Aとは、一般的に取引価格が数千万円以下、時には数百万円程度で行われる、比較的小規模な事業のM&A(合併・買収)を指します。
対象となるビジネスは、飲食店、美容室、学習塾といった地域密着型の店舗ビジネスから、個人が運営するWebサイト(アフィリエイトメディア)、ECショップ、小規模なシステム開発会社まで、非常に多岐にわたります。
今、個人によるスモールM&Aがこれほどまでに注目されている背景には、日本社会が直面する深刻な「後継者不足」の問題があります。長年地域で愛されてきた優良な黒字事業であっても、経営者の高齢化や親族内に後継者が見当たらないことを理由に、廃業を選択せざるを得ないケースが全国で増加しています。
こうした価値ある事業の受け皿として、事業意欲のある個人が買収し、その技術やブランド、雇用を引き継ぐ動きが活発化しているのです。
かつてM&Aは、大手企業同士が巨額の資金を投じて行う、専門的で縁遠いものというイメージでした。
しかし近年は、オンライン上でM&Aの案件を探し、交渉できる「M&Aマッチングプラットフォーム」が急速に普及したことで、状況が一変しました。
これにより、個人であっても比較的手軽に、かつ透明性の高いプロセスで売却案件の情報にアクセスし、交渉を進めることが可能になったのです。
個人で特に人気が高い案件としては、自身のこれまでの経験や専門スキルを直接活かせる業種、あるいはリモートワークが可能で運営負荷が比較的小さいWebメディアやECサイトなどが挙げられます。
個人によるスモールM&Aのメリット
個人がスモールM&Aに取り組む際には、ゼロからの起業とは異なる、非常に大きなメリットが期待できます。
ここでは、事業買収を検討する上で必ず把握しておくべき、主な3つのメリットを詳しく見ていきましょう。
メリット1:リスクを抑えた事業参入が可能
個人がスモールM&Aを行う最大のメリットは、少額の自己資金からでも事業をスタートでき、ゼロから起業するよりもリスクを抑えた事業参入が可能になる点です。
ゼロから事業を立ち上げる場合(ゼロイチ起業)は、顧客が一人もいない状態からスタートするため、収益が安定するまでに多くの時間とコストがかかり、失敗する確率も高くなります。
しかしスモールM&Aでは、すでに収益を生んでいる事業の基盤を引き継ぐため、初期の不安定な時期を回避しやすいのです。
メリット2:既存リソースを活用し早期収益化が期待できる
M&Aでは、既存の顧客基盤、取引先との関係、運営に必要なインフラ(店舗や設備、Webサイトなど)、そして長年培われた業務ノウハウやブランドをそのまま引き継ぐことができます。
これにより、事業立ち上げ初期の最も困難な「顧客獲得」や「オペレーション構築」のフェーズをショートカットし、買収直後から安定した収益を上げ、早期に投資を回収できる可能性が高まります。
メリット3:社会課題の解決に貢献できる
後継者不在に悩む優良な事業を引き継ぐことは、単に個人が利益を得るという側面だけではありません。
その事業が持つ独自の技術やサービス、そして長年培われてきたブランドを次世代に残すことにつながります。
また、そこで働く従業員の雇用を守り、地域経済の活性化や地方創生といった、日本社会が抱える大きな課題の解決に直接貢献できるという、非常に意義深い側面もあります。
個人によるスモールM&Aのデメリット
一方で、個人がスモールM&Aを行う際には、法人が行うM&Aとは異なる、個人特有の難しさやデメリットも伴います。
ここでは、特に注意すべき3つのデメリットを丁寧に解説します。
デメリット1:専門知識とリソースが必要
M&Aのプロセスでは、資金調達の交渉、事業価値の適正な評価(バリュエーション)、法務・税務に関する複雑な手続きなど、高度な専門知識が不可欠です。
多くの場合、個人はこれらの専門ノウハウや、調査・交渉に充てるリソース(時間や人材)を法人に比べて十分に保有していません。
そのため、自分一人での判断が難しく、専門家のサポート無しに進めることは非常に困難な場面に直面します。
デメリット2:買収後の運営(PMI)の難易度
無事に事業を買収できたとしても、その後の運営がスムーズにいくとは限りません。
特に、従業員のマネジメントや、既存の組織文化と新しいオーナーの考え方を融合させるプロセス(PMI:Post Merger Integration)で課題を抱えるケースは少なくありません。
長年勤めてきた創業経営者から見知らぬ個人オーナーへ引き継がれた場合、既存従業員との信頼関係構築に失敗し、主要なスタッフが退職してしまい、結果として事業運営が立ち行かなくなるリスクもあります。
デメリット3:デューデリジェンス不足による失敗リスク
個人M&Aで最も怖いのが、この「デューデリジェンス(DD:買収監査)」の不足による失敗です。
専門家への依頼費用を惜しむなどしてDDを簡略化したがために、買収後に帳簿に載っていない債務(簿外債務)や未払いの残業代、法的なリスクなどが発覚するケースがあります。
また、想定していた収益が上がらないなど、個人ならではの「落とし穴」にはまり、最悪の場合、投資資金を大きく損なってしまう事例も存在するため、慎重な準備が不可欠です。
個人のスモールM&Aの案件の探し方・マッチングサービスの選び方
スモールM&Aの成功は、ご自身の経験やリソース、設定した目標に適した優良案件にどれだけ出会えるかに大きく左右されます。
個人が効率的に案件を探すためには、その方法とツールの特性を正しく理解することが重要です。
ここでは、個人向け案件の主な探し方と、M&Aマッチングサービスを選定する際のコツを丁寧に解説します。
案件探しの主な方法
現在、個人がスモールM&Aの案件を探す最も主流な方法は、オンラインのM&Aマッチングサイト(プラットフォーム)を活用することです。
代表的なサービスには「TRANBI」、「バトンズ」や「ラッコM&A」などがあり、多種多様な業種・規模の案件が日々掲載されており、個人でも無料で登録・検索が可能です。
これらのサイトでは、匿名性を保ったまま売り手と直接交渉を開始できるため、M&Aプロセスの透明性とスピード感が格段に向上しています。
次いで、M&A仲介会社やアドバイザー、あるいは懇意にしている金融機関(銀行、信用金庫)のネットワークを通じた紹介も有力な手段です。
特に地域密着型の金融機関は、地元の後継者不在企業の詳細な情報を持っている場合があり、オンラインには掲載されていない優良な非公開案件に出会える可能性があります。
その他、ECサイトやWebメディアの売買に特化した「サイト売買プラットフォーム」を利用したり、各都道府県にある「事業承継・引継ぎ支援センター」などの公的機関に相談したりする方法もあります。
マッチングサービス選定のコツ
数多く存在するマッチングサービスの中から、ご自身にとって最適なものを選ぶためには、いくつか比較・検討すべきポイントがあります。
まずは、各サイトの「掲載案件数」、得意とする「業種やジャンル」(店舗ビジネスに強い、Webビジネスに強いなど)、そして「サポート内容」と「料金体系」(成約手数料はいくらか、月額利用料は発生するかなど)を比較検討することが基本です。特に個人での利用の場合、ご自身が希望するような少額案件の取り扱い実績が豊富かどうかは、非常に重要な判断基準となります。
また、運営会社の信頼性や過去の具体的な成約実績、利用者による口コミや評価も、登録前に必ずチェックしましょう。
M&Aは複雑なプロセスを伴うため、プラットフォームの使いやすさ(UI/UX)だけでなく、必要に応じて専門家のアドバイスを受けられるサポート体制が整っているかどうかも確認する必要があります。
最終的には、ご自身の希望する業種や規模の案件が多く、個人でも安心して登録・交渉しやすいインターフェースを備えたサービスを選ぶことが成功の鍵となります。
個人のスモールM&Aの流れと実務のステップ
個人がスモールM&Aを実行するプロセスは、体系化されたステップを一つずつ順序立てて進めることが成功の鍵となります。焦って進めるのではなく、手順を決めて着実に進める意識が重要です。
準備不足のまま焦って進めると、交渉の決裂や、最悪の場合、買収後の大きな失敗につながりかねません。
ここでは、目標設定と自己分析から、買収後の事業運営(PMI)に至るまで、実務で必要となる5つの重要なステップを具体的に解説します。
STEP1:目標設定と自己分析
M&Aのプロセスを開始する前に、まず「なぜ自分はM&Aを行うのか」という目的を明確にすることが、すべての土台となるため最も重要です。
ご自身のキャリアプラン、投下できる自己資金額(上限)、これまでの職業経験や専門スキル、希望する業種や事業規模(どのくらいの売上の会社が欲しいか)を具体的に洗い出します。
例えば、「自身のITスキルを活かしてWebサービス会社を経営したい」「地方に移住し、地域密着型の飲食店を承継してみたい」など、ご自身のライフスタイルや強みに合わせた事業選定の方針を具体的に設定します。
この自己分析が曖昧なままだと、案件探しの軸がぶれてしまい、魅力的に見える案件に次々と目移りし、結果としてミスマッチな買収を行ってしまうリスクが高まります。
STEP2:案件情報収集・初期交渉
目標と方針が定まったら、M&Aマッチングプラットフォームなどを活用して、具体的な案件の情報収集を開始します。
気になる案件が見つかったら、まずはプラットフォーム上で、売り手に対して匿名のまま初期的な質問(例:事業の強み、売却理由の詳細など)を行い、事業内容の理解を深めます。
ここで重要なのは、できるだけ早い段階で売り手と直接面談(トップ面談)の機会を持つことです。
M&Aは価格や条件の交渉であると同時に、人と人との信頼関係構築が不可欠なプロセスです。
事業に対する想いや、なぜ売却を決意したのかといった背景を直接ヒアリングすることで、その案件の本質的な価値が見えてきます。
この段階で、財務諸表(決算書)の概要や、事業の強み・弱みなど、判断に必要な重要事項の確認を行います。
STEP3:デューデリジェンスと条件交渉
初期交渉を経て、買収の意思が具体的に固まってきたら、M&Aプロセスにおける最重要フェーズである「デューデリジェンス(DD:買収監査)」に移ります。
これは、売り手から提示された情報が正確か、帳簿には現れていない債務(簿外債務)や法的なリスク(許認可の問題や訴訟リスクなど)が隠れていないかを詳細に調査するプロセスです。
個人であっても、このデューデリジェンスは決して省略してはいけません。
必ず財務・法務・税務の専門家(公認会計士や弁護士)の協力を得て、詳細なチェックリストに基づき実施することが強く推奨されます。
DDの結果、大きな問題がなければ、その調査結果を踏まえて買収価格の妥当性を最終的に評価し、売り手との間で具体的な条件交渉(価格、譲渡の範囲、従業員の処遇など)を行います。
価格相場は業種や収益性によって異なりますが、スモールM&Aでは「時価純資産(資産と負債の差額)+ 営業利益の数年分(いわゆるのれん代)」が一つの目安とされることが多いです。
STEP4:契約締結とクロージング
デューデリジェンスと条件交渉を経て、双方がすべての条件に合意したら、最終的な契約書(多くの場合「事業譲渡契約書」や「株式譲渡契約書」)を作成します。
この契約書には、譲渡対象となる資産(何が含まれ、何が含まれないか)、譲渡価格、支払方法、従業員の引継ぎに関する定め、競業避止義務(売り手が一定期間、同種の事業を行わないこと)など、非常に重要な条項が詳細に盛り込まれます。
この契約書は法的な拘束力が非常に強いため、必ず弁護士などの専門家によるリーガルチェックを受けることが重要です。
契約書の調印後、定められた期日に買収代金の支払い(これを「クロージング」と呼びます)を行い、事業に必要な資産(不動産、車両など)や許認可の名義変更手続きを完了させます。
STEP5:事業運営・買収後のPMI(統合作業)
クロージングが完了すればM&Aの手続き自体は終了ですが、経営者としての本当のスタートはここからです。
買収した事業を円滑に運営軌道に乗せるため、「PMI(Post Merger Integration:M&A後の統合作業)」が極めて重要になります。
まずは、売り手からの業務引継ぎを契約通り確実に行うと同時に、既存の従業員とのコミュニケーションを密にし、新しい経営方針への理解を求め、オーナー交代による不安を取り除く必要があります。特に個人オーナーに変わる場合、従業員のモチベーション維持や、これまでと異なる組織文化の融合に細心の注意を払う必要があります。
既存の優れたオペレーションは尊重しつつ、ご自身の強みを活かした新たな施策を導入するなど、買収前に立てた事業計画を着実に実行していくフェーズです。
個人のスモールM&Aの資金調達・価格相場・補助金活用
スモールM&Aといえども、事業の買収には一定以上のまとまった資金が必要となります。
特に個人がM&Aに臨む場合、いかにして必要な資金を確保するかは、多くの方にとって最大の課題の一つです。
ここでは、個人が活用できる主な資金調達の方法、案件の価格相場、そして負担軽減に役立つ補助金・支援制度について、実務的なポイントを丁寧に解説します。
資金調達の方法
個人のスモールM&Aにおける資金調達は、主に「自己資金」で賄うか、不足分を「融資」で補うかの二択となります。
もちろん、自己資金のみで完結できるのが理想ですが、多くの場合、金融機関からの融資を併用することになります。
個人M&Aで最も活用されている代表的な融資制度は、日本政策金融公庫(通称:日本公庫)の「新規開業資金」や「事業承継・集約・活性化支援資金」です。
これらは、個人の起業や事業承継に対しても積極的に融資を行っており、民間の銀行に比べて比較的低利で、長期の返済プランが組める点が大きな魅力です。
その他、地域の信用金庫や信用組合も、地元の事業承継案件には親身に相談に乗ってくれる場合があります。
近年では、M&Aの資金調達(特に買収資金)を目的とした「M&Aクラウドファンディング」など、新たな手法も登場し始めています。
価格相場と案件タイプ別目安
スモールM&Aの価格(事業価値)は、株式市場のように明確な定価が存在せず、業種、収益性、保有資産、地域性など、非常に多くの要素によって変動します。
一般的に、価格算定の目安としてよく用いられるのは「時価純資産価額 + 営業利益 × 2〜5年分(いわゆるのれん代や営業権)」という考え方です。
具体的な金額帯の事例としては、個人が運営するWebメディアや小規模なECサイトであれば数十万円〜数百万円程度、地域密着型の飲食店や美容室であれば300万円〜1,000万円程度、安定した収益のある小規模な製造業やIT企業であれば1,000万円を超えるケースもあります。
ただし、これはあくまで目安であり、赤字であっても保有する独自の技術や強固な顧客基盤に価値があれば高値がつくこともありますし、逆に黒字でも将来性が低ければ価格は下がります。
M&A関連補助金・支援制度
M&Aの実施や、その後の事業革新(新しい設備投資など)には、国や地方自治体が提供する補助金・支援制度を活用できる場合があります。
代表的なものに「事業承継・M&A補助金」があります。
これは、事業承継やM&Aを契機とした新たな取り組み(例:設備投資、販路開拓、システム導入など)や、M&A実施時に要した専門家費用(仲介手数料、デューデリジェンス費用など)の一部を補助してくれる制度です。
また、「小規模事業者持続化補助金」なども、買収後の事業拡大施策(例:新しいチラシの作成、ホームページの改修など)に活用できる可能性があります。
これらの制度は公募期間や申請要件が細かく定められているため、常に最新の情報を中小企業庁のウェブサイトや、商工会議所、専門家などに確認することが重要です。
個人によるスモールM&Aの成功のポイント
個人によるスモールM&Aは、法人に比べてリソースが限られるからこそ、成功確率を高めるためのポイントをあらかじめ押さえておく必要があります。
ここでは、個人のM&Aを成功に導くために特に重要な3つのポイントを解説します。
ポイント1:明確な目的設定と自己分析
M&Aを成功させる個人は、「なぜM&Aを行うのか」という目的が極めて明確です。
ご自身の経験・スキル、投下可能な自己資金額、理想のライフスタイルを徹底的に自己分析し、「どのような事業を、いくらで、なぜ買収したいのか」という軸を固めています。
この軸が明確であれば、案件探しの段階で情報に振り回されることなく、ご自身にとって本当に価値のある、ミスマッチの少ない案件を見極めることができます。
ポイント2:徹底したデューデリジェンス(DD)の実施
成功事例に共通しているのは、M&Aプロセスにおける最重要フェーズである「デューデリジェンス(DD)」を決して怠らない点です。
たとえ少額の案件であっても、財務・法務・税務の専門家の力を借り、帳簿に現れないリスク(簿外債務や法的トラブルの種など)を徹底的に洗い出しています。
このDDを通じて事業の本質的な価値とリスクを正確に把握することが、適正価格での買収と、買収後の安定経営の土台となります。
ポイント3:買収後のPMI(統合作業)への注力
M&Aは「買って終わり」ではなく、「買収後が本当のスタート」です。
成功する個人オーナーは、買収後の運営(PMI)を最重要課題と捉え、前オーナーからの円滑な引継ぎはもちろん、既存の従業員との信頼関係構築に全力を注ぎます。
事業の強みを尊重しつつ、ご自身の強みを活かした改善を焦らずに進めることで、オーナー交代による混乱を最小限に抑え、事業をさらなる成長軌道に乗せることに成功しています。
個人によるスモールM&Aの注意点
一方で、個人によるスモールM&Aには特有の落とし穴が存在します。
十分な知識と準備なしに進めると、深刻な失敗につながる可能性があります。
ここでは、特に個人が陥りやすい3つの注意点を解説します。
注意点1:専門家費用の節約によるリスク増大
個人M&Aで最も典型的な失敗パターンの一つが、専門家への依頼費用を惜しむことです。
「小規模な案件だから大丈夫だろう」と自己判断でDDを簡略化したり、弁護士のリーガルチェックを経ずに契約書に調印したりした結果、買収後に深刻な問題(簿外債務の発覚など)に見舞われるケースが後を絶ちません。
初期費用を節約したつもりが、結果として投資額の多く、場合によっては全額を失うような取り返しのつかない事態を招くリスクがあります。
注意点2:事業の本質的価値の見誤り
マッチングサイト上の魅力的な収益数字(表面的な利益率)だけを見て、買収を即決してしまうのも危険です。
その事業の収益が、実は前オーナー個人のスキルや人脈、特定の取引先に大きく依存している場合、オーナーが交代した途端に売上が激減するリスクがあります。
なぜその事業が儲かっているのか、その「強みの源泉」が引き継ぎ可能なものなのかを、冷静に見極める必要があります。
注意点3:売り手・従業員とのコミュニケーション不足
M&Aは、数字や契約だけのドライな取引ではありません。
特にスモールM&Aでは、売り手(前オーナー)や既存従業員とのウェットな人間関係が、事業価値そのものである場合も少なくありません。
交渉段階での不誠実な対応や、買収後の高圧的な態度は、売り手からの十分な情報開示や引継ぎ協力を得られなくしたり、主要な従業員の離反を招いたりする最大の原因となります。
個人のスモールM&Aが行われるケース
個人がスモールM&Aを実行する背景には、さまざまな動機や目的があります。個人の立場やキャリアプランによって、実に多様なケースが存在します。
すでに事業を営んでいる個人事業主の方から、新たなキャリアを模索する会社員の方まで、どのような場合にスモールM&Aが活用されるのか。
ここでは、代表的な3つのケースを取り上げ、その具体的な背景や特徴を見ていきましょう。
個人事業主のM&A(売却・買収双方)
個人事業主(フリーランス含む)がM&Aを活用するケースは、売却側と買収側の双方で増加しています。
売却側としては、ご自身の高齢化や後継者不在、あるいは健康上の理由やキャリアチェンジ(リタイアなど)を理由に、手塩にかけて育てた事業を第三者に譲渡するケースです。
一方、買収側としては、既存事業とのシナジー(相乗効果)を狙い、同業の小規模事業を買収して、一気に事業規模の拡大(スケールメリット)を図るケースが挙げられます。
ただし、個人事業のM&Aでは、事業用資産と個人資産の切り分けや、取引価格の算定、税務処理が法人のM&Aとは異なるため、特有の注意が必要です。
特に、個人事業の売買(事業譲渡)では、消費税の扱いや譲渡所得の計算について、税理士などの専門家への確認が不可欠です。
会社員や未経験者が起業するケース
近年、会社員の方が独立・起業する際に、ゼロから事業を立ち上げるのではなく、スモールM&Aを活用するケースが非常に増えています。
既存事業を引き継ぐため、売上や顧客がゼロの状態からスタートする多大なリスクを回避でき、早期に安定した収益基盤(キャッシュフロー)を確保できる点が最大の魅力です。
具体的な例として、本業の傍らでWebメディアやECサイトを買収して「副業」として運営するケースや、一定の自己資金を貯めて会社を退職(脱サラ)し、飲食やサービス業のオーナーとして「独立」する実例が多数あります。
また、早期退職(アーリーリタイア、セミリタイア)の手段として、地方の小規模な事業(例:民宿、カフェなど)を承継し、ご自身のワークライフバランスを重視した働き方を実現する事例も見られます。
事業承継や異業種参入のケース
従来、日本の中小企業における事業承継の主流であった親族内承継(家族承継)が、子の不在や価値観の変化により困難になる中で、第三者承継の有力な手段としてM&Aが活用されるケースです。
また、個人が全くの異業種から、新たな市場へ参入するための足がかりとして、スモールM&Aが選ばれることもあります。
例えば、建設業を営む企業が、将来性を見据えてIT分野へ進出するために、小規模なシステム開発会社を買収するようなケースです。
個人が全くの異業種に参入する場合、その業界の知見やノウハウが不足していることが最大のリスクとなりますが、M&Aであれば、既存の従業員や運営体制ごと引き継げるため、参入障壁を大幅に下げることが可能です。
個人のスモールM&Aにおける税金・法務・会計の基礎知識
スモールM&Aを個人で実行する上では、法人M&Aとは異なる、個人特有の専門的な知識が要求されます。
特に、「税金」「法務」「会計」の3分野は、M&Aのプロセス全体と、買収後の事業運営に直結する非常に重要な要素です。
これらの基礎知識が欠けていると、後から思わぬトラブルや、想定外の納税による金銭的損失につながる可能性があります。
ここでは、個人が最低限押さえておくべき基礎知識のポイントを丁寧に解説します。
個人M&A時の税金の基本
個人が事業を売買する場合、最も一般的なスキーム(手法)は「事業譲渡」です。
この場合、売り手(個人事業主)には、売却によって得た利益(=売却価額 ー 取得費など)に対して、「譲渡所得」または「事業所得」として所得税・住民税が課税されます。(どちらの所得区分になるかは、資産の内容などにより異なるため税理士への確認が必要です)
また、譲渡する資産に課税対象資産(建物、機械、車両、在庫など)が含まれていれば、買い手はそれに対する消費税を支払う必要があり、売り手はそれを預かって国に納付する義務が生じます。
契約書には、契約金額に応じた印紙税も必要です。
買収後に事業が軌道に乗り、利益が大きくなった場合は、個人事業主のままよりも法人化(法人成り)した方が、税率(所得税と法人税の差)の観点から節税につながるケースが多いため、法人化のタイミングも検討すべき重要な経営戦略となります。
主要な法務・契約手続き
M&Aのプロセスでは、様々な法務手続きと契約書が関わってきます。
初期段階で、案件の詳細情報を開示してもらうために締結する秘密保持契約(NDA)、独占的に交渉する権利を定める基本合意書(MOU)、そして最終的な権利義務を確定させる事業譲渡契約書が代表的な書類です。
特に事業譲渡契約書には、譲渡対象となる資産・負債の明確な範囲(何を引き継ぎ、何を引き継がないか)、従業員の処遇、表明保証(売り手が開示した情報が真実であることの保証)、競業避止義務(売り手が同地域で同事業を行わない義務)など、必須とされる条文が多数あります。
また、事業に必要な許認可(例:飲食店営業許可、建設業許可、古物商許可など)は、原則として自動的には引き継がれず、買い手が新規に取得し直す必要があります。
これらの法的手続きや契約書の不備は、後に深刻なトラブルを引き起こすおそれがあるため、必ず弁護士による確認が不可欠です。
会計・事業承継の重要ポイント
買収対象の事業の価値やリスクを正しく評価するためには、会計知識に基づき財務諸表(決算書、試算表など)を読み解く能力が求められます。
デューデリジェンスの際には、売上や費用の計上基準が適正か、資産(特に在庫や売掛金)が実在し、価値が過大評価されていないか、そして簿外債務の有無を徹底的に確認する必要があります。
また、無事に事業承継が完了した後は、買い手は税務署への開業届の提出や、従業員を雇用する場合の社会保険・労働保険の加入手続きなど、各種の届出を速やかに行う必要があります。
これらの会計・労務手続きを漏れなく行うことが、法令を遵守し、円滑な事業運営を行う上での土台となります。
TRANBIを活用した個人のスモールM&A事例
M&Aマッチングプラットフォームの「TRANBI(トランビ)」では、日々多くの個人によるスモールM&Aが成立しています。
ここでは、TRANBIを活用して実際に事業承継を実現した3つの具体的な事例をご紹介します。
事例①:未経験のネイルサロンを買収したシニア会社員のケース
定年が迫り、「この先の収入源をどうつくるか」という不安を抱えていたA氏。本業を続けながら副業として事業を持つ選択肢を探す中で、TRANBIでネイルサロンの案件に出会いました。
美容業界は未経験でしたが、「利益率30%超」という数値の魅力に加え、店舗運営が仕組み化されていた点がA氏の背中を押しました。売り手のA社も「大切にしてきたお客様をきちんと引き継いでくれる人に任せたい」と語り、交渉はスムーズに進行しました。
一方で、数千万円規模の買収には不安もあり、A氏は専門家に相談しながら融資を手配しました。「素人の自分だけだったら絶対に踏み込めなかった」と振り返るほど、事前準備の大切さを痛感したといいます。
買収後は、既存スタッフの力を尊重しながら運営を改善。経営が安定してきた今、A氏は「同じモデルで2店舗目も狙いたい」と意欲を語り、事業の拡大を視野に入れています。
この事例から分かるのは、未経験でも収益性があり、運営が仕組み化された事業であれば挑戦が可能だということです。そして、案件数が多く比較検討しやすいTRANBIだからこそ、自分に合う“堅実な事業”を見つけられる点です。
◆成約インタビュー:シニア男性会社員が未経験のネイルサロンをM&A!目を付けたのは30%以上という利益率の高さ!
事例②:300万円でキックボクシングジムを買収した会社員のケース
会社員として順調なキャリアを歩んでいたA氏は、「自分でも事業を持ってみたい」という思いを抱えていました。そんなとき、個人M&Aの存在を知り、TRANBIで300万円のキックボクシング×パーソナルジム案件を発見します。
当初は、安すぎる価格に不安もあり、A氏は「なぜこんなに安いのか?」と率直に売り手へ質問しました。売り手であるA社は「後継者不在で急ぎ譲渡したい」という事情を正直に伝え、信頼関係が生まれました。
しかし交渉中、メイントレーナーが急に辞意を表明するという予想外の出来事も。A氏は現場スタッフへ直接ヒアリングし、「辞めたい本当の理由」を確認しながら交渉を継続します。
結果として、トレーナーは残留を決意し、買収は成立。A氏は「資料だけで判断せず“現場の一次情報”を聞いたのが正解だった」と語ります。
現在は会社員と経営者の二足のわらじでジムを運営し、新しい働き方を実現できました。この事例は、少額でも良質な事業が買えること、そしてTRANBIでは地方の小規模案件にも多く出会えることを示しています。
◆成約インタビュー:「300万円の個人M&Aで切り拓く新しい働き方」会社員と二足の草鞋で踏み出すキックボクシングジム経営!
事例③:100万円以下でレンタルフィットネスジムを買収した30代のケース
「会社員で一生終えるのか?」という違和感から、新しいチャレンジを求めて独立したA氏。本業に加えて副業も視野に入れていたA氏は、以前から登録していたTRANBIで“100万円以下”という低リスク案件を見つけます。
案件は、レンタルスペースにウェイト器具を置いた個室ジム。烏丸御池の好立地に加え、設備がそろっている点、固定費が軽い点が購入の決め手になりました。
売り手のA社も「継続して大切に運営してほしい」との思いから、誠実に交渉を進めてくれるA氏に好印象。スピーディーに譲渡が決まりました。
買収後、A氏は「スムージー販売やシャワーヘッド販売など、物販を組み合わせて単価を上げるアイデア」を着想。複数の収益源をつくることで、ジムの成長を加速させようとしています。
この事例は、100万円以下でも事業オーナーになれるという象徴的なケースです。そして、TRANBIには低価格かつ好立地の掘り出し物案件が掲載されることがよくわかります。
◆成約インタビュー:100万円以下でレンタルフィットネスジムをM&A!スムージーやシャワーヘッドも販売する独自のビジネスアイデアを構想中
個人でのスモールM&Aに関するよくある質問
個人のスモールM&Aはまだ新しい市場であり、多くの方が具体的な疑問や、「本当に自分にもできるのか」といった不安を抱えています。
ここでは、企業経営者やM&Aを検討し始めた個人の方から、特によく寄せられる代表的な3つの質問と、それに対する回答をまとめました。疑問点を解消し、M&A検討の参考にしてください。
Q1:個人でも本当にM&Aできるの?
はい、結論から申し上げますと、個人でもM&Aは十分に可能です。
前述の通り、M&Aマッチングサイトの普及により、個人が案件情報にアクセスし、売り手と交渉する物理的なハードルは劇的に下がりました。
ただし、誰でも簡単に成功できるわけではなく、いくつかの条件があります。
最も重要なのは、事業を運営できるだけの「自己資金(または融資を受けられる信用力)」と、買収後の事業計画を立て、実行していく「経営能力(またはそれを学ぶ強い意欲)」です。
必ずしもM&Aの経験や、買収する業界の経験が必須ではありません。
しかし、個人であるがゆえの資金調達の難しさや、専門知識(法務・税務など)の不足が障壁となるケースは多いため、多くの場合、専門家のサポートを受けながら慎重に進めることが一般的です。
Q2:M&Aマッチングサイトは安全?どこが良い?
M&Aマッチングサイトは、M&Aプロセスを効率化し、透明性を高める上で非常に有効なツールです。多くの信頼できる運営会社がサービスを提供しており、秘密保持契約の仕組みなど、基本的な安全性は確保されています。
ただし、サイトはあくまで「出会いの場」を提供するものであり、そこに掲載されている案件情報の妥当性や、交渉相手の信頼性を最終的に判断するのは、利用者ご自身であるという点は理解しておく必要があります。 どのサイトが良いかは、利用者の目的によって異なります。
「TRANBI(トランビ)」のように、幅広い業種と価格帯(数十万円から数億円まで)を扱う総合型サイトもあれば、WebサイトやECサイトの売買に特化したサイトもあります。
まずはTRANBIをはじめとした複数の代表的なサイトに無料で登録してみて、掲載案件の傾向やご自身が希望する案件の有無、手数料、サポート体制などを比較検討することをおすすめします。
Q3:自己資金はいくらくらい必要ですか?
必要な自己資金額は、買収したい案件の価格や、利用する融資制度によって大きく異なります。
案件価格が数百万円程度であっても、全額を自己資金で賄う必要はなく、多くの場合、日本政策金融公庫などの融資を併用します。
例えば、公庫の「新規開業資金」などを活用する場合、一定の割合(例:買収価格の1/3〜半分程度)の自己資金を求められることが一般的です。
つまり、1,000万円の案件を買収する場合、300万円〜500万円程度の自己資金が一つの目安となる可能性があります。
ただし、これはあくまで一例であり、個人の信用情報や事業計画の質によって条件は変動するため、まずは公庫や金融機関に相談することが重要です。
Q4:M&Aのプロセスにかかる期間はどのくらいですか?
スモールM&Aのプロセスにかかる期間は、案件の規模や交渉の進捗状況によって大きく変動しますが、一般的には「3ヶ月〜半年程度」が一つの目安とされます。
案件探しから初期交渉までに1〜2ヶ月、デューデリジェンスと条件交渉に1〜2ヶ月、最終契約からクロージング(引継ぎ完了)までに1〜2ヶ月といったイメージです。
ただし、売り手と買い手の双方の合意がスムーズに進めば1ヶ月程度で完了するケースもありますし、逆に交渉が難航したり、許認可の取得に時間がかかったりする場合は、1年以上を要することもあります。
まとめ
個人によるスモールM&Aは、もはや一部の専門家だけのものではなく、後継者不足の解決や個人のキャリア実現のための、現実的かつ有力な選択肢となっています。
オンラインプラットフォームの普及により、誰もが価値ある事業の承継に挑戦できる環境が整いました。
しかし、本記事で丁寧に解説した通り、その成功には明確な目標設定、徹底したデューデリジェンス、専門家の活用、そして買収後のPMIという正しいプロセスが不可欠です。
特に個人M&Aでは、リソースが限られる中で、いかにして優良な案件に出会い、効率的に交渉を進めるかが成功の分水嶺となります。
その第一歩として、信頼できるM&Aマッチングプラットフォームの活用は必須と言えるでしょう。
例えば、国内最大級の案件掲載数を誇り、個人による事業承継や起業の事例も豊富なTRANBIは、スモールM&Aを目指す個人にとって有力な選択肢の一つです。
TRANBIのような信頼できる場で多様な案件に触れ、M&Aのプロセスを具体的にイメージすることから、ご自身の新たな可能性が広がります。
M&Aはゴールではなく、経営者としてのスタートです。
まずはTRANBIに登録し、どのような事業承継の未来が描けるか、その第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
