M&Aはなぜ失敗する?失敗事例・原因・成功率・回避策を徹底解説
M&Aはなぜ失敗するのか?失敗事例と原因を体系的に解説。のれん減損・簿外債務・高値づかみ・PMI失敗などのパターンを比較表で整理し、事業譲渡やサイト売買のトラブル、M&Aの成功率、失敗を防ぐデューデリジェンスと進め方までまとめました。
M&A(企業の合併・買収)は事業拡大や事業承継の有力な手段ですが、必ずしも成功するとは限りません。一般に、M&Aの成功率は決して高くないとされ、想定した効果を得られずに「失敗」と評価されるケースも数多くあります。
本記事では、M&Aのよくある失敗パターンと失敗の要因、交渉中・成立後に起こるトラブル事例、サイト売買(サイトM&A)特有の失敗、有名企業の失敗事例、そしてM&Aの成功率と失敗を防ぐ進め方までを、比較表を交えて体系的に整理します。
これからM&Aに挑戦する買い手・売り手の方が、あらかじめ失敗パターンを知り、トラブルやリスクを回避するための参考にしていただける内容です。多くの失敗事例に触れ、成功への確度を高めましょう。
M&Aのよくある失敗パターン
M&Aには多くのメリットがある一方、常に失敗のリスクをはらんでいます。取引の規模が大きくなるほど、失敗した際の損失も大きくなります。まずは、M&Aで起こりがちな失敗のパターンを押さえておきましょう。
当初の目的を達成できない
M&Aで事業を買収・売却しても、そもそもの目的を達成できなければ、そのM&Aは失敗と評価されます。中小企業の多くは事業承継や会社の存続を目的にM&Aを選びますが、相手が見つからず承継できなかったり、大企業がマーケットシェア拡大やシナジー効果を狙ったものの得られなかったりするケースがあります。自社の状況や事業戦略との適合性を考え、相手の情報を十分に精査することが欠かせません。
マッチングや交渉が成立しない
相手とのマッチングの失敗や、交渉が難航して話が立ち消えになるのも、よくある失敗パターンです。すべての条件を満たす理想的な案件は少なく、条件が合ってもマッチングや交渉が成立するとは限りません。とくに、費用のかかるデューデリジェンス(DD)まで進んでから不成立になると、調査に費やしたコストや時間が無駄になってしまいます。
のれんの減損・高値づかみ
のれんとは、買収した企業の目に見えない価値に対して支払った対価(買収額と時価純資産の差額)です。買収した企業に想定した価値がなかった場合、後からのれんの取り崩し(減損)が必要になります。買収額が大きいほど減損の規模も大きくなり、割高で買ってしまう「高値づかみ」とあわせて、M&A失敗の典型例となっています。
イメージ毀損・簿外債務・経営難
買収先がコンプライアンス上の問題や社会的評判を損なう問題を抱えていた場合、買収によって自社のイメージまで損なわれる恐れがあります。また、買収前の調査が不十分で、後から簿外債務や粉飾決算が発覚し、予期せぬ損失が生じるケースもあります。最悪の場合、莫大な債務を抱えた事業を買収した結果、本体の経営まで傾く事態も考えられます。
M&Aのよくある失敗パターン【比較表】
代表的な失敗パターンを、内容と主な原因で整理すると次のとおりです。
| 失敗パターン | 内容 | 主な原因 |
|---|---|---|
| 目的の未達 | 事業承継・シェア拡大などの狙いが実現しない | 戦略・相手選定のミスマッチ |
| マッチング・交渉の不成立 | 相手が見つからない、交渉が決裂する | 条件の非現実性・情報不足 |
| のれんの減損 | 買収価値が想定を下回り減損を計上 | 高値づかみ・価値評価のミス |
| 投資の回収不能 | 想定した効果が出ずリターンが不足 | 市況変化・過大評価 |
| イメージの毀損 | 買収先の問題で自社の評判が低下 | 調査不足・コンプラリスクの見落とし |
| 簿外債務・不正の発覚 | 未計上の債務や粉飾が後から判明 | デューデリジェンス不足 |
| 経営難・破産 | 買収先の負債で本体まで傾く | 過大な債務の引き継ぎ |
M&Aが失敗する主な要因
「想定した効果が得られない」「予期せぬ損害が発生した」「投資を回収できない」といった失敗は、なぜ起こるのでしょうか。原因を明らかにし、失敗を未然に防ぐ対策につなげましょう。
M&A・対象業界の知識が不足している
M&Aの基本的な知識が足りないと、準備不足で交渉がうまく進まなかったり、後からトラブルを抱えたりしやすくなります。とくに中小企業や個人では、事業主自身が交渉や手続きを進めることが多く、流れを理解しないまま手間取るケースが少なくありません。
加えて、買収する事業の業界に対する知見が不足していると失敗リスクが高まります。例えばエステ業界は、事前に回数券を購入してもらう「前払いビジネス」です。回数券の存在に気づかず店舗を買収すると、買い手はその分だけ無償で施術する義務を負います。こうした目に見えない負担を事前に確認できていない場合、大きな負担を背負う場合があります。
事業価値を正しく評価できていない(高値づかみ)
売り手の事業価値を正しく評価できず、いわゆる「高値づかみ」をしてしまうケースも多くあります。売り手はできるだけ高く売りたいと考えるため、価格の相場感や交渉のポイントを把握していないと、高めの価格設定を許容してしまいがちです。根拠のない価格ではなく、客観的な事実に基づいた企業価値評価を心がけましょう。自社に評価のノウハウがなければ、専門家の支援を受けることも大切です。
簿外債務を見逃してしまう
対象会社の簿外債務を見逃した結果、買収後に買い手の負担となる事態はよく見られます。従業員への未払い残業代のほか、回収見込みのない売掛金、金融商品の含み損、損害賠償リスクなどが典型例です。売り手自身も想定していなかった偶発債務が、買収後に顕在化する場合もあります。
従業員の離職・PMIの失敗
買収先の従業員の理解を得られず、経営者の交代をきっかけに人材が大量に離職したり、モチベーション低下で生産性が下がったりする場合があります。とくにキーパーソンが抜けると、想定した知識やノウハウの引き継ぎができず失敗につながります。
また、買収後の経営統合(PMI)に失敗するケースも珍しくありません。PMIは経営・業務プロセス・企業文化の統合からなり、時間を要します。交渉段階から統合計画を固めておかないと、統合に大幅な遅れが出てしまいます。
【段階別】M&Aで起こるトラブル事例
M&Aのトラブルは、交渉の段階と成立後の段階で性質が異なります。ここでは実際に起こりやすいトラブルを、段階別に整理します。
交渉時のトラブル|価格再交渉・赤字判明・長期化
M&Aでは、スキームや取引価格などの基本事項を決めたうえで基本合意に至りますが、その後に問題が発覚して価格の再交渉が必要になることがあります。例えば、譲渡価格の決定後にフランチャイズ加盟料が別途必要と判明し、再交渉に至った事例があります。
また、契約締結後に、助成金を除くと赤字だったことが判明した事例もあります。仲介業者が直近の売上資料を提供せず、判断を誤ったケースです。交渉が長引けば不成立のリスクも高まります。長期化の主な理由は次のとおりです。
- 想定していなかったトラブルの発生
- 仲介業者や売り手が必要な資料を提供しない
- 売り手と買い手の希望価格に大きなギャップがある
とくに事業譲渡では、譲渡対象の範囲や引き継ぐ資産・負債をめぐって認識のズレが生じやすく、事業譲渡ならではのトラブルに発展することもあります。気になる点は納得がいくまで確認することが大切です。
成立後のトラブル|キーパーソンの離職
M&Aの成立後、対価を支払った後では基本的に取り返しがつきません。よくあるのが、経営者の交代を機にキーパーソンが離職してしまうトラブルです。代替の利かない人材が抜けると、多額の費用をかけて買収した意味が薄れてしまいます。
対策としては、優秀な人材が残った場合に特別な手当を支払う「リテンション・ボーナス(残留報酬)」の活用や、デューデリジェンスでキーパーソンを洗い出して地位・処遇を約束することが挙げられます。前経営者に顧問などの形で残ってもらい、引き継ぎを支援してもらうのも有効です。
成立後のトラブル|重要な資産を引き継げない
事業譲渡では、売り手が売却する資産としない資産を選べるため、買い手が思い通りの資産を引き継げるとは限りません。例えば、レンタルスペースのM&Aで事業は買収できたものの、オンライン予約サイトの権限が売り手になく引き継げなかった事例があります。権限の所在を売り手自身が把握していないこともあるため、不明点は明らかになるまで確認しましょう。
サイト売買・ネットビジネスM&Aの失敗
近年は、Webサイトやネットショップ、アプリなどを対象としたサイト売買(サイトM&A)も活発です。少額から挑戦でき個人にも人気ですが、実店舗のM&Aとは違った失敗・トラブルが起こりやすいため、特有の注意点を押さえておきましょう。
数字・収益の実態と乖離しているケース
サイト売買では、売上やアクセス数などの数字が実態と乖離していることがあります。一時的な施策で数字を作っていたり、広告費を差し引くとほとんど利益が残らなかったりするケースです。表面的な数字だけで判断せず、収益がどのように生まれているかの構造を確認することが重要です。
集客が属人的・外部依存だったケース
サイトの集客が特定の個人のノウハウや、外部プラットフォームに依存していると、譲渡後に売上が急落することがあります。例えば、前オーナーのSNS発信で集客していたサイトを買収したものの、引き継ぎ後に流入が途絶えるケースです。検索アルゴリズムやプラットフォームの規約変更で、収益基盤が一変するリスクもあります。
アカウント・権限を引き継げないケース
ドメイン・サーバー・各種アカウント・決済サービスなど、サイト運営に必要な権限を確実に引き継げるかも要注意です。名義変更ができない、契約が個人に紐づいていて移管できない、といったトラブルが起こり得ます。サイト売買でも、譲渡対象と引き継ぎ方法を契約で明確にし、事前に確認しておくことがトラブル回避につながります。
有名なM&Aの失敗事例(大企業)
個人や中小企業のM&Aとは規模が異なりますが、大手企業の有名な失敗事例からも学べることは多くあります。ここでは、買収後にトラブルで大きな損失を被った代表的な事例を紹介します。
DeNAによるキュレーションサイトの買収
ディー・エヌ・エー(DeNA)は2014年、キュレーションメディア事業へ参入するため、iemoと株式会社ペロリを買収しました。しかし、運営サイトに信ぴょう性を欠く情報や著作権を侵害する記事があったことで批判を浴び、企業イメージの低下と巨額の減損損失を招く結果になりました。買収後のガバナンスやコンプライアンス管理が十分ではなかったことなどが、失敗の一因とされています。
※参考:全10サイト非公開化でDeNAが謝罪「成長を追い求める過程で」|THE PAGE
東芝による原子力事業会社の買収
東芝は2006年、原子力発電を主力事業に育てるため、米国の原子力事業会社ウェスチングハウス(WH)を約54億ドル(追加出資を含め約6,000億円)で買収しました。しかし2011年の東日本大震災以降、世界的に原発建設が停滞し、さらにWHが買収した企業で巨額の損失が判明します。
東芝は2016年3月期に約2,600億円の減損を計上し、2016年4〜12月期には原子力事業の損失が7,000億円を超える規模に拡大、債務超過に陥りました。最終的にWHは2017年に破産し、東芝は主力の半導体事業の売却を迫られました。買収先の調査不足と、買収額(のれん)を過大に評価したことが失敗の原因とされ、日本国内で最も有名なM&Aの失敗事例のひとつです。
※参考:東芝、止まらぬ損失 WH買収で「10年の重荷」|日本経済新聞
キリンによるブラジル飲料メーカーの買収
キリンホールディングスは2011年、海外の販路拡大を狙い、ブラジルの大手飲料メーカーであるスキンカリオール社を買収しました。当時のブラジルは有望市場とされていましたが、買収後に景気が急激に悪化。期待した成果を上げられず、多額の減損と損失を計上し、最終的に買収した子会社をオランダ企業へ売却する結果となりました。
※参考:キリンがブラジルのM&A失敗で2,000億円の損失、原因は?|M&Aファイナンス新聞
第一三共によるインド製薬会社の買収
第一三共は2008年、インドの製薬会社ランバクシー・ラボラトリーズを4,884億円で買収しました。しかし買収合意の直後、品質管理の問題から同社の後発薬が米国で輸入禁止措置を受け、株価が暴落。第一三共は巨額の特別損失を計上し、2014年に同社を実質的に売却しました。海外企業のM&Aは情報収集が難しく、法規制や商習慣も異なるため、失敗リスクが高まる典型例です。
※参考:第一三共、失策続きの6年 印子会社を実質売却|日本経済新聞
M&Aの成功率はどのくらい?「難しい」と言われる理由
ここまで多くの失敗例を見てきましたが、実際にM&Aが成功する確率はどのくらいなのでしょうか。「M&Aは難しい」と言われる背景も含めて整理します。
M&Aの成功率は3〜4割程度とされる
メディアでは成功例が報じられがちですが、実際には失敗例も多いのが実態です。M&Aの成功率は、調査や評価基準によって差がありますが、「期待した成果を十分に得られたM&Aは3〜4割程度」と紹介されることが多く、見方によっては半数以上が期待した成果に届かないともいわれます。ただし、何をもって成功・失敗とするかは実行企業の考え方によるため、判断が難しい面もあります。いずれにせよ、失敗の可能性を前提に、戦略を立てて慎重に進めることが重要です。
海外企業の買収(クロスボーダー)は特に難しい
とくに日本企業による海外企業の買収は、成功率がさらに低いとされます。前述の東芝や第一三共のように、有名な大手企業でも海外M&Aで失敗しています。理由としては、言語の壁で情報を入手しづらいこと、物理的な距離で十分なPMIができないこと、カントリーリスクや商習慣の違いなどが挙げられます。国内以上に、じっくり時間をかけて調査し慎重に判断する必要があります。
M&Aを失敗させないための進め方・対策
M&Aには失敗のリスクが付きものですが、ポイントを押さえて進めれば、失敗の確率を下げることができます。ここでは失敗を防ぐための進め方を整理します。
戦略立案からPMIまでの基本ステップ
M&Aは、次のステップを丁寧に踏むことが成功の前提になります。
- 戦略の立案:目的を明確にし、どの経営資源を獲得すれば何を実現できるかを定める
- ターゲットの選定:入念なリサーチで、シナジーや将来性の観点から候補を絞り込む
- 企業価値の評価:客観的な事実に基づき、高値づかみを避ける
- デューデリジェンス(DD):財務・法務・税務などを調査し、簿外債務などのリスクを洗い出す
- クロージング後のPMI:交渉段階から統合計画を準備し、買収後の初期段階を中心に集中して統合する
とくに、費用のかかるデューデリジェンスは事前のプランニングが重要で、初期段階から計画を進めておく必要があります。M&Aの全体像は、次の関連記事もあわせてご覧ください。
失敗要因と対策【比較表】
これまで見てきた失敗要因と、その対策を対応させて整理すると次のとおりです。
| 失敗要因 | 主な対策 |
|---|---|
| M&A・業界の知識不足 | 事前学習と、専門家・M&Aプラットフォームの活用 |
| 高値づかみ(価値評価のミス) | 客観的な企業価値評価と相場感の把握 |
| 簿外債務の見逃し | 財務・税務デューデリジェンスの徹底 |
| キーパーソンの離職 | 残留報酬などの施策と、丁寧な引き継ぎ |
| PMI(統合)の失敗 | 交渉段階からの統合計画の策定 |
| 情報収集の不足・思い込み | 不明点は納得いくまで確認する姿勢 |
M&Aの失敗に関するよくある質問
M&Aの失敗やトラブルについて、よく寄せられる疑問にお答えします。
Q. M&Aで多い失敗事例は何ですか?
A. 目的の未達、のれんの減損(高値づかみ)、簿外債務の発覚、キーパーソンの離職、PMIの失敗などが代表的です。多くは事前調査の不足と買収後の統合の軽視が原因です。
Q. 事業譲渡でよくあるトラブルは?
A. 譲渡対象の範囲や引き継ぐ資産・負債をめぐる認識のズレが起こりやすく、価格の再交渉や、必要な資産・許認可・アカウントを引き継げないといったトラブルが典型例です。契約で譲渡対象を明確にすることが予防につながります。
Q. M&Aは難しいですか?成功率はどのくらい?
A. M&Aの成功率は一般に3〜4割程度とされ、決して簡単ではありません。とくに海外企業の買収(クロスボーダーM&A)は成功率がさらに低いとされます。失敗の可能性を前提に、戦略と準備を丁寧に行うことが重要です。
Q. サイト売買(サイトM&A)の失敗を防ぐには?
A. 売上やアクセスの数字が実態と合っているか、集客が属人的・外部依存でないか、ドメインやアカウントなどの権限を確実に引き継げるかを、事前に確認することが大切です。表面的な数字だけで判断しないようにしましょう。
Q. M&Aの失敗を防ぐ一番のポイントは?
A. ひとつに絞るのであれば、入念なデューデリジェンスと、交渉段階からのPMI(統合)計画です。加えて、客観的な企業価値評価と、不明点を納得いくまで確認する姿勢が、失敗の確率を大きく下げます。
Q. 個人のM&Aでも失敗しますか?
A. 個人・スモールM&Aでも失敗は起こります。少額だからと調査を省くと、隠れ債務や集客の属人性などのリスクを見落としがちです。規模が小さくても、財務の確認や引き継ぎ範囲の確認は丁寧に行いましょう。
まとめ|M&Aの失敗事例から学ぶ
M&Aは、大手企業でも失敗するほど難しい取引です。しかし、失敗にはパターンと要因があり、事前に知っておくことで多くは回避できます。
本記事のポイントを整理します。
- 失敗パターン=目的未達・のれん減損・簿外債務発覚・イメージ毀損・経営難など
- 失敗要因=知識/業界知見の不足・高値づかみ・簿外債務の見逃し・従業員離職・PMI失敗
- 段階別トラブル=交渉時(価格再交渉・赤字判明)/成立後(キーパーソン離職・資産引き継ぎ失敗)
- サイト売買M&A=数字と実態の乖離・集客の属人性・権限の引き継ぎに注意
- 対策=客観的な価値評価・DDの徹底・交渉段階からのPMI計画
M&Aは失敗の可能性を前提に、慎重に進めることが大切です。多くの事例に触れて、成功のヒントと失敗を回避するコツを学びましょう。あわせてM&Aの成功事例を知っておくと、成功と失敗の分かれ目が見えてきます。
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