企業買収の流れと手法。メリットやデメリット、成功のポイントを解説

企業買収の流れと手法。メリットやデメリット、成功のポイントを解説

企業の買収は、どういった流れで実行されるのでしょうか。買収の方法や手続きに加えて、買収を行うメリット・デメリットも解説します。実際の成功事例・失敗事例を通じて、買収を成功させるポイントも理解しましょう。まずはプロセスを知ることが大事です。

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買収とは?

買収とは、他社の事業または会社の経営権を買い取ることで、株式会社を買収する場合は、株式の過半数を取得することを指します。まずは、買収の具体的な意味やパターンを理解しましょう。

買収の意味

M&Aにおける『買収』の意味は、『他社の株式を買い取って傘下に入れること』です。一般的には過半数の株式を買い取ると、買収が成り立ちますが、条件によってはそれ以下でも買収は可能です。

株式の過半数を保有すれば、株主総会において普通決議を通せるようになるため、事業運営をコントロールするのであれば、過半数の取得を目指します。さらに2/3以上の株式を買い取ると、株主総会の特別決議を成立させられるので、実質的に経営を支配することが可能です。

買収された企業は、株式を買い取った企業の子会社またはグループ企業となり、事業を続けます。片方の会社が消える、会社の合併とは形式が異なります。買収と合併両方の意味を含む『M&A』も、企業買収と同様の意味として使われる用語です。

友好的買収と敵対的買収がある

買収には主に『友好的買収』と『敵対的買収』の二つのパターンがあります。企業同士の関係によって、意味合いが変化するのが特徴です。

『友好的買収』は、お互いの会社が合意した上で実行される買収です。買い手側が相手企業と話し合い、買収の方法やスケジュール、今後の経営方針などを決めます。

一方、買収される側が反発している場合、買い手が発行済株式の過半数を取得する『敵対的買収』もあります。買収対象となった企業は、株式を取得されないように動いたり、別の友好的な企業に買収してもらったりと防衛策を講じます。

敵対的買収は、買収される側の反発によって時間やコストがかかるケースがほとんどです。買い手は友好的買収によって、スムーズに話を進められるのが理想です。

買収とM&Aとの違い

買収とM&Aとの違い“

買収は上記のように、特定の企業が他の企業を支配するため、一定数の株式を取得したり、事業を買い取ったりすることを指します。

それに対してM&Aとは、企業の『合併(Mergers)』と『買収(Acquisitions)』を指す用語のため、買収はM&Aの一種という位置づけです。

ただし下図のように、広義のM&Aには、合弁会社(ジョイントベンチャー)の設立をはじめとした資本提携も含まれる場合もあります。

広義のM&Aと狭義のM&A

また、M&Aには該当しないものの、企業同士の業務提携や共同開発なども、企業間提携の一種です。ここで大まかな違いを押さえておきましょう。

買収の目的は何か?

買収の目的は、最終的には企業の競争力を強めることですが、買い手側にとっては複数の理由が絡み合う場合もあるでしょう。買収の主な理由としては、以下のものが挙げられます。

経営資源を獲得するため

安定した利益を上げる事業体として、すでに確立されている企業を買収すれば、その企業が所有する経営資源を全て買い手が使えるようになります。オフィスや工場などの有形の資源だけでなく、売り手企業が培ってきたノウハウや従業員も手に入ります。

これから新たな領域に進出しようと考えている企業や、自社の競争力を強めようとしている場合に役立つでしょう。同じ分野で事業を営む企業を買収する場合、工場の拡大や商品ラインナップの拡充も可能です。

経営資源が少ない企業でも、買収を繰り返すことで事業の幅が広がります。十分な資金があれば、これまで経験のない分野にも進出できるでしょう。実際、買収した事業分野に新たに参入したり、経営の多角化のために事業買収をしたりする企業は多くあります。

組織再編のため

複数の事業の一元化や、ノウハウの統合による競争力強化などのために、組織再編を図る目的で買収に踏み切る場合もあります。

二つの会社がグループ企業になることで、人事異動や経営資源の移動がスムーズになるでしょう。事業部の統合も可能です。

また、企業としての規模が大きくなると、一つの事業だけではリスクが伴います。例えば旅行業が下火になった場合、旅行業のみを生業としていると、経営が立ち行かなくなる可能性があります。

極端な例ではありますが、複数の事業を展開していれば、一つの事業の業績が下がったときに他の事業でカバーできます。大企業が買収に踏み切る場合は、経営リスクの低下を目的の一つにしている場合が多いでしょう。

企業を買収するメリット

買収によって事業を拡大するための時間の節約や、競争優位性を高める効果などが期待できます。買収のメリットを最大化するには、相手企業の選定や企業価値の確認が欠かせません。まずは、買収における一般的なメリットを見ていきましょう。

事業同士のシナジーが発揮できる

買収した事業と自社の既存の事業とを組み合わせることで、相乗効果(シナジー)による生産性のアップや事業の効率的な成長が期待できます。不足している経営資源を獲得でき、弱みを克服できるのもメリットです。

買収によるシナジー効果を高めるには、相手企業の選び方が重要です。自社の強みや得意領域を活かせる分野を対象にする必要があります。

赤字の企業を買収する際には、譲渡金額を低く抑えられる場合が多いですが、将来的に黒字に転換できるのか慎重に判断しなければいけません。

 シナジー効果とは?意味や事例、譲渡対価への影響について解説
用語説明
シナジー効果とは?意味や事例、譲渡対価への影響について解説

多くの企業は『シナジー効果の創出』をM&Aの目的の一つとして掲げます。日本語では相乗効果を意味しますが、具体的にはどのような事例を指すのでしょうか?対義語である『アナジー効果』の意味や、シナジー効果に関連するフレームワークも紹介します。

経営のリスクを分散できる

企業は継続的に成長し、利益を生み出していく必要があります。しかし、単一の事業のみを営んでいる場合、成熟期以降の事業では成長がほとんど見込めず、徐々に生み出せる利益が小さくなっていきます。

また、環境や時代の変化などで、経営の屋台骨が揺らいでしまう可能性もあるでしょう。そういった経営上のリスクを買収によって軽減できます。

例えば、自社と異なる業界の企業を買収した場合、事業の多角化により、新たな市場が開拓できます。収益の柱を二つ、三つと増やすことで、経営の安定化が見込めるほか、事業や製品のライフサイクルにおけるリスクの分散も可能です。

また、買収による技術やノウハウの獲得によって、自社の弱点の穴埋めや既存事業の強化ができるのも大きなメリットです。売り手側の顧客リストや仕入れ先リストが手に入れば、よりスピーディーに事業を拡大できるでしょう。

スケールメリットを獲得できる

同じ分野の企業を買収する場合でも、効率的に既存事業の拡大が可能となり、スケールメリットを獲得できます。M&Aを活用したスピーディーな成長戦略の実行により、業界トップレベルの地位を確立した企業は少なくありません

ライバル企業を買収することで、市場競争に勝ち残る戦略を選択する企業は多く、収益力の低下した企業が、業界トップ企業に売却を持ちかけるケースもあります。

時間とコストを節約できる

自社で一から新規事業を立ち上げるとなると、どうしても準備に時間がかかります。物理的な資源だけでなく、人員の確保も必要でしょう。新たな知識の習得も求められます。

しかし、当該分野の企業を買収することで、物資や人員の確保が簡単にできるようになり、時間の節約につながるでしょう。買収にコストはかかるものの、将来にわたってそれ以上のリターンを得られる可能性があります。

ただし、新規事業の立ち上げにかかるコストと買収にかかるコストを比較した上で、どれぐらいの期間で投資費用を回収できるか、試算してみることが大事です。買収に失敗する例も多いので、事前調査と費用対効果による慎重な判断が求められます。

企業を買収する際の注意点

買収には注意すべき点もあります。選択を誤ると買収のメリットを活かせないばかりか、大きな損失を被る結果になりかねません。企業の買収では、以下のリスクがあることを、よく認識しておく必要があります。

買収先との不和や人材の流出

敵対的買収を選択した場合は、相手企業との間に軋轢が生まれやすくなります。無理に買収を強行しても、事業の統合がうまく進まないケースが多いでしょう。経営陣同士の話し合いがうまく進まない場合には、買収を断念する必要もあります。

また、たとえスムーズに買収が成立した場合でも、注意すべき点はあります。買収される企業に勤めている従業員は、労働条件が大きく変わる可能性があるため、優秀な人材が離職してしまう可能性があるでしょう。

さらに望まない人事異動によって、一時的にせよ仕事の生産性が落ちたり、モチベーションが低下してしまったりする従業員が出るかもしれません。

簿外債務や偶発債務の発覚

企業の買収にあたっては、相手の会計帳簿をチェックして債務を確認するのが一般的です。しかし、帳簿に記載されていない債務(簿外債務)が存在するケースがあるので、注意しなければいけません

簿外債務の代表例としては、計上されていない買掛金をはじめ、従業員への未払い給与や残業代、退職一時金などが挙げられます。従業員に支払う金銭や、過去のトラブルによる債務が残っていないかは、事前にしっかりと確認しておきたいポイントです。

また、買収の段階では予期しなかった債務が発生するリスクもあります。過去に販売した商品のリコールや取引先・従業員からの損害賠償請求などの偶発的な債務です。買収後に予期せぬ費用負担が発生する可能性がないか、事前によく調べておく必要があります。

 簿外債務の危険性とは?買い手が把握しておかなければならない理由
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簿外債務の危険性とは? 買い手が把握しておかなければならない理由

簿外債務とは、帳簿に記載されていない債務です。M&Aで中小企業を買収する際には、特に簿外債務に注意しましょう。M&A完了後に簿外債務があると判明し、思わぬ損害を被るケースもあります。簿外債務の具体例や損害を防ぐ方法を確認しましょう。

「のれん」の減損リスク

『のれん』とは目に見えない企業的価値のことで、人的資産や数値で表せないノウハウ・ブランドなどが含まれます。買収時の買取価格と企業の純資産評価額に差額が生まれるのは、対象企業の『のれん』が買収価格に上乗せされるためです。

想定よりも『のれん』の価値が低く、思うようなメリットが得られなかった場合、減損損失(『のれんの減損』)を計上しなければいけません。事実、高額な『のれん代』を計上したため、買収後に大きな損失を被った企業は少なくありません

『のれん』の価値が低くなる原因としては、買収後に想定通りの収益が上げられない場合や、人材流出や買収後のトラブルなども考えられます。

 のれん代(営業権)の意味と営業権との違いは?計算方法、減価償却も解説
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のれん代(営業権)の意味と営業権との違いは?計算方法、減価償却も解説

のれん代はM&Aにおいて買収金額と買収された会社の純資産との差額です。営業権と呼ばれることもあります。のれん代の計算方法や、高くなる理由も見ていきます。のれん代について知れば、M&Aを適正価格で進めやすくなるはずです。

一般的な企業買収の流れ

一般的な企業買収の流れ

それでは、企業買収の大まかな流れを解説します。まずは買収にあたっての戦略の構築からスタートし、対象会社の調査からトップ面談、企業価値調査を通じて買収の適否を判断します。それぞれ確認していきましょう。

1.目的の確認

まずは買収が自社にとって最良の手段であるか、事業戦略との整合性は取れているかなどを確認しましょう。社内で議論を重ねた上で、コンセンサスを得ておく必要があります。

買収が決定したら、金額の規模によってはコンサルティング会社や仲介業者など、M&Aの専門知識を有するアドバイザーを選任することがあります。企業買収では、M&Aの知識や経験を持つ専門家のアドバイスも有効ですが、アドバイザーの助言を元に、買収の戦略を立てるケースもあります。

2.買収先の調査・決定

買収候補となる企業のリサーチを行い、対象となる企業をリストアップします。M&Aのアドバイザーが売り手の情報を持っていることが多いため、条件に合う企業リストを作成してくれるケースもあります。

リストを元に一定の基準で対象を絞り込み、アプローチする企業に優先順位を付けていきましょう。優先度の高い企業のオーナーや経営陣に対して、買収の申し込みをします。

なお、アドバイザーや仲介業者が作成するリストは『ノンネームシート』と呼ばれており、基本的に社名が伏せられています。詳細な情報が必要な場合には、秘密保持契約を結んで情報の提供を受けなければいけません。

3.トップ面談

買収交渉をする企業が決まったら、トップ同士の面談を通じて企業理念の共有や条件の簡単なすり合わせなどを行います。信頼関係の構築にトップ同士の顔合わせは欠かせません。

当初は買収対象として魅力的に感じられても、面談を通じて自社の経営理念とは合わなかったり、想定した効果が得られなかったりすることが判明する場合もあります。逆に、相手側から買収を拒否されるケースもあるでしょう。

トップ面談で買収の合意に至れば、具体的な条件交渉が開始されますが、買い手側の条件が全て通るケースは多くありません。最終的な合意に至るためには、ある程度相手に譲る部分が必要です。

4.基本合意書の締結

条件面での合意が得られれば、買収に関する基本合意書が締結されます。基本合意書は売り手・買い手の双方が、大まかな取引の条件や実現性の程度を確認するための書類です。

ここで買収に必要な大まかな金額や買収の方法(スキーム)、取引のタイミングなどに関してある程度の合意をしておけば、売り手側も買い手に対して情報を開示する範囲を広げられます。

最終契約書ではなく、法的な拘束力を持つものではありませんが、売り手がほかの買い手と交渉するのを一定期間禁じる内容(独占交渉権の獲得)になっています。

5.デュー・デリジェンス(DD)

デュー・デリジェンス(DD)とは、買い手が売り手企業の財務や税務、法務などの状況を詳細に調査するプロセスです。

ときには税理士や公認会計士、弁護士といった各分野の専門家の協力を得ながら、ビジネスモデルやその収益性、コスト構造、自社事業とのシナジーの度合いなどを調査します。

ここで、表には出てこないリスクや簿外債務なども徹底的に調査し、買収後に問題やトラブルが起こらないようにしなければいけません。デュー・デリジェンスの結果を踏まえて買収先の企業価値を評価し、買収価格を決定します。

デュー・デリジェンスに関して詳しくは以下の記事でも解説しています。こちらも参考にしてください。

 デュー・デリジェンスでM&Aのリスク回避。かかる費用や期間など
手法
デュー・デリジェンスでM&Aのリスク回避。かかる費用や期間など

M&Aの最終合意に至る上で、デュー・デリジェンス(DD)は欠かすことのできない重要なプロセスです。資金に限りのある中小企業や個人事業主は、何をどのように実行すればよいのでしょうか?DDの種類や費用、期間について理解を深めましょう。

6.最終契約・PMI

企業価値の評価を通じて買収価格を決めたら、最終的な条件交渉に入ります。ここで売り手・買い手ともに問題がなければ、譲渡契約書を作成して最終契約の締結です。最終契約書には売り手・買い手双方の権利義務が記され、法的拘束力を持ちます。

買い手は最終契約書に基づき、買収対価を支払って事業が引き渡されます(クロージング)。これでM&Aによる買収手続きは完了です。

ただし、買い手は事業の引き渡しを受けた後、買収した事業と自社の既存事業との統合プロセス(PMI)に入ります

買収側にとってはPMIが極めて重要なプロセスであり、経営統合がうまくいかなければ、想定していた買収のメリットが得られず、M&Aが失敗に終わってしまう可能性が出てきます。買収交渉中に計画を立てておき、しっかり準備しておくことが大事です。

PMIに関しては、以下の記事で詳しく解説しています。

 PMIはM&Aの成否を分けるプロセス。重要性や必要な期間を解説
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PMIはM&Aの成否を分けるプロセス。重要性や必要な期間を解説

M&Aの成功の鍵を握るのは『PMI(統合作業)』です。急激な統合は従業員の混乱を招くため、現状を把握しながら計画的に進めていく必要があります。100日プランの立て方やPMIの準備を始める適切なタイミング・期間について解説します。

事業買収の代表的な手法(スキーム)

買収の形態は一つではありません。株式会社を買収する場合は株式の取得が一般的ですが、ほかにも買収のスキームがあります。代表的な手法を確認しておきましょう。

株式取得

買収する企業の株式を取得するには、いくつかの方法があります。

一般的には、売り手企業が発行済株式を買い手に譲渡する『株式譲渡』が用いられますが、新たに株式を発行し、買い手に割り当てる『新株引受』も比較的よく採用される方法です。

また、買い手が買収先の企業を完全に支配したい場合には、『株式交換』または『株式移転』が用いられるケースがあります。買収側が相手の株式を全て交換取得することで、100%の完全支配と子会社化が可能です。

それ以外の方法として、『TOB』『MBO』と呼ばれる手法などもあります。TOBは公開買い付けの手法で、株式を売ってくれる株主を募ります。MBOは自社役員による株式の買い付けです。

事業譲渡

事業譲渡とは売り手企業の事業の一部、あるいは全部を買い手に直接譲渡する方法です。特に売り手が複数の事業を行っており、一部の事業だけを売却したい場合によく採用されるスキームです。

多くの場合、会社を丸ごと売却するわけではないため、事業を譲渡しても売り手側の企業はそのまま残ります。売り手企業は事業を売却した代金を受け取り、利益として計上する仕組みです。

事業を包括的に譲渡するだけでなく、一部の土地・建物などの有形の資産や、特定の事業に関するノウハウといった無形の資産も譲渡対象となります。売り手の事業譲渡の利益は、売り手の主体者である会社に入るので法人税の課税対象です。

会社分割

会社分割

会社分割は事業を分割して別の企業に承継する方法で、『吸収分割』と『新設分割』があります。前者は買い手企業へ事業の権利を包括的に移すやり方で、後者は新しく設立した企業に包括的に権利を移します。

『吸収分割』の場合、事業を承継する企業が、見返りとして株式または金銭をもとの会社に渡します。一方『新設分割』は、株式の発行により対価を支払う仕組みです。

株式を対価にする場合は、子会社化やグループ企業同士の事業承継を目的としているケースが多くなります。事業の一部を他社に売却する際には、金銭でやり取りされるのが一般的です。

 組織再編行為の「会社分割」とは?吸収分割や新設分割を行うケース
用語説明
組織再編行為の「会社分割」とは?吸収分割や新設分割を行うケース

『会社分割』は、会社の事業構造を大きく変える際に用いられる『組織再編行為』の一種です。吸収分割と新設分割の2種類があり、活用に適したシチュエーションが異なります。事業譲渡との違いや会社分割にあたっての注意点を解説します。

各スキームの方法と手順

買収の代表的なスキームである『株式取得』『事業譲渡』『会社分割』について、それぞれの手順を簡単に解説します。概要と具体的な手続きを理解した上で、最適なスキームを選択しましょう。

株式取得の手続き

買収する企業の株式を取得する場合、上場企業か非上場企業かによって方法が異なります。

上場企業の場合

上場企業であれば株式は公開されているので、売り手と買い手の双方の合意で買収が実行される場合は、『TOB(株式公開買い付け)』が主に利用されます

上場企業の一般的な株式取得の手続き

TOBでは、買収先の企業の株式を保有している株主に対し、買い付けの期間や株式数、価格などを告知し、売却を呼びかけます。株式を売却してもよいと考える株主は、証券取引所を通さずに買い手企業に株式を売却します。具体的な流れは以下を参考にしましょう。

 敵対的買収の方法。目指す株式の保有割合、TOBの流れなど
手法
敵対的買収の方法。目指す株式の保有割合、TOBの流れなど

当事者の合意なしで行われる『敵対的買収』は、株式公開買付(TOB)によって行われます。発行済み株式の何割を取得すれば、企業買収が成立するのでしょうか?TOBの流れや敵対的買収のリスクについても解説します。

非上場企業の場合

一方、非上場企業は株式譲渡の手続きを経るのが一般的で、多くの非上場企業では、主に譲渡制限の付いた株式を買い手企業に譲渡します。譲渡制限を付ける理由は、株式が予期せぬ相手に保有される事態を避け、経営権の分裂を防ぐためです。

非上場企業の一般的な株式取得の手続き

譲渡の手順としては、まず事業を譲渡する非上場企業のオーナーが、株主総会や取締役会に対して株式譲渡承認請求を行います。

請求が承認されると、株式の譲渡人と譲受人である買い手企業との間で株式譲渡契約が締結されます。その後、株主の名義が買い手企業に変更されると、譲渡手続きは完了です。

 株式譲渡とは?メリットデメリットから手続きのポイントまで紹介
手法
株式譲渡とは?メリットデメリットから手続きのポイントまで紹介

株式譲渡は中小企業のM&Aで多く用いられる手法です。手続き後は会社の経営権が買い手側に移りますが、会社自体は存続します。買い手と売り手にはどんなメリット・デメリットがあるのでしょうか?手続きの流れや譲渡所得税の計算方法も解説します。

事業譲渡の手続き

事業譲渡の大まかな流れは、株式譲渡と大きく変わりません。候補先のリストを元に条件を絞り込み、相手先を選定するところからスタートします。

買収したい企業が決まった後は、当事者同士で面談をして、事業譲渡の範囲や価格を定めた『基本合意書』を締結する流れです。

ただし、一切の権利義務を包括的に譲り受ける株式譲渡とは異なり、事業譲渡は『個別承継』です。引継ぐ債権や債務が選択できる分、事前調査は入念に行う必要があるでしょう。その後、取締役会の決議などを経て譲渡契約を結びます。

会社分割の手続き

会社分割の場合、まずは分割される企業と事業を承継する企業とで、分割契約を結ぶ必要があります。取締役会を設置している場合は、事前に承認を得ておかなければいけません。

分割契約の内容としては、分割資産や債務、雇用契約などの権利義務関係や、承継する株式、効力の発生日などです。その後、取締役会の決議や株主総会の特別決議を経る必要があります。債権者から異議申し立てがあった場合の対応も求められます。

会社分割の仕組みや押さえておくべきポイントに関しては、以下の記事でも解説しています。こちらを参考にしてください。

 組織再編行為の「会社分割」とは?吸収分割や新設分割を行うケース
手法
組織再編行為の「会社分割」とは?吸収分割や新設分割を行うケース

『会社分割』は、会社の事業構造を大きく変える際に用いられる『組織再編行為』の一種です。吸収分割と新設分割の2種類があり、活用に適したシチュエーションが異なります。事業譲渡との違いや会社分割にあたっての注意点を解説します。

買収にかかる費用の相場

企業の買収にかかる費用は、相手企業の価値によって大きく変わります。大まかな費用を把握するために、買収価格の決まり方や、買収の手続きにかかる費用について知っておきましょう。

買収価格はどう決まる?

買収価格はデュー・デリジェンスと企業価値評価、売り手との交渉を基に具体的な価格が決められます。買収価格を算定する方法として、主に『インカム・アプローチ』『コスト・アプローチ』『マーケット・アプローチ』の三つが有名です。

  • インカム・アプローチ:買収事業の将来的な収益を予測する方法
  • コスト・アプローチ:貸借対照表の純資産の項目を基準にする方法
  • マーケット・アプローチ:類似企業の市場価格などと比較する方法

これらのうち、中小企業の場合は、大まかな相場の計算にコストアプローチが用いられるのが一般的です。例えば、対象企業の時価純資産額に、過去2~3年間の営業利益の平均額を合わせた式で計算されます。

 M&Aの価格の相場はいくら?一般的な評価方法や価値を決める要素
具体的事例
M&Aの価格の相場はいくら?一般的な評価方法や価値を決める要素

M&Aの成約価格の相場は、業種や規模によって異なります。価格はどのように決まるのでしょうか?中小企業のM&A価格を決める際、参考として用いられる算出方法や、価格を左右する要素を確認しましょう。買収の可否の判断に役立つ指標も紹介します。

買収の手続きにかかる費用は?

買収手続きには上記の事業評価額に加えて、以下のように買収に関わる人の人件費や仲介業者、アドバイザーへの手数料や報酬、税金などがかかります。

  • デュー・デリジェンスの費用:小規模な企業買収案件で50万~300万円程度
  • 仲介業者に支払う手数料やアドバイザリー費用など:業者によって異なる
  • 税金:株式譲渡の場合は買い手はなし、売り手は譲渡所得の20.315%(所得税および復興特別所得税が15.315%・住民税が5%)、事業譲渡の場合は消費税10%(譲渡側は法人税)
  • 事業譲渡の場合は買い手は消費税10%(売り手を通じて納税するのが一般的)、売り手は法人税を支払う※税率は法人区分や所得によって変動

M&Aの仲介業者に支払う各種手数料や報酬は業者によって異なり、成功報酬は取引金額に応じて計算されます(レーマン方式)。手続きにかかる費用を全て合わせると、数百万円から数千万円の費用がかかるでしょう

なお株式譲渡の場合、事業の譲渡側は株券の発行費用がかかる場合もあります。

 M&Aで発生する手数料はいくら?買収コストに含めて予算を考えよう
具体的事例
M&Aで発生する手数料はいくら?買収コストに含めて予算を考えよう

M&Aの費用において大きな部分を占めるのが、M&A仲介会社への手数料とデュー・デリジェンス費用です。案件探しから成約までには、どれほどのコストがかかるのでしょうか?手数料を買収コストに含める重要性や、税務上の取り扱いについても解説します。

買収を成功させるためのポイント

買収を成功させるには事前準備が欠かせません。どの企業をどの程度の価格で買い取るのかはもちろん、経営陣同士の話し合いにも時間をかけましょう。企業価値の評価を誤ると、思ったような結果が出ないこともあります。

M&A戦略の明確化

買収の目的を明確にした上で、M&Aの戦略を構築する必要があります。利益を増やしたいのか、経営リスクの分散を考えているのかなどによって、買収すべき企業やそのためのコストが変わるのは当然です。

自社の事業戦略との整合性を前提として、買収によって具体的に何を得るのか、どの程度コストがかかり、そのための予算はどれぐらい用意できるかなどを明らかにして、M&Aの戦略を策定しましょう。入念な市場調査も欠かせません。

買収すれば、企業は自ずと成長するという考え方ではなく、戦略に基づいて慎重に買収する企業を選定する必要があります。

トップ同士の面談をしっかり行う

買収を行う前には、基本的に経営陣同士の面談の場が設けられます。敵対的買収では話し合いが行われないケースもありますが、基本的に面談の時間は長く取り、お互いの考え方や将来のビジョンなどを確認しましょう。

買収の成否は面談時の交渉によっても変わってきます。うまく交渉すれば、買収にかかるコストの節約も可能です。買収後のトラブルや人材の流出も避けられるでしょう。

面談や交渉では、真摯かつ誠実な態度が求められます。条件のすり合わせだけでは同意が得られない可能性も考慮し、相手とよい関係を築きたいという気持ちを持つことが大事です。

買収企業の価値評価は正確に

企業の価値評価を誤ると、買収後のトラブルや損失につながります。単に帳簿を眺めるだけでは、隠れた債務や将来起こりうるリスクに気づけない可能性があるので、不明点や疑問点はしっかりと確認することが大事です。

相手の説明に明確な根拠はあるか、データの裏付けはあるかを確認し、トラブルの兆候がないか見極めましょう。面談や買収手続きを通して、相手の企業を深く知ることが、正しい価値の把握につながります。

買収後のPMIにも注力する

事業譲渡後の統合プロセス(PMI)にも注力しなければ、結局は買収が失敗に終わってしまう可能性が高くなります。クロージング後に慌てて統合計画を策定するのではなく、基本合意書を締結する前後から、ある程度はPMIの指針を決めておきましょう。

PMIはまず、買収した事業をどれぐらいの期間で既存事業に統合するのか検討し、ランディング・プランを策定します。クロージング後の3~6カ月の間に達成すべきプロセスを明確にして、実行プランに落とし込みましょう。

一般的には『100日プラン』『180日プラン』といったように計画し、やるべきタスクの洗い出しと実行すべきアクションを整理します。

買収後に想定していなかった問題が発生する場合も珍しくないので、臨機応変に対応できる体制にしておくことも大事です。

買収の成功事例

企業買収に成功した事例は、有名企業から中小企業、個人事業に至るまで多くあります。ここでは、特に、買収によって販路の拡大や事業の多角化、新たな顧客の創出に成功した事例を紹介します。

また、以下の記事でも多くの成功事例を紹介しているので、こちらも参考にしてみましょう。

 M&Aの成功事例から何が学べる?共通点、戦略の重要性を確認
具体的事例
M&Aの成功事例から何が学べる?共通点、戦略の重要性を確認

M&Aに成功する企業や個人は、案件探しや交渉段階において何を重要視しているのでしょうか?実際の成功事例を見ることで、成功のヒントやリスク回避のポイントが分かります。M&Aの成功・失敗の定義についても解説します。

日本たばこ産業(JT)

日本の大手たばこメーカー『日本たばこ産業(JT)』は、1999年に米国の大手たばこメーカー『RJRI』を買収しました。目的は海外での販路を築くためです。

RJRIには、『ウィンストン』や『キャメル』など有名な銘柄がそろっており、当時77億9000万ドルで買収が実行され、JTインターナショナルとして再編されました。

当初は利益が出るまでには数年を要しましたが、明確な目的設定と綿密な計画によって、海外で幅広い販路を構築しています。

楽天

『楽天市場』をはじめ、インターネット関連事業で知られる楽天グループは、買収によって事業を拡大してきた企業です。2004年に『マイトリップ・ネット』を100%子会社化し、旅行予約サイト『楽天トラベル』に事業統合しました。

また、証券会社の『楽天証券』も、『DLJディレクトSFG証券』の買収によって生まれた事業です。2005年には『KCカード』を買収し、楽天カードの発行を開始しています。

現在では、買収で獲得した多くの事業が有名なサービスに成長しています。買収によって事業の多角化を成し遂げた成功例といえるでしょう。

クラウドサーカス

累積導入実績38,000以上のマーケティング・営業支援ツール『Cloud CIRCUS』を提供しているクラウドサーカス社では、2020年にチャットボットのサービスをM&Aによって買収し、新たにツールの提供を始めました。

これまで以上にSaaS事業への投資を加速するため、M&Aによって『Cloud CIRCUS』のサービスラインナップを増やす計画を立てており、シナジーを発揮できるツールやサービスの積極的な買収に乗り出しています。

さらにチャットボットの買収・運用に成功した後には、コロナ禍でオフライン集客の要だった展示会の出展ができない企業のために、オンライン展示会プラットフォームを買収しました。

ユーザーがゲーム感覚で展示会を巡れるサービスを提供することで、コロナ禍で売上げの低迷に悩むクライアントに対して、新規顧客の獲得の場を積極的に提供しています。

クラウドサーカスが売上ゼロのオンライン展示会プラットフォームを買収!SaaS事業を主軸とする買い手の狙いとは?
M&A・買収事例インタビュー
クラウドサーカスが売上ゼロのオンライン展示会プラットフォームを買収!SaaS事業を主軸とする買い手の狙いとは?

マーケティング領域においてクラウドツールの活用が進んでおり、事業者にとっては「顧客が求めるツールをいかに早く提供するか」が問われています。

企業買収の失敗事例も確認しておこう

買収に成功する企業がある一方で、失敗に終わるケースも少なくありません。失敗といわれた過去の買収事例も紹介します。失敗事例を知ることで、検討中の買収計画が妥当か判断する基準にもなるでしょう。

 M&Aの失敗事例からトラブル対処法を学ぶ。準備と調査の不足は禁物
具体的事例
M&Aの失敗事例からトラブル対処法を学ぶ。準備と調査の不足は禁物

日本におけるM&Aの成功率は、かなり低いとされています。M&Aの成功・失敗の定義は難しい面がありますが、想定していた効果が得られなければ、少なくとも成功したとはいえません。多くの失敗事例に触れ、トラブルやリスクを回避する方法を学びましょう。

キリンホールディングス

酒類を含む飲料メーカーの『キリンホールディングス』は、2011年にブラジルのビールメーカー『スキンカリオール』を買収しています。当時の買収価格は3,000億円です。

スキンカリオールはブラジルの大手企業として知られていましたが、その後の景気悪化を受けて業績が悪化しています。買収後に赤字が続き、海外事業としての利益はほとんどない状況です。

数年間は『ブラジルキリン』として経営を続けたものの、結局2017年にオランダの『ハイネケン』に770億円で事業を売却し、大きな損失が生まれました。買収後の予期せぬ状況の変化によって、失敗に終わってしまった事例です。

LIXIL

住宅設備メーカーのLIXILは、2014年に南アフリカの住宅関連会社『グローエ・ドーン・ウォーターテック』を買収しました。

買収自体は無事に完了したものの、グローエの子会社である『ジョウユウ』も同時に取得したLIXILは、翌年同社の不正会計によるトラブルで、大きな損害を出してしまいました。子会社の状況を正確に把握できていなかったことが原因です。

買収前に子会社を含めた企業価値の把握や、面談時の確認ができていれば防げた事例でしょう。特に海外企業の買収は失敗する可能性が高いので、関連会社を含めて徹底した事前調査が求められます。

まとめ

企業買収は新たな経営資源の獲得や組織再編など、さまざまな目的で行われます。

買収の方法は株式の取得が一般的ではあるものの、一部事業の譲渡や会社分割が実行されるケースも珍しくありません。買収およびM&Aを成功させるには、明確な目的に基づいた戦略の構築と、相手企業の価値の見極めが必要です。

また、最近ではM&Aプラットフォームの台頭により、仲介会社やM&Aアドバイザーを通さず、M&Aを希望する会社が自ら主体的にM&Aを進める事例が増えています。今までは数百万円から数千万円ほど、かかっていた高額な手数料を支払わなくてもよいのが魅力です。

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