2022-03-01

クラウドサーカスが売上ゼロのオンライン展示会プラットフォームを買収!SaaS事業を主軸とする買い手の狙いとは?

買い手(法人):クラウドサーカス株式会社

<東証一部上場企業グループの事業拡大を目指したM&A・買収事例>

 

マーケティング領域においてクラウドツールの活用が進んでおり、事業者にとっては「顧客が求めるツールをいかに早く提供するか」が問われています。

今回ご紹介するクラウドサーカス株式会社は、東証一部上場のスターティアホールディングスのグループ会社であり、デジタルマーケティングツールの「Cloud CIRCUS(クラウドサーカス)」を提供する企業です。今回オンライン展示会プラットフォームのM&Aに成功しました。

グループ全体のM&A戦略や買収によって見込めるメリットなどについて、クラウドサーカスの代表取締役CEO兼スターティアホールディングス株式会社 取締役・北村健一さんにお話を伺いました。



(クラウドサーカス代表の北村さん)

【デジタルマーケSaaS事業のサービスラインナップを充実させる!】

- まずは、貴社のM&A戦略について教えてください。
当社はスターティアホールディングスのグループ会社であり、デジタルマーケティングSaaSツールの「Cloud CIRCUS(クラウドサーカス)」を提供しています。「Cloud CIRCUS」は、「新規顧客を増やしたい」「顧客情報・名刺データを管理したい「WebサイトやSNSから集客を伸ばしたい」といったお客様のニーズに合わせ、MAツール、CMS、ARなど計10個のSaaSツールを自由に組み合わせて利用することができます。

これまではサービスのほとんどをゼロから自社で構築してきましたが、2020年に初めてチャットボットのサービスをM&Aによって買収し、「Cloud CIRCUS」の中に組み込んで提供しました。

M&Aにチャレンジしたのは、グループの中期経営計画でSaaS事業への大きな投資を決断したからです。これまで通り開発や広告宣伝に投資することはもちろん、時間を買ってスピーディーに事業を加速させていくためにも、M&Aも活用しながら「Cloud CIRCUS」のサービスラインナップを増やしていこうとしていました。

- チャットボットのM&Aに成功したことも、今回のM&Aへの後押しになったのでしょうか。
はい。チャットボットのM&Aによって、すでに出来上がったプロダクトと連携してスピーディーにサービスラインナップを増やせる点や、プロダクトに知見を持つ技術者と協業することで社内にノウハウを増やせる点がメリットだと実感しました。

そのため、今後もデジタルマーケティングに関連するクラウドサービスで「Cloud CIRCUS」とのシナジーが見込めるものであればM&Aを進めていこうとしていました。親会社であるスターティアホールディングスの社長室と当社内の両方で、M&Aに適した案件がないか日々情報収集を行っていたのです。

ちなみに、今回TRANBIを利用したのは仲介会社を通さない中小規模の案件を探していたためです。M&Aというと金額がとても高額であるイメージですが、TRANBIには検討しやすい価格帯の案件が予想以上にありました。



(クラウドサーカス様の提供サービス)

【売上ゼロは問題ナシ!自社開発コストと比較して「買うべき」と判断】

- なぜ「オンライン展示会プラットフォーム」の検討に至ったのでしょうか。
実は、もともと社内でオンライン展示会プラットフォーム構築事業を始めていたんです。

というのも、「Cloud CIRCUS」ではMAツールなど、既存のリードに対してナーチャリングを行って見込み度合いを上げるツールを提供しています。しかし、その前提としてはもちろん新規リードの集客が必要です。

当社のMAツールのメインユーザーである製造業や卸売業のお客様は、オンラインとオフライン両方の手法を用いて集客をされていました。しかし、コロナ禍でオフライン集客の柱である展示会出展ができなくなってしまったのです。

こうした背景から、「オンラインでの展示会開催・出展」に興味を持つ企業様が増え、問い合わせも多く入ってきていました。当社でもCMSを活用して、オンライン展示会プラットフォームを1社ごとに制作・構築して納品する事業を開始していました。

しかし、1社ごとの構築・カスタマイズが必要なため、どうしても初期費用が高くなってしまいます。そのため、興味があっても投資を行うことが難しいお客様もいました。もっと手軽な金額でオンライン展示会プラットフォームをお客様に提供し、広く使っていただくことはできないかと考えていたのです。

そのようなタイミングで、今回のオンライン展示会プラットフォームの案件に出会いました。CMSで、かつオンライン展示会に特化した機能が組み込まれたツールだったため、お客様が求めていて、かつ当社が提供したいものにマッチすると思い、買い申し込みを行いました。

- あらためて、「オンライン展示会プラットフォーム」がどのようなものかを教えていただけますか。
オンライン上で展示会のような場を設けることのできるサービスです。オフラインの展示会と同じようにブースを複数出すことが可能で、各ブース内で動画を配信したりドキュメント類を展示したりすることもできます

今回購入したサービスのウリは、オンライン展示会に訪れたユーザーが、ゲーム感覚で展示会を巡れる点です。マウス操作によって移動しながら各ブースを覗ける感覚を味わえたり、興味のあるものには「いいね」ボタンを押せたりするので、活気ある展示会が演出できます。

オンライン展示会プラットフォームは、オフラインの展示会と比べると、「訪問者の反応がわかりづらく、殺風景である」と言われがちです。そうしたオンライン展示会特有の課題も、ある程度解決できるサービスだという印象を持ちました。

- そうしたウリにも惹かれて、買い申し込みを決断されたのですね。
他のサービスにはない特徴が面白いと思ったのと、必要十分な機能が盛り込まれていたからです。

また、希望譲渡金額は3,000~5,000万円でしたが、決して高くはないと思いました。実は、今回買ったプロダクトの売上はほぼゼロでした。ただ、当社の目的はプロダクトそのものとプロダクト責任者を務めるPMの方の知見を得ることだったため、売上は気にしていませんでした。いいプロダクトを広める、SaaSの拡販力には自信もありましたから。

また、今回のオンライン展示会プラットフォームと同じものを、もし当社内で作った場合に掛かる工数やコストと比較すると、譲渡希望金額は非常に割安であると判断したのです。

技術的に特別難しいわけではないので、リソースを割き、時間を掛けたなら同じものを作ることは可能です。ただ、このプロダクトを買収することでリリースまでの時間を短縮できますし、PMを別のプロジェクトにアサインして他の開発を進めることもできると思いました。



(オンライン展示会プラットフォーム①)

【ライバルの情報を引き出し、交渉戦略を練った】

- 交渉の中では、どのような点を重視して確認されましたか。
まずは、プロダクト開発を主導したPMの方のスキル面です。今回のM&Aに限りませんが、当社はただプロダクトを買うだけではなく、技術を持った方の知見を得たいという思いがあります。M&A決定後の一定期間、PMの方にプロジェクトを主導していただくことは必須条件でした。

今回のケースでは、売り手企業の代表者様がPMを務めていたため、プロダクト開発の過程を説明していただいたり、「なぜこの機能を搭載したのか」といった細かい質問を重ねたりしながら、技術力や技術者としての姿勢を確認させていただきました。その結果、この方と一緒にプロジェクトを進めていきたいと思ったのです。

もちろん、「しばらくはプロジェクトに参画いただくことが可能か」の意思確認も改めて行い、業務委託契約でPMとして入っていただくことが決まりました。

その他デューデリジェンスにおいて重視したのは、主に権利関係の部分です。オフショアで開発を行っていたので、ソースコードの著作権の確認などを行い、リスクがないかを洗い出しました。

- どのような戦略で、交渉に臨みましたか。
営業活動と同じように、M&Aも現状や競合の状況、買い手様の選定ポイントを知らないことには、有効な打ち手や戦略を考えることができません。

当社以外にもう1社買い手候補となっている企業がいると聞いたため、ライバルの企業概要や提示額、交渉スケジュールについて売り手様にヒアリングを行いました。さらに、「提示金額が同等な場合には、どのような要素を優先順位の上位に据えて選定するのか」や「現段階ではどちらが優勢なのか、その理由は何か」なども伺いました。

仲介会社が間にいたら、こうした質問をストレートに聞きやすいものですが、今回は仲介会社なしでの交渉だったため、最初はどこまで聞いていいものか迷いました。結果的には、突っ込んでいろいろ聞いてみたのですが、売り手様は丁寧に教えてくれたのでよかったです。

- どのような点を評価されて、売り手様から選ばれたと思われますか。
まず、期日を守って交渉をスムーズに進めた点を評価していただきました。また、ライバルはまったく別業種の企業で、「このM&Aを機に新しくITに参入しよう」という狙いだったようです。彼らに比べると、当社の方がSaaSの拡販に長けている点に対しても、信頼を置いていただけたのかなと。

売り手様は、プロダクトをリリースできたものの、資金がショートしてしまって販売強化に充てられず、今回の売却に至った背景がありました。「プロダクトが他の企業に渡ることで、多くの企業に活用いただけるならうれしい」とおっしゃっていたので、当社の実績やノウハウを評価いただけたのだと思います。

- 交渉を振り返ってみての感想はいかがですか。
仲介会社さんなしでのM&Aの交渉はかなり大変ではと思っていましたが、意外と自分たちだけでもできるものだという感想を持ちました。仲介会社さんの手数料は安くはないので、今回のように仲介会社を使わずにスムーズにM&Aを進められるなら、今後のM&Aのハードルも下がるなと。

ただ、これが初めてのM&Aなら難しかったかもしれません。過去に、仲介会社さんを介したM&Aの経験があったからこそ、そこで得た知見を生かしてスムーズに進められたのだと思います。

また、コロナ禍のため交渉はすべてリモートで行ったのですが、M&Aさえもリモートで完結できる時代なんだと驚きました。



(オンライン展示会プラットフォーム②)

【いいプロダクトとPMを探して今後もM&Aを進めたい】

- M&Aが成立して、現在はどのようなフェーズですか。
オンライン展示会プラットフォームを、当社のMAツールと連携させるための開発を行っています。連携後、プロダクト名やロゴをリニューアルしてリリースを行う予定で、今のところ開発はスケジュール通りに進んでいます。

無事リリースできれば、新規リード獲得からナーチャリングまで一気通貫で支援できるサービスを提供できるようになるので、お客様に喜んでいただけると思います。

- オンライン展示会プラットフォームは、どのような戦略で販売を行う予定ですか。
3つのプランで提供しようと考えています。

1つ目が「クラウドサーカスが運営する展示会にブースを出したい」企業様向けのプラン。2つ目が「自社で展示会を主催して、ブース出展企業を集めてビジネスがしたい」企業様向けのプラン。そして3つ目が「自社だけの展示会を開きたい」企業様向けのプランです。

2つ目のプランは、地方の印刷会社様などがターゲットになります。なぜなら、オフラインの展示会がなくなったことで、展示会運営支援やカタログ印刷等の協力をしていた印刷会社様の事業も縮小してしまっているからです。

ただ、印刷会社様は多くの企業様との繋がりをお持ちなので、オンライン展示会を主催する側に回ることで、新たなビジネスモデルを作れるのではと思うのです。このように、展示会プラットフォームは、多業種の企業にさまざまな用途で活用いただけます。

- 業務委託でPMを務められている売り手様には、どのような期待を寄せていますか。
まずはプロダクト開発の知見を生かして、既存プラットフォームとの連携のための開発を主導していただければと。そして、もう1つはエンジニアメンバーの育成です。PMの方も、いずれ別の事業を始められたり違うお仕事に移られたりするかもしれないので、次期PM候補のメンバーへノウハウを共有しながら、バックアップしてほしいと期待しています。

- 最後に、貴社のビジョンを教えてください。
クラウドサーカスでは、「世界標準のマーケティングエコシステム」をビジョンに掲げ、「世界に通用するエコシステムを作り出すことでマーケティングのあり方を変革したい」との思いから、さまざまな人やプロダクトとオープンに連携しながら「Cloud CIRCUS」を作り上げ、広めていきたいと考えています。

今回の売り手様も、「中小企業向けにサービスを展開して、中小企業の悩みを解決したかった」とおっしゃっていました。実は、小規模なスタートアップには中小企業向けのマーケティングツールを提供しているところが多くあります。一方で、開発やマーケティング・販促に大規模な投資をしている企業は国内にあまりないのが現状です。

その結果、市場で目立つ製品は、大きな開発費や広告費が投下された大企業向けのツールばかりとなり、価格が高かったり、機能が複雑だったりと、中小企業が手を出しにくい課題があるんです。

そんな中で、われわれは中小企業にマッチしたサービスの開発や宣伝に本気で投資して、広めていこうと意気込んでいます。もし今回の売り手様のように、「いいプロダクトを作ったものの、販促面で悩んでいる」という企業様がいれば、「Cloud CIRCUS」のプラットフォームに乗せていただくことで、より多くの中小企業に届けられる自信があります

多くの企業様と連携することで、日本の中小企業のマーケティングレベルをいくつも上げていけたらなと、また東南アジアを中心に海外展開も予定しているので、さまざまな文化圏の方に対して手軽にデジタルマーケティングが実現できる環境を提供したいなと、考えています。

***今回クラウドサーカスさまが買収した案件はこちら*****

「オンライン展示会プラットフォーム事業」

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(オンライン展示会プラットフォーム③)

 

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  • 倉本祐美加
  • ライター紹介倉本祐美加

    関西学院大学卒業後、クラウド製品を扱うIT企業のインサイドセールス職を経て2016年にライターとして独立。企業取材を中心としたインタビュー原稿の制作に従事していますが、エンタメ・スポーツ・文化等幅広く好みます。

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