2021-02-22
夏の”建設”×冬の”融雪マット” シーズン特性が生むM&Aのシナジー
買い手(法人):匿名
<中小企業の事業拡大M&A・買収事例>
道路や玄関、階段に置くだけで雪を融かす“融雪マット”。雪国の人にはおなじみのこの商品を製造する企業を購入したのは、北海道で建設会社を営むNさん。「会う前から9割がた購入を決めていた」と語りますが、電気融雪マット製造・販売事業の案件にどんな魅力を感じたのでしょうか。そこまで確信できた理由とは。M&Aのきっかけから、交渉や引き継ぎの経緯、今後の目標まで、Nさんにお話しいただきました。
【これなら本業の閑散期をカバーできる!】
- まず今回のM&Aのきっかけと経緯について教えてください。
一昨年のことでしょうか。当社は建設業を営んでおり外国人労働者を雇用していることから、当初は外国人労働者の管理組合を作りたいと思っていました。日本で働く外国人の勤務状況をチェックしたり、出入国に関する書類を作成したりといったことをするところです。
そういう思いを周りに話していたら、M&Aにくわしい不動産業を営む知人から、TRANBIにそういった組合が売りに出ているよ、と教えてもらって。それがM&Aに興味を持ったきっかけであり、TRANBIに登録したきっかけでもあります。
結局、組合を買収する計画は、コロナ禍の影響で頓挫してしまいましたが、そこからTRANBIのサイトをチェックするのが習慣になりました。今は東京2020を控えて、街の再開発が進んでおり建設業界は活況ですが、終わったらどうなるかわからない。会社としても個人としても先行き不安な状況ですので、異業種、他業種にチャレンジしたい、投資したいと思っていました。
そんななか、あるときふと目に留まったのが、今回購入した融雪マットの製造会社の売却案件でした。
- この案件のどんなところに魅力を感じましたか?
私がこの案件に感じた魅力は、次の5点です。
1 本業の閑散期をカバーできる
当社は新築の建物をつくる事業が中心ですが、北海道という土地柄、冬は雪があるので、2月、3月は、当社で抱える職人の仕事を確保することが難しい。そこで冬に需要のある融雪マットの製造なら、手の空いた職人の冬の仕事としてぴったりではないかと思ったのです。
2 金額が手ごろ
300万円と金額が手ごろなことも大きかったですね。これなら失敗しても許容できる範囲です。初めてのM&Aで、右も左もわからないので、安く買えるにこしたことはないと思っていましたから。
3 商品になじみがある
融雪マットは雪のない地域の人には、なじみがないかもしれませんが、雪国に住んでいる我々にとっては、非常になじみのある商品。率直に「とっつきやすかった」と言えます。
4 商品の性能が高い
こちらの商品は各種テストをクリアした性能の高いもの。他社製品に比べると、重厚感もあり、見た目だけで品質のよさが見てわかります。
5 売り上げが安定している
販路はホームページと代理店の2社だけ。その年の気象状況に左右されるとはいえ、特に営業しなくても、毎年安定した売り上げを出しています。
これらを踏まえ、私が感じたことは「伸びしろしかない」ということでした。
(※写真はイメージです)
【実際に作れるのか?まずは工場見学】
- 交渉はどのように進みましたか?
先方とお会いするまでに、私はこの事業を買おうと9割がた決めていましたが、問題は果たして、この製品を当社で作れるのかということ。技術的な問題も場所的な問題もあります。残り1割の疑問を解消するために、ともかく先方に工場を見せてほしいとお願いしました。今思うと、それが一回目の面談の申込です。
先方はこちらの申し出を快く受けてくださり、すぐに私は工場に伺いました。現地では先方の社長さん自らが工場を案内くださいました。私がチェックした点は、製造過程のほか、製造に必要な電圧や広さなどの設備、騒音や匂いの有無といったことでした。
一通り見せていただき、想像していたよりもかなりハードルが低く、これならいけると確信しました。というのも、製造には専門知識が必要なく、マニュアルは発展させがいのあるもの。一軒家があれば、できることもわかりました。その他の懸念事項もクリアでき、あとは私がいかに会社の近くで安い一軒家を借りられるかどうか。これもラッキーなことに、すぐに物件は見つかりました。
その後、交渉に入りましたが、特に苦労することなく、成約に至りました。
(※写真はイメージです)
【フットワークの軽さを評価】
- なぜ先方に選ばれたとお考えですか?
まず私がすぐに工場を見せてほしいと足を運んだことが、先方の社長さんの心に響いたようでした。社長さんは、申し込みはたくさんあったけれど、実際に来てくれたのは、私だけだったので、ぜひお願いしたいとおっしゃいました。実際に行動を起こすことで、こちらの熱意が伝わったのだろうと思います。
先程もお伝えした通り、当社は本業を補完する形で行うつもりでしたが、先方もまたそういった補完的に行う相手に売りたかったようです。先方も本業は別にあり、融雪マットは冬だけ稼働する一部門。ですから、これを本業にしたいと希望される方には「わざわざ人を雇って、通年でやる仕事ではない」とお断りされていたとか。その点、我々は空いた時期に、もともといる職人が行うので、安心されているようでした。
また当社としては、その商品の製造権を譲っていただきたかったので、本体に借金があろうと隠し負債があろうと関係ないというスタンスでした。ですから決算書の開示を求めませんでしたし、先方も本体すべての決算書を見せるつもりはないとは最初からおっしゃっていました。もし当社が決算書を見せてほしいと言えば、交渉はこれほどうまく進まなかったのかもしれません。
成約の決め手は、やはり先方の社長さんのお人柄です。社長さんは「陽気な工場のおっちゃん」という雰囲気の人。私も現場上がりなので、初対面から親しみを感じました。もちろん20歳も年上のかたなので、身なりや言葉遣いなど、失礼のないように気をつけました。ただ気が合ったというと大げさかもしれませんが、すごく話しやすい、性格が合う、といった感じは初対面のときからありましたね。
残念ながらコロナ禍で飲みに行くことはできませんでしたが、飲みに行けば、もっと打ち解けられただろうなと思いました。
【300万円は初心者に無理のない金額】
- 300万円という金額には納得されましたか?
この300万円という金額は、特許権に対する評価ですね。この金額が妥当なのかわかりませんが、当社とのマッチングのよさを考えたら安いと思っています。
一般的に値下げ交渉は、あとから負の情報が入ってきたら行うというパターンだと思いますが、今回の場合、そういったこともなく、特に値段交渉をすることもありませんでした。
初めてM&Aに取り組む人間にとっては、入門編としてよかったのではないかと思っています。
- 現在はどのような状況ですか? 今後の見通しは?
こちらでも一軒家の工場を確保し、すべて引き継ぎ、昨年12月から製造を始めています。すでに代理店が受注しているので、急ぎ製造して、代理店に卸している状態。今年は大雪で需要が増えたので、もう少し早くから製造をスタートすればよかったかな。うれしい誤算です。
今後は私も徐々に営業して、前の会社よりも売り上げをアップさせるのが目標です。融雪マットは特に日本独自の商品のようですから、コロナの影響が落ち着いたら海外にも進出したいです。カナダに販路を持っている知り合いもいますし、海外の展示会にも出品してみたいですね。
これからは本業1本でやっていくには、なかなか難しい時代。こういった形で本業に+αできる事業があれば、どんどんM&Aを進めていくつもりです。
- お話いただき、ありがとうございました。
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ライター紹介池田純子
大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーのライター・編集者に。暮らしやお金、子育てにまつわる雑誌記事の執筆や単行本の製作に携わる。さまざまな生き方を提案するインタビューサイト「いま&ひと」を主宰。