2021-04-13

コロナ禍の飲食店M&A~ワインバル運営企業の狙いとは?

買い手(法人):株式会社フェリシダージ

<中小企業の事業拡大M&A・買収事例>

 

ワインやオリーブオイルの輸入販売を行う株式会社フェリシダージ。飲食業も手掛けており、東京・中目黒の古民家バル「Y2T STAND」では日本未進出のポルトガルワインを提供しています。

代表の吉澤さんはコロナ禍であえて、苦しいとされる飲食業(日本料理店「美酒和膳 ひがし中野しもみや」)の買収を仕掛けました。いったいどういった狙いがあったのでしょうか?描く戦略と、その戦略実現を可能にしたことについて伺ってきました。



(吉澤さんが運営する東京・中目黒の古民家バル「Y2T STAND」)

【コロナ禍は、逆境のようでM&Aのチャンス】

- まずは吉澤さんが経営されているお店について教えてください。
4年ほど前から、東京・中目黒でワインとコーヒーをウリにしたお店を開いています。ワインは、私自身がポルトガルに買い付けに行っています。駅から徒歩7分の立地であるため、ご近所にお住まいの方が常連となり、定期的にいらしてくださっています。

- どんな経緯でお店を開かれたのですか?
もともとワインの卸会社を立ち上げたのですが、ワインをたくさん売るには飲食店に卸すのがベストであるため、人脈を作ることと飲食店の仕入れ先の選定基準や発注方法を学ぶことを目的に飲食店で働き始めました。

イタリアンレストラン、オーストラリアンレストラン、フレンチレストランなど2年半掛けて5店舗でキッチンとウェイターを経験して、そこで得たスキルと知見を基に飲食店をオープンさせました。

- コロナの影響に苦しむ飲食店の声を聞く機会が多いですが、吉澤さんのお店にはどれほどの影響がありましたか?
2020年の3月と4月の売上は前年比65%減と厳しい状況でした。緊急事態宣言が明けた5月以降は少し回復したものの、冬に再度緊急事態宣言や時短要請が出てからは、また前年比40%減くらいの売上に落ち込みました

ただ、持続化給付金や家賃補助給付金、雇用調整助成金などの制度を活用して、しのぐことができています。緊急事態宣言が継続中の2020年3月現在は、ランチ営業をしつつ1日6万円の時短営業協力金を受け取っています。

- 給付金などによって資金面のメドをある程度立てられたからこそ、コロナ禍でも日本料理店のM&Aに踏み切ることができたのでしょうか?
はい、それは大きいです。また、飲食店がかなり厳しい状況だからこそ、通常よりも手軽な金額で良い案件が今この時期に出てくるのではないかと思っていて。「逆境のようでチャンスだ」と捉えていたので、M&Aのサイトで案件はずっとチェックしていました。

また、以前は業務委託契約という形でさらに複数店舗を展開していたのですが、コロナを機に直営店であるお店にのみ絞ったんです。ただ1店舗だけだとどうしても収益に限界があります。そのため、店舗を増やさなければとはずっと考えていて、M&Aを検討するようになりました。



(吉澤さんが運営する東京・中目黒の古民家バル「Y2T STAND」)

【後継者不足の案件に絞ってリサーチ!スピードと経験が評価された】

- 今回日本料理店「美酒和膳 ひがし中野しもみや」の買収ということですが、業態は絞ってM&Aを検討されていたのですか?
いえ、業態にこだわりはありませんでした。唯一見ていたのは売却理由です。オーナーが高齢で、「後継者がいない」という理由で売却を検討している案件に絞って探していました。なぜなら、営業不振を理由に売却されるお店は立地面で不利な場合が多く、売上を上げるハードルが高いことが予想されるためです。

- 予算や、他に重視された条件にはどんなものがありますか?
予算は500万円でした。事業承継の場合、敷金などを含めて500万円を越えてしまうケースが多かったので、敷金や礼金が掛からない株式譲渡の形態にこだわっていました。

あとは長い業歴があることを重視していました。今回の買収は収益基盤の拡大という目的もありますが、実は資金調達という側面もありました。新たな企業を買収すれば、その会社でも融資を受けられることが狙いです。買収した日本料理店は、売上はそこまで高くなく債務超過ではあったものの、社歴が長いため追加融資を受けられるだろうと判断しました。役員借入金が多かったので資本金に移しかえることで金融機関の印象を変えようということも視野に入れていました。

これらを買い入れの条件にしたところ、快諾いただいたので買収を決断できました。10~15件の案件を検討しましたが、話が具体的に進んだのは今回の案件だけでした。

- 追加融資を受けられるかどうかは、銀行に相談して確認されたのですか?
売り手様の代理として交渉に入っていただいた公認会計士の方には相談しましたが、銀行には相談していません。起業してから何度か融資を受けており、「どういった点を見られるか」ある程度わかっていたので、経験に基づいて準備を進めました。

- 売り手様が、吉澤さんに決められたのはどんな理由からだと思いますか?
スピードと経験だと思います。売り手様は7社ほどと交渉をしていたようですが、飲食店経営の経験を持っているのは当社だけでした。公認会計士の方も、「飲食業の経験がある方にお譲りした方が引き継ぎがスムーズにいくため手離れが良いですよ」と売り手様の背中を押してくださったようです。結果として、0円で譲渡いただくということとなりました。

- トランビに案件が掲載されたのが11月で、翌月には成約されているのを見ても、売り手様がスピードを重視されていたことがわかります。
売り手様である旦那様の体調が思わしくなく、奥様も「旦那様に付き添いたい」と思っておられたのと、万が一亡くなられた場合に必要な相続の手続きなどの都合でスピードを重視されていたんです。

- そうだったのですね。引き継ぎなどは順調に進みましたか?
はい、無事引き継ぎは終わり、2021年2月から営業を始めています。諸事情により、登記や融資の申し込みが遅れてしまったのは想定外でしたが、トラブルがあったわけではないので順次取り組んでいます。



(古民家バルで提供しているお食事)

【定番メニューを引き継ぎつつ、自分たちの色を出した店づくりを目指す】

- 店主であった旦那様のご都合もあり、レシピを直接教わることはできないと思います。オリジナルメニューを中心に提供されるのですか?
「日本酒と和食のお店」という大きなコンセプトは変えません。日本酒については、旦那様のお知り合いのツテで貴重な仕入れルートをお持ちだったので、酒蔵へ挨拶に行かせていただいて取引を続けています

食事については、珍しい卵を使った卵かけごはんや釜飯など、売れ筋メニューのレシピは紙に書いていただいたので一部引き継いでいます。一方で、新しいスタッフたちとともに新しいメニューも開発していて、お造りやおばんざいなどのメニューも充実させています。

スタッフの1人は焼き鳥屋で勤めていた者で、あまり和食を作った経験が無いため、和食店で働いた経験のある店長が指導しつつ、お店をスムーズに回す体制を整えている最中です。

- 以前のお店の常連さんに、アナウンスはしたのですか?
常連さんの名簿をいただいたので連絡はしましたし、引き継いだFacebookやInstagramのアカウントでもアナウンスをしました。ただ、これまでは旦那様のお知り合いがよく来店されていたようなんです。

つまり、当然ながらオーナーが変わることで来なくなるお客様がほとんどだと思っています。だからこそ、「来ていただけたらラッキー」くらいの心持ちで、私たちの色を積極的に出したお店をイチから作り上げようと思っています。

- オープンから1か月ほどですが、お客様の反応はいかがですか?
1万部ほどポスティングを実施した成果が実って、多くのお客様に来ていただきました。徐々にリピーターも増えてきていますし、以前のお店の常連さんも来てくださっています。

- 業態は違いますが、中目黒のお店とのシナジーを生み出すことはできそうですか?
中目黒の常連のお客様には今回の日本料理店で開催するレセプションパーティーやぶりしゃぶを堪能できるイベントに招待するなど、積極的に宣伝しています。

M&Aをしたお店が東中野にあるので、お店同士はドアtoドアで30分ほどです。1店舗目は東中野で和食を食べ、2軒目は中目黒に戻ってきてワインを飲むという使い方もしていただけるでしょうし、同じ業態では無いからこそプラスにはたらく部分もあると思っています。



(※写真はイメージです)

【役立ったのは、融資を申し込む度に身に付いたファイナンスの知識】

- 吉澤さんは今回が初めてのM&Aでしたが、事前に勉強したり誰かに話を聞いたりはしましたか?
M&Aの仲介会社に勤めている友人に決算書を見てもらって、「過去に金融面でのトラブルが無いか」や「どんなリスクがあるか」を確認してもらいました。特別気を付けることもなく、考えられるリスクも小さいとわかったため、M&Aを決断しました。

- ご友人の存在がM&Aを後押ししてくれたのですね。
サポートは大きかったですが、おそらく彼のような専門家の後押しが無くても挑戦していたと思います。リスクを背負って起業している身であるため、リスクを取ることに対する恐怖がそれほど無くて。

- M&Aへのチャレンジは初めてでありながら、交渉が非常にスムーズに進まれた印象を受けました。吉澤さんはファイナンスの知識やノウハウもお持ちのようですが、どのようにして身に付けたのですか。
独学です。ワインの卸を行う個人事業主として独立したときに、日本政策金融公庫から100万円の融資を受けました。自分の足で調べたり相談に行ったりしながら学んで融資を受けられたことで、「どんな項目を見られるのか、どんなことを聞かれるのか」を理解でき、次は法人を立ち上げる際に1500万円の創業融資を受けたんです。

そのように、学んだことを生かして挑戦してを繰り返しながら複数回の融資を受けてきました。今は、周りの経営者にもアドバイスをしています。

- 今回のM&Aでは、どんな教訓を得ましたか?
もともと個人的に大事にしていることですが、フットワーク軽く、誰よりも早く行動することが成功に繋がるんだと改めて感じました。コロナ禍という状況下でもチャレンジして、こちらの条件をしっかりと伝えた上で受け入れていただける先を見つけられてよかったです。

M&Aの進め方やノウハウはインターネットで検索すればいくらでも出てくる時代だからこそ、リスクを背負って一歩踏み出す行動力のおかげでうまく進んだのかなと思います。



(貯蔵しているワイン)

【「DASH村」のような、食を通じて人が繋がる場所をつくりたい】

- ワインバル、日本料理店と展開されていますが、今後の構想を教えてください。
まずは、今回購入した企業での追加融資を元手に4月に赤坂のダーツバーを開きます。これで3店舗目になりますが、店舗数の拡大だけを目指しているわけではありません。将来的には、もっと飲食業の原点、川でいう上流に位置づく事業を展開してみたい。実はテレビ番組『ザ!鉄腕!DASH!!』でおなじみの「DASH村のような場所をつくりたい」という夢を持っています。

田舎に土地を買い、畑やワイナリーを作って、ログハウスを建てて集落を作りたいなと。都会で働く人が休日に遊びに来たり、ワーケーションスポットとしてリモートワークをするために訪れたりできる場になればいいなと思います。クラウドファンディングで協力者を集めて、村づくりをしていくのも面白いですよね。

いずれは、そこで育てた野菜を自分のお店で提供したいですし、食を通じて楽しく生きることを実践して仲間を増やしていきたいです。自分の子どもにもそういった体験をさせてあげたいので5~6年以内に実現したいですね。

- 素敵な構想ですね。何がきっかけでそう思うようになったのですか?
独立したばかりの頃に、ポルトガルワインを飲んで感動したので、直接アポイントを取ってポルトガルのワイナリーを訪ねたんです。ワイナリーにとって私はお客様なので、すごく手厚くおもてなしをしてくれて。景色の綺麗な併設のレストランでおいしい料理と、それぞれに合うワインを出してくれました

そのとき感動して、「ワイナリーをやりたい」という気持ちが生まれたんです。また、千葉の田舎で生まれ育ったのですが、地元で農家をしている友人もいて。彼と「ワイナリーと畑が一緒にできたら面白いね」と盛り上がったこともきっかけです。

- 吉澤さんはエネルギッシュで素晴らしい行動力をお持ちですよね。なかなか一歩を踏み出せずにいる方にアドバイスするなら、どんなことを伝えますか?
私は経営者としても山あり谷ありで、人に裏切られたり、支払いに200万円足りなくて友人20人から10万円ずつ借りたりと、いろんなことがありました。でも、つらいときには必ず家族や仲間が支えてくれたんです。谷を経験しているので、好きなことをやれるだけで常に幸せだと思えるメンタルは身に付きました。毎日楽しく生きられて今はとても幸せです。

だから、「お金が無くなっても、事業に失敗しても死ぬことはない。それに、きっと周りの誰かが助けてくれる」と思うことができるようになって、根拠の無い自信を原動力にいろんなことに挑戦できています。失敗しても大抵のことはなんとかなるし、きっと将来笑い話にできるので、不安になりすぎず一歩を踏み出してほしいと思います。





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  • 倉本祐美加
  • ライター紹介倉本祐美加

    関西学院大学卒業後、クラウド製品を扱うIT企業のインサイドセールス職を経て2016年にライターとして独立。企業取材を中心としたインタビュー原稿の制作に従事していますが、エンタメ・スポーツ・文化等幅広く好みます。