2021-03-30

小規模保育園をM&Aで再生!IT企業が業界に吹き込む新たな風とは?

買い手(法人):株式会社Funkit

<中小企業の事業拡大M&A・買収事例>

 

コロナ禍の2020年6月、IT開発や保育事業を手掛ける㈱Funkitが、都心の企業主導型保育園を買収。すでに全国で13の保育園を運営していますが、許認可事業という性質上、「買収合意しても譲渡実行予定日が決められず苦労した」と話すのは代表の吉村勇作さん。M&A実施に至る動機から交渉、引き継ぎ、今後の展開まで、じっくりとお話を伺いました。

【得意なITで教育事業に付加価値を】

- まず御社の事業内容と、今回のM&Aの動機を教えてください。
弊社は2015年の創業から、ITの開発および人材派遣といった事業を手掛けています。主要な役員は、IT業界出身です。ITの開発については、ゲームから医療まで幅広くやってきましたが、我々が得意としているのは、ITを活かしたコミュニケーションです。これを教育分野にも活かしたくて、3年前に保育事業に参入しました。現在、関東で8園、全国で13園を運営しています。

- ITでどんなコミュニケーションをとっているのですか?
保育園での具体的なITの活用として、2つの方向性があります。 ひとつは園児向けのサービスであり、副次的な効果として保育士の支援につながる活用です。各保育室にはキュリオススクリーンと呼ばれる壁一面にうつる、大きなプロジェクターを置き、水族館の映像に園児の描いた絵を泳がせたり、道路の画像から標識を当てるといったゲームをしたり……。節分のイベントでは、鬼をプロジェクターでうつして豆まきをするといったこともしています。

プロジェクターをうまく使うことで、園児の認知力を高めるのはもちろん、人の役割を担わせることができるので保育士の負担軽減にも役立っています。

また宮崎県の保育園では英語の講師を2人採用していますので、その人材を活かすために東京の保育園にてリモートで英語のレッスンも実施しています。このような教育要素を付加価値として保育園で提供することで、子どもを塾に連れていく時間のない家庭や、お金をかけられない家庭でも平等に教育を受けることができるだろうと思います。

- すごいですね!最先端の教育のように思えます。もうひとつはどんなコミュニケーションなのでしょうか?
もうひとつは保護者向けのものです。我々は、これまでの保育事業での経験を元に、2020年3月に保育園で使うソフトウエア「CURIO」を開発しました。

子どものその日の様子や成長の記録、連絡帳をすべてアプリ上でできるシステムで、こちらは他社の保育園にも提供しています。

例えば、園と保護者をつなぐ連絡帳ひとつとっても、紙に文章で記載する、という方法が、スマホから写真付きで確認できる様になったことで、「園での笑顔が見れて安心しました。」「旦那が連絡帳を見るようになりました。」といった声を多く頂くことが出来ました。保育士の負担の大きい各種書類作成時間も大幅に削減しています。

また、現在、大手キャリアと提携し、子どもの睡眠中の向きなどをAIで判定し、SIDS(シズ:乳幼児突然死症候群)のリスクを低減させる為の研究なども実施しております。

こうした保育事業をさらに広げていきたいというのが、今回のM&Aの大きな動機です。ただ、保育以外にもITを活用して業績を改善できる余地がある業種なども視野に入れて、M&Aの案件を検討していました。

業績が悪化している事業であっても、弊社の強みを活かして黒字化できるイメージが持てるなら積極的に行いたいという考えをもっています。



(壁に移る水族館に子供たちが描いた絵が泳ぐ仕組みを開発)

【異業種参入で急増した“事業効率の良くない”保育園を獲得】

- その中で、今回こちらの保育園の買収に踏み切ったのはなぜでしょうか。
このたび譲渡を受けた保育園は、主たる事業を持つ異業種の企業が始めた、「企業主導型保育園」です。企業主導型保育園とは、2016年度に内閣府が創設した「企業主導型保育事業」を活用し、企業が運営する保育園のこと。認可保育園同等の助成金が受けられ、応募資格が広範囲であった為、異業種からの参入が活発に行われました

しかし保育園を経営するには一定の規模が必要であると考えます。

小規模保育園をひとつのみ経営する場合、「運営基準は認可園と同等であり、利益が固定的であること」「認可保育園と比べ、採用難易度が高いこと」「シフトを考慮し、余裕をもった従事者が必要であること」等から、想定よりも採算性がわるい。こちらの保育園も定員13名という規模で、高品位な保育を推進しながらも、効率的な運営が難しい状態でした。実際、最初に売り手さんとお話ししたときにも、管理や書類作成にかかる時間も膨大で苦労されているとおっしゃっていましたね。

弊社としては、小規模で参入したけれども経営効率が上がらず、困っている保育園を買収していきたいと考えています。すでに13園の保育園を運営していますので、1園増えても販管費は抑えられます。採用や給与計算、行政への報告といった作業も本社で一括して行いますので、現場の負担も低減します

さらに今回の保育園に関しては、既存の保育スタッフの通勤圏にありますので、スタッフのヘルプも出しやすいですし、異動もしやすいというメリットも考えられました。

今すぐの黒字化は難しくても、長い目で見ればシナジー効果が見込めると判断し、買収に踏み切ったわけです。



(子供たちのその日の様子や成長の過程がわかるアプリ)

【許認可ビジネスの難しさ。譲渡時期は承認次第……】

- 交渉はどのように進みましたか?
交渉はスムーズでした。売り手さんがおっしゃっていたのは、自分たちがゼロから始めて行き詰まったからこそ、保育園をしたこともない会社に売ってしまうのは、従業員に申し訳ないということ。

ですから、こちらとしては実績をお話しさせていただき、売り手さんが提示した従業員の雇用継続や正社員化といった条件に同意しました。そういった話し合いを経て、従業員にとっても、弊社がよさそうだという判断を頂くことができました。

譲渡金額としては先方ご提示の金額通りで実行が出来ました。振り返ってみると、保育スタッフ、顧客への満足度を最も期待出来たのが弊社だったのではないでしょうか。

- なにか苦労したポイントはありましたか?
交渉自体に問題はありませんでしたが、許認可付きの事業譲渡でしたので、企業主導型保育園を指導・監査をしている公益財団法人 児童育成協会から承認を頂く必要がありました。

これは絶対に知っておきたい業界のルールです。申請は数カ月に一度。その後、審査にも数カ月かかります。株式譲渡であれば手続きもシンプルなのですが、当然、売り手様は本業を継続されますので、事業譲渡の形式では難しい部分がありました。

承認が得られる確証はない、でもいざ承認されたらすぐに始めなければいけない。だからスタッフの引き継ぎなど、できる準備は万全にしておかなければいけません。事業スタートのタイミングが読めないということが、非常に大変でしたね。

- それは気が気じゃないですね(汗)
結果的に12月半ばに審査がおりて、1月からスタートOKに。その間、半月しかありませんでしたから、入念に準備しておかないと間に合わないところでした。

企業主導型保育園を作ろうと思った場合、初期工事費用に対する補助も手厚く自己負担は25%程度ですので、もしかしたら新設で作ったほうがリーズナブルかもしれません。けれども新設の場合、年に1回の申請で、工事期間もかかり……とある程度の期間は必ず掛かります。

それならば、やはりM&Aのほうがスピード感をもって進めることができます。しかも、こういった協会の審査が厳しい分、買い手としての実績があるので一定の安心感を持って頂ける、ともいえます。



(今回の買い手である吉村さん)

【目標は事業ドメイン毎に年商20億円】

- 実際に引き継いで、スタッフの方の反応は
スタッフの方たちの引き継ぎについては、一人ひとりと約30分の面談を2、3回行い、弊社の説明や労働契約の内容、スケジュールについて話し合いました。ほとんどの方に転籍して頂けましたので、それほど大きな問題はなかったように思います。

実は保育士というのは、園内装飾を家で作ったり、イベント前は夜遅くまで準備したり、ブラックな働き方が、「こどものため」というひと言で正当化されている様な現場も残っています。IT業界はブラックなイメージがこれまで先行していたので、働き方への様々な配慮が根付いていて、現在ではかなりクリーンな環境が整ってきているといえます。

冒頭でお伝えした通り、弊社の経営陣はIT出身者が多く、何が正しくて何がダメかというビジネス的な感覚値も備わっているので、そういった保育士のコンプライアンスに関してもしっかりと対応できています。弊社自体も100人を超える保育スタッフがいて、うち現在20%が育児休暇取得中なのですが、それでも、きちんと仕事がまわる体制を整えています。働きやすい環境づくりは最も大切に考えています。

- 保護者の方への説明などでの反応はいかがでしょうか?
保護者の方にも経営が変わるといった説明会を行いましたが、逆に現場にソフトウエアが導入されることを喜んでいただいています。連絡帳がスマホでできるんですね、他にもこういうこともできますか、こんな機能もつけてください、と意見も活発に出てきました。

- コロナ禍の影響はありましたか?
コロナ禍の影響は、正直ありましたね。今回買収したのは2020年6月でしたが、企業主導型保育園は認可外ですから、行政が園児を割り当てる認可と違って、自力で集客しなければいけません。例年、5月、6月、7月と園児は増えていく時期ですが、2020年はコロナ禍でしたので、新規のお申し込みが増えず思うように集客できませんでした。

ただ、休園などに対する保証は手厚くありましたので、その点については恵まれていましたね。

- 今後の事業展開について、どのようにお考えでしょうか?
やはり事業を安定させるには、年商20億円は達成したいですね。そのために、今後も年間2、3園ずつ、M&Aで増やしていけたらと考えています。

弊社は「子育てをワクワク楽しいものに」という目標がありますから、今後も保護者の方への付加価値を増やしていくつもりです。

「子育てアプリ」の分野については、正直、マネタイズが難しく、しっかりと作り込まれたアプリが見当たりません。保育という実業を元に、もっと子育てをわくわく楽しんで頂けるようなアプリを展開していきたいと考えています。

たとえば食育面。私自身、子どもがいますが、世の中の親たちは、子どもがどのぐらいの月齢で、どういう食材をあげればいいか、どういった栄養が必要かといったことを情報収集しながら頑張っています。そんな親たちがもっと楽しく、合理的に子どもの食事を考えられる様な機能などを盛り込む予定です。

また子どもが遊びながら学べるエデュテイメントといったところも、しっかりと確立させて、デジタル化を広く普及させていきたいですね。

- 今後、M&Aに挑戦する人にアドバイスをお願いします。
まず実際に会って話してみないとわからないことも多いので、積極的に会われることをおすすめします。私の場合、10社申し込んで、2、3社お会いできればいいなと思っています。

そして、具体的な段階では、相手方の歴史や今に至った経緯などをきちんと理解して、未来型だけではなく、企業文化も併せて継承していくという感覚を持つことが大切なのではないでしょうか。単に、これからはこうしたい、という話だけをしてもうまくいきません。相手を理解して、企業文化を含めて継承したうえで、事業シナジーを発揮することで経営改善を行う、という姿勢が重要だと考えます。





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  • 池田純子)
  • ライター紹介池田純子

    大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーのライター・編集者に。暮らしやお金、子育てにまつわる雑誌記事の執筆や単行本の製作に携わる。さまざまな生き方を提案するインタビューサイト「いま&ひと」を主宰。

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