2021-03-16

海外の大型M&Aをオンラインでほぼ完結!四国の企業がマレーシアの大手人材派遣会社を買収

買:アビリティーセンター

<中小企業の事業拡大M&A・買収事例>

 

四国に根付いた人材派遣、人材紹介業などを展開するアビリティーセンター株式会社。代表の三好輝和さんは、新規事業の立ち上げやエリア展開の必要性を感じたため2020年に初めてM&Aに挑戦し、マレーシアの大手人材派遣会社を買収しました。
「海外企業のM&Aは当初考えていませんでしたが、コロナ禍で渡航できない中でもスムーズに交渉が進み、決断することができました」と話す三好さんに、海外企業M&Aの意図や初めてのM&A決断に踏み切ることのできた理由を伺いました。

【市場の成長性が高い海外のM&A案件に着目】

- まずはアビリティーセンター株式会社の事業内容から教えてください。
1986年に労働者派遣法成立のタイミングで創業した会社で、人材派遣業からスタートしています。そしてお取引のあるお客様から社員教育を依頼されたり採用支援を求められ、ニーズに応える度に事業領域を広げていき、今では人材派遣、人材紹介、教育研修、委託請負などの事業を展開しています。

特徴は、創業以来一貫して、「四国経済の発展になくてはならない企業」、「四国の地域社会に強く必要とされる企業」を目指してきたことです。四国4県に拠点を置き、大手に劣らない総合サービス・クオリティを地域の特性に合わせて提供できることを強みとしています。

リーマンショックのときに2年ほど売上が20%下がった時期がありましたが、それ以降は堅調に推移しています。

- 取引先からはどんな点を評価されていますか?
顧客理解の深さではないでしょうか。取引年数の長いお客様も多く、お客様の会社のカラーや社員の方の特性も把握しているので、どんな依頼にもスピーディーかつ的確に応えてもらえると期待していただいているのだと思います。

地域特性に合わせた支援事例として、例えば以下のような事例があります。愛媛県のみかん農家さんは毎年収穫時期に県外から多くのアルバイトの方を集めるのですが、2020年は新型コロナウイルスの影響でその数が期待できませんでした。

そこで、取引先である農協さんと一緒にプロジェクトを立ち上げて、農家さんと県内の学生や「空いてる時間に収穫を手伝える」という方100名以上をマッチングしました。これは大手企業だと効率が悪く取り組みにくいことで、地域を重視する当社だからこそ支援できた事例だと言えます。

- 今回は、どんな経緯で初めてのM&Aに挑戦されたのですか?
まず、トランビのことは資本業務提携をされている日本経営合理化協会さんとの兼ね合いで3~4年前から知っていました。トランビの代表の方の講演を聞く機会があったからです。ただ、登録しただけで案件を探すことはしていませんでした。

というのも、私が社長に就任したのが3年前なのですが、就任時に「最初の3年間は大きな変化は起こさず、今の事業を磨くことに集中しよう」と思っていたからです。一方で、「4年目以降は新たな事業をつくりながら成長の方向性を定めよう」という構想も持っていました。

社長就任からもうすぐ3年、これからの企業成長の絵を描く中で、重要なテーマとして考えたのが新規事業の立ち上げとエリア展開です。四国だけでは成長性に限りがあるので、10年後や20年後を見据えると他のエリアへの展開を視野に入れなければいけないと思っていました。

M&Aは、その手段の一つだったんです。そのため、トランビで案件を検索したり、仲介会社から情報提供を受けたりしたのですが、一度はやめようかと....

- それはどうしてですか?
国内の案件を見ていたのですが、新規事業という軸で見ていると「すでにあるものを買うより、自分たちで立ち上げる方が成長の良い機会になる」と思ってしまったからなんです。

また、エリア拡大を検討して国内の同業の案件を見ていたのですが、当然ながらある程度の規模が大きく収益性の高い案件は高額で大手と競合になりますし、安価だけど収益性の低い案件をわざわざ買うことには魅力を感じませんでした。

- そこから一転して、M&Aに踏み切れたのはどうしてですか?
「エリアを、国内に限定する必要は無い」と気付くことができたからです。国内の他地域よりも、まだ市場が成熟していない海外の企業を買う方が面白いのではないかと思いました。

そして、トランビで「海外案件に興味がある」とチェックを入れていたところ、案件を掲載している代理人の方から「一度話してみませんか」と声を掛けていただいたのです。それが今回購入した、マレーシアで10年以上の業歴を持つ大手人材派遣会社です。最初はまさか海外企業のM&Aが成立するわけがないと思っていたのですが、あれよあれよとスムーズに話がまとまりました(笑)



(アビリティーセンターで働く方々)

【オンラインで密な交渉を実施!コロナ禍のため訪問は最終交渉の一回だけ】

- 初めてのM&Aが海外案件とはレアなケースかと思います。交渉はどのように進んでいきましたか?
コロナ禍なので、オンラインでの打ち合わせを重ねて交渉を進めていきました。まず言語に関しては、英語のリスニングはある程度できたこと、また間に入ってくれた代理人の方が通訳をしてくれたおかげで困りませんでした。

先方は当社との商談が始まる前にも数社と交渉していたそうですが、コロナの影響もあって話がまとまらなかったようで、結果的に1対1で交渉を進められた点はよかったです。私自身は逆にコロナ禍で、考えることに時間を割けるようになったことが功を奏しました。

- 「最初はM&Aが成立するわけがないと思っていた」とのことですが、どのタイミングから交渉が加速したのですか?
両者で基本合意を締結するタイミングです。締結までの期限を設けられたため、インターネットベースですがリサーチをするなど本格的に検討を始めました。リサーチを進めるほど、これは当社にとって大きなチャンスではないかと思うようになったのです。

というのも、近年資金力のある日本の大手人材会社は活発にM&Aをおこなっています。そうした活況な市場の中で、当社のような規模の会社がマレーシアの大手人材派遣会社を買うことができるチャンスは今後そうあることでは無いと思ったんです。

予算は具体的な想定金額を決めていなかったのですが、「コロナ禍でも一定の業績に落ち着いた」ことに手応えを得ているタイミングだったこと、内部留保で賄える金額感だったことから決断しました。

- マレーシアには訪問できたのですか?
最終交渉の1回だけです。本来なら、私がまず現地に行ってDDを行い、基本合意を締結する予定でしたが、コロナ禍で訪問が厳しくなってしまったので。財務DDと法務DDは現地に支店のある日系企業に依頼したのですが、その依頼も基本合意の締結も、現地に訪問することなく進めました。

少し不安もありましたが、スピード感を持って交渉できたことでM&Aが成立したと思います。

- ちなみに、マレーシアの市場はどんな特徴があるのでしょうか?
特徴的なのは、コールセンターや事務作業のBPO(Business Process Outsourcing、外部委託)サービスが発達しているところです。多言語国家でさまざまな言語を話せる方がいるため、グローバル企業のコールセンターなどが集約されています。

人材派遣市場に関してはそれほど大きくはありませんが、まだまだ市場の成長余地はあると思っています。当社の事業は、労働市場の成熟や給与水準の上昇が追い風となりえるため市場の成長性には期待しています。

あとマレーシアはビジネスにおける信用度が高いというのも後押ししました。ベトナムやミャンマーなどだった場合は、少しリスクを感じたかもしれません。



(買収したマレーシアの人材会社で働く方々)

【事業責任者と価値観やビジョンが似ていたことが買収の決め手】

- オンライン主体での海外案件の交渉は、不安が大きかったと思います。そんな中でどんな点が決め手になりましたか。
一番は、売り手の事業責任者であった当時のCOO(現CEO)とコミュニケーションを取ることができた点です。前オーナーは高齢ということもあり、実質COOが事業運営を取り仕切っていたので、「事業の理解を深めるためにもCOOと対話の機会を持ちたい」とリクエストしたのです。

通常なら、M&A成立前に雇われ社長のCOOと私の間で対話をさせることにリスクを感じ、嫌がられる可能性もありました。ただ今回は、売り手側についていた代理人が理解のある方で、うまく取り計らってもらい快諾していただきました。

COOと話す中で仕事における価値観やビジョンが似ていると感じて、彼になら任せられるし、彼となら良いパートナーシップを築いていけると確信したのでM&Aに踏み切ることができました。

- たとえば、どのような価値観が似ていたのでしょうか?
1つは、やみくもに顧客の新規開拓だけを追い求めるのではなく、「まずはサービスの質を高めて、選んでもらえる企業になろう」という価値観を持っていることです。地元密着ならではの相手に寄り添ったサービスを提供する弊社と近しい感覚を覚えました。もう1つは、社員に対する向き合い方です。

常に「社員にもっとこうしてあげたい」という気持ちを持っていらっしゃる方で、社員の誕生日には誕生日ケーキやメッセージカードを贈ったり、社員と一緒に食事に行くことを大事にしていたりといった姿勢が素敵だと思いました。

- 他に、今回のM&A成立に至った要因はありますか?
案件を紹介いただき、自分の代理人となって売り手側と交渉してくれた専門家の方の存在が大きかったです。彼は、「DDの内容のここをよく見ておいた方がいいのではないか」、「スムーズに進めるために、こうしたらどうか?」など先回りしすぎるくらい(笑)丁寧なアドバイスをしてくださり、M&Aが初めての私では気付けない細やかなところを適宜ケアしてくれました。

ほぼ毎日チャットや電話で相談に乗っていただくなど、頻度も回数も含めてかなり時間を割いてコミュニケーションを取ってくれましたし、M&A成立だけを目的とせず成立後スムーズに事業を行うための道筋を作ろうとしてくれていることが、とても伝わってきたんです。

私にとっても現地スタッフにとっても信頼を置くことのできる方なので、M&A成立後もアドバイザーとして契約を結び、PMIの支援をしていただいています。



(アビリティーセンターのオフィスの様子)

【買い手の立場で実感!会社は最終的に数字で判断される】

- 買収後、マレーシアの会社はどのように運営していますか?
オペレーションはこれまで通りCEO(前COO)に任せて、こまめにコミュニケーションを取っています。大きく経営方針やカラーを変えることはしませんが、今期はブランディングや広告、サービスの改善など新たなチャレンジに投資していく事業計画を立てています

今すぐではありませんが、ゆくゆくは日本とのシナジーも生み出していきたいです。たとえば、マレーシアの会社では給与計算の代行事業を展開しているので、日本で受けた仕事のオペレーションをマレーシアで行うことなどは実現できると思います。

コロナが落ち着いたら、2か月に1度くらいのペースでマレーシアを訪れたいです。

- 今後、御社としてはどのように事業を拡大していく構想ですか?
これからも海外に拠点を増やしていくかもしれませんが、インターナショナルな企業になるのではなく、拠点ごとに「ローカルで求められるサービスを提供する」ことにこだわりたいです。

マレーシアでも競合他社はグローバルカンパニーばかりで、今回の対象会社はローカルカンパニーの一番手のような存在です。日本でエリアを絞り、ローカル企業だからこそ追求できるサービスを大切にしてきた当社と重なります。

グローバルで均一なサービスを提供するのではなく、ローカルに根付いたサービスを各国で提供して、サービス開発のノウハウや仕組みを共有する組織にしていきたいです。ローカルサービスを追求する企業の集合体のような人材会社のグループをつくることができれば、他社との差別化にも繋がると思っています。

- 三好様にとっては初めてのM&A挑戦でしたが、どんな学びを得ましたか?
初めて責任を持って企業を評価する経験をしたことで、「企業の価値は最終的には客観的な数字で判断されること」を改めて認識しました。

どれだけ社内で優秀な社員が頑張って働こうと、オペレーションがスムーズに回っていようと、企業が評価される際に見られるのは外側に出ている数字の部分です。経営者は社員のためにも、数字で見られることを意識した経営をする責任があると実感しました。

- これからM&Aへ挑戦する方に、アドバイスをお願いします。
私は初のM&Aが海外案件という異例なケースでしたが、オーナー企業でなければここまでダイナミックな決断はできなかったかもしれません。私のようなオーナー企業の社長は思い切ったM&Aにチャレンジしやすい立場にあると思います。

地方に住んでいると、経営者の高齢化や後継者不足といった要因から廃業を選ばれる企業も身近に多いので、個人的にはM&Aでの事業承継が活発になればいいのにと感じます。交渉過程において得られる学びも多いので、M&Aに興味のある方は積極的に挑戦してみてください。





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  • 倉本祐美加
  • ライター紹介倉本祐美加

    関西学院大学卒業後、クラウド製品を扱うIT企業のインサイドセールス職を経て2016年にライターとして独立。企業取材を中心としたインタビュー原稿の制作に従事していますが、エンタメ・スポーツ・文化等幅広く好みます。