2025-04-16

M&Aは、人対人。デジタル世代のマーケのプロが大事にしたM&Aの「軸」とは?

買い手(法人):株式会社Mar-KPT


<中小企業の新規事業を目的としたM&A・買収事例>

 

インタビューを通じて、M&A交渉で佐々木さんが実践した「軸」を持つことの重要性と実務的な工夫が見えてきました。最初は広く案件を探していましたが、交渉を重ねる中で「良いものを作っているが売るのが得意でない会社」との連携という明確な軸を確立。これにより意思決定のスピードが上がり、交渉での差別化ポイントが明確に。交渉では質問をリスト化して相手の負担を減らし、対面での信頼関係構築に注力。提案はディスカッション形式で進め、相手から情報を引き出しながら共に考える姿勢を大切にしたそうです。スモールM&Aだからこそのディール成功のヒントをお伺いしました。
 

【漠然と、まずは自社の強みを活かし伸ばせる事業を探しはじめた】

- 佐々木さんは会社を経営しておられますがいつ頃からM&Aを意識し始めたのでしょうか?
確か3年くらい前だと思います。M&A自体には以前から興味がありましたが、ネットでM&A案件が載っているということを知ってTRANBIを見るようになりました。
当社が得意とするマーケティングやDXを活かし新規事業を立ち上げるという手段もありますが、M&Aではすでに仕組みができている状態でスタートできるので時間のショートカットや立ち上げリスクの軽減というメリットがあります。業種業界によっては新規参入が難しい領域もあります。それであれば、すでに良いものを作っているが売るのが得意でない会社や、ITを活用することで生産性を高められる会社と一緒にビジネス展開したら成長できるのではないか、と考えM&Aは重要だと考えていました。

- どんな案件を探していたのですか?
最初は自社のマーケティング力を活かしたら成長するだろう事業ということで広く案件を探していました。具体的に、どのエリアのどの業種というものは決めていませんでした。 しばらく案件を探していたのですが、なかなかこれといった案件に出会うことがない状態が進みました。
もちろん交渉もいくつかして、最初はどのように交渉メッセージを送るべきかなど悩みました。
 

(今回成約した佐々木さん)

【交渉で見えてきた自社の「M&Aの軸」】

- ここまでどのくらいの期間探したり、何件くらい交渉してきたのでしょうか?
探し始めてから3年、件数としては多い月で月に1〜3件ほど交渉を行いました。
交渉を入れても相手にされなかったり、返事がもらえないこともあれば、こちらから辞退することもありました。
ただ、回数を重ねていくうちに、「M&Aの軸」を持つことの重要さを強く実感しました。わかりやすく言えば「就活の軸」のイメージと似ているかもしれません。

- 佐々木さんの中のM&Aの軸はどんなものだったのでしょうか?
最初は何でも良く見えてしまいますが、交渉を繰り返す中で、当社としてどんな付加価値を提供し、M&Aに対して何を求めるのかを明確にしておくと、決断するときに意思決定のスピードが上がります。交渉においても意思決定のスピードは圧倒的な差別化ポイントになります。
当社の場合は、先ほどの内容とも重複しますが「良いものを作っているけど売るのが得意でない会社」や「ITを活用して生産性を向上できる会社」という軸を持っていました。

【誠実な売り手に対してスピード感をもち誠意ある対応】


(イメージ画像)

- この案件に決めた理由はなんだったのでしょうか?
M&Aの軸と合致したことはもちろんですが、最終的に「(買っても)大丈夫だ」と思ったのは、売り手のオーナー様がとても誠実な方だったことが大きいです。ネガティブな情報や見方によっては先方が不利になるようなことも包み隠さず話していただけました。
小規模事業の場合、大企業のような詳細なデューデリジェンスを行うのは難しいので、概ね「大丈夫そう」と判断した後の最終決断は、人による部分が大きいのだなと買収する立場になって改めて感じた次第です。

- 実際に交渉を申し込んでからの佐々木さんのアクションを教えてください。

本件は最初から実名交渉で交渉を申し込みました。相手目線でも誰かわからない買い手候補とはお話ししにくいと思っています。
何より最初から意向がある程度伝わるようにすることが大事です。TRANBIには匿名で交渉するボタンと実名で交渉するボタンがありますが、少しでも興味があり情報を得たいなら、最初から実名で交渉して本気度を伝えるべきだと思います。

自分の大事な事業を売却する立場になると、素性がわからない相手には細かい情報を出しづらいものです。本気度が伝わらないと、他の実名交渉されている方と比べて返事が返ってきづらくなります。

実名交渉のやりとりである程度の資料をいただいたのち、オンラインで30分程度の面談をし、その場で基本的な数字やビジネスモデルの概要は理解できました。その後、実態把握と本気度を伝えるために、オンライン面談から1週間後に新幹線で現地に赴きました。
個人的なポリシーですが、手土産は必ず持参するようにしています。もちろん相手にとって一大イベントなので手土産そのものが意思決定に寄与することはないですが、中小企業M&Aではやはり人対人の要素が大きいため、少しでもお互いの信頼関係構築につながる準備は行うべきだと思います。お土産自体を工夫することでアイスブレイクになり、面談が打ち解けた状態でスタートできることもありますので、これは基本的なビジネスシーンの商談と考え方は同じです。
また、その場では「こういった懸念点があるけれど、それがクリアできるなら値引き交渉もせずに提示金額で買います」と伝え、帰りの新幹線の中で基本合意書を作成し、3日後に合意締結しました。

その後のデューデリジェンス期間中はメールとzoom中心に確認事項のやり取りを行いつつ、2週間に1回くらいの頻度で2〜3回ほど対面でもお会いしました。大体1ヶ月くらいではほぼほぼM&A成約手間前まで至りました。当社側も体制面の準備等を整えたかったのもあり、譲渡契約締結からクロージングの間隔は空いてしまいましたが、実質1ヶ月くらいで話がまとまりましたね。
 

【相手に寄り添ったコミュニケーションが成功の鍵!】

- かなりスピーディーに行動されていますが、何か交渉の際に工夫されたことはありますか?
例えば交渉時に工夫したのは、質問は五月雨式に聞くのではなく、知りたいことをリストでまとめてお送りし、「現時点で用意がないものや準備に時間がかかりそうでクリティカルではないものなどは面談でお伺いさせてください」という形で、相手の負担が少なくなるよう心がけました。

あとは、できるなら少なくとも1回以上は直接売り手の方とお会いしたほうがいいと思います。先ほど毎週新幹線に乗った話をしましたが、特に現物があるビジネスなので、現地を見ることで譲渡対象資産の認識合わせもできますし、何よりも信頼関係構築においては、お互い直接顔を合わせて話す方が圧倒的に効率的だと思っています。

提案書は持って行きましたが、あえてパワーポイントを使ったかっちりしたものにはしませんでした。特に高齢の方などは、一方的に提案を聞くスタイルが苦手な方もいます。これは相手のスタイルや自分のスタイルにあわせて柔軟に変えていくのがいいと思います。

なので、ワードベースの簡単な資料ですが、思いや自分の考え、特に引き継ぎ後にどんなことをやっていきたいか?が伝わるように盛り込んだものを持参しました。その資料をベースに売り手の方とも未来に向けた会話をしました。

- ぜひ、もう少し詳しく聞かせてください。
私は「やりたいこと」を話題として持ち込み、それについて「どうですか?」という形でディスカッションベースで進めるようにしています。そうすると「やりたいけどできていないのか」「やろうとしたけど何か理由があって駄目だったのか」「やったけど結果が出ずに今は止めているのか」といった情報が深く聞けます。

いくつかのアイデアは持っていくべきですが、「これをやります」と一方的に言うと、提案のピントがずれていたときに「この人は分かっていない」となりかねません。相手の過去の取り組みを引き出しながら、一緒にディスカッションするスタイルをお勧めします。

  

(イメージ画像)

【失敗した場合の状況を冷静に分析し、不安を解消】

- リスクや不安はありませんでしたか?
もちろんM&Aはある意味大きな買い物なので、当然不安はあります。私は比較的慎重な性格なので、最悪のケースを想定したときにどれくらいの損失が最大で発生するのかを計算し、それが自分のリスク許容度の範囲内かどうかで判断しています。

例えば「毎月1億円の赤字が出る可能性がある」というケースだと、当社のリスク許容度を超えるので、魅力的な案件でもお断りします。 逆に極端なケースですが「既存事業の売上がゼロになったとしても違う形でマネタイズができたり、他の打ち手が用意できたりする」といった場合は、トライしていくという判断もありえます。

打ち手というのは、例えば在庫を現金化したときにいくらになるとか。 「事業の失敗」とはどのような状態か?失敗したらいくら損失がでるのか?などを計算してリスクを考えていました。

- このほかにM&Aをして気づいたことなどありますか?
たまたま案件のある自治体はIT企業の企業誘致に力を入れていました。そこで事業承継ではなく、そういった関連の補助金を使うことができましたね。
事業承継関連以外のものでも地域によっては補助金を使える可能性があるので、ぜひ自治体にも相談されるといいと思います。

あとはその地域の人と仲良くなることも意義があります。たまたま知り合いの知り合いなどがいて、いろんなネットワークが広がるといったメリットもあります。

- 今後佐々木さんが目指す先を教えてください!
現在は養殖事業単体で進めていますが、マネタイズポイントを増やすことも検討しています。例えば、農福連携の考え方を取り入れ、就労継続支援の一環として障がいのある方々に就労の場を提供するモデルも立ち上げ中です。 ITと福祉、そして養殖が組み合わさることで、より強固なビジネスになると期待しています。

 

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佐々木さんが運営している会社はこちら
株式会社Mar-KPT(マーケプト)

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