2024-04-02

300万円で「畑と農業のノウハウ」を獲得!M&Aを活用して異業種から農業に新規参入

買い手(法人):SAKAEホールディングス株式会社

<中小企業の新規事業を目的としたM&A・買収事例>

 

異業種から農業に参入する法人は増えていますが、今回ご紹介するSAKAEホールディングス株式会社もその一例です。

1963年に神奈川県川崎市で創立したガソリンスタンドを原点に、自動車関連事業など多角化を進め、今回300万円で農業事業を買収しました。

売り手様側が有効活用できていなかった畑と、農業のノウハウを譲り受けて、5か月の現在はまさに自分たちで試行錯誤をしている最中。

初回の収穫を終えての手応えをもとに、「いつ、何を育てて、畑の収益を安定させるか」といった計画を立てているところです。

今回はSAKAEホールディングス 代表取締役の髙橋さんに、交渉の進め方や現状、そして短期と長期のビジョンを伺いました。

【事業の多角化を進める中で、目を付けた第一次産業】

- まずは、SAKAEホールディングスの歴史や事業内容について教えてください。
1963年に、祖父が栄石油株式会社というガソリンスタンドの運営会社を立ち上げたことが始まりで、もともとは街の小さなガソリンスタンドを営んでいました。

私は継ぐつもりはなく不動産営業の仕事をしていたのですが、10年前に先代である父の急逝に伴って、急遽継ぐことになりました。

ただ、当時20代で業界素人の私から見ても「これから30~40年、ガソリンスタンド事業1本でやっていくのは現実的に難しいだろう」と感じていました。

ガソリンスタンドを本業としつつも、自動車関連を軸に事業の多角化に取り組み始め、新規事業の立ち上げやM&Aを進めてきました。そして3年前にホールディングス化して今に至ります。

私が入社した当時は社員3名の会社でしたが、今はグループ全体で110名ほどの社員がいます。また、売上も入社当時から比べると4倍ほどになっており、大きく伸ばしています。

ただ、もちろんうまくいかなかった事業もありますし、すべてが順調だったわけではありません。

新しい領域に挑戦するときには、まず事業部として立ち上げ、見込みのある事業を分社化するというプロセスを踏んでいったので、成果に繋がった事業だけが残っています。

- どのようなところに、事業の多角化のメリットを感じていますか。
そもそも多角化に踏み切ったきっかけは、ガソリンスタンドと並行してレンタカー事業を始めたことでした。今でこそ当たり前かもしれませんが、当時はまだレンタカー事業が珍しく、人材募集をかけると多くの応募が集まったのです。

実は、それまでガソリンスタンド事業での採用に苦戦していて。募集をかけても、ほとんど応募が来ない状態でした。

しかし、レンタカー事業の応募は好調で、ガソリンスタンドでアルバイト経験のある方からも何名か応募がありました。レンタカースタッフとして勤務しつつ、ガソリンスタンドも手伝ってもらうことで、人員を確保することができたのです。

こうした経験から、事業の多角化は採用にもプラス要素になると感じました。現在はさらに事業領域が広がったので、ジョブチェンジ制度なども積極的に行いながら、社員には幅広い業務を経験してもらっています。

私が会社を継いだときにいた社員はガソリンスタンド勤務歴30年を超えるベテランの方がほとんどでした。安心感はある一方、一つの領域しか知らないのでは、どうしても視野が狭くなってしまいます。

異業種から来た私は、余計にそうした危機感を感じたので、今は社員にさまざまな領域のスキルや知見を身に付けてもらっています。

- 今回M&Aをした農業領域は、貴社にとっても新しい挑戦だったかと思いますが、どんなきっかけから興味を持ち、どんな条件で案件を探していましたか。
現在、当社が展開している事業領域は、いわゆる第三次産業に偏っている状態です。他の領域への挑戦を考える中で、事業の発展性も見込める第一次産業に目を付けて、1年ほど前から機会を探っていました。

まったくの異業種で、社内にノウハウがない領域だったため、一番の軸は「ノウハウが得られ、スピーディーに新規参入ができること」でした。

エリアに関しては、当社の本社がある関東圏希望で、予算もいきなり数千万円や数億円をかけて始めるのはリスキーであるため、1000万円以内で検討していました。



(ガソリンスタンドで働く方)

【リスクを抑え安価で「畑とノウハウ」を得られる案件を】

- 今回の案件に決めたポイントを教えてください。
農業のノウハウと畑が得られることと、事業のシナジーが見込めたからです。

売り手様は現在、群馬県で農業を行っていますが、藤岡市で持っている農業事業(ノウハウと畑)を分ける形で譲っていただくことになりました。

今後の展開について話をする中で、それぞれに農業を行いつつも、協業の可能性が見込めると感じて、事業の広がりや将来性も鑑みてM&Aを決断しました。

- 単純な疑問ですが、売り手様は現在も農業を続けているということで、ライバルになることはないのでしょうか。
作っている農作物も一部は重なっていますが、ライバルになることはありません

なぜなら「A社(売り手様)から〇〇をこれだけ仕入れているので、B社(当社)からは仕入れができません」という事情になるほど、1社だけで独占的に卸先の需要を満たすことはできないからです。

- M&Aにあたって、農業法人も設立されたのですよね。
はい。SAKAEホールディングスとして事業を譲渡していただいたわけではなく、譲渡のタイミングで新しく、SAKAEホールディングス出資の子会社扱いで農業法人を設立して、事業を譲渡していただきました。

この農業法人を作る際に、農業委員会や行政の許可が必要なのですが、この許可取りがなかなか厳しくて。新規で農業を行う場合には、一定の大きさ以上の畑がないと許可がおりないといったこともあるんです。

ただ、今回は5000平米の畑を譲渡していただけるということで、スムーズに審査が通りました。M&Aを活用せずにゼロから農業を始めるとなると、すごく時間と手間が掛かっていたでしょうし、実現しなかった可能性もあるので、非常に助かりました。

- 今回購入した案件において、農業事業自体の独自性はありましたか。
事業自体の独自性は特段ありませんでした。大きな売上・利益がある事業を引き継ぐのだと高額な買収資金が必要になります。

今回はリスクを下げるため初期投資が低く抑えられる案件という視点で、安価で将来性が見込めるM&Aを選びました。

- 売り手様との交渉の過程を教えてください。
面談をしたのは1度だけです。インターネットで調べても出てこない業界の情報について尋ねたり、「本当に収益をあげられるのだろうか」といった農業法人の実態についてお話を伺いました。

結論を言うと、面談をしたからといって、100%の安心感が得られたわけではありません

とはいえ、今まで新規事業を立ち上げてきた中で、どれだけ調べたり準備をしたりしても、100%の自信や安心感は得られないと理解していたので、売り手さんの人柄や、引き継ぎやコミュニケーションがスムーズにできそうかといった点を加味して決断しました。

交渉において気を付けたことは、こちらの要件を一方的に伝えるのではなく、「先方が何を重視されていて、こちらがどこまで譲歩できるか」を意識することです。

今回は、先方が「スピーディーに事業譲渡をしたい」という要望をお持ちだったため、意識して対応しました。

売り手様は数社と面談をされたようですが、他の買い手候補の中には個人の方も多かったようです。

最終的には、交渉のスピード感と、ホールディングスですでに複数社を経営しているという安心感で当社を選んでいただき、面談から2週間経たないタイミングで事業譲渡契約を締結しました。

- 契約において、特別な条項を含めたりはしましたか。
畑の譲渡に関しては、農業委員会の審査や契約が必要です。その審査では、農業に取り組んできた実績や年数が問われます。

そのため、農業法人を作って間もない段階で申し込んだ一度目の審査で通らなければ、いったん「譲渡」ではなく「賃貸」という形で畑を借りて、実績を積んでから、また数か月後や半年後に審査を申し込む必要がありました

そうした背景があったため、「農業委員会の審査がおりるまでは賃貸として借り受ける」といった内容を事業譲渡契約書に盛り込みました。



(群馬県の畑の様子)

【育てやすさや収益性を加味して、軸となる農作物を定めている最中】

- 実際に畑を引き継いでみて、いかがですか。
最初はノウハウを教えていただいて助かりましたが、農業に取り組む中で、結局は場所や気候によっても大きく左右されてしまうため、成功するマニュアルはないと気付きました。

自分たちで調べつつ、試行錯誤しながら取り組むしかないと意識を変えることにしました。

農業に取り組み始めて5か月で、現在はほうれん草やネギを作っていますが、休耕地を中心に近隣の方から畑をほぼ無料で譲っていただいたおかげで、現在はもともとM&Aで譲り受けた畑の8倍の4ヘクタール(40000平米)にまで畑の面積が広がっているので、今後は夏野菜や大根やブロッコリー、ズッキーニなどの栽培にも取り組んでいく予定です。

農業事業のスタッフには、新たに採用した方を登用することにしたのですが、求人サイトに掲載してすぐに応募があり、スピーディーに採用できました。

- ここまで、ネギとほうれん草を栽培してみていかがですか。
ネギは可能性が見込めているので、今後も主軸の農作物として栽培していきたいなと思います。一方で、ほうれん草は来期の作付けをどうしようかと悩んでいます。

というのも、手間はそれほど掛からないものの、収益に繋がりづらく、天候などに左右されやすいからです。

また、今ちょうど収穫の時期を迎えているのですが、ほうれん草の出荷取引価格が想像より低くて驚いていて。

今は1キロ400円くらいですが、夏場は1000円近くになり、11~12月は600円ほどと、出荷取引価格が季節ごとに大きく変動するもののようです。ほうれん草は、通年ではなく季節を絞って栽培する方向性になると思います。

- 作った農作物は、決まった卸先に卸すのでしょうか。
農協を通して売らないといけない、といった決まりはないため、自分たちで卸先を開拓してもいいですし、ECで販売してもいいですし、売り手様のルートを活用させていただくこともできます。

「農家は、農協に農作物を出荷する」というイメージがあるかもしれませんが、実はそういった義務はありません。

自身で売り先を見つけられる方の中には、農協に加盟しない方もいらっしゃいます。ただ、農協は規格に合えば、時期や量を問わず必ず買い取ってくださることもあり、私たちは農協に加盟しています。

【観光農園や6次産業化など夢は広がるものの、まずは収益の安定から】

- 今後の展望を教えてください。
もともとM&Aを行う前は、「早期にECで販路拡大を行い、観光農園を開きたい」といったビジョンを持っていました。

しかし、実際に現場に入ると、考えが変わりまして、まずは収益を上げることに力を注ぎたいと考えるようになりました。

農地もどんどん拡大していきますし、さまざまな種類の農作物作りに興味はあるものの、当然ながらそれぞれの作物に合った収穫機材や資材が必要になってきます。

だからこそ、まずはある程度種類を絞って、1年間を通して収穫できる体制を作り、収益を安定させることが第一だなと。

今ちょうど2年目の計画を立てているところですが、2年目のうちに収支をトントンに持っていくことも難しそうで、3年目にようやくかなと感じているので、まずは目の前のことを頑張りたいです。

そして収益が安定したら、販路拡大や観光農園の運営、6次産業化や飲食店の展開など、新たな取り組みに挑戦していきたいと考えています。

- 今回のM&Aを振り返っての感想を教えてください。
正直なところ、想定通りに事業が進んでいるわけではなく、交渉における反省点もあります。

ただ、今回のM&Aを通して畑を譲っていただくことができたからこそ、それを足掛かりにして、農業への一歩をスピーディーに踏み出し、着実に作付面積を拡大することができました

だから後悔はありませんし、伸びしろのある農業に早期に参入できたことを前向きに捉えています。

今も毎週TRANBIをチェックして事業の種を探していますが、今後はより積極的にM&Aに取り組んでいきたいです。

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■SAKAEホールディングスが今回買収した案件はこちら

「北関東5000畑の譲渡付 農業事業の売却」

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