2023-02-07

「余命2か月」廃業寸前の工場を再生!ボロボロの母屋を“廃墟スタジオ”化して新たなビジネスへ

買い手(法人):ハーツリッチ株式会社

<中小企業の事業拡大を目指したM&A・買収事例>

 

群馬県伊勢崎市に拠点を構える株式会社大関産業。約1700坪の土地内に、2階建ての作業工場や倉庫などを有する企業です。 主に各種製造事業者からの受託業務を手掛けてきましたが、2年前から撤退を検討し、ついに株式譲渡に踏み切りました。

この企業を買収したのは、神奈川県にあるハーツリッチ株式会社です。 カビ対策の総合会社として日本でもトップクラスの市場シェアを誇り、全国展開での事業拡大を続けています。

今回は条件に合う工場を探して、初めてのM&Aに挑んだという同社。「事業再生は面白い」と語る代表の穂苅英樹さんに、今回の詳細や経営のアイデアについて詳しく伺いました。


(従業員の方が働く様子)

【父がカビの肺炎で死去、同じ悩みを世の中から無くしたい】

- はじめに、ハーツリッチ株式会社について、設立の経緯をお聞かせください。
当社は2014年5月に設立し、9期目を迎えます。創業のきっかけは、 私の父がカビによる難病の肺炎を患ったことでした。

当時世の中には、カビ対策専門の会社がほとんどなかったんです。本来、カビの肺炎になるとその環境から引っ越さなくてはいけません。しかし、色々な方法を教わって自分たちで自宅の除菌に成功し、そのまま住めたという成功体験を得ました。

父は亡くなってしまいましたが、 同じように困っている人を助けたい、カビの悩みを世の中から無くしたいと考え、カビ取り事業をスタートさせました。とはいえ、その時は需要がまったく見えない状況で始めた感じでしたね。

- カビに関する知識は、もともとお持ちだったのでしょうか?
私は総合建設業の出身で、ずっと商業施設の開発などに携わっていたので、 建物全般に関する知識はありました。ただ、 カビについての知識はまったくなかったので、学会に出たり、本を読んだりして独学で学びました。

今はカビに関わる総合会社として、販売や調査なども手掛けていますが、最初から専門家などに入ってもらうこともなくスタートしました。お掃除屋さん、除菌業者さんといった分野に近いのですが、特に事業運営にあたって資格も不要です。

- 当時カビ専門の会社がなかったのは、何か理由があったのでしょうか?
今もそうですが、カビが発生したら「隠せばいい」「交換すればいい」というリフォーム屋さんは多いんです。それに、カビに対する知識がなくてお手上げ状態ということも。諦めていた、というのが実態かもしれません。

だからこそ当社のマーケットシェアは大きく、現状おそらく日本一かなと。カビ専門のWebサイトも年間300万以上アクセスがありますし、そこから年間で3000件ほど問い合わせがあります。多い時には1日20件、30件と全国から問い合わせが来ますね。

- 全国からということは、社員の方を派遣されるイメージでしょうか?
我々が行くこともありますし、協力会社に委託することもあります。社員数もまだそう多くないので、受けきれないご依頼は現状お断りするしかありません。そういう背景もあって、M&Aが選択肢に入ってきました。

なお、委託会社というのは、もともと当社の社員が“のれん分け”として関西事業を展開していたので、そこを拡大して全国対応できるようにしている形です。

施工担当の社員もみんなそちらに移籍させ、施工だけに集中してもらっています。その分、 我々はマーケティングや調査など、より専門的な分野を深めていきたいと考えています。

- この分野に大手の企業が参入しない・できない要因はあるのでしょうか?
まだマーケットが狭いんだと思います。カビ分野の最先端・アメリカの市場調査会社によると、この分野はアメリカでは25兆円の市場規模があるそうです。

それを単純に日本のマーケットに当てはめると約9兆円。ただ、リフォームや不動産の売買などが複合的に絡んでくるので、カビ取りだけを見た場合、まだあまり大きくないのかなと。

潜在的なニーズはかなり高いと思いますし、将来的に大きくなる見込みは十分あります。それでもまだ今のところは狭いので、大手が参入するレベルではないのかなと感じますね。

- なるほど。大手が入る前に早いうちにシェアを取るというフェーズなのですね。
当社としては、今後大手が入ってくる前提でビジネスを設計しています。例えばWebサイト。現状、 アクセス数は年間38%ずつ増加しているので、あと5〜6年で900万から1000万アクセスに達する見込みです。比例して、問い合わせ数も増えるでしょう。

また、今のお客様は個人と法人でおよそ半々の割合ですが、法人のほうは大手企業や官公庁からの依頼が増えています。 一定のポジションが確立されてきたかなとは思いますね。

あとは、日本で初めて防カビの特許を取得できたことも大きいといえます。

- それはどんな技術なんでしょうか?
これまでの技術は、すでにあるカビを除菌して、その後に付着したカビが成長しないようにするためのコーティングが基本でした。我々は その上からさらに、浮遊菌が付着すると瞬時に殺菌されるコーティングを施します

つまり 「二重の防御壁」があるため、再発率をぐっと抑えることができるんですよ。

そういった強みを活かし、現在の売上は年間でおよそ2億円まで成長しています。



(1階にあるクリーンルームの様子)

【本来2か月後には潰れていた製造事業に光明を見出す】

- 今回M&Aに挑戦しようと思った理由を詳しく教えてください。
工場が欲しいなと思っていたんです。理由としては二つあって、 一つは卸しているカビ取り用の液材が増えてきて、さらに製造する拠点が欲しかったこと

もう一つは、今の本部が湘南エリアにあるため、地震が発生した場合にリスクが高いと考えたことです。

カビ取りというのは除菌であり、感染予防にもつながるため、本来は災害時に強い業態です。

でも今の拠点である神奈川の藤沢は巨大地震により壊滅的な被害が発生するエリアと想定されていて、もし実際に地震等の災害が起きた際にこのままだと何もできなくなってしまうなと。

そこで、新たな拠点が必要となるわけですが、仮に1億円の工場を建てる場合、自己資金は3,000万ほど必要なんですよ。でも、 再生する見込みさえあれば、M&Aのほうが圧倒的に安く済みます。

将来的な利回りをふまえてどちらがいいのか、そこを比較して今回M&Aを選択したということですね。

- 具体的にはどのエリアを考えていましたか?
神奈川の藤沢から気軽に行ける範囲ですね。かつ、宅配業者の配送料も考慮すると関東圏内がいいなと。さらに地盤のリスクを考え、 埼玉か群馬で探していました。

今回買収したのは、群馬県伊勢崎にある会社です。比較的災害が少なくて、地震にも強く、仮に富士山が噴火してもそう影響はない。 ここを拠点とすれば全国の支援ができるため、エリア的に最適だったと思います。

- 今回の案件を見つけた時には、ピンときましたか?
どちらかというと「とりあえず問い合わせてみようかな」くらいの軽い気持ちでした。 ただ負債も6,000万円とすごく大きかったので、現状を見て判断するつもりで。予算は最大で2,000万円くらいと考えていました。

そこから「ちょっと一回会ってみたいです」という感じで交渉を申し込み、日程を調整して、実際にお会いして、決算書を見て……という流れでしたね。

- 実際にお会いした時の印象はいかがでしたか?
社長とは直接会った時に初めてお話ししましたが、それまでのやりとりも交渉も、ほとんど先方の経理課長と進めていきました。

実際に決算書を見て話を聞くと、 このM&Aが決まらなかったら2022年10月に潰れていた、というギリギリの状態でした。余命2か月、といった感じでしたね。

売上が落ちていた原因は、業界全体の厳しさに対して手を打っていなかったからです。交際費を見ると0円でしたから、営業活動もしていなかったんでしょう。会社をなんとか存続させるため、社長が自己資金から毎年500万円ぐらい入れていたようです。

そういった状況もあって、銀行からM&Aを勧められたようですね。TRANBIのようなサイトに掲載しなさいと。結果的に、無事こうして承継に至っています。

- 最初は軽い気持ちから、本格的に交渉に臨むようになったのはいつでしたか?
実際にお会いした後、デューデリジェンスを入れたんです。知り合いの会計士にお願いしたところ 「絶対に買わない方がいいよ」と言われました。

そのほか、社労士さんや税理士さんも含めて先生方はみんな買収に反対でしたね。建物が古くて壊すしかない状態でしたから、再生できるイメージがつかないと。

でも、反対の理由は建物が使えない、値上げができないと厳しい、の2点だけだったんですよ。土地の魅力はあるから、そこが解決できればとも言われていました。

私としては、建築に関する知識はあったので、建物は再生できると判断しました。たしかに崩れそうな建物もありましたが、構造的には崩れないとわかっていましたし、例えば古いサッシもうまく活用すればかっこよくなるかなと。

それに、持っている土地も価格もいいなと思いました。

さらにビジネス面でも、値上げ交渉をする余地はいくらでもあるとわかったんです。競合の調査をすると、例えば1万円で受けている仕事を1万5000円にしてもよさそうだな、とか。そういった要素を総合的に考えて「アリ」だと思いましたね。

- デューデリジェンスにかかった費用はどのくらいでしたか?
デューデリジェンス自体の費用は約250万円でした。かつ、 事業承継ができたら、その会社の顧問会計士と顧問社労士にするという条件にしました。

普通だと500万円はかかると思うので、いわゆる“友達価格”です。社労士さんは10年ぐらい一緒にやってきた人で、その人を介して優秀な会計士さんも紹介してもらいました。凄腕の会計士でしたが、見習いの会計士さんに指示して進めてもらったことで、費用を抑えられたんです。

その凄腕の方は、有名企業の大規模な買収にも関わっていたM&Aのプロ。 数字だけでなくビジネス全体を見ることができるので「こんなのよくわかったね」という細かい部分まで、 見えないものを見つけてくるんですよ。

交渉時にも一緒に来てもらって、200個ぐらいの質問事項を確認してもらいました。それを10枚ほどのレポートに集約してもらって、私が交渉に臨むという感じでしたね。



(リノベーションする前の倉庫:before)

【壊されるはずだった建物を、廃墟スタジオとして再生】

- 交渉において、最終的な金額はどのように決まりましたか?
話し方や交渉の仕方もありますが、やはり会計士の先生に作っていただいた資料が完璧だったので、簡単に値下げ交渉ができました。先方も早く決めたいという気持ちが強く、金額にも納得していただけましたね。

支払った金額はおよそ1,300万円です。ただ、すべて現金で払ったわけではなく、もともと先方が所有していたアパート(約1,100万円)を譲渡し、残りを現金200万円で支払うという形をとりました。

当初の希望金額は3,000万〜5,000万円でしたが、最初からその金額で売れるとは思っていなかったようです。実際に資料を見ると、1,300万円ぐらいが妥当だねというところに着地しました。

他にも候補が3社いたようですが、負債が大きく現金もほぼなかったため、ハードルが高かったのかもしれません。中には、建物を壊して更地にして、社員も全員辞めさせて売却しよう、という不動産屋さんもいたようです。

- このM&Aを通して、苦労された点があれば教えてください。
いえ、あまり感じていません。しいて言うなら、個人付きの借金が7,000万円ほど増えたことぐらいでしょうか。

でも、会社なら1億円レベルの借り入れは普通にありますし、1億円が2億円になってもあまり変わらないというか、プレッシャーはそれほど感じません。ちょっと感覚が麻痺してきますよね(笑)

今回スムーズに進んだのは、やっぱり優秀なデューデリジェンスが大きかったと思っています。あれがなかったらかなり大変だったはずです。

- 引き継ぎ後、どのように経営の改善を始めていますか?
先方の持っていた事業自体は、やればやるだけ赤字なんですよ。上場企業との取引もありますが、下請けゆえに足元を見られフェアな関係性とは言えない状態でした。

ただマーケットを調査すると、競合の提供しているサービス・価格と比べこちらがダントツで低価格だったのでまだ伸ばせる余地があると判断できました。

そのため、引き継いでからは ギリギリまで値上げ交渉を行い、さらに要求を飲めない場合こちらから断ることも辞さない強気のスタンスに切り替えました。

具体的には、1社は25%アップ、もう1社は30%アップの値上げです。相手はちょっと驚いたかもしれませんが、経営者が変わったということで、やむなく条件を飲んでいただきました。それでも利益はまだ取れていないのですが。

それから、以前は建物全体の30%程度しか使っておらず、残り70%が遊んでいる状態でした。ゴミ置き場のような倉庫だったので、いったん荷物を移動・処分。塗装し直したり、芝生を貼ったりと、自分たちでDIYをして整えました。

そして今は“廃墟スタジオ”であることを売りにして、余っていた建物の20%ほどは貸し出すことができています。シェアオフィスなどに使われ、利益は年間100万円ほど。0だったものが100万になるのは大きいですよね。

結果的に、収支は約100日でプラスに転じました。これは頭の中で描いていた通りです。

- 壊されるはずだった建物を、廃墟スタジオとして再生させる――そういう経営のアイデアは、どこから湧いてくるのでしょう?
うーん……普通に見ていたら湧くのかな、と思うんですけど(笑)どうしてかはわかりませんが、 昔から考えるのは好きなんですよ。

会社員時代も「なんでこういう仕事の仕方なんだろう」「こう変えたらいいのに」と思うことは多かったです。でも、実行に移すことはありませんでした。

なぜなら、稟議が面倒だから。今はもう自分で全部判断できるので、やれることはどんどんやろうと思っています。



(リノベーションした後の元倉庫:after)

【眠っているお宝案件にまた出会いたい】

- 引き継ぎ後、社員の方の反応はどうでしたか?
事業内容は変わらず値上げしているだけなので、特に何の反応もありませんでした。変化といえば、収益が上がっていることと、新しい人が入ってきたことぐらいなんでしょう。私も直接行くのは月2回程度ですし。

だから実感があるのは、DIY関連で指示を出している一部の人だけかもしれません。建物のDIYは、本社から社員を1名送って、彼をメインに2〜3人で進めています。だから新しい試みであっても、抵抗なく巻き込んでやれているのだと思います。

- 社内の雰囲気に変化はありましたか?
私が着任してからは、月に1〜2回バーベキューをするようにしました。

ただ、社員14名のうち11人が外国人なので、日本語をほぼ話せないんですよ。ブラジル人だからポルトガル語を話すので、たまたま本社にポルトガル語ができる社員がいてよかったなと。

私は喋れませんから、みんなの雰囲気を見つつ、会釈ぐらいの感じですね。

私がよく話す日本人の社員からは、今までは毎日のように「もう潰れる」「明日潰す」と言われてきたと聞きました。新事業の提案をしても、すべて却下されていたとか。

でも 今は、会社が潰れることもなくなったし、提案に対しては「いいんじゃない?」と話が進むので、やりやすくなったと言ってもらえました。私は、向こうから提案してくれたものは、 よほど致命的にならない限りは基本的にOKというスタンスです。

まあ、月に2回しか行かないこともあって、 自主的・能動的に動いてもらわないと会社もよくなりませんから、提案に対しては全部いいよという話をしています。

- 今後のイメージがあれば教えてください。
敷地内に棟がいくつかあるのですが、母屋は今の使い方でうまく稼働させたいと思っています。液材を製造して全国のお客様に発送するとか、特殊な機械を使ったガス滅菌も、母屋でやっていくつもりです。

それ以外はシェアオフィスとして活用し、面白い空間を魅力的にしていきたいですね。例えば、当社はWebに力を入れているので、マーケティングに関わる人を集めてみたり。

もともとボロボロだった空間も、 うまく再生するととても魅力的な空間にできるものです。最初はゴミだらけで天井も朽ちているような状態でしたが、約3ヶ月で改善できたので、これからもずっと続けていけばどんどん面白い空間を広げられるはず。

敷地内に竹林があるので、そこはグランピングエリアにしようかな、とか。まるで不動産業ですね。

おしゃれな空間ができれば、 フリーランスや起業家、若い人たちが集まってきて、そこに対して安くマーケティング施策を打てる可能性もあります。

お互いにシナジーが生まれることも期待できますし、何もないエリアだからこそ、そんな場を提供したいと思います。

- 最後に、意気込みやメッセージなどをお願いします。
たぶんお宝はたくさん眠っているはずです。気付いていない、見逃している案件は多いでしょうし、うまく拾っていけるといいですね。 私も今回のような案件にまた出会えたらいいなと思っています。

今回初めてM&Aに挑戦して思ったのは、 潰れそうと言っている会社でも、ちょっと経営を変えるだけで再生できる方法はきっとあるということ。だから、事業再生に興味がある人はどんどんやってみた方がいいと思います。



(廃墟スタジオ①)

(廃墟スタジオ②)

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■ハーツリッチ株式会社様が買収した案件はこちら

「工場の有効活用が期待できる各種受託業務事業」

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