2022-07-19

緻密な計算と数十回の粘り強い交渉で実現したクロスボーダーM&A~東南アジア市場開拓の重要拠点を買収!

買い手(法人):アンダーワークス株式会社

<中小企業の事業拡大を目指したM&A・買収事例>

 

コロナ禍以降、デジタルマーケティングの重要性はますます高まっています。市場が拡大し続ける中、シンガポールにてデジタルマーケティング関連サービスを提供する企業を買収したのは、東京に本社を構えるアンダーワークス株式会社です。

今回は初めてのM&Aでありながらクロスボーダー(国際間)のM&Aに成功しています。さらなるグローバル展開を見据えた同業のM&Aであり、シンガポールに足がかりができたことで、東南アジア開拓を着実に進めていきたいとのこと。

交渉の詳細や成功のポイントなど、代表の田島学さんに詳細を伺いました。

【マーケティングテクノロジー市場の拡大と共に、デジタルマーケ領域で急成長】

- まずは、アンダーワークス株式会社の事業について教えてください。
当社はこれまで、主に日本の大手企業へのコンサルティングを通じて、マーケティングのデジタル化を支援してきました。デジタルマーケティングといっても幅が広く、広告、Webサイト制作、あるいはシステム開発など色々あります。そのため、企業ごとに提供する領域が分断していることはこの業界の課題ともいえます

対して我々は、特に領域を決めずワンストップで提供していることが最大の特徴であり強みです。クライアントに寄り添い、本当に重要な課題を見極め、あらゆる角度から包括的に支援していく。そうして「マーケティングオーケストレーション」を実現することを、会社のミッションとして掲げています。

また、以前からグローバルの案件を多く手掛けていることも特徴です。海外売上比率の高いクライアントが多いと、マーケティングの基本戦略も「海外市場をどう開拓するか」が重要になります。当社は英語がネイティブな社員や外国籍の社員も多く在籍しているため、グローバルでのデジタルマーケティングを広く支援することができます。

当社はフランス・パリにも拠点がありますが、プロジェクトの多くは基本的には東京本社をベースに運営してきました。海外の現地法人を巻き込んだようなプロジェクトも、主に日本側から円滑なコミュニケーションのもと進めています。



(アンダーワークスのオフィス)

- この事業を立ち上げようと思った背景は、どんなところにありましたか?
前職のコンサルティング会社では、マーケティングの主要チャネルになってきたインターネットを使い、CRM(顧客関係管理)に携わっていた時期がありました。直販でECをやったり、顧客データを使って一人ひとりに違ったメッセージを出したりと。その中で、これからのマーケティングはデータを活用して課題を解決していく世界になると強く思うようになりました。

その後、90年代後半にはITバブル崩壊もありましたが、私はそういった仕事にもっと挑戦したいという思いがあり、独立・創業して今に至っています。

- 創業してから今まで、苦労したエピソードなどはありますか?
創業から7~8年間は、戦略立案や調査分析といった“いわゆる上流だけのコンサルティング”が多かったんですね。しかし、2013〜2014年頃から国内のデジタルマーケティング業界でもクラウドベースのツールが広がり、それまでシステム開発会社に依存せざるを得なかったプロジェクトについても、自分たちで実行支援まで担えるようになりました。これは大きな転換点であり、良い意思決定になったと思っています。

というのも、デジタルマーケティングは5分、10分で結果が見えるようなスピード感のある世界なので、外部の業者に実行部分で依存するのは非常にもどかしく感じていたんですね。それが自分たちでも可能になったことで、上流の戦略フェーズだけではなく実行フェーズ、つまりテクノロジーやデータを扱う内容にまで領域を広げていきました。

ただ、当時は「実行支援まではやらないコンサルティング」を重視するメンバーも多く、テクノロジーを扱ったり、実行フェーズを担うような仕事は方向性が違うと考える従業員もいました。デジタルマーケティングといっても、今ほどツールや顧客データの重要性が浸透していなかった頃なので、致し方なかったと思います。ただ、その段階でテクノロジーやデータ活用の実行フェーズにまでサービスを広げようという経営判断をしたことが、今の成長につながっています。

コンサルティングを提供する会社にとって、人材が成長していくサイクルや、クライアントとの長期的な関係性はとても重要です。したがって、意思決定がすぐに業績につながったというよりも、その後何年かの変遷期を経て今のアンダーワークスがあります。今となっては、当初の予測通り、テクノロジーやデータに対するニーズは高まり、案件が急拡大しています。コロナ禍に入ってから、オフラインマーケティングの予算を本格的にデジタルに投じる企業も増え、さらに成長が加速しています。



(アンダーワークスで働く社員の方々①)

【経営者同士の価値観、信頼関係が決め手に】

- TRANBIを使ったきっかけについて教えてください。
M&Aのマッチングサービスができていることは、業界として注目していました。BtoBのビジネスでも、人手ではなくインターネットを介した専門的なサービスが広がってきたなと。

私たちはコロナ前から、さらなるグローバル化を見据えて海外拠点を拡充していこうとしていました。しかし海外はおろかオフィスにも行けない中で、どうやって海外展開をしていくのかを考えた時に、インターネットを駆使してM&Aをやっていくのもありなのではと思いました。2020年初頭のことです。

そこでいくつかのサービスを検索して登録し、その中の一つとしてTRANBIを利用しました。「海外進出」や「クロスボーダー」といったキーワードで検索したり記事を読んだりしていく中で、自然とたどり着きました。

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- 買収先を絞り込んでいくにあたって、条件はどんなところにありましたか?
主に見ていたポイントは3つあります。1つ目は、基本的に当社と同じ業態の企業であること。2つ目は、企業規模が我々と同じあるいは小さいこと。そして3つ目は、シンガポールにあることです。

我々は領域を限定しない包括的なサービスを掲げているので、同じようなビジョンを持った企業がいいと考えていたんです。ところがこれは、企業概要やアドバイザリーの方の話だけを聞いてもなかなか分かりません。やっぱり直接話をしないと見えてこないので、専門的な話をして通じ合えるかどうか、そこは重視していました。

実際に先方と話をする前は「必ずしもぴったりかどうかは分からない」ぐらいの印象でした。ただ、この業界の中で一つの領域に特化していない、幅広く手掛けているというキーワードがあったので、その点では好感を持ちました。

- 交渉はどのように進んでいったのでしょうか?
最初は代理人の方から対象会社の概要を聞いていましたが、デジタルマーケティングの細かい話までは分からず、本当に一緒にパートナーを組みたい会社なのかを判断できませんでした。そこで、実際に先方の経営陣と直接話を重ねることで、「これはいけるんじゃないか」と手応えを得られるようになりました。

MOU(基本合意書)を締結するまでに10回ほど、そこから先もかなり多くの相手と話をしました。コロナの影響でシンガポールに入国できる気配が全くなかったので、元株主にあたる方や、現経営陣、アドバイザーのような方なども含め、大人数でオンラインミーティングをすることもありました。



(アンダーワークスで働く社員の方々②)

- 先方とはどんなことを話し、どんなところが最終的な決め手になりましたか?
ミーティングでは本当に色んな話をしました。会社を立ち上げた背景、経営陣の関係、直近のビジネスの計画、売却理由など、NDAベースで話せることを色々と聞きました。

そうした中で最終的な決め手になったのは、現経営陣(社長・副社長)2名と信頼関係が構築できたことです。彼らが非常に信用できそうだということ、また我々のことも信用してくれていると思えたこと。具体的なビジネス上の数字の話よりも、そうした関係性ができたことが大きかったです。

今回のM&Aに対しても、短期的に高い値段で売りたいというよりは「長い目で見た時に、お互いにとってこの取引は良かったと言えるよう臨んでいる」と再三おっしゃっていました。ステークホルダーとの信頼関係を大事にしていたり、今後のビジネスの進め方をまずは重視するなど、考え方や感覚が我々と近いなと感じました。

- 数字の面では特に問題ない印象だったのでしょうか?
そうですね、黒字の会社でもありましたし、規模的にもちょうどよかったです。財務面もデューデリジェンス前にも細かく確認しましたが、監査も含めてちゃんとやっていたので、気になるところはありませんでした。

しいて言えば、事業成長率でしたが、むしろ一緒に組むことで高められるはずだと思ったので、特に問題には思いませんでした。

- 買い手側として、他に競合となる相手はいませんでしたか?
私が知る限りでは他にいないと聞いていました。ですから、特に売却を急いでいるわけではなかったようです。

ただ、以前日本の買い手と交渉に進んだものの、直前で成約しなかった経験があったとも聞いていました。だからこそ、我々がどこまで本気なのか、本当にクロージングをする気がどこまであるのか、最初は慎重に確認している様子ではありました。



(アンダーワークスで働く社員の方々③)

【緻密な計算をしながら買収金額を交渉】

- 当初の希望売却金額から、最終的に減額した結果となっています。どのように交渉したのか、ポイントを教えてください。
交渉はかなり粘り強く行いました。かつ彼らのロジックがどういうものなのか、私自身でも財務諸表をExcelに落とし、ほぼ100円単位で全て細かく計算しました。これをEBITDA(税金や減価償却費などを差し引く前の利益)に入れるのはおかしいよね、ここはオペレーティングインカム(営業利益)じゃないよねと。

会計上の計算では負けない自信があったので(笑)、開示してもらった数字を緻密に自分で計算し直したのは交渉において大きかったと思います。

もちろん、我々のロジックだけを突き通したわけではありません。彼らの要望を尊重しつつ、議論を重ねて最終的な落としどころを見つけました。また譲渡金額ではない部分で、彼らの要望をかなり受け入れました。例えば、ストックオプションに関する部分や経営陣の報酬体系も維持したりといったことですね。

M&A後の経営陣のモチベーションは非常に大事ですし、現地の市場に詳しい彼らがやってきたことをそのまま続ける方針を尊重しています。その上で協業することでお互いより多くの利益を出せるように変えていこうとしています。

- ちなみに今回、円安の影響はありましたか?
大きかったです。最後の数ヶ月で、日本円にすると10%以上価格が上がってしまい、とても困ったなと。今年の3月、4月で一気に130円くらいまで上がったので、その点は今回の想定外でした。ただ為替の動きは読めませんし、仕方ないかなと思っています。

- その他、想定外だったことは何かありましたか?
唯一挙げるなら、多少のコミュニケーションギャップがあったことでしょうか。MOUを結んでからクロージングまでは4ヶ月以上かかったんですが、その中でちょっとギクシャクする場面がありました。

我々は結構テキパキ進めていたつもりだったので、彼らのレスポンスが遅いなと思っていたら、向こうから「進捗が良くないから取引をどうしようか迷っている」と。おそらく先方の弁護士の方でレビューに時間がかかっていたと思うのですが、どこかでコミュニケーションに行き違いがあって我々が理由で進捗が良くない、と思われてしまいました。

ブレイク(交渉決裂)する可能性はそこでもありましたし、それ以外にも数字の面で折り合いがつかない場面もありました。彼らは国際会計基準で計算していて、私は日本の会計基準で数字を出していたこともありましたが、会計士から見ても疑問に思う点は色々あって。深刻というほどではありませんが、大丈夫かな?と思うことは何度かありました。

- 交渉全体を振り返って、どのような感想をお持ちでしょうか?
今回のデューデリジェンスでは、売り手側の弁護士、会計士、そしてアドバイザリーという日本人の方々が専門的な知識で取り持ってくれました。このチームに対する信頼がすごく大きかったと思いますね。

特に、アドバイザーの藤山さんが中に入ってくれたからこそ成立したことは間違いありません。日本からシンガポールでビジネスをしたいという“何も知らない日本人”に対して、現地の先輩のような形で親切に支援してくれたんです。弁護士の方も現地で直接弁護士業務ができる日本人の方だったので、非常に信頼してお任せできました。



(田島社長と買収先の経営陣の方々)

【外国人が持つ日本企業のネガティブな先入観を払拭せよ!】

- 今回の買収をきっかけに、どのようにシナジーを生み出していく予定でしょうか?
基本的にはクロスボーダーの案件を一緒に作っていくことになります。具体的には、まず我々の既存クライアントに対してお応えできる範囲が広がると思います。

これまでも現地法人を巻き込んだプロジェクトを日本からやってきましたが、クライアントからは「シンガポール現地のいいベンダーを知らないか」といった問い合わせもありました。これまではそうした要望に応えられませんでしたが、今後は「グループ会社で同じクオリティを提供できるので一緒にやりましょう」と言えますね。本社だけでなく、現地法人と現地で契約して現地のメンバーが動く案件を作っていけると考えています。

売り手側も、日本企業と契約する場面ではなかなか苦労してきたようで。“日本的な進め方”はどうしても分かりづらく、我々と一緒に組むことでクライアントに安心感を与えられることは、大きな変化になるはずです。

- 日本とシンガポールの企業で、技術やサービスの品質に差はないのでしょうか?
あまりなかったです。むしろ、同じ日本人企業同士でも大変な時がありますよね。我々は仕事の進め方もデジタルなので、Slackでやり取りして、Zoomで打ち合わせして、DocuSignで契約締結して……という中で、出社前提、紙とハンコが必要だったりすると、結構大変です。

ですので、単に海外かどうかというよりも、デジタルリテラシーの方が大きなギャップになり得るかとも思えます。彼らとはそのあたりの価値観が近いため、ギャップは小さいと思いました。

- 今回の買収をきっかけに、他のエリアでまたM&Aを進めていく計画はありますか?
ゆくゆくはと思っていますが、今はいったんM&Aという形では検討していません。ただ、このシンガポール拠点を中心として、他の東南アジアの国へと商圏を広げていきたいとは考えています。彼らと一緒に東南アジアを攻めていきたいなと考えています。

東南アジアのデジタルマーケティングは、市場規模はまだまだですが、成長率で見れば日本の何十倍、何百倍と成長しているはずです。特にマレーシア、ベトナム、インドネシアのEコマースは今後急激に伸びると言われていますし、大きな成長機会だと捉えています。

- これからクロスボーダーM&Aに挑戦される方に向けて、ぜひアドバイスをお願いします。
先方の企業には日本企業に対するネガティブな先入観もあったんですね。意思決定が遅かったり、プロセスをあまり開示しなかったり、いつまでも決裁権者が出てこなかったり。我々はそういう要素を払拭できたことは大きかったと思います。

ほぼ全ての打ち合わせに私が参加し、できる限りその場で判断を行いました。日本企業でも海外企業と同じスピードで意思決定ができるんだと伝わったことは、彼らの安心感につながったのだろうと思います。

大手企業ではこうした動きは難しいかもしれませんが、逆にスタートアップには有利ではないでしょうか。意思決定の速さや、本音ベースでクリアに言うこと。このあたりは成功のポイントになると思います。

一方で売り手にとっては、日本の企業に売却することは結構プレミアムがあるようです。今回の相手も日本の文化に対して親近感を持っている人が多く、日本の漫画を見て育ったとか、観光で日本に来るのが大好きだとか。だから「ぜひ日本人と一緒に仕事がしたかった」と言ってくれたんですね。日本の文化を通じて好感を持ってくれる人が多いことは、大きな強みになってくれると思います。



(アンダーワークスで働く社員の方々④)

 

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