2021-05-25

コロナ禍でもプラス成長! ベトナム企業のM&Aが日本の中小企業にチャンスな3つの理由

売り手(法人):嘉数昇吾さん

<中小企業の戦略的M&A・売却事例>

 

今回、ベトナムのホーチミン市に本社のある警備会社を売却したのは、10年前からベトナムやミャンマーで数々のM&Aを手掛けるPGT Holdings Joint Stock Company (ハノイ証券取引所証券コード:PGT)代表の嘉数昇吾さん。

今回のM&Aの経緯をはじめ、クロスボーダー(日本企業と海外企業とのM&A)の魅力やベトナム市場のM&A実情について、お話を聞く機会をいただきました。アジアのマーケットを詳しい嘉数さんが「日本の中小企業にベトナム企業のM&Aは大きなチャンス」という理由とは。

【日本人クオリティのホテルなら流行る!?】

- そもそもベトナムでビジネスを始めたきっかけを教えてください。
もともと私は証券会社に勤めていました。出張でベトナムに来る機会が増えて、会社が予約したホテルに泊まっていましたが、エアコンも扇風機も壊れていて、冷蔵庫もきかない。これなら日本のビジネスホテルのような日本人クオリティで取り組んだら、いけるんじゃないかってひらめいたのです。

その後会社を辞めて、2011年1月1日にベトナムでホテル事業を始めました。当初の私の目標は「5年かけてベトナムで上場する」こと。ホテルを10棟ぐらい運営していれば、ベトナムでは上場基準に達するため、最初はホテル経営の拡大を目指しました。

ホテル一棟を一括で借り上げる契約形態で、部屋数で言うと30室ぐらいをまず借りて経営を始めました。ちょうどリーマンショックのタイミングでもありオーナーさんも誰かに早く貸したかったようで。

たまたま、ベトナムの商業の中心地ホーチミンという都心の良い場所だったこともあり、ホテル経営の滑り出しは順調でした。そして、2年目には5棟に、そして今まで累計8棟を運営しました。デポジット(保証金)と家賃を払いながら取得して、約10年かけて最終的にすべて譲渡しました。

ベトナム国内で事業の実績を積んだ後、産業の民営化の流れを受けて2015年に観光・交通分野とエネルギー分野で上場している国営企業を2社、2018年にはベトナムの国営銀行傘下にあったミャンマーの金融業者を買収し、現在では合計9社を経営するに至りました。

当初の目標を早々に達成できたのも主にベトナムという成長途上の国で事業に取り組んだからですね。



(運営されていたホテル)

【ベトナム企業を買収し、日系企業への売却を目指す】

- 今回、警備会社を売却した経緯について教えてください。
今回売却した警備会社は、2015年に買収したベトナムの上場企業が手掛けている事業の一つでした。株式の49%を買い手様に売却しました。

売却しようと思ったのは、もともと私のビジネスモデルが「ベトナムで買収した事業をその専業である日系企業に売却する」というスキームだからです。もちろん自分自身が経営者としてそのまま経営に携わり続けても事業を伸ばすことはできます。

ですが、例えば所有する警備会社、タクシー会社などを、それら事業を本業とする方に売却し経営に取り組んでいただくほうが事業の成長が早く、バリエーションも上がります

今回、株式の49%を売却して、弊社に51%残したのは、初めてベトナムでマネジメントしていくのは実際には難しいと考えてのことです。

過去にも私にはベトナム事業の売却経験があり、買い手がマネジメントに苦労し、ベトナム事業から撤退したというケースもあるので、今回は私たちにマネジメントの権利を残したままやることになったのです。

とはいえ、私は役職上自身の会長というポジションを買い手様に引き渡し、副会長になりました。もともと社長はベトナム人ですが、非常に信頼できる人なので、そのままにしたほうがいいとアドバイスさせていただき、今後は会社を株式上場させる、あるいは会社の価値を高めてイグジットするといったことを一緒に考えています。



(運営されていたホテル)

【コロナ禍でベトナム現地のデューデリジェンスができない!】

- 交渉はどのように進みましたか? 苦労したことは?
やはりコロナ禍という特殊な環境でしたので、現地で買い手様がデューデリジェンスをできないという点がネックでしたね。

ただ買い手様は業界のことをよくわかっていらっしゃいましたし、今回の規模なら譲渡金額はこのぐらいが適正だと納得されていたので、現地に来ていただかなくても、オンラインだけで成約することができました。

買収した会社の親会社が上場していて、監査法人によるチェックも厳しいということも後押しとなりました。

クロスボーダー(日本企業と海外企業)のM&Aをオンラインだけで決めたのは今回が初めて。今まで難しいと思っていたので、この経験は非常に大きな成果となりました。コロナ禍になる前まではオンラインだけでM&Aをしようとは考えてもみませんでした。ある意味、ピンチをチャンスに変えられたと思います。

相手と対面でコミュニケーションがとれないからこそ交渉時は、なるべく情報はオープンにすることを心がけました。また私自身の経験から、いいことも悪いこともすべて伝えました。

そのひとつに、この警備会社を買った直後のトラブルについても説明しました。当初は赤字で、経営改善のために社長を交代させたのですが、古参の幹部が新しい社長に反抗し、落ち着くまでに3人もの経営者が入れ替わりました。時間はかかりましたが今は安定して黒字化も達成していて、買い手様のような専門分野の方が加われば、さらに伸びる可能性がありますよ、とお話ししました。

買い手様と連携することで、売却後は商業の中心地ホーチミンだけでなく、ベトナム第2の都市である首都ハノイにも拠点を増やそうとしています。これは私だけのネットワークではできなかったことです。私はブレーキをかけることなく、状況を見守りながら支援していこうと思います。



(売り手である嘉数様と今回売却された警備会社)

【新規参入が難しいベトナム市場にはM&Aがベター】

- ベトナムではM&Aが活発に行われているのでしょうか?
ベトナム国内に関しては、一部の大手企業だけが行っているだけで、まだまだですね。ただ最近タイや韓国、ヨーロッパなどの企業が触手を伸ばしていて、大きなM&Aを決めたというニュースを聞くようになりました。

日本についてもコロナ禍ではありますが、日本企業の買い手ニーズの高まりを受けて、日本の大手監査法人や弁護士事務所、地方銀行などの駐在所が徐々に増えてきています。

- M&Aではなく新規で事業を立ち上げるという選択肢はとらないのでしょうか?
許認可がある事業だと新規で外国企業が会社を立ち上げることは厳しいと思います。それなりの時間と投資が必要です。ライセンスを取る過程で詐欺にあう可能性もありますので、M&Aのほうが効率的でリスクが低いと私は考えています。買収して株主交代したという申請を出す方がはるかに楽です。

またベトナムには日本の企業と提携したいというニーズがあります。ベトナムは親日の国。トヨタの車やホンダのバイクが街の中をたくさん走っているように、日本製に対する信頼感は大きく、日本の経営方式を取り入れてみたいというベトナム人経営者も多くいます。

単に「好き」という以上に「尊敬している」という印象を受けます。私の場合も、日本人だから優先してもらえたと感じることは多々あります。他国と競合になっても、同じ条件なら日本人が勝つでしょうね。

よく「ベトナムは社会主義ですが、ビジネスを展開する上で大丈夫ですか」と聞かれます。必要以上の政府の介入は、これまでの私の経験からはありません。証券口座や銀行口座なども急に制限を加えられたこともありません。特に心配することはないと思っています。

【ベトナム市場に成長が期待できる3つの理由】

- これから海外で事業をしてみたい人にベトナムは狙い目でしょうか?
ベトナムは全人口の平均年齢が20代後半~30代前半。GDP成長率は右肩上がりで、コロナ禍でもプラス成長を維持しています。マーケットはどんどん伸びていますから狙い目ですよ。

私の感覚でいくと、経済規模は日本の1970~80年代、流行やファッションは2000年頃でしょうか。人口も1億人前後と日本と規模が似ています。ですから日本の歴史をさかのぼって、その成長をなぞっていけば、流行がわかります。タイムマシン経営とでもいうのでしょうか。

その一方で、スマホやPCなど現代のテクノロジーも普及しているため、これからマーケットが大きくなっていくのは予想以上に早いでしょう。

ベトナム市場におけるM&Aは、特に日本の中小企業におすすめです。その理由は次の3つです。

① 上場企業が手ごろな値段で買える
実際にベトナムで会社を買うなら、上場企業がよいと思います。財務状況もしっかりしていますし、働いている人もコンプライアンスは意識していますので。その上場企業が数千万円~数億円で買えますので、日本の中小企業でも無理なくM&Aが実現できますし、投資効果も大きいです。

業種に関しては、以前は製造業がメインでしたが、最近は卸売や小売業に変わってきました。日本のマーケットで縮小されて売れ行きが鈍くなってきた商材でも、質がよければベトナムで売れる可能性は十分あります。

➁ 日本企業と組むとバリエーションが上がる
ベトナム人にとって日本への信頼度は高く、日系企業が購入するだけでバリエーションが上がります。日本に置き換えると、孫さんが2000年前後にアメリカの企業とどんどんアライアンスを組んで株価が上がっていた頃の状況と似ているかもしれません。

➂ 労使関係がマッチしやすい
ベトナムの働き手は若いので、日本の40~50代の経営者がマネジメントするにはぴったりです。またベトナム人はルーズなところがありますが、縦型組織に慣れており、非常にマネジメントしやすい。組織の中では、上の人の指示に従わないといけないことがわかっています。

だからこそM&Aで買収して、日本人が上位のポジションをとることは重要になってきます。逆に尊重しすぎて緩い環境を提供すると、甘えてしまう傾向もあります。フラットな組織構造には向かないですね。

- 今後の事業展開について、どのように考えていますか?
私としては、日本企業によるベトナム企業のM&Aが増えればいいなと思っています。日本の企業はもっとベトナムに来てほしいですし、ベトナム人はもっと日本に行ってほしいですね。

何と言っても今の日本は人手不足。それを解消しない限り、日本は経済力が弱まってしまいます。ですから、私は事業拡大・生産性向上を求める日本の中小企業に対し、私の持っているベトナムのネットワークでM&Aを提案し、日本の人手不足を解消したい

そのためには、まずベトナムの会社を第三者に売却できるように整えなければなりません。幾重にもなった帳簿を整理するなど、日本人の私がアドバイスできることがあるのです。そのうえで、日本の企業とうまくマッチさせたいですね。今後は、そういった橋渡しに力を入れたいと思っています。この2、3年間で弊社グループ企業及びM&Aサポートした企業から100社をベトナム株式市場に上場させたいですね。


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  • 池田純子)
  • ライター紹介池田純子

    大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーのライター・編集者に。暮らしやお金、子育てにまつわる雑誌記事の執筆や単行本の製作に携わる。さまざまな生き方を提案するインタビューサイト「いま&ひと」を主宰。