2020-07-21

長年の協業パートナーへの株式譲渡が直前で決裂。広告代理店がTRANBIで見つけた相手とは?

売り手(法人):匿名

<後継者不在による第三者承継事例>

 

事業を譲渡しようと考える経営者が、真っ先に思い浮かべるのは自社のビジネスに理解のある協業パートナーでしょう。東海地区で広告代理業を営んでいた藤沢さん(仮名)も、数十年来の取引があるX社への譲渡計画を進めていましたが、譲渡直前、ある事情で決裂。その後TRANBIにて相手を探す中で、成長中のITベンチャー企業へ数千万円での譲渡が成立しました。
最初の譲渡計画が頓挫した理由はどこにあったのでしょうか?また、最終的な譲渡相手がITベンチャー企業だったのはなぜでしょうか? 藤沢さんと、M&Aアドバイザーを務めた山田コンサルティンググループ株式会社の新井さんにお話を伺いました。

【盤石な経営基盤を築くも、後継者に恵まれず】

- 今回、株式譲渡された会社ではどのような事業を行っているのですか?
藤沢さん:広告代理業です。会社案内・カタログをはじめ、販促ツール全般を企画から印刷加工までトータルでサポートしています。強みは自治体の入札案件の受注実績が多いことです。自治体の仕事はロットが大きく、例えば一つのお仕事で年間数百万円~1千万円近くの売上になります。また、東京のFC本部をはじめ県内の有力企業との取引がありました。このコロナ禍でも、売上は少々下がったものの収支はマイナスにはなりませんでした。手前味噌ですが、経営面では盤石な会社だと自負しています。

- 会社を始められてから長いんですか?
藤沢さん:今の会社は5年前につくったのですが、前身の印刷会社として立ち上げてからですと、かれこれ40年近く経ちます。

- 譲渡を考えられたきっかけは?
藤沢さん:年齢です。娘が2人いるのですが、どちらも継ぐ気はないようで、いずれ誰かに譲らなければならないと、それこそ10年以上前からずっと考えていました。地方ですから、我々が会社を潰してしまうと、代わりができる会社はほとんどありません。そうするとお客さんに迷惑がかかってしまいます。勤めてくれている従業員の生活もありますしね。


【譲渡直前の交渉決裂。原因は先方の過剰な慎重さ】

- 譲渡を考えられてから、どういった行動を起こされましたか?
藤沢さん:実はアテがあったんです。先ほど、今の会社は5年前に立ち上げたと言いましたが、実は複数社で出資し合ってつくった会社なんです。入札案件の参加条件にあった、「発注業務に関わるあらゆる業務を行えること」という条項を満たすために、印刷会社や紙の問屋など、普段から一緒にお仕事していた会社にお声がけをして。その中に、いずれ買いたいと言ってくれる企業があったので、お譲りするつもりで準備を進めていました

- もともとお付き合いがある会社なら、ある程度安心も出来そうですね。
藤沢さん:私もそう考えていました。それで3年くらいかけて話をして、先方が判断基準として上げていた利益率もクリアしていたのですが……

- うまくまとまらなかったのですか?
藤沢さん:ええ。3年前の3月、いよいよ譲渡しましょうという話になっていたところで、もう1年吟味したいと言われてしまいまして。それも、先方の営業社員と経理社員を、実際に弊社にて働かせてみたいと。譲渡が成立しないうちから人を受け入れて、やってみてよさそうだったら引き継ぐというのはさすがに受け入れられません。今回はご縁がなかったとお伝えし、交渉決裂という形になりました。

- それはショックですね。
藤沢さん:ほかにアテがなかったものですから、頭を抱えました。気を取り直してもう一度動いてみようと思って、県の事業引継ぎ支援センターを訪ねたのが1年と少し前です。そこで3社のM&Aアドバイザーさんを紹介いただいて、一番信頼できそうだなと感じたのが、今回お世話になった新井さんとその上司の方でした。

【専門家は会社名ではなく担当者との相性で選んだほうがいい】

- 「信頼できそう」だと感じられたのはなぜですか?
藤沢さん:相性としか言いようがないのですが、強いて言えば、こちらの言いたいことを一番汲み取ってくれたことでしょうか。山田コンサルティングさんも他社さんも名の知れた会社でしたが、どんなに会社が立派でも実際に動いてくれるのは目の前の人間なので。人に尽きます。

- 新井さんはそのときのことを覚えていらっしゃいますか?
新井さん:もちろんです。他社さんにもお会いされたなかで選んでいただけたのはうれしいですね。

- お手伝いされることが決まってから、どんなアクションを取られましたか?
新井さん:まずは事業の状況だったり、売却の条件をヒアリングさせていただいて、会社のご紹介資料作成を行いました。コンサルティング会社として事業的にシナジーがあるのはどういった企業か、等もスタート前に分析いたしました。

- どのような条件を設けたのですか?
藤沢さん:まずは従業員の雇用継続と、付き合いのあるお客さんとの取引を続けていってもらうことですね。それから当たり前ですが、売却額の目安も伝えました。あとは、オフィスが私の持ちビルのなかに入っていましたので、そのままそこを借り続けてほしいという希望も出させていただきました。

- 資料化の際に気を付けられたことは?
新井さん:今回譲渡対象になった会社は、業種やお取引先構成が少し特殊だったので、業界に詳しい方なら社名がピンと来てしまう恐れがありました。興味を持っていただくためにはある程度具体的なお話も必要ですが、あくまで機密保持が最重要ですので、詳細をどこまで記載するかを慎重に考えました。

- 資料化した後はどのような流れで譲渡先を探されましたか?
新井さん:まずは私どもと普段から情報交換している企業やシナジーが見込まれそうな企業にご案内しました。業種に興味を持っていただける方は10社程度いたのですが、地域だったり譲渡金額だったりの都合で成約には至りませんでした。

決算書上の利益ベースでは、兄弟会社との内部取引もあり、特にそれほど利益が出ておらず、のれん代として数千万円の譲渡希望金額を評価いただけるかどうかというところがありましたので、かなり難しいM&Aだったといえます。

【成約の決め手は、買い手の本気度と若さ】

- TRANBIを利用されたきっかけは?
新井さん:範囲を広げて買い手様を探すためです。もともとサービスとしては知っていたのですが、実際に登録してみると思ってもないような企業からも引き合いがあって驚きました。

- 多くの引き合いのなかで、今回の買い手様と成約に至った理由は?
新井さん:まず私がやり取りさせていただいたのですが、他の企業と比べてレス(返信)が早めでした。また、過去にM&A経験があり、成功もされているようでした。若く誠実な方で、こちら側の要望にも真摯に向き合っていただけたため、本気度も高いのではと判断しました。とはいえ、藤沢さんご本人の感覚が重要ですので、一度会ってみてくださいとお願いしたんです。M&Aはただの会社の売買ではなく、企業同士のパートナー探しと認識しているので、人間性が合うかどうかも非常に重要になりますので。

- 藤沢さんはお会いしてみてどう感じましたか?
藤沢さん:新井さんのおっしゃるとおり、本気だなと感じましたね。Webの制作が主事業なので、印刷案件のお客さんと顧客網を共有することで販路拡大したいという狙いにも説得力がありました。自社の成長戦略としてM&Aを積極的に取り入れて売上高を短期間で伸ばしたいという思いを強く持っており、初対面から最後まで終始一貫買いたいという熱意が他の会社様よりも感じられました。今回売却した会社は資産をあまり保有していませんが、売上高が年間で1億円以上ありますから。あとは、社長が若く、会社としてもこれから伸びていこうという会社だったのも好印象でした。年齢が理由で事業を譲るので、これから長く働ける方に託したいという想いは少なからずあったので。

- スピード感や本気度、若さが決め手だったと。最初の譲渡交渉が先方の慎重さで決裂になったというお話も含め、勢いのようなものも重要なのかもしれませんね。
藤沢さん:私のように、年齢を理由とする譲渡の場合は特にそうかもしれませんね。タイムリミットがあるので。もちろん慎重に判断しないといけない部分もありますが、結局最後は思い切りを持って決められるかどうかだと思います。

新井さん:売り手様側にも同じことが言えますね。藤沢さんのように、後継者がいないとう経営者さんは多いのですが、具体的な事業承継への行動を取られている方はまだまだ多くないです。ご本人だけで悶々と悩んでしまうと、いたずらに時間だけが過ぎてしまうので、早めのタイミングで専門家にご相談いただきたいですね。事業承継のタイミング、売れそうかどうか、金額はどれくらいが妥当かなど、客観的な立場からのアドバイスを貰えるはずですので。

<今回の案件を担当したM&Aアドバイザー>
山田コンサルティンググループ株式会社 コーポレートアドバイザリー事業本部 シニアコンサルタント 新井 規勝さん
(住所)〒100-0005 東京都千代田区丸の内1丁目8番1号
(事業内容)経営コンサルティング事業 / 不動産コンサルティング事業 / 教育研修・FP関連事業 / 投資・ファンド事業


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  • 田中 ヤスヒロ(typo)
  • ライター紹介田中 ヤスヒロ(typo)

    コピーライター/京都大学理学部卒業後、広告制作会社にてコピーライターとして勤務。WebサイトやSNSなど、デジタル媒体を中心に広告コンテンツの企画・制作を担当する。ビジネス、科学など固いものを柔らかく伝えることが得意。2018年より屋号「typo(誤字脱字)」として独立。その名の通り、ケアレスミスが多いタイプ。

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