2022-10-04
廃業危機の妊活サロンを救ったM&A!きっかけは売り手からの魂の宿った熱いオファー
買い手(法人):株式会社ハートフルサンク
<多角化を目指したM&A・買収事例>
- ➤ 妊活も「福祉」の一部、困っている方の悩みを解決したい
- ➤ 魂の宿った直接オファーに心を動かされ、事業買収を決意
- ➤ 人間的・情緒的な交渉で相手の「隠し事」は引き出せる
- ➤ 多店舗展開を通じて、たくさんの方に家族が増える喜びを
大阪府吹田市にある不妊治療専門の妊活サロン「cicogna(チコーニャ)」。50%の妊娠率を誇る「光線療法」を強みに、体質改善や心のサポートを通じて不妊に悩む多くの方を支えています。強い信念のもと経営を続けていましたが、オーナー自身が病気に見舞われ、事業継続のために譲渡を決意しました。
そこでこの事業を買収したのが、大阪で福祉事業を手がける株式会社ハートフルサンクです。少子化が進む日本において、社会的な意義も大きい不妊治療の分野。参入にあたってどんな思いがあったのか、具体的な交渉プロセスやM&Aについての考えなど、代表の森山和哉さんに詳しくお話を伺いました。
【妊活も「福祉」の一部、困っている方の悩みを解決したい】
- はじめに、株式会社ハートフルサンクの事業や森山さんご自身について教えてください。
当社は大阪にて、介護医療福祉の仕事、特に高齢者・障がい者向けの在宅支援を手がけています。ただ、今回の買収については私個人で行いました。
私が福祉の道に進んだ理由はごく単純で、母親が創業した高齢者介護の仕事を引き継いだわけです。21年半ずっと銀行員でしたが、仕事もやりきった感覚があり、母もそれなりの年齢になったので、地元に帰って「人生二毛作作戦」を始めようと。この仕事で1年間修行した後、代表に就任しました。
- 会社としての強みはどんなところにありますか?
新しいこと、従来の枠にはまらないことに多々挑戦しているところでしょうか。例えば、90歳〜100歳ぐらいの高齢者を旅行に連れていくとか、昼じゃなくて「夜のデイサービス」を提供するとか。介護事業者のイメージや、従来の福祉の考え方を変えることも自分たちのミッションだと思っています。
私自身が全く違う業界から来たので、きっとこの業界の常識がないんですね。だから、デイサービスに対しても「どうして昼なんだっけ?」「前例がなくても夜にニーズはあるよね?」という素直な疑問が浮かぶのかなと。
「他でやっていることはやらなくていい」と考えていますし、その中で新たな事業を展開しているので、いわゆるブルーオーシャンを常に走っている状況です。おかげさまで、コロナ禍を含めて、業績は一度も下がったことがありません。
- 今回の事業買収のきっかけはどういうものでしたか?
妊活というのも、広義の「福祉」になるんだと思います。困っている方の悩みに対して、精神的・科学的なアプローチ(心のケアやリハビリなど)で総合的に解決するという意味では、高齢者介護や障がい者支援と同じなんですよね。その中での、新たな領域への挑戦ということです。
事業の多角化を考える際、最初からM&Aは選択肢にありました。既存の介護事業でも2回経験がありましたし、銀行時代からコーポレートファイナンスでM&Aに携わっていましたから。TRANBIを利用するのは初めてでしたが、全体感は分かっていました。
TRANBIを使い始めたのは、インターネット上で見かけて、無料登録してみたことがきっかけだったと思います。M&A案件の掲載量が他社と全然違いますし、私が利用しているのはTRANBI1本だけ。配信情報もその都度見ていますし、今も役に立っています。
M&Aに挑戦する登録者数10万人以上、常時M&A案件数は2,500件以上を掲載中
「事業承継・M&Aプラットフォーム TRANBI【トランビ】」
(妊活サロンで施術する光線療法)
【魂の宿った直接オファーに心を動かされ、事業買収を決意】
- 具体的には、どのようにこの案件と出会いましたか?
当初は確か、地域・医療・健康といったキーワードで探していたと思います。その中で、元オーナーの加賀さんからオファーをいただきました。直接のオファーは、AIのマッチングと違ってインパクトもありますし、やっぱり魂が宿っていますよね。初めて受けたオファーだったので、私もよく覚えています。
加賀さんが事業譲渡に踏み切ったのは、病気で目が半分見えなくなったことが理由でした。今は見える範囲も改善しているそうですが、当時は非常に大きな不安を感じ、事業を継続してくれる相手をどうにか探したいと。
不妊治療を広げていってほしいこと、地域・社会貢献を望む相手に譲渡したいという熱い思いを伝えていらっしゃいました。
- オファーを受けた後、実際に案件を買いたいという気持ちはどう上がっていきましたか?
TRANBI内で、5回ほどメッセージを交わした段階でしょうか。その中で「自分単独では難しいけれど、世の中の困っている方に対する大きなソリューションなので、どうしても続けていきたい」という思いが真剣に伝わってきました。目的はお金じゃないと。
私は単なる投資家ではないので、売り手さんからキャピタルゲインを狙うような提案をされても、気持ちが動きません。それよりも、その事業への思いや意義が重要なんです。
その後、実際にサロンでお話しさせていただいた時には、気持ちはほぼ固まっていたと思います。目のことで不安や心配をお持ちでしたが、患者さんに向き合うセラピストとしてぜひ一緒にやっていきましょうとお伝えすると、非常に喜んでいただけました。
やっぱり「餅は餅屋」というように、専門職の方が経営的な仕事を背負うとストレスになりますし、私がそれらを引き受けることにして、適材適所の形を取ろうと考えました。
個人事業の場合は1人ならではの辛さもあるでしょう。コロナ禍で環境も激変し、不安を抱えている経営者の方も多いはずです。そういう方の力になりたいという思いもありました。
- この事業の魅力は、どんなところにあると感じましたか?
社会的には間違いなく意義があることだと思います。世の中の少子化を、少しでも跳ね返すことができればと。やっぱり社会的な意義がないとモチベーションも上がりませんからね。菅政権で不妊治療が保険適用になりましたが、実際に対象となるのは体外受精だけ。それならば、自由診療の選択肢をもっと広げてもいいのではと考えています。
また私自身、既存事業で精神保健や心理について勉強していますし、色々と資格も取っています。これらが妊活の分野とすごく結びつくんですね。結局、人間の体はメンタルとフィジカルの両方で成り立っていて、自律神経の安定が妊娠しやすさにもつながるんです。そういった共通項が多いので、自分の知見が使える点でも魅力を感じました。
そしてこの事業では「光線療法」を用いるため、この世界では非常に珍しく、労働集約的なサービスじゃないんです。例えばマッサージや色んなリハビリだと、常に一対一で人がつかなくてはいけません。でもこれは光線を当てればいいので、人手に頼らず多くの方に施術ができます。1時間に20人施術することも可能です。
基本的に福祉の事業は、どんどん増やしてもその分人手が必要になるので、なかなか規模を拡大しづらい課題がありました。そこに対して、ビジネスモデルがひとつ変わるきっかけになりそうだなという期待もあったわけです。
- 「光線療法」について、もう少し詳しく教えてください。
光線療法とは、単に太陽光の紫外線を除いたものなんですよ。人間が外に出ないと抑うつ傾向が強くなるのは、太陽光を浴びないからです。本来であれば、太陽光を浴びることでセロトニンという幸せホルモンが分泌されます。しかし、現代社会の生活の中ではその機会が少なくなっていて、精神疾患増大の要因といわれています。
光線療法はそこを補うんですね。効果としては、妊娠率でいうと50%ほど。不妊で悩んでいる方の半数が妊娠するということですから、かなり高いと思っています。もちろんその他の療法も併用されている方もいますし、途中でやめてしまう方もいるので、正確な数字は出せませんが、私としては50%以上あるのではと感じています。
さらに、妊活だけではなく、自律神経失調症の改善にもつながりますし、肌荒れや腰・背中の慢性的な痛みにも効果が期待できます。高齢者介護にも活用できる部分が多いんですよ。いずれはそちらの分野にも取り入れていきたいと思っています。
ちなみにこの機械は日本メーカー1社のみで作られていて、国内に100台ほどしかありません。加賀さんはもともと一セラピストの時期から光線療法を使っていたので、ご自身が運営を始めた妊活サロンでも導入に至ったようです。
- 交渉の中で、念入りに設定した条件はありましたか?
うーん……あまりなかったかもしれません。ただ、デューデリジェンスには限界があると思っているので、加賀さんには一緒に働いていただきたいとお願いしました。
以前から感じていることですが、デューデリジェンスでは7割くらい把握できても、どうしても残り3割の見えない部分が後から出てくるものです。その点、期限を決めて完全にバトンタッチするよりも、一緒にいれば何でも聞ける安心感がありますね。
加賀さんからの条件は、既存事業の維持、最初のコンセプトで続けてほしいというくらいでした。もちろん、それには私も同意しています。
- 最終的な譲渡金額は0円と伺っています。この金額はどのように決まりましたか?
色々な機材を含む譲渡資産額でいえば、200万円以上の価値があったかと思います。ただそこについては、契約上は無償で譲り受けるという形にして、キャッシュでいきなりいくら払うとはしなかったんです。
加賀さんとは雇用契約を結び、給料という形で今後お支払いをしていく形にしました。家賃や諸々の外部費用、保証金などはすべて私の方で担うことにし、結果的に譲渡金額自体は0円となっています。
(今回買収した妊活サロン「cicogna(チコーニャ)」)
【人間的・情緒的な交渉で相手の「隠し事」は引き出せる】
- 譲渡後、引き継ぎはスムーズに進みましたか?
そうですね、今2か月経ったところです。現在はすべて私名義になっていて、支払いや事務手続きなどは全部こちらで行っています。名義変更はなかなか大変で、生みの苦しみだなと思いました。
施術は引き続き加賀さんにお願いしています。経営的な面倒くさいことは全部私に任せて、純粋に患者さんに向き合ってくださいと。いい形で役割分担ができているのではないでしょうか。気づいたことは色々ありますが、引き継ぎ面での苦労は今後もないと思います。
ただニッチな領域なので、これから患者さんを増やしていくことは簡単じゃないな、という印象はありますね。現状でいうとまだ赤字状態、費用が先行している状況です。キャパシティとしてはまだ十分にありますし、今後マーケティングにも力を入れて、しっかり取り組まなくてはいけません。
- 具体的にはどのような集客策を考えていますか?
まずはBtoBで、産婦人科のように既に患者さんがいる顧客に対して、医療の選択肢を増やしましょうと提案することです。光線療法はどちらかというと東洋医学ですから、西洋医学ベースの産婦人科に対して、提案できる余地があるのではと思っています。「漢方薬と西洋薬、どちらも飲んだ方がいいよね」というイメージです。
また、BtoCでも「妊活」といったキーワードを検索している人に対して、アプローチできるようなマーケティングができればいいなと考えています。
- 今回の事業買収に限らず、ご自身でM&Aをする上で不安に感じる部分はありますか?
やっぱり、相手がどれだけ信用できるかどうかが重要だと思います。どういう意図で売却するかもポイントですね。儲けるために売るのか、大事なお客様に対してサービスを途切れさせないために売るのか、あるいは既存事業の赤字が原因で売るのか。向こうに「できれば高く売りたい」といったモチベーションが見えると、私としては難しいですから。
そのためにも、書面には出てこない情報を引き出さなくてはなりません。決算以外の、いわゆるオフバランスです。「書面に出ていないことはありませんか?」と聞くと、従業員との見えない約束のような情報も、結構ポロポロ出てくるんですよ。「他にはないですか、これで全部ですか?」と言うと、さらに出てきたりして。
この引き出し作業は、怖くても必要です。「出てきた内容によって話を撤回するつもりはありません」「後から知るとお互い嫌な思いをするので、先に言ってください」と最初に伝えると、不良資産や色々な密約が出てくるものです。それをいかに引き出せるかですね。
このあたりは非常に情緒的なんですが、相手に「この買い手は本気で事業に取り組むつもりだ」「この人にだったら託せるな」とまずは思ってもらうことです。その上で「こんなに真剣な相手に隠し事をしてはいけない」と交渉の中で思ってもらうしかありません。
- M&Aを行う上でのリスクや、その対策があれば教えてください。
デューデリジェンスでは、経理処理をどんなプロセスでやっているかという部分も見ますね。もし経営者が「経理担当に任せているのでよく分かりません」という調子だと、内部統制が効いていない可能性があるので危険です。
買収後には、無形資産の価値が減少することもあります。例えば、顧客が離れる、信用が落ちる、従業員のモチベーションが下がる、こういったことですね。
だから当然、顧客にも従業員にも、事業譲渡の説明や挨拶を懇切丁寧にすること。しっかり段取りを踏んで「ある日突然変わる」という状態にしないことが大切です。どこにでも“うるさい人”や“親玉”はいるので、事前に把握して個別にケアしておくべきだと思います。
【多店舗展開を通じて、たくさんの方に家族が増える喜びを】
- この事業の目標や、目指す姿をどのように考えていますか?
今後はここでノウハウを確立して、多店舗展開につなげていきたいと思っています。やはり来店ベースのサロンなので、来られる患者さんの範囲が限られていますから。多店舗展開を通じて、できるだけ多くの方に家族が増える喜びを感じていただきたいと願っています。
また、光線療法の効果が評判になれば、当然みんな取り入れるようになるはずです。だから早く宣伝力をつけていきたいところですね。
- 最後に、これからM&Aに挑戦される方へアドバイスをお願いします。
やっぱりすべては「縁」です。縁は作ろうと思ってもできない、何らかの奇跡だと思うんですよ。だからこそ、縁を大切にしようとする心が重要ではないでしょうか。
M&Aにしても何にしても、迷い出したらきりがありません。マイナスな部分をほじくり出して「あの言葉が気になる」と言い出すと、もう何もできないですよね。
出会いがあったら、これはきっと神様が与えてくれたチャンスだと捉えて、ポジティブな部分を見ること。ポジティブとネガティブのプラスマイナスを比較して、プラスが大きければ進んでみること。そこに尽きると思います。
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■今回森山様が買収した案件はこちら
■森山様が運営している妊活サロンはこちら
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