2022-11-01

不動産仲介手数料が一律5万円!業界のタブーに切り込む新サービスを買収

買い手(法人):株式会社グロードジャパン

<中小企業の新規事業を目指したM&A・買収事例>

 

2021年よりコワーキングスペースを開設・運営している、株式会社グロードジャパン。新たな事業の柱を作るため、代表の花泉裕一郎さんはM&Aへの挑戦を決意します。

業態を絞らずに案件を探す中で、目を付けたのは自身の前職の経験や宅建の資格が生かせる不動産仲介業。単なる不動産仲介サービスではなく、業界の常識を覆す可能性を持つサービスであることに強く共感して、花泉さんはM&Aに踏み切ります。

現在、引き継いでから2か月目。まだまだ課題が多いようですが、「誰かの役に立てるサービス」だと信じて事業を育てようとしている、花泉さんにお話を伺いました。

【コワーキングスペースに続く事業の柱を、予算500万円で検討】

- グロードジャパンの事業概要や、花泉様のキャリアについて教えてください。
千葉県松戸市で、カフェ&バーがあるコワーキングスペース「Flat」を運営しています。

キャリアとしては、大学卒業後にシステム系企業での勤務を経て、不動産会社に転職しました。そこで、社内システム構築やオフィスビルの施設管理、法人営業など幅広い職種を経験しています。

「いつか起業したい」と思い、社会人1年目から貯金を続けていました。起業資金も貯まっていたので、40歳を過ぎた時に「そろそろ自分で事業をやろう」と思い、2020年に退職しました。

コワーキングスペースで起業するに至ったのは、コロナ禍での在宅勤務の経験が大きく効いています。自宅でずっと働くのも息が詰まるので、近所で仕事ができるスペースがあったらいいなと思ったんです。それに、在宅勤務だと人と話す機会が圧倒的に少なくなってしまうので、コミュニケーションの活発なスペースを作りたいなと。

妻が飲食店運営に興味を持っていたので、組み合わせたら面白いコワーキングスペースができるのではないかと思い、2021年2月にFlatをオープンしました。大手のコワーキングスペースは綺麗な自習室のような立ち位置の場所が多いですが、Flatは地元に根差した有人型のスペースなので、近所の方が集まってコミュニケーションも活発に行われています。

コワーキングスペースを運営する上では、ネットワークセキュリティの設定やHPの管理、施設管理、契約締結など、前職で幅広い業務を手掛けた経験があらゆる場面で役立っています。

- M&Aに興味を持ったのは、どんなきっかけからですか。
もともと、コワーキングスペ―スやカフェは薄利であり、それほど儲かる事業でないことはわかっていました。1年運営してみて、「実際どれほど売上や利益があがるのか」が掴めてきたため、もう1つ事業の柱が欲しいなと思いました。

その中でM&Aに惹かれたのは、やはりゼロイチで事業を立ち上げるより楽だからです。事業のアイデアを譲っていただけるのは大きいですよね。また、経営者の高齢化問題も叫ばれているので、M&Aで事業を引き継ぐことで、社会課題の解決に貢献できる可能性もあるのではとはじめてみることにしました。

それでTRANBIに登録して、面白そうな新着案件があればチェックしていたんです。

M&Aに挑戦する登録者数11万人以上、常時M&A案件数は2,700件以上を掲載中
「事業承継・M&Aプラットフォーム TRANBI【トランビ】」

 

- どのような条件で、案件を探していましたか。
業態は絞らず、予算500万円以内でさまざまな案件を見ていました。実際に申し込みや交渉に至ったのは、千葉の柏や東京の東側エリアにあるレンタルスペースやシェアリングサービスが中心でした。Flatの2号店のような立ち位置での買収を考えていましたが、別の買い手の方に決まってしまったり、収支を見て辞退したりして、購入には至りませんでした。



(運営しているコワーキングスペースの様子)

【ブラックボックスになっている不動産業界の常識に切り込むサービス】

- 今回購入した案件について、改めて教えてください。
「TOKUSUMO」という、完全オンラインで集客、接客、契約が完了できる賃貸仲介事業です。

お客様から、インターネットで見つけた気になるお部屋の物件情報を送っていただき、私から物件の管理会社に問い合わせをして空室かどうかを確認し、取り扱える場合はそのまま仲介を行うというものです。

利用するお客様目線に立つと、家賃に関わらず仲介手数料は一律5万円、手続きはオンラインで完結するというメリットがあります。基本的には、内見不要のお客様を対象にしていますが、有料のオプションで内見に立ち会うこともできます。

お部屋を借りる際には、契約書と重要事項の説明が必須ですが、それをオンラインでもできるようになった「IT重説(不動産物件の契約時に必要とする重要説明事項を 、パソコンやスマホなどのIT機器を活用して実施すること)」が可能になったからこそ、生まれたサービスです。

- どんなところに魅力を感じましたか。
まず、自分が持っている宅建の資格が生かせるところです。オンラインの不動産仲介なので、コワーキングスペース運営の空き時間を利用して、稼働しやすい点も魅力でした。

けれど一番大きかったのは、このサービスを立ち上げた売り手様の思いへの共感です。

家を借りる際は、賃料の1ヵ月分を仲介手数料として支払うことが業界の習わしになっています。ただ、それは法律で決まっている上限であって、本当はもっと低額でも良いのです。仲介業は、物件を家主様から借り手様に流しているだけなのに大きな手数料を取っていて、「この構造はおかしいのでは?」という思いから、サービスを立ち上げられたようなのです。

家賃5万円の物件も、家賃20万円の物件も、仲介業者が行う手続きは同じ。だからこそ、「一律5万円でいいのでは」と、今の価格設定にしたようです。

私が前職で手掛けていたのは、不動産と言ってもオフィス物件の方でした。しかし、自分がこれまでに家を借りてきた中でも、薄々と「不動産業界にはブラックボックスが多そう」と感じていたこともあって、社会課題の解決に挑む気概を持った、このサービスに直感的に惹かれました。
 

- 家を借りる側にとっては、非常に魅力的なサービスに映ります。競合サービスもあるのでしょうか。
「仲介手数料無料」などを謳っているサービスもありますが、蓋を開けると別の名目で手数料が掛かったり、大家さんから報酬をいただくビジネスモデルにしていたり、取り扱い物件が少なかったりといったサービスもあると耳にします。

今は、家から出なくても得られない情報はないほど、不動産サイトにたくさん情報が載っていて、お客様が自分で住みたい物件を探せる時代ですよね。

だからこそ、多額の広告料を払ってでも不動産サイトに仲介会社が物件を掲載する流れがあるのですが、実は不動産サイトに載っている物件のほとんどは、どこの仲介会社でも取り扱えるのです。

ただ、このロジックを明らかにした場合、誰でも扱えるということは他社の物件を自分のものにできる一方で、自社ではない他社に物件を奪われるリスクも負うことになるため、結局自社にとって首を締めるリスクをはらんでしまいます。最終的には価格競争に陥ってしまうため、TOKUSUMOのようなサービスが急激に増えるとは、現時点では思いません。

もしも、IT業界など不動産業界の慣習に縛られないプレーヤーが、外から黒船のようにやって来て事業を展開したら、がらりと業界を変えることがあるかもしれませんね。



(運営しているカフェの様子)

【200万円の価格は割高も、コンサルティング料込みと納得】

- 売り手様との交渉は、どのように進みましたか。
早く購入したかったため、経歴などの詳細も添えて実名で申し込みました。

当初、譲渡希望金額が350万円だったのですが、譲っていただけるものはHPとInstagramのアカウントのみだったため、少々高過ぎるかなという印象でした。HP制作を手掛ける知り合いに聞いても、100万円かからず制作できると言われました。

本当は収支状況を確認したかったのですが、今回購入したサービスは稼働が2021年12月から、本格リリースが2022年1月からで半年ほどしか事業を行っていなかったため、通年での売上実績がなく、累計売上は60万円ほどでした。収支を元に金額が妥当かを判断するには期間が不足していました。

ただ、売り手の方は「試行錯誤して作り上げてきたので、提示しているくらいの金額は掛かった」と話されていました。私は個人の不動産仲介の経験がなかったため、譲渡後も継続的に業務の引き継ぎや相談をさせていただくという条件付きであれば納得できるかなと、200万円で購入を決めました。

振り返ってみると、若干高い買い物だったように感じるものの、売り手様とは今もやりとりが続いていて、業務に関してわからないことがあれば都度教えていただいているので、コンサルティング料込みと捉えています。

- 売り手様は、なぜサービスを立ち上げて間もないタイミングで売却されたのですか。
売り手様は私より一回りほど若い方でしたが、どうもサービスを作り上げた時点で、一定満足してしまったようなんです。他の不動産業も展開されているため、よりダイナミックな事業に注力したいとのことでした。

当初はサービスを廃止しようと考えていたようですが、TRANBIの存在を知って、思いを引き継いでくれる方がいれば事業を売却しようと決意したそうです。

- 他の買い手候補もいた中で、なぜ花泉さんが選ばれたと思いますか。
条件である宅建の資格を持っていたことと、すぐ実名交渉を申し込んだスピード感が大きかったのではないでしょうか。買い手候補の中には不動産会社もいたようですが、彼らが購入すると最初の理念が失われてしまう可能性があるので、「社会課題を解決したい」という思いを持った、第三者の私が選ばれたのかなと思います。



(運営しているカフェの様子②)

【集客に苦戦。顔を出すなどの信用力が鍵】

- 2022年8月に事業を引き継ぎ、2か月ほど運営されてみて、手応えはいかがですか。
まだ売上は立っていませんが、現在3件がお申し込みから現在進行中で検討いただいています。課題は集客ですね。そもそもサービスを多くの人に知っていただくことが難しいですし、手数料が安いことがかえって信用のハードルを高めている側面もあります。HPや動画は作り込んでいるのですが、それらが整っているだけでは怪しまれるので、「私が仲介しています」と顔を出した方が、安心して使っていただけるのかもしれないと思っています。

Twitter、Instagram、YouTube、Facebookではすでに広告などで集客をしているので、今後はそれらを強化しつつ、TikTokでの集客にも力を入れていこうかなと検討中です。そもそも、引っ越したいタイミングで広告を見かけてもらわないと響かないサービスですし、人生の中で引っ越しはそう多くするものでもないので、細く長く地道に事業を続けて、誰かの役に立てればと思います。

- 会社としての、今後の展望を教えてください。
あと1つほど、事業の軸を作りたいと思っています。コワーキングスペースを運営していると町中の情報が入ってくるので、地域に根差したWeb媒体を運営するのも面白いのかなと。いいアイデアが浮かんだら、すぐに取り掛かると思います。

私は以前、社会起業大学というビジネススクールに通っていたこともあって、自分の得意なことで誰かの困りごとや社会課題を解決できた時に、人は幸せを感じるのではないだろうかと考えています。どうせなら、お金儲けのためだけではなくて、人の役に立てる事業をしたいですね。

ただ、実際に事業を始めると、何よりもまずは売上を立てることに必死になるものです。持続可能な事業でないと意味がないので、ビジネス面にもストイックに向き合っていこうと思います。

- これからM&Aに挑戦しようとしている方に向けて、アドバイスをお願いします。
TRANBIにはたくさんの案件が掲載されているからこそ、購入する上での条件や軸を持って案件を眺めた方が、自分にぴったりの案件が見つかりやすいと思います。

また、収支状況も大切ですが、売り手様に実際会ってみて、どんな思いで事業を立ち上げ、育ててこられたかを聞くことも大事かなと。事業が魅力的だからといって、1対1で話した時に「合わない」と思う方や違和感のある方から事業を買うことはおすすめしません

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■今回グロードジャパンさんが買収した案件はこちら

「店舗不要賃貸仲介サービス」

■運営している事業はこちら

「TOKUSUMO」

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  • 倉本祐美加
  • ライター紹介倉本祐美加

    関西学院大学卒業後、クラウド製品を扱うIT企業のインサイドセールス職を経て2016年にライターとして独立。企業取材を中心としたインタビュー原稿の制作に従事していますが、エンタメ・スポーツ・文化等幅広く好みます。

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