2023-07-18

自動車整備工場が赤字のスープカレー店をM&Aで立て直し!利益重視ではない、M&Aの目的とは?

買い手(法人):株式会社ワイズソリューション

<中小企業の新規事業を目的としたM&A・買収事例>

 

札幌で自動車整備工場を経営する株式会社ワイズソリューション。代表である米谷さんはお客様満足を追求して、独立から3年で事業を拡大し、黒字化を達成してきました。

本業の基盤が整ったことに伴い、かねてから興味のあった飲食店経営にチャレンジします。

こうして、M&Aで近所のスープカレー店を購入。 赤字続きの店を立て直すため、店長の労働環境改善、店の内装・外装工事、新たな集客施策などに果敢にチャレンジしています。

スープカレー店を購入した理由や、交渉過程のエピソード、そしてM&A後に手掛けている経営改善施策について、米谷さんにお話を伺いました。

【本業の基盤が整ったため、利益目的ではないM&Aに挑戦】

- はじめに、米谷さんのキャリアについて教えてください。
新車ディーラーに就職して、店長や部長職を経験しました。3年前に独立して、現在は札幌市で自動車修理・販売を手掛ける会社を経営しています。

独立したのは、経営層との考え方の違いが明らかになったためです。 車屋は客商売なので、お客様満足なくして商売の成功はないと思っています。ただ、前職は利益追求のために合理性を求める色が濃くなっていました。

私は、会社として一時的に損になったとしても、お客様のためになる提案をすべきだと思っていたので、お客様に喜んでいただけるサービスや接客品質を提供したいという思いから、前職の同僚と3人で会社を設立しました。

現在は社員も6人に増えて、1700人ほどのお客様を抱えています。つい先日、3人目の営業職が入社しましたが、それまでは2人の営業で1700台をカバーしていました。ディーラーの営業マンでも1人あたりが抱えるのは500~600台だと思うので、キャパオーバーを感じて増員しましたが、かなり順調に事業が拡大しています。

- 3年という短期間でそれほどの事業成長を果たすために、どのように集客を行ってこられましたか。
前職のディーラー時代のお客様が400人ほど、あとの1300人は新規のお客様です。

車整備工場検索サイト「グーネットピット」において、北海道内での問い合わせ件数が常に上位3番以内に入っており、そこからの送客が年間150~200件あります。タイヤ・カー用品店の「オートウェイ」からの送客も年間100件ほどあります。

店舗がカフェのような雰囲気の建物であるため、女性1人で入りやすいことも集客に繋がっているのだと思います。

車は買って終わりではなく、永続的なメンテナンスが必要なものであるため、お客様との関係性が重視される商品です。営業は、ただ車のことを知っておけばいいわけではなく、お客様の家族構成や趣味、性格を汲んだ上で提案を行います。

また、北海道では夏タイヤと冬タイヤを履き替えるタイヤ交換の必要があるので、馴染みの車屋に年2~3回通う事もあり、親戚や知人以上の頻度で会うお客様も多くいらっしゃいます。

20年もこの仕事を続けていると、幼稚園児だったお客様の子どもが大人になって車を買ってくれたり、メンテナンスに来てくれたりすることもあります。

独立時から追求していたお客様満足にこだわり、 お客様に納得いただけるまで丁寧に説明を行うこと、輸入車や他店で買った車の修理や部品の持ち込みもOKであることなども、多くのお客様に評価していただき、選ばれている理由だと思います。

- 今回TRANBIで、異業種である飲食店のM&Aに挑戦したのはどうしてですか。
スタッフも含めてみんなお酒が好きで、創業メンバーの中には「飲食店で接客をしたい」という願望を持っているスタッフもいました。

副業で毎日お店に立つことは難しいけれど、仮に会社で飲食店を経営したら、週1回店に入ることも可能になります。そのため、本業とは別に楽しめる場所が欲しくて購入を考え始めました。 利益目的ではなく、挑戦してみたい好奇心からです。

また、私自身いずれはコンサルティングも手掛けたいと思っていたことも理由の1つです。というのも、私は知識ではなく実体験をもってしか、人にものを教えることができない性格で。

自動車修理工場については、イチから立ち上げてある程度の形にすることができたので、もうコンサルティングができる状態だと思っています。

ここに加えて、たとえば赤字の飲食店を立て直すことができたら、その経験と実績をもって飲食店のコンサルティングも手掛けられるようになると思いました。

こうした願望や狙いがあったこと、かつ本業は黒字状態が続き財務面での基盤が整ったこともあり、M&Aに挑戦することにしました。

- 「M&Aで会社や事業を買う」という発想はいつから持っていましたか。
起業前からです。今の自動車整備工場はイチから立ち上げたものですが、もともと立ち上げ前は後継者のいない修理工場を買うことも視野に入れていました。事業承継・引継ぎセンターに登録を行い、TRANBIなどのM&Aプラットフォームでも案件を探していました。

札幌の自動車修理工場の案件は引く手あまたなので、市場に出る前に関係者間や銀行を介して売り手が見つかったり、大手企業が買収したりして、なかなか出会えませんでした。ですが以前からM&Aという手法には興味を持っていたので、創業後もTRANBIは継続的に見て取り組める案件がないか見ていました。



(譲渡前の店舗:before)

【失敗を許容できるラインの譲渡金額を設定して、交渉へ】

- スープカレー店を購入されましたが、購入の上ではどんな条件を重視していましたか。
まず、購入金額が安いことです。利益重視ではなくチャレンジ案件なので、 「この投資が失敗しても、うちの屋台骨になんら影響を与えない金額であること」が条件でした。

もう1つは場所です。実は、整備工場から今回購入したカレー屋さんまでは車で5分。この近さも決め手になりました。

自走可能で利益が出ている飲食店なら、多少距離が離れていても候補に入ったかもしれません。ただ、赤字で立て直しが必要な場合は、われわれのテコ入れが必要なわけです。

そのために店舗を訪れる機会も多くなるので、距離が離れていたら移動だけで時間が取られてしまいます。

立て直しのためには、スタッフとの意見交換が大切なので、すぐに話に行けたり、人出が足りなければうちのスタッフを手伝いに行かせたりするためにも、近いに越したことはないと思っていました。あとは、スープカレーが好きだったことも大きいです。やっぱり、好きなことを手掛けた方が楽しいので。

- 売り手様に初回の申し込みメッセージを送るときには、どんなことを心掛けていましたか。
相手に、「偉そうだ」や「上から目線だ」と思われないような姿勢を一番気にしていました。売り買いの場でも、どちらが上や下といった力関係はなく、対等なパートナーであるべきだと思っていたからです。

また、簡潔な文面にすることも心掛けました。まだお会いしてもいないのに、こちら側の思いを一方的に伝えても相手が疲弊してしまうと思ったからです。

今回の案件では売り手様が仲介会社を付けていたこともあって、より一層そうした姿勢を意識しました。

案件に興味を持った理由やプランをシンプルに記載した上で、先方の考えを知りたかったので「お会いしてお話ししたい」と要望を伝えました。

というのも、当初の譲渡希望金額は、最終的な購入金額の3倍だったためです。 今回の案件は赤字ですが、赤字案件にその金額は支払えないと思ったので、交渉余地があるかを確認したかったのです。

- 「この金額なら買う」というラインは、どのように決定されましたか。
先方の最初の提示金額は、うちの屋台骨を揺るがすことはないものの、年間利益の半分近くを占める金額だったので、その金額で赤字案件を購入して「失敗した」では済まされないなと。

一方で1/3の金額なら、もし失敗しても「経験が得られた」と割り切ることができるなと思いました。

赤字が月5~10万円、年間でいうと100万円ほど損失が出ており、設備も数年前に購入した冷蔵庫とレジだけと、資産と呼べるものが何もない状態でした。

本音を言えば、もっと低い金額で購入したかったところですが、ノウハウやレシピを買うための費用だと思って納得しました。

交渉の中でお会いしたのは、仲介会社の方と、スープカレー店の創業主であり現在も店に立って調理をしている店主だけです。2019年に店主が、今回の売り手であった前オーナーに事業を譲っていますが、その前オーナーは中国在住なこともあって交渉の場にはいらっしゃいませんでした。

最終的に、東京の飲食業の会社と札幌の個人事業主と競合していたようで、こちらの提示価格は一番安価だったようですが、 交渉の中で私を信頼してくれた店主が、前オーナーに「米谷さんと一緒にやりたいです」と直談判してくれたことと、うちが抱えているお客様を送客できること、即入金できることなどが決め手となって選んでいただけました。



(譲渡後の店舗:after)

【お客様満足は、働くスタッフの満足から。まず取り組んだ、店長の労働環境改善】

- 交渉において、トラブルや困ったことはありましたか。
1点想定と違ったのは、賃貸借契約の名義変更に伴って、家賃を3万円引き上げられたことです。

ただ、店主から聞いた話では、以前から家主に家賃の値上げを要求されており、前オーナーに伝えたところ承諾が得られなかったため、 店を続けるために渋々、店主が自腹で払い続けていたとのことでした。前オーナーも仲介会社もこの事実を知らなかったと話していました。

見方を変えれば、前オーナーは拒否の返答をした時点で「値上げ要求を取り下げて、話は収まった」と思っていたのかもしれません。

そのあたりは、店長と前オーナーの関係性やコミュニケーションの問題なので、はっきりとわかりません。店長から「自己負担で払っていた値上げ分を負担していただきたい」とのことでした。

こちら側は想定していなかったことなので、「契約書と話が違う」と契約を取り消すこともできたわけですが、結局は支払うことで納得しました。

交渉終盤や交渉後に想定外のことは起こって当たり前だという意識を持って、余裕のある資金計画を練っておくことが大切だと改めて実感しました。ギリギリの事業計画では、想定外のこと1つで破綻してしまいます。

- 引き継がれて1ヵ月ほどですが、どんな改革に取り組んできましたか。
まず、店長の給料を上げました。前オーナーと店主も業務委託契約を結んでいたのですが、週6日ワンオペ稼働にしてはかなり厳しい給料でした。

その給料で働きっぱなしでは、何かを変えようと思っても先立つお金がないし、アイデアを考えたりインプットをする時間もないので、現状維持で精一杯でも仕方ないと納得せざるを得ない部分がありました。

前オーナーは自ら改善案を考えテコ入れするようなことはあまりされていなかったようですし、サラリーマンで副業として経営をしている方だったので、設備投資を行うだけの体力もなかったのかもしれません。

店主の労働環境を改善したいという思いから、給料を上げ、 売上に応じたインセンティブも付ける契約にして、かつ定休日も1日増やしました。

そして給料とは別に、月1万円までの飲食費を経費として認めることにして、「カレーでもそれ以外でもいいから、流行っている店や気になっている店に足を運んで勉強してきてほしい」と伝えました。

毎日同じ生活をして、同じものを食べているのでは、何の発見も生まれませんから。まずは、アイデアが浮かぶような環境を作ってあげることが必要だと思ったんです。給料が上がったり、休みが増えたりして店主の生活が充実すれば、その幸せが接客に繋がり、お客様満足にも繋がると思うからです。

- 環境を改善したことで、店長の方に変化は見られますか。
話す内容を聞いていても、確実にモチベーションは上がっていると思います。 「このメニューを取り入れてみたい」や「こうしたことをやってみたい」といった要望を積極的に伝えてくれるようになりました。

週数回、店長と会ってコミュニケーションを取っているのですが、 店長から「こうして話せる人ができただけで、すごく嬉しい。同じ方向を向いて、経営の悩みや今後の展開を話せることが幸せです」と言ってくれていて、良好な関係性を築けていると感じています。



(にぎわっているお店の様子)

【自動車整備工場のスタッフも総出で協力。本業以外でも成功体験を積めたら】

- 他には、どんなテコ入れを実施していますか。
まずは店の外観や内装の改善です。店舗にはスタッフと一緒に何度も食べに行きましたが、味はかなりレベルが高いと思っています。化学調味料を抑えた、身体に良いスープをコンセプトにしています。

けれど、 外から見ても何の店かがわかりづらく、内装もごちゃごちゃしていて、女性が入りづらい店だという印象を受けたので、改装工事を実施しました。

また、一人あたりの単価を増やすために、夜営業でお酒を強化する方針にしました。今は1日に10~20杯程度、スープカレーが売れています。

売上を上げたいものの、スープカレーは仕込みにすごく時間が掛かるので、仮に1日60杯売れるようになったら、それはそれで仕込みのスタッフを別に雇わないと店が回らなくなります。

こうしたジレンマがある中で、人件費はそのままで売上を上げるために、「お酒のメニューを強化して、夜は飲めるスープカレー屋にしよう」と提案しています。

スープカレーは食べず、一杯飲むためだけに来ていただくお客様を増やそうと思っています。

また、お酒も定番メニューに加えて変わり種を揃えることで、コアファンの方に来ていただけたらと思っています。その1つが、イギリスのギターアンプメーカー「マーシャル」が公式で出しているビールです。

札幌でこれを飲めるお店は数少ないので、マーシャルのファンの方やビール好きの人に向けてSNSでも告知しています。

また、酒専用のディスプレイ要素も強い冷ケースを用意し、厳選した銘酒を入れています。

「このエリアで酒ならここだよ」となってくれる事を望んでいます。

集客という面では、自動車整備工場のお客様に「うちがやってるカレー屋さんが、車ですぐ近くにあるので」と2割引きのクーポンを渡しています。普段からお客様に「この辺で食事できるところ、どこかない?」と聞かれていたので、ちょうどいいなと。



(左:提供されているメニュー、右:お酒の冷蔵ケース)

- 自動車事業のスタッフの方は、今回のM&Aをどう捉えていますか。
みんな積極的に、スープカレー屋の打ち合わせにも参加してくれています。 この前の改装工事の際もカウンターなどは自分たちで作りましたし、メニュー板もスタッフが書いてくれました

自分たちが手を掛けることで、店がどんどんおしゃれでいい雰囲気に変わって、集客に繋がっていく様を見るのは楽しいようです。

もしスープカレー屋を立て直すことができたら、社員にとっての成功体験にも繋がると思います。成功体験がある人間は強いですし、自信にもなるので、きっと自動車事業での接客にも生きてくるだろうなと。

私も今後は、仕事終わりにスープカレー屋のカウンターに立とうと思っています。リピーターを増やすためにも、お酒を提供するお店は接客がとても大事だと思います。本業で培ったお客様との対話力を発揮できればと思います。

- 今後の展望を教えてください。
数字を改善するには3ヵ月から半年は掛かると考えているので、効果測定をしながら、集客に繋がるアイデアをどんどん試していきたいです。

また、引き続きM&Aに興味はあって、特に後継者不在案件などには注目しています。われわれの本業とうまくリンクする同業の案件があれば、黒字化できる自信はあるので、借金をしてでもチャレンジするかもしれません。今後もM&A市場にはアンテナを張っておきたいです。

 

(提供されているメニュー②)

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■米谷さんが買収した案件はこちら

「札幌スープカレー食べログ高得点オーナーチェンジ」

■米谷さんが運営しているスープカレー店はこちら

AJITO HACHAM(アジト ハチャム)/北海道

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