2023-06-13

従業員が買収・独立するMBOも最終的な出口にする"幸せ循環経営"!

買い手(法人):株式会社セカンドドリーム

<中小企業の新規事業を目的としたM&A・買収事例>

 

株式会社セカンドドリームの代表・今東大岳さんが、新規事業への進出として今回買収したのは、 北海道の帯広にある児童発達支援事業所(放課後等デイサービス含む)でした。

児童発達支援事業所とは、障がいのある子どもたち(0歳〜小学校入学前まで)に対するサポートを提供し、社会的スキルや生活スキルの獲得を支える施設です。

都銀の融資担当からスタートした今東さんは、早くから「事業承継に特化する」をテーマにキャリアを築き、その中で得た出会いやビジネス経験を通じて、41歳にして複数の事業を成長させています。

そんな彼が どうして児童発達支援の分野を選んだのか、また、M&Aに対する価値観やゴール設定はどこにあるのか。過去の歩みを振り返りながら、ビジネス成功の視点や今回のM&Aの詳細について語っていただきます。

【沖縄の泡盛バーとの出会いが、M&Aの扉を開いた】

- まず、今東さんのこれまでのキャリアについて教えてください。
もともと新卒で都市銀行に入りましたが、何かしらの得たいスキルが身についたら外に出ようと最初から考えていました。銀行では5年間ほど、融資担当として勤務しています。

その後、僕は「中小企業の永続的繁栄と存続のお手伝いをしたい」と考え、外資系の保険会社に営業マンとして転職しました。

個人向けの保険販売もしていましたが、自分の中では「事業承継に特化して仕事をする」がテーマでした。銀行で得た自分の見識もあり、これからの未来に必要だと考えたからですね。

当時はM&Aについて気軽に話せる時代ではなく、ある意味で啓蒙者というか、正しい事業承継のサポートができるよう橋渡しをしていました。

保険のセールスをしていたのは、27歳からの8年間。その中で ある沖縄の会員制バーに出会い、私自身の勤めていた会社は副業が禁止だったため、その店舗を妻が買収するというスキームを立てたのが全ての始まりでした。

- そこで初めてM&Aを経験したのですね。
はい。そこには僕自身もよく行っていて、実は一滴もお酒が飲めないのですが(笑)、「いつかこんなバーを持てたらいいな」と思っていました。

そこで色々と話を聞いていたところ、2年後ぐらいに店を閉めると聞いたんです。理由は、税務関係の問題が発生したからでした。

結果的に解消はしたものの、オーナーは「もう手放したい」となり、最初はたたむ予定で売るつもりもなかったようです。

しかし、事業譲渡の話を持ち掛けたところ、スピード感のある交渉・成約を条件にOKという返事をいただき、 金額も想定の範囲内だったので、譲り受けることを決めました。

僕も手伝いの立場ながら真剣に携わり、売上が数百万円の小さな会社ではありましたが、そこで初めて経営を見る経験もしました。

お客様も本物のアッパー層の方々が来ていましたので自分が営業する場、そして 自分のクライアントである経営者を招く場としても活用できたのです。

- 店舗を引き継いだ後は、トラブルなく順調に進みましたか?
デューデリジェンスもできなかったので、いざフタを開けてみたら、課題が山積しておりなかなか厳しいなという船出でした。

その店舗は泡盛に特化したバーで、もはや「名物店長」とも言うべき人材がいたんです。

若いけれど泡盛に精通していて、本当に泡盛が大好きで、職業人として大学に登壇するようなタレント的存在。でも 給料は十分に支払われず、彼の泡盛愛だけでなんとか保っていましたけれど、サステナブルじゃない関係でした。

そこで僕は、マネジメントをする立場として本人と話し合いました。「このまま継続はできない、あなたはどうしたい?」と聞いたわけです。もちろん彼も、健全経営に軌道修正して、給料が着実に増えていく方がいいと答えました。

そして実務に携わる中で、これまで経営者の悩みを聞いてきた経験を役立てつつ、マネジメントやオペレーションを学ぶようになったのです。

- 経営面では、具体的にどんな部分を変えましたか?
僕自身は遠方にいることもあり、経営に関してもオープンにしています。 やはり自走させることが重要ですし、店長に経営の感覚を持ってもらうようにしています。彼が何をしたいか、この店をどうしていきたいのかを第一に考えて話をしています。

意識したのは、KPIを導入し“届きそうで届かなそうで、届く目標”を常に設定してきたことです。

初めは月の売上が50万円程度でしたが、そこから100万円となり、120万円、150万円、200万円……と。 当たり前の水準をどこに置くかで、知らない間にどんどん超えていけるものです。

また、マーケティングの戦略も一緒に考えました。会員制という難しさはありましたが、一方で会員のリストを活用できる強みもあり、基本的な 「集客マーケティング×サービスの質向上」によって売上がアップしました。

そしてインセンティブをつけたこと。頑張って売上が上がれば利益も残るし、それだけ給料も渡せるよと伝え、実際に少しずつ上げていきました。

結果的に、店舗の売上は徐々に上がっていき、今では当時の約5〜6倍にまで成長しています。ただ箱にも限界があり、パフォーマンスが落ちることも望まないので、今はもう何も言わず任せている状態です。

- 泡盛のバー以外に、他にも複数の事業を手掛けているそうですね。
仕事で沖縄に行き続けていると「5000〜6000円ゾーンのちょうどいい焼肉屋がないな」と思うようになったんですね。

そこで、東京に行きつけの焼肉屋さんがあったので、沖縄への出店を打診してみると「フランチャイズで出してよ」という話になりました。

それを受けて、2016年〜2017年にかけて会社を立ち上げ、沖縄に焼肉屋を出店しました。当時は外資の保険会社を辞めて、保険の代理店に移籍した後です。 この焼肉屋は拡大路線で、現在は5店舗あり、売上も計3億円ほどになっています。

そして1店舗、2店舗と進む中で、違うエリアにも出店しようと。選んだのは札幌です。僕の中では沖縄に似ているというか、代表的な旅行先でもあり、一緒のモデルが成立するだろうと考えました。そこで札幌に店を出し、会社は別法人として設立しています。 というわけで、飲食に関しては、沖縄の泡盛バー、沖縄の焼肉屋、北海道の焼肉屋と、3つの法人を経営している形です。また、銀行の時の仲間と集まって財務コンサルの会社を立ち上げ、中小企業の財務のコンサルも続けています。

一方で、メインの収入源となっているのは保険代理店の仕事です。僕は支社長のようなポジションで、自由度が非常に高く複業もできる環境なんですね。35人ほどの部下も、実は全員自分で一人ずつお声がけしたメンバーで、僕は彼らのマネジメントを担っています。

- そうなると、本当にお忙しそうですね。
そうですね。ただ、泡盛の事業はそろそろ手離れの段階になっています。 今、最後のプロジェクトを動かしていて、それが終われば店長に会社を譲る予定です。

もともと店長には「最終的にはあなたの会社にしてあげたい」と言っていました。「この会社はあなたの会社だから、社長になるつもりで、最後にお店を買うためにいくばくかのお金は貯めておいてね」と。

あとは彼がいつまでにプロジェクトを完遂するか次第なので、譲渡のタイミングは任せている状態です。

ということで、次にもう一つ新しいビジネスを作ろうと思ったのが、今回のM&Aにつながってきます。



(今東さんが運営している泡盛バー)

【発達障害の子どもたちは、これからの日本を支える宝物】

- 児童発達支援の分野に参入した理由は、どんなところにありましたか?
自分も関心があり、かつ社会的にも意義のある分野を探していて、最初はグループホームの事業を検討していたんです。フランチャイズなども含めて学ぶ中で、途中から児童発達支援事業1本で取り組もうと思うようになりました。

僕自身、障がいを持つ幼なじみの進路の「壁」を見たり、『ケーキの切れない非行少年たち』という本を読んだりして、 日本の障がい者に対する取り組みを疑問視していました。

例えば、日本では「発達障害」という名前ですが、海外では「ギフテッド」のような表現で“宝物”として扱っています。そこに何かできないのかなと思って調べると、当然そういったビジネスはすでにあったわけです。

発達障害の人たちは、社会が生かせばすごく光るし、社会が排除すれば自己肯定感や自尊心が低くなり、生きづらくなってしまうと思います。

これからAIの時代になっていけば、日本の平準・平均的な教育ほど意味のないものはありません。だからこそ、発達障害を持った子どもたちは、 これからの日本を支えて変えていく、社会の宝物なのではと考えています。

そんな一助となるビジネスができないか調べてみると、今はまだ国の補助ありきですが、十分余地がありそうだと分かりました。しかも、働く人たちの処遇や収益の考え方など、もっと健全化できそうな部分も多々あります。

そこでゼロから立ち上げようとしましたが、資格保有者がいなければ経営できないという行政のハードルもあり断念しました。そこで、M&Aという手段に行き着いたのです。

- M&Aを視野に入れてから、具体的にどのように動いていきましたか?
2022年末頃から動き出し、まずは買ってみようと決意しました。1000万円前後ならさほど金額も大きくないし、万が一うまくいかなくても経験値が得られるならいいかなと。

実際に児童発達支援事業でM&Aの案件を探したところ、今回の案件以外にも3つほど候補が見つかりました。ただ、結果的にこちらの案件がスピーディに話が進んだ形です。

- この案件を見た時の、第一印象を教えてください。
予算的にも、帯広の潜在的なパフォーマンスを考えても、最初から好印象でした。この事業は、伸びしろの天井はあっても大きくコケることもないでしょうし。

そういう意味では、この案件は安すぎるのではと感じましたが、とりあえず交渉に進みました。

実際に話を聞いてみると、唯一の「児童発達支援管理責任者(児発管)」の資格保有者が辞めるということで、 売却か閉めるかの2択を迫られている状況でした。

資格保有者がいなければ成り立たないビジネスなので、引き留めるか、他の人を新しく雇うしかありません。

ただ、その方も子どもたちに対する思いはとても強く「自分が辞めることでこの事業所がなくなるのは嫌だ」という葛藤がありました。

そこで、どうにか残ってもらえないか交渉したところ、3ヶ月の期間限定でOKしてもらいました。そして僕らは、 この期間に別の人を採用することになったのです。

- 新しい分野で新規採用、しかも資格保有者となると難しいのではないでしょうか?
はい、そこで仲介の人が登場します。といってもM&Aに特化しているわけではなく、札幌を中心に、介護福祉や幼児教育の分野で幅広いコンサルを手掛けている方です。

その方を通じて、おひとりの児発管の方を紹介していただきました。無事に採用が決まったおかげで、無事にこの事業を買収できることになりました。

今回仲介の方の存在は大きかったですし、いなかったらこのM&Aは成立していなかったと思います。彼はコンサルという立場で色々な商売を手掛けているので、今後もいいお付き合いが始まりそうです。



(今東さんが運営している焼肉屋)

【「全ては子どもたちのために」で団結し、好循環を目指す】

- 今回のM&Aを振り返って、想定外だったところはありましたか?
こちらが思っていたスピード感ではなかった、早すぎたという点です。先方はもう「今月中に買ってほしい」という感じでしたから。

実は今回も、スピード感と僕の繁忙期の問題で、深いデューデリジェンスができずに買収に至ったんです。

もちろん成約を急ぐ事情は理解しましたし、そこに噓偽りもなかったんですが、後からたくさんの課題と直面することになりました。

- これからどのように事業を改善していく予定ですか?
現地を改めて見ると「これはちゃんと修繕したいな」と感じました。逆に言えば、この状態で今の収益が上がっているなら、 もっと整えればすぐに売上を最大化できそうです。正直言って、僕が親なら他のところを選ぶかな、という印象だったので。

帯広の市場的には、児童発達支援事業所はやや足りていないぐらいかと思います。潜在的に発達支援が必要な子どもたちもたくさんいるはずです。

子どもごとに毎月利用できる支給量(回数チケットのようなもの)は決められていて、利用先も自由なので、 できるだけうちを選んでもらえるようにしたいですね。

それから、利用状況をパッと見て確認できるシステムも整えるつもりです。現状では「実際に行かないと分からない」状態なので、インフラ面の改善の余地は大きいと思います。

- 経営にはどう関わっていこうと考えていますか?
引き継いで最初から自走できるとは思っていないので、最初は時々通いながら、オンラインミーティングの時間も取らせてくださいと伝えています。

直接会わないと距離を感じて不安だと思いますし、徐々に自走していけるように関わっていきたいです。

そして今の事業所だけでなく、3か所ぐらいにまで拠点を拡大する予定です。ゆくゆくは児発管の資格を取得できる管理者もいるため、そのタイミングで広げていこうと思っています。

- 現場の方々の雰囲気はどうでしょうか?
今回来てくれた児発管の方は、非常に経営に近い立場にいたようで、この事業所の問題点をたくさん挙げた上で全部改善しようと言ってくれました。とても頼もしく、採用できて本当によかったです。

現場の人たちから反発があるかなとも思いましたが、全然そんなことはなく、むしろ納得して「そうしたい!」という前向きな反応でした。やっぱり皆さん、障がいを持つ子どもたちへの思いが強く 「全ては子どもたちのために」という前提があるからでしょう。

僕から皆さんへ伝えたのは、まずは事業として売上を上げたいと。そして利益が出ればきちんと共有して、半分は皆さんに還元したいとも話しています。

従業員がニコニコになれば、子どもたちもニコニコになり、口コミが広まり、 集客につながる……という好循環が生まれるはずです。そのサイクルが回り出したら、僕の存在もいらなくなりますね。

児発管の資格を取って新しい拠点を出すこともできるし、他の事業所を買うことも考えられるし、 仲間を増やしながらいい療育をしていこうねと言っています。

- ご自身の収入としては、どのように設定する考えでしょうか?
とりあえず数年間は、僕の給料をもらうつもりはありません。というのも僕は、 もともと代表・社長は給料を取らない前提でビジネスを考えています。その方が資金繰りも楽ですし、ビジネスを立ち上げる際のPMIの一番の肝だと思っています。

他の事業で収入があるので、役員報酬をもらうよりはその分を従業員の給料に還元して、その代わり僕が手離れしても回っていく状態をつくりたいですね。



(今回買収した児童発達支援事業・放課後等デイサービス所)

【スモールM&Aを多角化し、MBOも最終的な選択肢に】

- 今東さんの考えるビジネスモデルについて、さらに詳しく教えてください。
基本的に一つのビジネスで大儲けをする考えはありません。少しずつの利益を色々な会社からもらえば、結果的にたくさん受け取れますから。M&Aの案件も「大勝ちしなくていいから、大コケしたくない」というスタンスで探していました。

僕のそもそものコンセプトは、スモールM&Aを多角化していくことです。複数会社を持っていますが、全体の上に資産管理会社をつくってホールディングス化しています。

それぞれの収益が出たら配当を出し、ここにお金を貯めて、また会社を買うという仕組みですね。

僕は、最終的にはMBOが一番幸せなんじゃないかなと思っているんですよ。お互い納得感のある形で報酬をいただくのが理想的だと。

もちろんバリューアップしてどこかに売るのも成功だと思いますが、僕としては一緒に働く人たちを盛り上げたい気持ちがあります。

だからビジネスモデルとしては「スモールM&AからのMBO」という出口も大きな選択肢として見ている感じです。

そういう意味では、事業をあまり大きくしすぎても店長や従業員が買えないので、 利益を会社に留保せず、いかに軽くしておくかを重視しています。

- 複数の事業をお持ちですが、その中で今後注力していくものはどれでしょう?
メインの幹となるのは保険の方ですが、自分が携わる会社は全部本業ですよ。ただ、本当に手放しできるタイミングが来たら手放しますし、事業ごとに責任者が育ってくれれば任せていきたいと考えています。

それまでは、僕も本気で力を入れていかないといけません。

その人を信頼して「責任は僕が持つ、運営はあなたに任せる」というスタンスでいれば、過去の経験上、そんなに悪い人じゃなければうまく回っていきます。

僕はお金の分野が専門ですし、リスクマネジメントとして簡単に横領できない仕組みも作っていますから。

- これからのビジネスや人生について、どのように思い描いていますか?
基本的にはあまり表に出たくなくて、50歳ぐらいになったら投資業にシフトしていきたいと考えています。

今は自分でオーナー兼社長をやっていますが、今後はMBOを前提として、最初から“オーナー業務のみに専念できる”ビジネスモデルにしたいと思っています。

そして僕自身は投資家となり、小さなスタートアップのお手伝いをする、資金を提供するようなフェーズに入っていきたいですね。

 

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■今回セカンドドリームさんが買収した案件はこちら

「児童発達支援事業(放課後等デイサービス含む)所の事業譲渡(利用定員充足!)」

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