2023-06-01

売り手自ら、“買い手2人を引き合わせて共同経営を提案”。異例M&Aを3者で振り返り

買い手(法人):写真家・株式会社SHINME代表 髙野さん

<中小企業の事業拡大を目的としたM&A・買収事例>

 

M&Aと聞くと、売り手と買い手の1:1の間で事業を譲渡するイメージがあるかもしれません。しかし今回ご紹介する事例は、 交渉を行う中で売り手が2人の買い手を引き合わせ、共同経営を提案したケースです。

売却されたのは、東京・自由が丘駅のお隣、九品仏駅からすぐの場所にあるカフェ。写真家であり、株式会社SHINME 代表の髙野さんが目を付けて購入し、現在はスタジオ&カフェとして営業されています。

そして今回、髙野さんとともにこのスペースを共同経営することになったのが、IT企業経営者の西原さん。

いつかバーをオープンするのが20代からの目標の一つで、今回の交渉に申し込み、現在、夜間のバー営業に向けて準備を進めています。また、経営や空間全体のプロデュースにおいても、髙野さんとともにアイデアを出しながら改善を進めています。

今回は、売り手である株式会社イナフアンドコーの彌勒地さんも交えて、異例のM&Aの成立過程を振り返っていただきました。



(緑が豊かな店内の様子)

【スタジオ・事務所を検討する中で、カフェを買うことになった意外な理由】

- 髙野さんは、どのようなきっかけからM&Aに興味を持ちましたか。
髙野さん:私自身が写真家であり、生き物や自然に寄り添うクリエイティブスタジオとしてSHINMEを経営しているのですが、仲間や機材が徐々に増えてきたことでスタジオになるようなオフィスを探していました。

ある時、知り合いの経営者から「フォトスタジオとかもTRANBIで事業譲渡をされているケースがあるから探してみたら?」と勧められ、M&Aをするという選択肢を意識するようになりました。

そのため、最初はフォトスタジオの売却案件を探していたものの、立地やタイミング、金額感が合わなかったりと、なかなかぴったりのものが見つからなかったんです。

「なかなかないなあ」と思っていた時に ふと、カフェももしかしたら、撮影や機材も保管できるスペースを持った店舗もあるかもしれないと、選択肢に入れて探し始めました。

そして最初にピンときて問い合わせたのが、今回購入したこの物件でした。トータル3件ほど問い合わせたものの、見学に行ったり売り手様と直接お会いしたりしたのも、この案件だけです。

2022年10月頃から探し始めて、交渉が始まって1ヵ月ほどで現地を訪れて、必要な費用を工面した後に購入の意志を伝えました。 去年の秋ごろは、まさかお店を持つとは想像もしてなかったです。

- 何が決め手になりましたか。
髙野さん:一番の決め手は、この空間を気に入ったことです。 立地も含めて、撮影の仕事でも使えるイメージが湧きましたし、シンプルに「ここが事務所になったら、わくわくするな」と。

カフェやバーをスモール経営するとなると、一般的には10坪程度の空間が一番経営しやすいと思うのですが、 このお店は20坪ほどでして、その分、スタジオ兼カフェで想定していたので、綺麗にピースがハマったように感じました。

- 購入費用はどのように用意されましたか。
髙野さん:最初は300万円以下の案件を探していましたが、今回の案件は譲渡希望金額が500万円(税別)だったので、仲間と相談し、レイヤーを上げてでもチャレンジすべきかどうか、2週間ほど悩んで決断しました。

仲間も含めて、やはり既にあったお店の雰囲気を気に入ったことが大きかったと思います。

- 次に、西原さんのご経歴とM&Aに興味を持ったきっかけを教えてください。
西原さん:私は、社員30名ほどのシステム開発の企業を経営しています。 以前バーテンダーをしていたこともあって、キャリア相談ができるバーを作りたいという夢があり、長年アイデアを温めていました。そして、そろそろチャレンジしてもいいタイミングではないかと思い、TRANBIでスペースを探し始めました。

- 彌勒地さんには、このスペースの成り立ちや、売却を決意した理由を伺いたいです。
彌勒地さん:もともと、アンティーク雑貨の通販事業を行うためにこのスペースを借りました。 ショールームも併設して、来てくれたお客様にお茶を出すための小さなカフェスペースも構えようとしていたのです。

ただ、2022年2月に借りたものの、そこからが大変で。古くてそのまま使える状態ではなかったのでフルリフォームを行い、やっと完成した辺りからウクライナ戦争の影響で資材が手に入らず、エアコンの設置も遅れてしまいました。

さらに、円安と燃料費の高騰の影響を受け、アンティーク雑貨の輸入にも打撃を受け、商売として難しくなってしまって。

「空いたスペースを活用するために飲食店にシフトしよう」と事業のピボットを決めました。

ようやく9月にプレオープンしたものの、 私の方針が二転三転したこともあり、当時在籍していたスタッフとの関係性がうまくいかなくなって。そうした環境下で、事業をこれ以上伸ばすのは難しいと感じ始めました。

自信を持って事業を発展させられないなら誰かに譲った方がいいのではないか、 駅前で立地はいいから、この場所をもっと有効活用してくれる方に譲渡しようと考え、売却を決めたのです。

- 500万円という譲渡金額は、どのように決められましたか。
彌勒地さん:直感です。約2か月しか営業をしていないものの、 改装費と家賃1年分をあわせると1000万円ほどの金額が掛かっていますし、思い入れのある場所なので、掛かった費用の半額ほどは回収できたらという気持ちもあり、500万円に決めました。



(左:髙野さん(買い手)、中央:西原さん(共同経営者)、右:彌勒地さん(売り手))

【買い手を1人に絞る必要はない。2人の得意分野とアイデアを掛け合わせた、共同経営を提案】

- 彌勒地さんは、最終的に髙野さんと西原さんという2人の買い手様を譲渡先として選び、共同経営を提案されたそうですが、これはどのような経緯からでしたか。
彌勒地さん:お二方に、「どのような用途でこの場所を活用しようと考えているのか」プランを聞いたところ、 髙野さんは昼の利用をメインに、西原さんは夜の利用をメインに検討していました。

お二人揃って「昼は(夜は)どうしようか、アイデアを考えなければ」という状況だったので、 得意なものを掛け合わせたらいいのではと思ったのです。

M&Aと言うと、売り手が1人の買い手を選んで譲るイメージがあるかもしれませんが、他にも選択肢はあると思っていて

多くの買い手候補者の方にお会いしていると、100%条件に当てはまる買い手の方は限られてしまうものの、 80%や90%ほど条件を満たす方は複数人いるので、皆の力を結集させることでより良い事業に育つ気がしたのです。

そして、私自身と感覚や価値観が近くて、信頼できると思った髙野さんと西原さんのお二人に譲ろうと思いました。

ビジネスも商品もそうですが、売りたい相手ってお金だけ合致していればいいわけじゃないですよね。「今すぐ買うからすぐサインしてよ」という人や、深く理解してないのに値切る人とかに渡すのは嫌ですよね。

価値観の共有がスムーズにいったのが一番大きかったですね。

西原さん:もともと夜のバー営業をメインに考えていたので、昼間はレンタルスペースとして貸し出したり、空いている日は自分が作業場として使ったり、会社のメンバーにサテライトオフィスとして開放したりしようと考えていました。

ただ、夜の営業は難しいと彌勒地さんも体感されていたからこそ、リスクの小さいアイデアを提案してくださったのです。

彌勒地さん:私も10月から、昼と夜の両方カフェを開けていたのですが、夜にお客様に来ていただくことがすごく難しくて。

店を開けているだけではお客様が来ないからこそ、求心力のある店主が魅力的な企画を考えなければ難しいだろうと感じていました。

西原さんはバーテンダー経験がありますし、“キャリア相談ができるバー”というコンセプトにも共感でき、期待できると思いました。ただ、お店がある九品仏駅は、有名な駅でもターミナル駅でもないからこそ、集客が容易にできるかはわからないなと。

もしうまくいかなかったとして、私のように1年未満で撤退となってしまうと寂しいので、別の事業と組み合わせることで確実性を高められないだろうかと思って、共同経営の提案を持ち掛けたのです。

- 共同経営の提案を受けて、戸惑いはなかったですか。
髙野さん:彌勒地さんからご提案いただくまで想定もしていなかったのですが、スタジオとして、カフェとしても機能させていく中で、ハード面・ソフト面から考えても、共同経営という形で一緒にやっていく道がベストなのではという話になりました。

契約は私の方で締結し、西原さんから店舗の運営資金を出資いただくという形をとっています。

さらに 「お互いの会社の得意分野を掛け合わせることで、飲食業以外の事業においても協業ができそうですね」という話でも盛り上がりまして。今後、店舗に限らず、いろいろな形で事業も連携していけたらとお話しています。

西原さん:髙野さんのお人柄を知る前は不安でした。

ただ、同じタイミングで別のレンタルスペースの運営を始めたこともあって、昼も夜も自分ひとりで動かすことは現実的ではなかったので、もともとやりたかった夜のバー経営ができればいいと思っていました。

また、昼は髙野さんがオフィスとして利用されて、夜の時間帯だけ間借りさせていただく形になるのかなと思っていたのです。

ただ、彌勒地さんに引き合わせていただいて、実際に髙野さんに会ってみると、昼の時間帯にカフェ営業もされると伺いました。また、話してみたらとても人柄が良い方で、すぐに意気投合して。これなら共同経営者として、わいわいしながら一緒に空間や事業を作っていく方が楽しそうだと思うようになったのです。

- 金額交渉は、どのように行いましたか。
髙野さん:値下げ交渉などは行わず、もともとの譲渡希望金額で購入させていただきました。

というのも最初にお会いしたときに、 彌勒地さんからこの店を作るまでのストーリーや苦労されたお話を伺ったこと、スペースを築き上げるのに費やした時間や金額を鑑みると、良心的な金額に設定していただいていると感じたからです。



(運営するカフェバーの様子)

【カフェを継続させたいという思いが、本業のモチベーションにも繋がる】

- 引き継いでみていかがですか。
髙野さん:2023年2月から引き継いだので、今で数か月ほどです。やっと飲食業経営が肌に馴染んできた感覚はありつつも、まだまだいろんなところを模索しながら整備中です。

引き継いだ後も、彌勒地さんには、引き続き多大なサポートをしていただいていて。 アドバイザー契約も締結させていただきました。

アドバイザーと言っても、シンプルに“これからも3人で情報共有しながら、楽しいことを企画していきましょう”という口実作りのようなものですが。定例会にも入っていただいています。

- 引き継いでから変えられたことはありますか。
髙野さん:西原さんと彌勒地さんが以前アンティーク雑貨を置かれていた棚を活かして、作り変えてバーカウンターを設置したり、緑を店内に増やしました。

また、”生き物や自然に寄り添う”というSHINMEの想いの表現としても、作品を展示しています。

メニューはベースを引き継ぎながら、素材をオーガニックなものに変えていったり、無農薬栽培、フェアトレードの豆をオリジナル焙煎で提供したり、ミズナラのハイボールや森をテーマにしたクラフトジン、ジビエソーセージを提供するなど、自然に寄り添うメニューを意識しています。

西原さん:今後も、植物を増やして、グリーンがいっぱいの温室や森のような空間にしたいと思っていて。髙野さんも自然を愛していて、こうしたコンセプトに共感いただけるので、その点もよかったです。

- 経営状況はいかがですか。
髙野さん:現時点では、彌勒地さんが経営されていたときと同じペースで推移していて、収支の改善のアイデア出しをみんなでしています。

ですが、 単なる飲食店営業としての収支だけを追いかけるのではなく、この店がまた自分たちの世界観を表現する場所であり、仲間が集う場所であることが重要であり、そうした空間づくりを大切にしていきたいと思っています。



(提供されているお食事①)

【アイデアを出し合いながら、居心地の良い“大人の遊び場”を作れたら】

- 今考えているアイデアや展望について教えてください。
髙野さん:今後、 西原さんのバー営業を展開していくことと、他のクリエイターの方々にも、スタジオとして活用していただけるように現在整備しています。

また、移動スタジオ兼キッチンカーの“旅するstudio&cafe”を持っていまして、このお店の運営メンバーでキッチンカーの営業もしていきます。

生き物や自然が好きな方、クリエイティブに向き合う方々、起業家の方々にとって、楽しい場所にしたいと思っています。

西原さん:バーは5月からの始動を予定しています。私がカウンターに立つ日もあれば、起業家の方や、TRANBIさんのようなM&Aプラットフォームを運営されている企業の社員さん、M&A経験者の方などが、日替わり店主としてバーカウンターに立つ日があってもいいと思っていて。

キャリア相談ができたり、創業支援が受けられたりするようなコンセプトのバーにすることが理想です。会員さんのデータベースを作って、会員さん同士を繋げられるコミュニティバーのようにしたいですね。

起業やM&Aに挑戦するときや新たなキャリアへ進む際には、まず情報収集をしますよね。

けれど、あと一歩を踏み出すためには、具体的なイメージを描いたり、どこまでリスクを許容できるのかを整理したりすることが必要だと思っています。 そうしたきっかけを提供できる場を作れたらと思っています。

自分にとって、ここでの取り組みはビジネスという意識があまりありません。趣味である、楽しい場作りにお金を掛けている感覚です。

さまざまな方と出会えて話ができるだけでも、私は楽しいので。 大人の遊び場の拠点にできればと思っているので、ぜひ興味のある方には足を運んでほしいですね。

- 彌勒地さんは、M&Aを振り返ってみていかがですか。
彌勒地さん:、髙野さんや西原さんと、定期的にお話ししながら、有機的に縁が繋がり続けていることはとてもうれしいですし、2人をお引き合わせできてよかったとも思います。

私自身、このスペースの近所に住んでいるので、引き続き客としても足を運びながら、どんどん面白いお店になっていく様子を見守りたいと思います。

- 最後に、これから事業の購入を検討している方に向けて、髙野さんからアドバイスをお願いします。
髙野さん周りの人の協力があってこそ成立するM&Aだからこそ、“M&Aは買って終わりじゃない”と強く感じています。

だからこそ、自分がワクワクできる事業であるか、自分たちの事業にどれだけ親和性があるのかなどを考えることが大切なのかなと思います。



(提供されているお食事②)

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■今回SHINMEさんが買収した案件はこちら

「【即開業可能】新規OPENしたばかりのカフェ【駅前超好立地】【家賃激安】【物販可能】」

■SHINMEさんが運営しているカフェはこちら

The ARCHIVE Café

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