敵対的買収とは?何%で会社を支配できる?敵対的TOBの仕組みと防衛策
敵対的買収とは、対象会社の経営陣の賛同を得ずに進められる買収です。株を何%持てば会社に影響力を持てるのか(1/2超・2/3以上)を一覧で整理し、敵対的TOBの仕組みや30%ルール、ポイズンピル・ホワイトナイトなどの対応策と事例まで解説します。
企業の買収には、経営陣の合意のもとで進められる「友好的買収」と、経営陣の同意なしに行われる「敵対的買収」があります。特に上場企業では、株式が市場で自由に売買できるため、第三者が株式を買い集めて経営権の取得を目指すケースがあり、ニュースなどでも話題になることがあります。
敵対的買収は、多くの場合TOB(株式公開買付)と呼ばれる方法によって行われます。株式をどの程度取得すれば会社を支配できるのか、どのような手順で買収が進むのかなど、資本市場の仕組みを理解しておくことは、企業経営者や投資家にとって重要な知識といえるでしょう。
また敵対的買収には、経営改革や企業価値向上につながる可能性がある一方で、買収失敗のリスクや企業イメージへの影響といった課題もあります。そのため、買収提案への対応方針を定めたり、ポイズンピルやホワイトナイトなどの対応策を検討したりする企業もあります。
本記事では、敵対的買収の基本的な仕組みから、TOBの流れ、株式保有割合と経営権の関係、買収のメリット・リスク、代表的な防衛策までわかりやすく解説します。
敵対的買収とは?同意なき買収の基本
敵対的買収とは、対象会社の経営陣の賛同を得ずに進められる買収で、M&Aの一類型です。経営陣と合意して進める友好的買収とは異なり、株主への働きかけなどを通じて経営権の取得を目指します。
日本では「敵対的買収」と聞くとネガティブな印象を持たれがちですが、行為そのものが直ちに違法というわけではありません。株式市場のルールに沿って実施される限り、敵対的買収は合法的な企業買収の一類型です。特に上場企業では、株式が市場で広く分散しているため、経営陣が望まなくても第三者が株式を取得し、支配権に近づいていく可能性があります。そのため敵対的買収は、経営者だけでなく株主や投資家にとっても理解しておきたいテーマです。
経営陣の同意なしで行われる「同意なき買収」
企業買収には、大きく分けて友好的買収と敵対的買収があります。
友好的買収は、売り手企業と買い手企業が協議を行い、経営陣の合意のもとで進められる買収です。
一方の敵対的買収は、対象会社の取締役会や経営陣の賛同を得ずに進められる買収であり、近年では「同意なき買収」という表現で語られることもあります。
買い手は経営陣ではなく株主に直接働きかけるため、経営陣が反対していても、株主が売却に応じれば買収が成立する可能性があります。つまり敵対的買収とは、会社そのものを「奪う」というより、株式の取得を通じて経営権を握る行為と捉えると理解しやすいでしょう。
敵対的買収はなぜTOBで行われるのか
上場企業に対する敵対的買収では、TOB(Take Over Bid/株式公開買付)が用いられることがあります。TOBとは、買付価格・買付期間・買付予定株数などを事前に公告し、不特定多数の株主から取引所の市場外で株式を買い付ける方法です。
市場で少しずつ買い進めるだけでは、時間がかかり、株価も上がりやすくなります。そのため、株主に応募を促すために、公表前の市場価格に上乗せした買付価格を提示することがあります。この上乗せ分や上乗せ率を「プレミアム」と呼び、案件や比べる株価によって異なります。
対象会社の経営陣の賛同を得ずに行われるTOBは、敵対的TOBと呼ばれます。敵対的買収と敵対的TOBは同じ意味ではなく、TOBは買収に用いられる手法のひとつです。
日本でも同意なき買収への理解が必要
上場企業では、経営陣の賛同を得ない買収提案が行われることがあります。一方、譲渡制限株式を発行する会社では、取得した株式について会社に株主として認められるために譲渡承認が必要となるなど、上場株式とは異なる手続きがあります。また、敵対的買収は成立しても、その後に従業員や取引先の反発を受ける可能性があります。優秀な人材の流出や取引関係の悪化が起これば、買収の経済合理性そのものが損なわれることもあります。
上場企業では、株主構成の変化や資本効率への市場の視線、アクティビスト(物言う株主)の活動などを背景に、経営陣の意向とは異なる形で資本政策が議論される場面もあります。買収の成否は、経営陣の意見だけでなく、株主構成、買付価格、買付条件、対抗提案などによって異なります。
次章では、そもそも買い手はなぜ敵対的買収を仕掛けるのかという点を整理します。事業拡大や経営資源の獲得など、敵対的買収が行われる背景を見ていきましょう。
なぜ企業は敵対的買収を行うのか?主な目的
敵対的買収は強引な手法というイメージを持たれがちですが、買い手企業には明確な戦略的目的があります。企業買収は単なる「乗っ取り」ではなく、事業拡大や経営資源の獲得など、成長戦略の一環として行われるケースが多いのです。
特に近年は、株主からの資本効率改善の要請や、PBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業への市場の視線の高まりなどを背景に、企業価値の向上を目的とした買収が議論される機会も増えています。
事業拡大やシナジーの獲得
企業買収の大きな目的のひとつが、事業の拡大やシナジー効果の獲得です。
既存事業と関連する企業を買収すれば、販売網や顧客基盤を共有できるほか、研究開発や生産体制を統合することでコスト削減が期待できます。自社単独では時間のかかる事業拡大も、企業買収によって短期間で実現できるのが大きな利点です。
例えば以下のような目的で企業買収が行われます。
- 新しい市場への参入
- 競合企業の取り込み
- 既存事業とのシナジー強化
- 海外市場への進出
こうした戦略は友好的買収でも実現できますが、経営陣が売却に消極的な場合、株主に直接働きかける形で敵対的買収が検討されることがあります。
経営資源の獲得
敵対的買収のもうひとつの大きな目的が、企業が持つ経営資源の獲得です。
経営資源とは、例えば次のようなものを指します。
- 高度な技術や特許
- ブランド力
- 優秀な人材
- 独自の販売ネットワーク
これらは自社で一から構築するには時間とコストがかかります。企業買収によって既存の経営資源を取り込めば、短期間で競争力を高めることが可能です。
特に「株価は低いが技術力が高い企業」や「豊富な資産を持つ企業」は、買収ターゲットになりやすいといわれています。
経営改革や企業価値の向上
敵対的買収は、対象企業の経営改革を目的として行われることもあります。
企業によっては、資産を十分に活用できていない、株主への利益還元が少ないなど、資本効率の低さが指摘されるケースがあります。こうした企業に対して、アクティビスト(物言う株主)や投資ファンドが株式を取得し、経営改革を求めることがあります。ただし、アクティビストによる株式取得や株主提案は、必ずしも経営権の取得を目的とする買収ではありません。
買収を通じて経営陣を刷新すれば、以下のような変化が起こる可能性があります。
- 不採算事業の整理
- 資産の有効活用
- 株主還元の強化
- 経営体制の見直し
結果として企業価値が高まり、株主や投資家に利益をもたらすケースもあるため、敵対的買収は必ずしもネガティブなものとは限りません。
次章では、敵対的買収が成立した場合にどのようなメリットがあるのか、株主や企業の視点から整理していきます。
敵対的買収のメリット
敵対的買収という言葉には「会社の乗っ取り」といったネガティブなイメージがありますが、実際には、必ずしも企業や株主にとって悪い結果になるとは限りません。
経営改革のきっかけになったり、株主に利益をもたらしたりするケースもあるため、資本市場では一定の役割を持つ仕組みともいえます。
ここでは敵対的買収の主なメリットについて見ていきましょう。
経営陣を刷新して経営を改善できる
企業が長く同じ経営体制のままで運営されていると、意思決定が硬直化し、事業改革が進まなくなることがあります。
敵対的買収が成立すると、新しい経営陣が送り込まれ、経営体制の刷新や事業構造の見直しが行われる可能性があります。
例えば次のような経営改革が実施されるケースがあります。
- 不採算事業の整理
- 経営資源の再配分
- コスト構造の見直し
- ガバナンスの強化
こうした改革によって企業の収益力が高まり、結果として企業価値の向上につながる場合があります。
株主に利益をもたらす可能性がある
敵対的買収では、TOB(株式公開買付)によって株式を買い集めることがあります。その際、株主に応募を促すため、公表前の市場価格に上乗せした買付価格が提示されることがあります。この上乗せ分(プレミアム)は案件や比べる株価によって異なり、一律の水準があるわけではありません。上乗せがある場合は、株主にとって株式を売却する機会のひとつになります。
また、敵対的買収の対象となる企業には、以下のような特徴が見られることがあります。
- 資産が多いのに株価が低い
- PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回っている
- 株主還元が十分ではない
- 経営効率が低い
このような企業では、買収をきっかけに資本効率の改善や株主還元の強化が行われる可能性があり、株主にとってプラスに働くケースもあります。
企業の競争力が高まる可能性がある
敵対的買収によって企業規模が拡大すると、事業の効率化やコスト削減などの効果が期待できます。
例えば企業統合によって次のようなメリットが生まれる場合があります。
- 大量仕入れによるコスト削減
- 生産設備の効率的な活用
- 販売ネットワークの拡大
- 研究開発の効率化
このように、敵対的買収でも、事業の統合などを通じて企業の競争力が高まる可能性があります。
それでは実際に、敵対的買収はどのような方法で行われるのでしょうか。
次章では、株式保有割合やTOB(株式公開買付)の仕組みを中心に、敵対的買収の進め方を解説します。
敵対的買収はどのように行われる?株式保有割合とTOBの仕組み
敵対的買収は、対象企業の株式を市場やTOB(株式公開買付)によって取得し、議決権を確保することで進められます。企業を支配するには、どれだけの株式を取得するかが重要です。
株式会社では株式の保有割合によって行使できる権利が変わるため、買収を仕掛ける側は最終的に経営権を支配できる水準の株式取得を目指します。
株式保有割合と経営権の関係|株式を何%持てば会社を支配できる?
敵対的買収でカギを握るのが、取得した議決権の割合によって、株主総会での影響力が段階的に変わるという会社法上のルールです。会社に大きな影響力を持つには議決権の過半数(1/2超)、合併や定款変更などの重要事項まで単独で決めるには3分の2以上の保有が目安になります。主な保有割合と影響力の目安は、次のとおりです。
| 保有割合(議決権) | 区分 | 主にできること |
|---|---|---|
| 1単元以上 | 株主 | 原則として1単元につき1個の議決権を行使できる(単元未満株式は議決権がないが、配当は受けられる) |
| 一定割合以上 | 少数株主権 | 株主総会の招集請求や会計帳簿の閲覧請求など(保有割合・保有期間・請求理由など、権利ごとに要件が異なる) |
| 3分の1超 | 拒否権 | 株主総会に出席して反対することで、原則として特別決議を阻止できる |
| 過半数(50%超) | 経営への大きな影響力 | 原則として普通決議を単独で可決(取締役の選任・解任、配当など) |
| 3分の2以上 | 特別決議の単独可決 | 原則として特別決議を単独で可決(定款変更、合併・事業譲渡、解散など) |
| 90%以上 | 特別支配株主 | 原則として、特別支配株主として株式等売渡請求を利用できる(対象会社の承認などが必要) |
| 100% | 完全子会社化 | 株主総会の決議を単独で行える(法令・定款や各機関の権限には従う) |
上記は、法定の原則的な決議要件を前提とした目安です。定款や決議事項によって要件は異なり、実際の決議では出席株主の議決権数なども考慮します。株式数の割合と議決権の割合は一致しない場合があります。特別決議の要件は定款もあわせて確認しましょう。なお、2026年5月1日施行の改正により、上場会社などの株券等を買い付けて、買付け後の株券等所有割合が30%を超える場合は、市場内・市場外を問わず、原則としてTOB(株式公開買付)が必要になりました(30%ルール)。
敵対的買収で使われるTOB(株式公開買付)
上場企業の株式を短期間で大量に取得する場合、多くのケースでTOB(Take Over Bid/株式公開買付)が利用されます。
敵対的買収のTOBでも、公告した条件に応募した株主から株式を買い付けます。経営陣が反対していても、株主が応募すれば株式を取得できる点が特徴です。株主に応募を促すため、公表前の市場価格に上乗せした買付価格が提示されることがあります。上乗せ率は案件や比べる株価によって異なり、一律の水準があるわけではありません。
敵対的TOBと友好的TOBの違い
TOB(株式公開買付)は、対象会社の経営陣が賛同しているかどうかで「友好的TOB」と「敵対的TOB」に分かれます。ただし、成否は経営陣の意見だけで決まるわけではありません。両者の違いを整理すると、次のとおりです。
| 項目 | 友好的TOB | 敵対的TOB |
|---|---|---|
| 経営陣の同意 | あり(事前に合意・賛同) | なし(同意を得ずに実施) |
| 進め方 | 対象会社が賛同を表明(応募推奨の有無は案件による) | 対象会社が反対などの意見を表明し、対抗措置が検討されることも |
| 成否を左右するもの | 買付条件、株主の判断、対抗提案など | 買付条件、株主の判断、対抗提案、対象会社の対応など |
| 対象会社の意見表明 | 意見表明報告書で賛同などの意見と理由を示す | 意見表明報告書で反対などの意見と理由を示す |
なお、対象会社に友好的な第三者(ホワイトナイト)が買収提案などを行い、当初の提案に対抗することもあります。ただし、対抗する提案が出たからといって、当初の買収が止まるとは限りません。TOBそのものの手続きや流れをより詳しく知りたい場合は、TOB(株式公開買付)の解説もあわせてご覧ください。
30%ルールと大量保有報告制度の5%ルール
株式市場では、大量の株式取得による市場の混乱を防ぎ、投資家に情報を届けるため、金融商品取引法で一定のルールが定められています。
2026年5月1日施行の改正により、従来の「1/3ルール」は「30%ルール」に変わりました。規制の対象となる株券等の買付けによって、買付け後の株券等所有割合が30%を超える場合は、市場内・市場外を問わず、原則としてTOBが必要です。市場内の立会内取引も対象になります。割合の判定では、法令上合算の対象となる特別関係者の保有分も考慮し、適用除外もあるため、具体的な取引では確認が必要です。
- 大量保有報告制度の5%ルール:上場株券等の保有割合が共同保有者の分を含めて5%を超えた場合、原則としてその日から5営業日以内に大量保有報告書を提出する(保有の状況を開示する制度で、TOBの義務とは別)
- 公開買付規制の5%ルール:市場外で多数の者(60日間で10名超)から買付けを行い、買付け後の株券等所有割合が5%を超える場合などは、原則としてTOBが必要
これらの制度によって、株式を大量に取得する動きは市場や投資家に開示される仕組みになっています。
また、完全子会社化を目的とする買収では、TOB後にスクイーズアウトが行われることがあります。代表的な方法には、株主総会の特別決議を必要とする株式併合と、原則として総株主の議決権の90%以上を持つ特別支配株主による株式等売渡請求があります。
このように、敵対的買収は株式の保有割合やTOB制度など、資本市場のルールに基づいて進められます。
次章では、TOBを実際に行う場合の具体的な流れについて解説します。
TOB(株式公開買付)の流れ
TOB(株式公開買付)は、金融商品取引法に基づき、一定の手続きを経て実施されます。株式市場の公平性を保つため、買収者は買付条件や目的を公開したうえで株式を取得しなければなりません。
TOBの基本的な流れは次の通りです。
①TOBの公表
まず買収を仕掛ける企業は、TOBの実施を公表します。買付価格・買付期間・買付予定株数などの条件を明示し、投資家に情報を開示します。公開買付開始公告は、EDINETを用いた電子公告、または法令に定める新聞公告によって行います。電子公告を利用する場合も、公告した旨や電子公告のアドレスなどを、所定の日刊新聞に掲載する必要があります。
- EDINETを用いた電子公告(公告した旨などを日刊新聞にも掲載)
- 法令に定める新聞公告
また同時に、公開買付の詳細を記載した「公開買付届出書」を提出する必要があります。対象会社は、原則として公開買付開始公告の日から10営業日以内に意見表明報告書を提出し、TOBに対する意見とその理由などを示します。株主は、買付者の説明だけでなく、対象会社の意見も確認して、応募するかどうかを判断します。
②株主による応募
TOBが公表されると、対象企業の株主は株式を売却するかどうかを判断します。
株主には主に次の選択肢があります。
- TOBに応募して株式を売却する
- 株式を保有し続ける
- 市場で株式を売却する
公表前の市場価格に上乗せした買付価格が提示されることもありますが、必ずプレミアムが付くわけではありません。公開買付期間は、原則として20営業日以上60営業日以内で、この期間中に株主は応募するかどうかを判断します。
③TOBの成立または不成立
買付予定数の下限が設定されている場合、公開買付期間の終了時に応募株数が下限以上となれば、公表された条件にしたがって買付けが行われます。下限に満たない場合は、応募株式の全部が買い付けられません。なお、下限を設定しないTOBもあります。応募の状況などを踏まえて公開買付期間を延長する場合は、期間中に法令にしたがった変更の手続きを行います。終了後に自由に延長できるわけではありません。また、買付予定数の上限が設定され、応募株数が上限を超えた場合は、原則としてあん分比例方式で買付株数を配分します。
- 下限に満たなければ、応募株式の全部を買い付けない
- 期間の延長は、期間中に法令にしたがって手続きする
TOBが成立すると、買収者は応募株式を取得し、持株比率を高めていきます。株式の取得割合によっては、対象企業の経営権を実質的に掌握することになります。
しかし敵対的買収は、必ず成功するとは限りません。次章では、敵対的買収に伴うリスクや課題について解説します。
敵対的買収のリスクと課題
敵対的買収は企業の成長戦略として実行されることもありますが、必ずしも成功するとは限りません。買収が成立した場合でも、その後の経営がうまくいくとは限らず、さまざまなリスクを伴います。特に日本では、敵対的買収に対して「乗っ取り」というイメージを持たれることもあり、買収を進める企業は慎重な判断が求められます。
ここでは、敵対的買収に伴う主なリスクや課題を見ていきましょう。
買収が失敗する可能性がある
敵対的買収では、TOB(株式公開買付)によって株式を買い集めますが、必ずしも十分な株式を取得できるとは限りません。
特に、対象企業に安定株主が多い場合や、経営陣が買収に強く反対している場合には、株式の売却に応じる株主が少なくなる可能性があります。また、対抗策として買収防衛策が発動されると、買収が難航するケースもあります。
例えば、ポイズンピルやホワイトナイトなどの防衛策が導入されると、買収者の持株比率が低下したり、友好的な企業が対抗買収を行ったりする可能性があります。
その結果、TOBが成立せず、買収が失敗に終わることもあります。
従業員や取引先から反発を受ける可能性がある
敵対的買収では、対象企業の経営陣の同意を得ずに買収が進められるため、従業員や取引先から反発を受けることがあります。
特に、経営陣の交代や事業再編が行われる場合、社内の不安が高まり、優秀な人材が流出する可能性があります。また、長年の取引関係を重視する企業文化の中では、取引先が距離を置くケースも考えられます。
さらに、契約書にチェンジオブコントロール(COC)条項が含まれている場合、経営権の変更を理由に契約が解除される可能性もあります。これにより、買収後の事業運営に大きな影響が出ることもあります。
企業イメージが悪化する可能性がある
日本では敵対的買収に対して「会社の乗っ取り」といったネガティブなイメージを持たれることが少なくありません。そのため、買収を仕掛けた企業のブランドや企業イメージが悪化する可能性があります。特に上場企業の場合、敵対的買収はメディアで大きく報じられることも多く、社会的な評価に影響を与えることがあります。
また、応募を集めるための価格設定や、競合する買収提案への対応によって、買収コストが想定以上に膨らむ場合があります。LBO(レバレッジド・バイアウト)のように借入を活用して買収を行う場合、買収後の財務負担が大きくなる点にも注意が必要です。
このように、敵対的買収にはさまざまなリスクがあります。一方で、買収提案を受ける側の企業が、どのように対応するかも大切です。次章では、代表的な対応策について解説します。
敵対的買収の防衛策
買収提案への対応では、企業価値と株主共同の利益を踏まえ、株主が十分な情報と検討時間を得て判断できるようにすることが大切です。買収への対抗措置を導入・発動する場合は、株主意思の尊重、必要性・相当性、法令や上場規則との適合性などを検討する必要があります。経営陣が反対していることだけで、対抗措置が正当化されるわけではありません。
代表的な対応策には、次のようなものがあります。
ポイズンピル
ポイズンピルは、新株予約権などを利用して買収者の議決権割合を低下させ、買収に対抗する仕組みです。日本では、株主に新株予約権を無償で割り当てたうえで、買収者とその他の株主との間で行使条件や取得対価などに差を設ける設計が用いられることがあります。
ただし、具体的な設計や発動の経緯によっては、差止めなどの対象となる可能性があります。
ホワイトナイト
ホワイトナイトとは、対象会社に友好的な第三者が買収提案などを行い、当初の買収提案に対抗する方法です。対抗TOBなどが用いられますが、成否は価格だけでなく、買付条件や株主の判断にも左右されます。
ゴールデンパラシュート
ゴールデンパラシュートとは、買収にともなって経営陣が退任する場合などの補償を、あらかじめ定めておく仕組みです。買収にともなう負担を増やす可能性がありますが、防衛効果が保証されるわけではありません。日本で導入する場合は、役員報酬等に関する株主総会決議の要否や、金額・条件の合理性などの検討が必要です。
MBOなどによる非上場化
経営陣が投資ファンドなどと共同して株式を取得し、非上場化を目指すMBO(マネジメント・バイアウト)が、別の買収提案に対する選択肢となることもあります。ただし、経営陣は買い手と対象会社側の双方に関わるため、利益相反に配慮した公正な手続きが大切です。
防衛策や対応策が、常に株主の利益につながるとは限りません。導入や発動には、株主の利益の観点からの慎重な検討が求められます。
次章では、日本で実際に議論された敵対的買収の事例について見ていきます。
敵対的買収の国内事例
日本でも、経営陣の賛同を得ない買収提案や、複数の買収提案が競合する案件が見られます。競合する提案ごとに取締役会の意見が異なることもあるため、事例を見るときは、誰の提案に対して、賛同・反対のどちらが示されたのかを区別することが大切です。
ここでは、日本で話題となった企業買収の例を紹介します。
ニデックによる牧野フライス製作所へのTOB(2025年)
ニデックは、2025年4月4日から牧野フライス製作所に対するTOBを実施しました。その後、対象会社による新株予約権の無償割当てを用いた対抗措置などをめぐって争いが生じ、ニデックは同年5月8日、翌9日付でTOBを撤回すると発表しました。同社は、対抗措置が実施された場合の損害のおそれや経済合理性を理由として説明しています。
この事例は、開始後のTOBの撤回には法令上の要件があること、対抗措置の是非が争われることがあることを示しています。
富士ソフトを巡る買収提案
2024〜2025年の富士ソフトをめぐる買収では、KKR側とベインキャピタル側の提案が競合しました。富士ソフトはKKR側のTOBに賛同・応募推奨する一方、ベイン側のTOB開始予定には反対意見を表明しました。2025年2月には、KKR側のFK株式会社による第2回TOBの成立が公表されています。
この事例では、競合する提案ごとに取締役会の意見が異なります。案件全体をひとくくりに「敵対的買収」と捉えるのではなく、誰の提案に対して賛同・反対が示されたのかを区別することが大切です。こうした案件では、取締役会が特別委員会を設置し、株主の利益の観点から提案を検討することもあります。
資本市場の変化と敵対的買収
近年の日本市場では、アクティビスト投資家による経営改革の要求や、PBR1倍割れ企業への改善要請などが強まっています。その結果、企業価値の向上を目的とした買収提案や資本政策の見直しが議論される場面もあり、敵対的買収という言葉を耳にする機会も増えています。
買収提案への対応では、提案の内容と企業価値への影響を、株主の利益の観点から検討することが大切です。
よくある質問 敵対的買収のFAQ
敵対的買収については、ニュースなどで耳にする機会が増えている一方で、具体的な仕組みやルールについては分かりにくい点も多いテーマです。
ここでは、敵対的買収に関してよくある疑問をQ&A形式で解説します。
敵対的買収は違法ですか?
敵対的買収そのものは違法ではありません。株式市場のルールに従って株式を取得する限り、合法的な企業買収のひとつとされています。ただし、インサイダー取引など法令違反があれば違法となる可能性があります。
敵対的買収は何%の株式を取得すれば成立しますか?
敵対的買収の成立を、一律の保有割合で判断することはできません。経営への影響力の目安としては、議決権の1/2超で原則として普通決議を、2/3以上で原則として特別決議を単独で可決できます。一方、TOBの成立は、公表された買付条件や応募株数などによって判断します。
TOBとは何ですか?
TOB(Take Over Bid)とは、株式公開買付のことです。買付価格・買付期間・買付予定株数などを事前に公告し、不特定多数の株主から取引所の市場外で株式を買い付ける方法で、上場企業の買収で利用されます。
日本では敵対的買収は多いのでしょうか?
上場企業では、経営陣の賛同を得ない買収提案が行われることがあります。件数の比較は、対象とする国・期間・案件の定義によって変わるため、一概にはいえません。買収の成否も、株主構成、買付価格、買付条件、対抗提案などによって異なります。
株を何%持つと会社を乗っ取れる(支配できる)のですか?
会社に大きな影響力を持つには、議決権の過半数(1/2超)がひとつの目安です。過半数があれば、原則として取締役の選任・解任などの普通決議を単独で可決できます。合併や定款変更などの重要事項まで単独で決めるには、原則として3分の2以上が必要です。逆に、3分の1超を持てば、株主総会に出席して反対することで、原則として特別決議を阻止できます。いずれも定款や決議事項によって要件が変わる場合があります。
自分が持っている株が買収(TOB)されたらどうなりますか?
保有している株式がTOBの対象になった場合、株主は応募して買付価格で売却するか、市場で売るか、保有し続けるかを自分で選べます。完全子会社化を目的とする買収では、TOB後にスクイーズアウトが行われ、応募しなかった株主も金銭の交付を受けて株主ではなくなることがあります。代表的な方法には、株主総会の特別決議を必要とする株式併合と、原則として総株主の議決権の90%以上を持つ特別支配株主による株式等売渡請求があり、保有割合だけで自動的に行われるわけではありません。売却益には原則として税金がかかる点にも注意しましょう。
敵対的買収が失敗するのはなぜですか?
敵対的買収は、既存の株主が応募しない、対抗提案が出る、対象会社が対抗措置をとるといった要因で、設定された下限に応募株数が届かず、不成立となることがあります。なお、買収提案の段階で計画が見送られることはありますが、開始後のTOBは原則として自由に撤回できません。撤回には、法令上認められる事由や所定の手続きなどの要件を満たす必要があり、従業員や取引先の反発を懸念しただけで、当然に撤回できるわけではありません。
まとめ|敵対的買収は、議決権の割合とTOBのルール、対応策の条件を押さえる
敵対的買収とは、対象会社の経営陣の賛同を得ずに進められる買収です。上場企業では、TOB(株式公開買付)などを通じて株式を取得し、経営権の取得を目指すことがあります。議決権の保有割合によって影響力は変わり、原則として1/2超で普通決議を単独で可決でき、2/3以上で特別決議も単独で可決できます。2026年5月からは、買付け後の株券等所有割合が30%を超える場合に原則としてTOBが必要になりました。
敵対的買収には、経営改革や企業価値向上につながる可能性がある一方で、買収の失敗リスクや企業イメージの悪化、取引先や従業員の反発といった課題もあります。買収提案を受ける企業が対抗措置を検討する場合は、株主意思の尊重や必要性・相当性などの条件を満たす必要があります。
資本市場の変化により、日本でも企業買収や株主提案が注目される場面が増えています。企業経営者や投資家にとって、敵対的買収の仕組みやリスクを理解しておくことは、経営戦略や資本政策を考えるうえで重要なポイントといえるでしょう。
M&Aや企業売却・買収を検討している場合は、専門家のサポートを受けながら進めることが重要です。国内最大級のM&Aプラットフォーム「TRANBI」では、事業承継や企業売却・買収の案件を多数掲載しており、専門家への相談も可能です。
