黄金株とは拒否権が特徴の株式。デメリットや活用事例を解説

黄金株とは拒否権が特徴の株式。デメリットや活用事例を解説

黄金株にはどのような特徴があるのでしょうか?普通株式との違いを確認しましょう。黄金株を活用した事業承継の方法や敵対的買収への対策についても、解説します。発行によるデメリットについても、併せて押さえておきましょう。

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黄金株とは何か?

黄金株は種類株式の一種です。種類株式を保有している株主は、普通株式の株主とは異なる扱いを受けます。それでは保有していると何ができるのでしょうか?

種類株式の一種

種類株式とは、普通株式と異なり、特別な権利や制限が行われる株式のことです。会社法で定められている種類株式は9種類あります。

  • 剰余金の配当規定付株式:配当に関して優劣(優先株式・劣後株式)が定められている
  • 残余財産の分配規定付株式:会社が解散する際の残余財産の分配について規定されている
  • 議決権制限株式:議決権行使に制限を設けられている
  • 譲渡制限株式:譲渡するとき会社の承認を受けることが義務付けられている
  • 取得請求権付株式:株主が保有する株式の対価に財産を請求できる権利が規定されている
  • 取得条項付株式:会社が強制的に株式を取得できることが定められている
  • 全部取得条項付株式:会社が全ての株式を取得できるよう規定されている
  • 役員選任権付株式:普通決議不要で役員を選任できる権利が付されている
  • 拒否権付株式:決議事項を否決できる権利が付されている

9種類の種類株式のうち、『拒否権付株式(拒否権付種類株式)』が黄金株です。

参考:会社法108条| e-Gov法令検索

株主総会の決議に対する拒否権がある

黄金株を保有していると、株主総会の決議を否決できます。例えば、新しい取締役の選任が株主総会で決議されたとしても、黄金株の株主が拒否すれば就任は認められません。

普通株式を保有している株主が他にどれだけ多くいたとしても、黄金株を1株持っていれば対抗できます。会社の経営に対し、極めて大きな影響を与える株式です。黄金株の発行時には、あらかじめ拒否権を与える決議事項を決めておくことが可能です。

黄金株への理解を深めるために、特別決議について解説している以下もチェックしましょう。

株主総会における特別決議とは?株式の保有割合が重要
用語説明
株主総会における特別決議とは?株式の保有割合が重要

重要度の高い議案について審議する際は、株主総会の特別決議が実施されます。株式の保有割合や株式の種類によっては拒否権が行使でき、提起された事案が覆される場合もあります。特別決議の詳細と株式との関係性について解説します。

黄金株の活用方法

黄金株は事業承継を段階的に進める場合や、敵対的買収が行われた際の対抗策として用いられます。それぞれのシーンでどのように活用するのか確認しましょう。

段階的な事業承継

事業承継を行う際、早い段階で後継者へ自社株を引き継ぐと、その時点で現経営者は経営権を失い会社への発言権もなくなります。現経営者と後継者の意見が対立した場合、後継者の決定が会社の意思として採用される状態です。

このとき現経営者が1株でも黄金株を保有していれば、自社株を後継者に引き継ぎ経営権を渡しつつ、現経営者本人も会社への発言権を持ち続けられます。後継者の決定が会社にとってマイナスに働くと判断すれば、拒否権を行使し決議を否決できるからです。

ただしいつまでも現経営者が黄金株を持ち続けていると『事業承継は形式のみで実質的な発言権は現経営者にある』と、他の株主や従業員から判断されてしまいます。

敵対的買収への対抗策

対象会社の同意を得ずに買収しようとする行為を『敵対的買収』といいます。買い手は大量の株式を買収し、対象会社の経営権を取得しようとします。発行済の議決権付株式の過半数を買い手が取得すれば、単独で新しい取締役の選任が可能です。

しかし経営者が黄金株を1株でも持っていれば、議決事項を否決できます。そのため敵対的買収による会社の乗っ取りへの対抗策として活用が可能です。

敵対的買収へのその他の対抗策を解説した以下もご覧ください。

経営者が知っておきたい買収防衛策。非上場化以外の方法も 経営者が知っておきたい買収防衛策。非上場化以外の方法も
手法
経営者が知っておきたい買収防衛策。非上場化以外の方法も

株式を市場に公開している企業は、多かれ少なかれ敵対的買収のリスクにさらされています。経営陣の同意を得ない株の買い占めに対抗するために、どのような防衛策を講じるべきなのでしょうか。買収者の狙いや買収されやすい企業の特徴も解説します。

黄金株のデメリット

黄金株の発行にはデメリットもあります。事業承継や敵対的買収への対策として利用する際には、デメリットも押さえておかなければいけません。

権利の濫用による悪影響

株主が拒否権を濫用した場合、黄金株があることで会社に悪影響を与える可能性があります。例えば事業承継に活用するため、現経営者が保有しているケースについて考えてみましょう。

後継者が会社のメインとなる事業に資金や人材を集中させたいと考え、事業譲渡に関する決議を実施したとしても、現経営者が拒否権を行使すれば実現しません。後継者による経営がうまく進まなくなるケースもあるでしょう。

黄金株の保有により拒否できる決議事項は、商業登記を行うため誰でも確認できます。会社にとって重要な事項が拒否権の対象になっていると、経営者と後継者の対立を疑われることもあります

敵対する相手が保有する恐れ

会社の経営に対する考えが合致している人物が保有している分には、黄金株は敵対的買収への対策として有効です。ただし対立する相手の手に渡ると、権利を逆手に取られ実質的な支配権を握られる恐れがあります。

黄金株が対立する相手に渡らないようにするには、『取得条項付株式』にしておくとよいでしょう。取得条項付株式なら、会社は株式を強制的に取得でき、対立する相手が黄金株を保有し続けるのを防げます。

他の株主の抱く不公平感

生前贈与や相続によって現経営者から相続人へと自社株が引き継がれる際に、黄金株があると相続人の間で不公平感が残るかもしれません。例えば後継者に黄金株を、非後継者に普通株式を引き継がせた場合、後継者だけが特別な権利を持ちます。

引き継いだ株式数が同じでも、非後継者は特別な権利を持てないことに対して不満を抱く可能性があります。

事業承継税制を活用できない

事業承継を実施するとき、発行済の自社株の中に黄金株があり、後継者以外の人物が持っている場合『事業承継税制』を利用できません。贈与税もしくは相続税の納税猶予や免除を受けられる事業承継税制の活用を検討しているのであれば、要注意です。

制度を活用する計画ならば、黄金株を発行しないようにしましょう。もしくは制度の利用前に後継者に黄金株を引き継ぐ方法でも、事業承継税制の利用が可能です。

黄金株を発行している事例

国内で黄金株を発行している上場企業はINPEX1社のみです。INPEXはどのような目的で発行しているのでしょうか?また黄金株が株主平等の原則に反するという意見についても解説します。

日本で発行している上場企業は1社だけ

日本で黄金株を発行している上場企業は、石油や天然ガスの開発を行っているINPEX(旧社名:国際石油開発帝石)のみです。海外企業からの買収を防ぐ目的で発行しています。この黄金株を保有しているのは経済産業大臣です。

黄金株を持つ株主に大きな権限が集中することから、上場企業で活用されているのはこの1例に限られます。

参考:株式情報(株式の状況) | INPEX

株主平等の原則に反するという意見も

株主が保有している株式の数に応じて平等な扱いを受けることが、『株主平等の原則』です。黄金株の発行は株主平等の原則に反すると主張する人もいます。

ただし株主平等の原則があるからといって、全ての株主が平等に扱われるわけではありません。内容が異なる複数の株式が発行されていれば、株式の種類ごとに扱いは異なるからです。

そのため黄金株と普通株では、株主の扱いが違っても問題になりません。株主平等の原則が適用されるのは、株主が持っている株式が同じ種類の場合です。例えば同じ会社の黄金株を持つ株主が仮に2人いるケースでは、この2人を平等に扱う必要があります。

発行時は権利の範囲や期限を明確にする

黄金株は拒否権を持つ決議事項について、実質的な最終決定権を持つということです。権利の強力さゆえ、会社の方向性を共有できない親族への相続や第三者への譲渡が行われてしまうと会社運営時のリスクにもなり得ります。

黄金株を付するときは『譲渡制限株式』として発行し、拒否権の範囲を広げすぎないようにするのが一般的です。後継者の運営への影響を最小限に抑えるため『事業承継が完了するまで』と期限も決めておきましょう。

『取得条項付株式』として、一定期間が過ぎたときや経営者が亡くなったときは、会社が株主の同意なく強制的に黄金株を買い取ることを規定しておくのが賢明です。

まとめ

黄金株を保有する株主は、株主総会の決議を否決できる強力な権限を持ちます。事業承継を段階的に進める目的や、敵対的買収の対抗策として用いるために活用されるのが一般的です。

ただし権利を濫用すれば経営に悪影響を与える可能性があり、敵対する相手の手に渡り逆手に取られるケースもあるでしょう。また事業承継税制を利用できない可能性や、相続人間のトラブルに発展するきっかけになり得る点も懸念されます。

発行にはデメリットもあるため、慎重に検討することが求められる株式です。