株主総会における特別決議とは?株式の保有割合が重要

株主総会における特別決議とは?株式の保有割合が重要

重要度の高い議案について審議する際は、株主総会の特別決議が実施されます。株式の保有割合や株式の種類によっては拒否権が行使でき、提起された事案が覆される場合もあります。特別決議の詳細と株式との関係性について解説します。

特別決議とは

株式会社の株主総会の決議には『普通決議』『特別決議』『特殊決議』があり、普通決議<特別決議<特殊決議の順番に、決議要件が厳しくなります。特別決議は、どのような議案を決議する際に用いられるのでしょうか?

重要な事項を決定する際の決議

特別決議は、会社にとって重要な事項を決定する際の決議です。そもそも、会社に出資して株式を保有している株主は、『会社の共同所有者』という位置付けです。

株主を所有者、会社を所有物とした場合、共有物の管理に関わることは普通決議で決定します。具体的には、取締役の選任・剰余金の配当・役員報酬の決定・決算の承認などが挙げられます。

一方で、定款の変更や事業譲渡、資本金の減少は、会社の根本に関わる重要な事項であるため、普通決議よりも厳格な特別決議で決議されなければなりません。

みなし決議や代理人の議決権行使も可能

特別決議は重要な事項を決定する決議ではあるものの、普通決議と変わらない点もあります。例えば、特別決議は普通決議と同様、『みなし決議』や『代理人の議決権行使』が可能です。

みなし決議とは、一定の条件を満たした場合に限り、株主総会で決議があったとみなして、開催に関わる一連の手続き(株主招集→招集通知の発送→開催)を省ける制度です。

株主が少数で、かつ関係性が良好な場合は、重要事項をみなし決議で決定するケースは珍しくありません。

代理人の議決権行使とは、『代理人によって議決権が行使できる』という株主の権利です。ただし、赤の他人が株主総会に参加して議事進行を妨害する恐れがあるため、『代理人は株主に限る』という旨の定款を定めている企業もあります。

特別決議の定足数と表決数

『定足数』とは、議事を行うにあたり必要な、最小限度の出席者数のことで、『表決数』は、議決を行うのに最低限必要な賛成数を意味します。特別決議の定足数と表決数は、普通決議とどう違うのでしょうか?

議決権の過半数を持つ株主が出席

普通決議と特別決議の定足数は、『議決権の過半数の株主』です。つまり、議決権を持つ株主のうち、過半数以上の株主が出席しなければ、議事について議決できません。

会社法309条(株主総会の決議)には、以下のように記載されています。

第三百九条 株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。

参考:会社法 | e-Gov法令検索

決議の成立には2/3以上の議決権が必要

特別決議を成立させるには、出席株主の2/3以上にあたる議決権を獲得する必要があります。以下は、普通決議と特別決議の表決数の違いです。

  • 普通決議:議決権の過半数を持つ株主が出席し、株主の議決権の過半数以上の賛成を得ること
  • 特別決議:議決権の過半数を持つ株主が出席し、株主の議決権の2/3以上の賛成を得ること

株式の2/3以上を保有している株主は、株主総会の特別決議を単独で成立させることが可能です。会社の経営に関する重要事項を単独で決定できるため、会社の実質的支配が実現します。

M&Aや事業承継で経営者を目指す場合は、少なくとも2/3以上の株式取得を目指しましょう。

定足数や表決数は変更が可能

特別決議の定足数と表決数は、定款の変更を行えば以下のように定めることもできます。

  • 定足数:議決権の『過半数を有する株主』が出席→議決権の『1/3を有する株主』が出席(1/3を下回る割合は不可)
  • 表決数:株主の議決権の『2/3以上』の賛成を得る→株主の議決権の『2/3を上回る割合』の賛成を得る

なお、普通決議は定款で定足数の変更・排除が可能ですが、表決数の変更はできません。

特別決議が必要な事項とは

会社の基礎や経営に関わる事項には特別決議が必要です。どのような事項が該当するのか、具体例を見ていきましょう。

定款の変更

会社の定款は、特別決議を経なければ変更ができません。定款は会社設立時に定める会社の基本規則で、会社の商号・設立の目的・本店の所在地・発行可能株式数などが記載されています。

例えば、企業イメージ向上のために商号を変更する際は、株主総会の特別決議の可決を得なければなりません。発行可能株式総数の増減がある場合や、会社の本店を定款に規定されていない場所に移転する場合も同様です。

減資

減資は、会社の資本金を減少させる行為です。資本金は株主が会社に出資したお金であるため、社長や役員が勝手に減資することはできません。減資にあたり、株主総会の特別決議で以下の事項を決定する必要があります(会社法447条)。

  • 減少する資本金の額
  • 減少する資本金の額の全部または一部を準備金とする場合、その旨および準備金とする額
  • 資本金の額の減少がその効力を生ずる日

会社が減資を行う目的はさまざまです。企業規模が縮小すると税負担が減るため、節税対策のために減資をするケースもあります。

ただし、株主からしてみれば、資本金の減少はあまりよいことではありません。「会社の経営が悪化しているのでは?」と将来を案じる株主も増えるでしょう。株主総会で理由を説明し、2/3以上の賛成票を得た上で実行するのがルールです。

株主の権利への影響が大きい事項

『株式併合』や『有利発行』は株主の権利や利益に大きな影響を与えるため、普通決議よりも要件が厳しい特別決議が必要です。

株式併合は複数の株式をまとめて1株にし、発行済株式数を減らす行為です。例えば株主Aが50、Bが20、Cが15の株式を保有する状況において30株を1株に併合すると、A以外の株式は1単元未満になります。1単元未満の株式には、議決権がありません。

有利発行は、株主以外の第三者に対して有利な価格の新株を発行する手続きです。いわゆる『株式の安売り』は、既存株主が不利益を被ります。株式数が増加すれば、1株あたりの価値が低下してしまうでしょう(株式の希薄化)。

役員変更に関わる事項

役員の変更に関連する事項は、それぞれ普通決議と特別決議で決議する内容に分かれます。

<普通決議>

  • 取締役の選任と解任
  • 監査役の選任
  • 会計監査人の選任

<特別決議>

  • 監査役の解任
  • 累積投票で選任された取締役の解任

ここでのポイントは、『累積投票で選任された取締役』は、特別決議の承認がなければ解任できない点です。それ以外の取締役の選任と解任については、普通決議が採用されます。

累積投票とは、2人以上の取締役を選任する際に、選任する取締役数と同じ数の議決権を株主が1株について持ち、その議決権を1人に全て投票しても数人に分散投票してもよく、最多数を得た人から順に取締役に選任するという方法です。

『監査役』は、取締役の職務執行の監査と会計監査を担います。取締役に事業報告を求め、職務執行に違法性があった場合は株主総会に報告したり、違法行為の差止請求を行ったりする役割です。選任は普通決議ですが、解任には特別決議を要する点に留意しましょう。

M&Aの場面で必要な特別決議

M&Aは『Merger And Acquisition』の略称で、『会社の合併と買収』を意味します。『自社の事業を第三者に売却する』『合併で法人格が消滅する』など、会社経営や組織が大きく変わる際は、特別決議を要するのが原則です。

事業譲渡

『事業譲渡』とは、自社事業の一部または全てを他社(他者)に譲渡し、その対価を受け取るM&A手法です。事業部門の従業員や知的財産、設備などは、売り手と買い手の契約によって個々に譲渡されます。

事業の一部または全部を譲り渡す際は、株式総会の特別決議によって契約の承認を得るのが原則です。ただし一定の要件に当てはまる場合は、株主総会の承認を省略できます(会社法第468条)。

  • 事業譲渡の相手方が当該事業の譲渡をする株式会社の『特別支配会社』である場合
  • 『当該他の会社の事業の全部の対価として交付する財産の帳簿価額の合計額』が『当該株式会社の純資産額として法務省令で定める方法により算定される額』の1/5を超えない場合

1.の『特別支配会社』とは、譲渡会社の株式を9割以上保有する会社のことです。2.に関しては、一定数を有する株主が反対する旨を会社に提出した場合は、特別決議による承認が必要になります(会社法第468条3項)。

合併

『合併(吸収合併・新設合併)』とは、複数の企業を一つに統合するM&A手法です。吸収合併では吸収される企業の法人格が消滅し、新設合併では合併する全ての企業の法人格が消滅します。

代表取締役が合併契約を締結した後、各当事会社は株主総会の特別会議で承認を得るのが原則です。取締役会で契約締結の承認を得たとしても、その後の株主総会で否決されれば、契約は停止となります。

一方、吸収合併に際して存続会社(吸収する側)に支払われる対価が小さい場合は、株主総会の決議は必要ありません。

会社法796条2項(吸収合併契約等の承認を要しない場合等)には『消滅会社の株主に交付する対価の帳簿価額の合計額が、存続会社の純資産額として法務省令で定める方法で算定される額の1/5を超えない場合』との記載があります。

特別決議で注意すべきケース

特別決議で承認を得るにあたり、注意すべき状況も存在します。『拒否権を行使された場合』と『黄金株の拒否権を行使された場合』の二つのケースについて確認しましょう。

拒否権の行使

株式の1/3以上を保有する大株主は、株主総会の決議を否決できる『拒否権』を有しています。

特別決議は、該当株主の2/3以上にあたる議決権を獲得すれば議案は成立しますが、1/3以上を保有する株主が拒否権を発動した場合は、承認されない可能性があるのです。

経営者は、大株主の意向を意識した経営を行うことになるでしょう。もし大株主が敵対的であれば、経営陣の迅速な意思決定が妨げられる恐れがあります。

黄金株の拒否権の行使

発行済株式の1/3以上を保有する大株主がいない場合でも、『黄金株の拒否権の行使』により決定が覆されるケースもあります。黄金株とは株主総会決議事項または取締役会決議事項について拒否権が付与されている株式で、『拒否権付種類株式』と呼ばれます。

通常の拒否権と違い、拒否権を行使する黄金株が1株でもあれば、特別決議の内容が覆されます。会社は誰に黄金株を持たせるかについて、慎重に検討する必要があるでしょう。

拒否権の範囲については会社が自由に決められますが、あまりにも権利が広範囲に及ぶ場合、円滑な経営が妨げられてしまいます。

まとめ

特別決議では、会社の根本に関わる重要事項が決議されます。議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の2/3を獲得することが可決の条件ですが、定足数や表決数は定款により変更が可能です。

大株主や黄金株の拒否権が行使された場合、議案が可決できないため、経営者は誰がどのような株式をいくら保有しているのかを把握しておく必要があるでしょう。

迅速な意思決定と安定した経営を行うには、議決権のある株式をしっかりと握ることが重要です。M&Aを考えている人は、専門家のアドバイスも参考にしましょう。