株主総会は何をする場?株主の権利や必要な手続きを簡単に解説

株主総会は何をする場?株主の権利や必要な手続きを簡単に解説

株式会社の最高意思決定機関である『株主総会』は、いつ・誰が・どのようにして開催するのでしょうか?決議には大きく3種類あり、決議内容の重要度に応じて議決方法が変わります。株主総会の不開催により引き起こされるリスクも把握しておきましょう。

株主総会とは

株式会社の仕組みを知る上で、最初に理解しておきたいのが『株主総会』の役割です。あらゆる重要事項は株主総会で決議され、株主の意見や意向が会社の経営に反映されていきます。

株式会社における最高意思決定機関

株式会社では、資金調達のために『株式』を発行します。出資して株式を取得した人は『株主』と呼ばれ、会社の経営に関与したり、配当金や株主優待を受け取ったりする権利を獲得します。株式会社は、複数の株主によって共同所有されていると考えましょう。

『株主総会』は、株式会社における最高意思決定機関です。「会社の方針は全て社長が決めるのでは?」と考える人もいますが、共同所有である以上、社長1人の意思だけを通すことはできません。

取締役が3人以上いる株式会社の場合は、『取締役会』が設置されるケースがあります。日常業務に関する事項は取締役会で決定できますが、一定の重要な事項を決定する際は、必ず株主総会を開かなければならないのが原則です。

株主が持つ権利

株主が持つ権利の一つに『議決権』があります。議決権とは、株主総会における決議で、賛成・反対の票を入れられる権利で、『1単元株につき1議決権』が付与されるのが一般的です。

株主総会での決議は『資本多数決の原則』に基づきます。株式を多く所有する人ほど、会社への発言力が強くなるルールで、会社の発行済株式の過半数を保有した場合、取締役の選任・解任が可能になります。実質的に会社を支配できるといってよいでしょう。

なお、株主には議決権のほかに、以下のような権利が与えられています。

  • 利益配当請求権:利益の分配である配当を受け取る権利
  • 残余財産分配請求権:会社の解散時に残余財産の分配を請求できる権利

株主総会の重要性

株主総会は、毎事業年度終了後、一定の時期に開かれる『定時株主総会』と、必要に応じて開催される『臨時株主総会』があります。

仮に株主総会を開催しない、または正式な手続きを踏んでいない場合は、株主から『株主総会決議不存在確認の訴え(株主総会決議が存在しない訴え)』や『株主総会決議無効確認の訴え』を起こされる可能性があります。

特に、スタートしたばかりの小規模なベンチャー企業や同族会社は、手続きの煩雑さから株主総会を簡略化しがちです。株主総会を省くリスクを認識した上で、会社経営を行っていく必要があるでしょう。

株主総会はどのように開催されるのか

取締役は株主に招集通知を発出し、株主総会を開くのが原則です(株主総会開催の原則)。株主総会は主に2種類あり、それぞれ開催時期が異なります。条件を満たした場合は、書面決議による『みなし決議』が可能です。

株主総会が行われる時期

定時株主総会は年に1回以上、必ず開催される株主総会です。『会社決算後の3カ月以内』に開催するのが原則で、当期事業年度の決算承認や剰余金の配当、役員報酬などを決定します。

事業年度は会社ごとに異なります。一事業年度を半年にしている会社の場合、半年ごとに定時株主総会を開くことになるでしょう。

臨時株主総会は、臨時で開催される株主総会であるため、時期や回数は決まっていません。重要事項を決定すべきときに、総会招集権限を有する取締役が招集をかけます。

書面決議も可能

会社法では、書面による決議が認められています。開催にかかわるコストや時間、労力を大幅に削減できる上、迅速な意思決定が可能となるのがメリットです。

会社法319条(株主総会の決議の省略)には以下のように記載があります。

第三百十九条 取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。

書面決議が可能なのは、株主の全員が書面または電磁的記録で『同意の意思表示』をした場合に限られる点に注意しましょう。書面決議の際は、『株主総会議事録』を作成・保管する必要があります。

参考:会社法 | e-Gov法令検索

決議の種類

株主総会は、決議要件や定足数によって『普通決議』『特別決議』『特殊決議』に大別されます。このうち、特殊決議は多数決要件が最も要視される決議で、圧倒的多数の賛成票が要求されます。それぞれの決議内容について見ていきましょう。

最も多く使われる普通決議

普通決議は、株主総会で最も頻繁に用いられる方法で、予算の承認・取締役の選任・配当金の決定・役員報酬額の決定といった決議事項に用いられます。

  • 定足数:発行済株式総数の過半数を保有する株主が出席すること
  • 表決数:出席した株主が持つ議決権の過半数を獲得すること

『定足数』とは、決議をする際に最低限必要とされる出席者数のことです。定足数があるのは普通決議と特別決議のみで、株主全員の出席を必要としません。

重要な事項を決定する特別決議、特殊決議

『特別決議』は、一定の重要事項を決定する際に用いられます。具体的には、定款変更・事業譲渡・監査役の解任・会社の解散・株式交換・株式移転・合併・分割などが挙げられます。

  • 定足数:発行済株式総数の過半数を保有する株主が出席すること
  • 表決数:出席した株主が持つ議決権の2/3以上を獲得すること

『特殊決議』は、議決権を行使できる株主の半数以上(議決権ではなく頭数が必要)が出席し、かつ出席した株主が持つ議決権の2/3以上を獲得することが議決要件です。

特殊決議を必要とする代表的な議案には、『全株式に譲渡制限を設ける旨の定款変更』や『剰余金配当・残余財産分配・議決権について株主ごとに異なる取り扱いをする旨の定款変更』などが挙げられます。

定款の変更の場合

『定款』とは、組織や運営に関する基本規則・規約を定めた『会社の憲法』です。記載事項は会社法によって規定されており、必ず記載しなければならない『絶対的記載事項』と、記載によって効力が生じる『相対的記載事項』、定款外での記載が可能な『任意的記載事項』に区別されます。

定款変更で登記申請が必要な際は、株主総会の『特別決議』で承認を得なければなりません(一部は特殊決議)。以下は変更登記が必要な主な項目の一例です。

  • 商号(会社名)
  • 事業目的
  • 本店所在地
  • 取締役の氏名
  • 発起人の氏名・名称・住所
  • 発行可能株式総数
  • 発行済株式の総数・種類
  • 資本金額
  • 公告方法についての定め

事業譲渡の承認の場合

『事業譲渡』とは、会社の事業の一部または全てを譲渡会社(譲渡人)に売却するM&A手法です。原則、事業譲渡は株主総会の『特別決議』が必要ですが、会社法468条(事業譲渡等の承認を要しない場合)では、以下のような例外が認められています。

  • 譲受企業が当該事業譲渡等をする株式会社の『特別支配会社』である場合
  • (特別支配会社以外の事業譲渡において)全事業を譲受する対価として交付する財産の帳簿価額の合計額の割合が、純資産額として法務省令で定める方法により算定される額の1/5に満たない場合

特別支配会社とは、当該株式会社における総株主の議決権の9/10以上を保有する会社を指します。株主総会を開催しても、結果的にある特別支配会社(株主)の意向が通るため、総会での議決を省略できるのです。

参考:会社法 | e-Gov法令検索

株主総会の流れ

株主への通知時期や議事運営には、一定のルールが設けられています。株主総会の一連の流れと注意点を確認しましょう。

招集の決定と通知

株主総会を招集するにあたり、取締役(取締役会設置会社では取締役会の決議)は以下の事項を決定し、全ての株主に通知を行います。

  • 株主総会の日時・場所
  • 株主総会の議題
  • 株主総会に出席しない株主が書面または電磁的方法によって議決権行使が可能な旨(該当する場合のみ)
  • その他、法務省令で定める事項

株主総会の開催場所に決まりはありませんが、本店所在地または本店に隣接する場所になるのが一般的です。過去の開催場所から著しく離れた場所や集合に不便な場所を選ぶ際は、その理由を招集通知に明記します。

非公開会社の場合、招集通知を発する期間は以下の通りです。

非公開会社のケース 通知期間
書面・電磁的方法での議決権行使の定めがある場合 株主総会の日の2週間前まで
書面・電磁的方法での議決権行使の定めがない場合 株主総会の日の1週間前まで(取締役会非設置会社は、定款により短縮可)

日本の中小企業はほとんどが非公開会社です。非公開会社とは、定款で株式の譲渡・取得に制限を設けている会社を指します。

なお、公開会社の場合は『株主総会の日の2週間前まで』が通知期限です。

株主総会の開催、議事進行

議事進行の方法には『一括上程方式』と『個別上程方式』の2パターンがあります。

一括上程方式は、全ての報告事項や議案をまとめて上程した後、質疑応答を設けて最後に採決を行う方式です。一方、個別上程方式では、審議・質問・採決を議案別に行います。以下は、一括上程方式の進行例です。

  • 1.議長による開会宣言及び議事進行に関する説明
  • 2.出席株主数と議決権数の報告
  • 3.監査報告・事業報告・計算書類の説明
  • 4.議案の説明及び審議方法の決定
  • 5.質疑応答
  • 6.議案の採決
  • 7.審議終了・閉会宣言

株主総会後の手続き

株主総会後に必要な手続きは、『議事録の作成及び保管』と『登記変更申請(必要な場合のみ)』です。会社法で義務化されている重要な手続きであるため、必ず期限を守るようにしましょう。

議事録を10年間保管する

会社法318条(議事録)には、『株主総会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成しなければならない』との記載があります。

議事録とは、議事の経過や結果などをまとめたもので、記載内容の詳細は、会社法施行規則72条3項で確認ができます。

議事録がないと決議が無効になるわけではありませんが、決議に基づいた登記変更を行う際は、株主総会議事録を申請書の添付書面として提出しなければならない点に留意しましょう。

議事録の作成後、以下の通り、一定期間は会社の本店または支店で保管するのがルールです。

  • 議事録の原本:総会の日より10年間、会社の本店に備え置く
  • 議事録の写し:総会の日より5年間、会社の支店に備え置く

参考:会社法施行規則 | e-Gov法令検索

役員変更などでは登記が必要

株主総会で、取締役や監査役の役員変更を行った場合、登記変更の手続きが必要です。登記申請期限は変更が生じた日の翌日から起算して『2週間以内』で、期限に間に合わなかった場合は、会社法976条1号に定める『登記懈怠(とうきけたい)』として、過料に処されます。

登記変更の手続きは、本店所在地を管轄する法務局(登記所)にて行います。オンライン申請も可能なため、株主総会後はできる限り早めに手続きを済ませましょう。

株式会社の役員変更の登記をしたい方(オンライン申請):法務局 管轄のご案内:法務局

まとめ

株式会社において、会社の経営や運営にかかわる事項は株主総会によって決議されます。書面決議や株主総会の省略が可能なケースもありますが、会社における最高意思決定機関である事実は変わりません。

株主総会を省いて会社の運営を続けた場合、株主からの責任追及を受ける恐れがあります。ひとたび紛争に発展すると経営の根幹が大きく揺らぐため、会社法に基づいた開催を心掛けましょう。