会社を売りたい経営者が今から整えておく10項目|準備とタイミング
会社を売りたい、あるいは将来に備えて自社を整理しておきたい経営者へ。やることリスト10項目と、それぞれに着手するタイミングを解説します。売る予定がなくても経営が良くなる前半5つから、まずは財務の見える化と債務の確認を。
「そろそろ会社を売ることも考えたほうがいいのだろうか」「まだ売る気はないが、いずれ誰かに引き継ぐことにはなる」。会社を売りたいと思ったとき、多くの経営者が最初につまずくのは「何から手をつければいいのか分からない」という点です。
買い手を探すのはもっと先の話です。その前に、自社を売れる状態に整えておく必要があります。そして整えるべきことの多くは、売る・売らないにかかわらず、経営者としてやっておいて損のないものばかりです。
この記事では、経営者が今から整えておきたい10項目をやることリストとして整理し、着手のタイミングまで解説します。売却そのものの手順や方法を知りたい方は事業売却の方法やM&Aの流れの記事をご覧ください。
会社を売りたいと思ったら、何から始めるか
最初に、この記事の立ち位置をはっきりさせておきます。
「売りたい」と「まだ決めていない」で、やることは変わらない
会社を売ることを考え始める経営者には、大きく2つのパターンがあります。
- 売りたい、または将来的に売りたいと考えている:後継者がいない、体力的な限界が見えてきた、次の事業に移りたい
- 売る予定はないが、自社を整理しておきたい:いつか誰かに引き継ぐ日は来る、自社の現在地を把握しておきたい
この2つは動機がまったく違います。ところが、やるべきことはほとんど同じです。財務を見える化する、不採算の部門を整理する、契約や許認可を書面でそろえる。どれも売却のための特別な作業ではなく、経営を整えるという意味では日常業務の延長にあります。
言い換えると、経営者として当たり前のことを積み上げておけば、売る決断をしたときの準備がぐっと軽くなるということです。逆に、何も整えないまま「売りたい」と動き出すと、買い手が見つかっても交渉の途中で止まります。
準備には1〜3年かかることもある
会社の売却は、思い立ってすぐに完了するものではありません。買い手を探し始めてから成約するまでに半年から1年程度かかることも珍しくありませんが、本当に時間がかかるのはその前の準備です。
不採算部門を整理して数字が改善するまでには決算を1〜2期またぎますし、社長に依存した業務を引き継げる形にするにも年単位の時間が必要です。準備に1〜3年を見込んでおくと、選択肢を持ったまま判断できます。
この記事で挙げる10項目は、その1〜3年で少しずつ進めるものだと考えてください。すべてを一度にやる必要はありません。
やることリスト|経営者が整えておく10項目
まず全体像です。前半5つは経営者業務として、後半5つはM&Aの事前準備として整理しています。
| 整えること | なぜ必要か | |
|---|---|---|
| ① | ブラッシュアップから バリューアップへ |
利益体質にしたうえで、会社の価値そのものを引き上げる |
| ② | 不採算部門の整理 | 赤字の事業を抱えたままでは、全体の評価が下がる |
| ③ | 財務情報の見える化 | 経営判断の材料になり、そのままデューデリジェンスの備えになる |
| ④ | MVVの明確化 | 何を残したいのかが決まらないと、譲る相手を選べない |
| ⑤ | 中長期の経営戦略 | 買い手は過去の実績に加えて、これからの成長余地も見る |
| ⑥ | マニュアルの整備 | 社長がいなくても回る状態が、引き継げる状態 |
| ⑦ | 数字類のとりまとめ | 決算書・試算表・名簿などがそろっていないと、その後の交渉や調査が進みにくい |
| ⑧ | 債務状況の確認 | 簿外債務や個人保証は、後から出ると条件が崩れる |
| ⑨ | 契約関連のとりまとめ | 契約内容や継続条件が書面で確認できないと、交渉や引き継ぎの支障になる |
| ⑩ | 出口の明確化 | 売却・承継・廃業のどれを目指すかで、準備の中身が変わる |
①〜⑤は売る予定がなくてもやる価値のあること、⑥〜⑩は売ると決めたときに必要になることです。ただし後述するように、この2つはきれいに分かれているわけではありません。
経営者業務として整えること|売る・売らないに関係なく
ここからは10項目を1つずつ見ていきます。まずは前半5つ、売却を決めていなくても取り組む価値のあるものです。
①ブラッシュアップからバリューアップへ
経費を見直す、業務のムダを省く、粗利率を上げる。こうしたブラッシュアップは、多くの経営者がすでに取り組んでいることだと思います。ただ、売却を視野に入れるなら、その先のバリューアップまで意識したいところです。
ブラッシュアップが「いまの事業をきれいにする」ことだとすれば、バリューアップは会社の価値そのものを引き上げることです。具体的には次のような取り組みが該当します。
- 収益の柱を1本から2本に増やす
- 取引先が1社に偏っている状態を解消する
- 仕入れや外注に頼っていた工程を内製化して粗利を上げる
- 継続課金や保守契約など、毎月入ってくる収益をつくる
買い手は「いま利益が出ているか」だけでなく、その利益が来年も再来年も続くかを見ます。一度きりの大口案件で出た利益より、小さくても安定して積み上がる収益のほうが高く評価されます。会社の価値の測り方は企業価値の記事で解説しています。
②不採算部門を整理する
複数の事業を持っている場合、赤字の部門を抱えたままだと会社全体の評価が下がります。買い手から見れば、引き継いだ瞬間から損失を負う部門だからです。
整理といっても、いきなり畳む必要はありません。順番としては次のようになります。
- 再建できるか判断する:数字が改善する見込みがあるなら、期限を決めて立て直す
- 切り出して譲る:その事業を必要としている会社があれば、事業譲渡で引き継いでもらう。ただし従業員の転籍同意・取引先の承諾・許認可の取り直しが個別に必要になるため、早めに動き出す
- 撤退する:どちらも難しければ、傷が浅いうちに止める
どの事業に資源を振り向け、どこから引くかを整理する考え方は事業ポートフォリオの記事が参考になります。部門単位で譲る場合の進め方は事業譲渡をご覧ください。
なお、不採算部門の整理は売却の直前にやっても効果が薄い点に注意が必要です。買い手は直近3期程度の決算を見るため、数字に反映されるまでの時間を逆算して動く必要があります。
③財務情報を見える化する
10項目のなかで、真っ先に着手したいのがこれです。理由は2つあります。
1つは経営判断のためです。部門別・商品別の採算が見えていなければ、②の不採算部門の整理も判断できません。もう1つは、そのままデューデリジェンスの準備になるからです。
M&Aで買い手は通常、デューデリジェンス(買収監査)を行います。このとき求められる資料は、決算書だけではありません。
- 部門別・商品別の損益
- 月次試算表
- 主要取引先ごとの売上推移
- 在庫と売掛金の内訳、回収状況
- 固定資産台帳と現物の一致
日ごろから見えていれば、依頼されて出すだけで済みます。見えていなければ、依頼を受けてから資料をつくり始めることになり、数か月のあいだ交渉が止まります。財務が見えていない会社は、それだけで交渉が長引き、買い手が離れる原因になります。どこまで見られるかは財務デューデリジェンスの記事で具体的に確認できます。
④MVVを明確にする
MVVはミッション(使命)・ビジョン(目指す姿)・バリュー(大切にする価値観)の頭文字です。売却の準備というと数字の話に寄りがちですが、実務ではここが決まっていないと相手を選べません。
会社を譲るとき、経営者はどこかで選択を迫られます。
- 価格は高いが、従業員の雇用条件が変わる相手
- 価格は下がるが、屋号と取引先を守ってくれる相手
- 事業を伸ばしてくれるが、いまのやり方は大きく変わる相手
どれが正解ということはありません。ただ、自社が何を大切にしてきたのかが言葉になっていないと、その場の条件だけで決めてしまうことになります。あとから「こんなはずではなかった」となるのは、たいていこのパターンです。
MVVを整えることは、売却の場面に限らず採用でも、従業員への説明でも、取引先との関係でも効いてきます。売る予定がなくても取り組む価値があるのはそのためです。
特別な言葉である必要はありません。「地域の困りごとに応え続ける」「職人の技術を次の世代に残す」といった、自分の言葉で語れる短い文で十分です。
⑤中長期の経営戦略を描く
買い手が見ているのは、過去の数字だけではありません。この会社をこれからどうしていけるかという絵です。そして、その絵を最初に描けるのは現経営者だけです。
3年後・5年後にどうなっていたいかを、次の切り口で言葉にしておきます。
- 売上と利益をどこまで伸ばすか、その根拠は何か
- どの市場・どの顧客層を取りにいくか
- 設備投資や採用は、いつ、いくら必要か
- 自社だけでは足りない要素は何か
最後の項目が特に重要です。自社に足りないもの(販路・人材・設備・資金)がはっきりしていると、その部分を持っている買い手が有力候補になります。「誰でもいいから買ってほしい」ではなく「この要素を持つ相手なら組める」と言えると、交渉の質が変わります。
売らないと決めた場合でも、中長期の戦略は残ります。むしろ、売却を検討する過程は、自社を客観的に見直す機会として機能します。
M&Aの事前準備として整えること
後半5つは、売ると決めたときに必要になるものです。ただし前半と地続きで、①〜⑤を進めていれば、後半の負担はかなり軽くなります。
⑥業務マニュアルを整備する
中小企業のM&Aで買い手が不安に思いやすいのは、社長がいなくなったら回らないのではないかという点です。
社長の頭のなかにしかない情報は、そのままでは引き継げません。次のようなものが書面になっているかを確認してください。
- 受注から納品までの手順と、判断が必要になる場面の基準
- 主要取引先ごとの経緯・力関係・注意点
- 価格の決め方と、値引きの上限
- 仕入先の選定理由と、代替先の有無
- 設備の保守スケジュールと業者の連絡先
- 従業員の担当範囲とスキルの棚卸し
すべてを完璧な文書にする必要はありません。箇条書きのメモでも、社長以外の人が読んで動ける状態になっていればマニュアルです。
現実的な進め方としては、幹部社員に業務を任せてみて、質問された内容を書き出していく方法があります。質問が出た部分が、そのまま暗黙知になっているところです。
この作業は日常の業務改善そのものでもあります。社長が現場から手を離せるようになると、①のバリューアップに使う時間も生まれます。
⑦数字類をとりまとめる
③で見える化した情報を、相手に渡せる形の資料としてまとめる工程です。交渉に入ってから慌てないよう、次のものを1か所に集めておきます。
- 決算書と法人税申告書(直近3期分)
- 月次試算表(直近期の全月)
- 勘定科目内訳明細書
- 固定資産台帳
- 株主名簿と定款
- 従業員名簿と労働条件通知書、就業規則
- 許認可の証書
とくに見落とされやすいのが株主名簿です。設立が古い会社では、名義だけを借りた株主が残っていたり、相続で株式が分散したままになっていたりします。誰が何株持っているかが確定していないと、譲渡できる株式の範囲が示せず、手続きが止まる原因になります。名簿の記載と実態が合っているかを、いま一度突き合わせておきましょう。詳しくは非上場株式の売却と譲渡制限株式の記事をご覧ください。
自社がいくらで売れそうかを事前に把握しておきたい場合は、バリュエーションの記事で算定の考え方を確認できます。
⑧債務状況を確認する
決算書に載っている借入金は、買い手も当然チェックします。問題になるのは決算書だけでは見えないもののほうです。
- 簿外債務(会社の債務であるにもかかわらず計上されていないもの):未払残業代、社会保険料の未納、リース債務
- 偶発債務(いまは債務ではないが、将来債務になりうるもの):係争中の訴訟、他社の債務保証、製品保証の残り
- 経営者保証(会社ではなく経営者個人が負っているもの):金融機関からの借入に付けた連帯保証、自宅の担保提供
これらはデューデリジェンスで調べられます。あとから発覚すると、価格の引き下げどころか交渉そのものが白紙になることもあります。先に自分で洗い出して、金額を把握しておくほうが結果的に有利です。簿外債務と偶発債務の記事に具体例をまとめています。
経営者保証については、経営者保証に関するガイドラインにもとづいて、条件を満たせば解除できる可能性があります。事業承継の場面での保証の扱いは金融機関との交渉事項になるので、早めに相談を始めておくと選択肢が広がります。
⑨契約関連をとりまとめる
「長年の付き合いだから契約書は交わしていない」という取引は、中小企業では珍しくありません。ただ、契約の条件が書面で確認できない状態では、買い手が取引内容や継続の見通しを把握できず、デューデリジェンスや交渉の支障になります。
なお、契約や許認可、従業員の雇用が引き継がれるかどうかはスキームによって変わります。株式譲渡では会社そのものが同じ法人として存続するため、会社が当事者になっている契約も、許認可も、従業員との雇用契約も、原則としてそのまま残ります。一方事業譲渡では、契約上の地位を移すには原則として相手方の承諾が必要で、許認可は引き継がれず取り直しになるのが基本です。従業員についても、対象になる人一人ひとりから転籍の同意を得る必要があります。
どちらのスキームでも、まずは次の契約と書面を洗い出して、内容を確認しておきます。
- 取引基本契約:主要な取引先と書面を交わしているか
- 賃貸借契約:店舗・工場・倉庫の契約者と期間、更新条件はどうなっているか
- リース契約:残債はいくらか、中途解約はできるか
- ライセンス・システム利用契約:譲渡や名義変更ができるか
- 雇用契約と就業規則:実態と書面が合っているか
- 許認可:株式譲渡で維持されるものか、事業譲渡なら取り直しが必要か
あわせて確認したい点がチェンジオブコントロール条項です。株主や経営権が変わることを理由に、相手方の事前承諾や通知を求めたり、契約を解除できると定めていたりするものがあります。求められる対応は契約ごとに違うため、主要取引先の契約は1本ずつ条項を確認しておきましょう。
事業譲渡でも、建設業や宅地建物取引業のように、事前の認可を受ければ許認可を承継できる制度が設けられている業種があります。手続きは業種ごとに大きく変わるため、業種別の資格・許認可一覧の記事で自社の該当箇所を確認しておくと安心です。契約内容についてどこまで保証を求められるかは表明保証の記事が参考になります。
⑩出口を明確にする
最後に、そもそもどこを目指すのかを決めます。①〜⑨を見てきたあとのほうが、現実的な選択肢が見えているはずです。方向が決まると、①〜⑨のどこに力を入れるかもはっきりします。
| 出口 | どんな場合に選ぶか | 準備で重視すること |
|---|---|---|
| 親族内承継 | 継ぐ意思のある家族がいる | 株式の集約と相続・贈与の対策 |
| 従業員承継 | 任せられる幹部がいる | 買い取り資金の手当てと、経営者保証を後継者に引き継がせずに済むかの交渉 |
| 第三者へのM&A | 後継者がいない、事業を伸ばしたい | 数字と契約の整備、企業価値の向上 |
| 廃業 | 引き継ぐ相手も価値も見込めない | 負債と原状回復の費用試算 |
多くの経営者は「まだ決められない」と感じると思います。それで構いません。決めるのは方向であって、期限ではありません。ただ、方向が決まると準備の中身がはっきりします。
出口の選び方はエグジット(出口戦略)、廃業とM&Aで手残りがどう変わるかは廃業とM&Aの比較、後継者が見つからない場合の選択肢は跡継ぎがいない会社の5つの選択肢でそれぞれ解説しています。
経営者業務が、そのままM&Aの準備になる
ここまで10項目を前半と後半に分けて説明してきましたが、実際にはこの2つは重なっています。前半の①〜⑤を日ごろから進めておくことで、M&Aを検討する段になったときの準備の負担を大きく減らせます。
| 経営者業務として | M&A準備のどこに効くか |
|---|---|
| ①バリューアップ | 買い手に示せる収益力そのものが上がる/⑩で選べる相手が増える |
| ②不採算部門の整理 | ⑦で説明すべき数字がすっきりする/⑧で洗い出すリース債務などの範囲が狭まる |
| ③財務情報の見える化 | ⑦の資料がそろう/財務デューデリジェンスへの対応がスムーズになる |
| ④MVVの明確化 | ⑩の出口が決まる/譲る相手の判断軸ができる |
| ⑤中長期の経営戦略 | 買い手に将来性を説明する材料になる/⑩で相性のよい相手を考えやすくなる |
つまり、売却準備の多くは日常の経営改善の延長線上にあるということです。一方で、株主構成の整理、簿外債務や偶発債務の洗い出し、経営者保証への対応、許認可や契約条項の確認といった、M&Aを具体的に検討する段階であらためて確認すべきことも残ります。
財務の見える化がデューデリジェンスを短くする
デューデリジェンスは、買い手が対象会社を調べる工程です。ここで資料が出てこない、数字の根拠が説明できないという状態になると、調査が長引き、その間に買い手の熱が冷めます。
逆に、部門別の採算も月次の推移もすぐ出せる会社は、財務デューデリジェンスでの資料提出や質疑応答がスムーズに進みます。すぐ答えられること自体が、経営管理の状態を買い手に伝える材料にもなります。
社長依存を減らすと、買い手にとっての価値が上がる
社長が営業も製造も経理も見ている会社は、社長が抜けた瞬間に事業が止まるリスクを抱えています。買い手はそのリスクを価格に織り込むため、評価が下がります。
マニュアルを整え、幹部に権限を渡していくと、このリスクが下がります。結果として評価にも反映されますし、引き継ぎ期間を短くできるため、譲渡後に前経営者が長く会社に残る必要もなくなります。
「売らない」と決めても、会社は強くなっている
準備を進めた結果、「やはり自分で続ける」「息子に継がせる」という結論になることもあります。それでもやったことは無駄になりません。
不採算部門が整理され、財務が見え、社長がいなくても現場が回り、進む方向が言葉になっている。これは売却の準備ではなく、単に経営が整った状態です。売る・売らないの判断は、その状態になってから下すほうが、納得のいく結論になります。
いつから始めるか|準備のタイミング
最後に、着手の時期です。
「売りたい」と思ってからでは間に合わないこと
10項目のうち、直前にやっても間に合わないものがあります。
- 不採算部門の整理:決算に反映されるまで1〜2期かかる
- バリューアップ:収益構造が変わるには年単位
- マニュアル整備と権限移譲:人が育つ時間が必要
- 経営者保証の解除:金融機関との交渉に時間がかかる
一方、数字類のとりまとめや契約書の収集は、比較的短期間でできます。時間がかかるものから先に手をつけるのが原則です。
業績が良いときこそ動く
「業績が落ちてきたから売ろう」と考える経営者もいますが、業績が悪化してからでは買い手の選択肢が狭まり、価格などの条件も不利になりがちです。
買い手が評価するのは、これから伸びる余地です。利益が出ていて、まだ打ち手が残っている状態こそ高く評価されます。売る必要がないときに準備を進めておくのが、選択肢を広く持てるやり方です。
体力や健康の問題で急に判断を迫られることもあります。準備が済んでいれば、そのときすぐ買い手探しや交渉に進めます。
逆算のスケジュール
目安として、次のように考えると整理しやすくなります。
| 時期 | 取り組むこと |
|---|---|
| 3年前 | ③財務の見える化/②不採算部門の整理/①バリューアップに着手/⑧経営者保証の解除に向けた金融機関への相談を開始 |
| 1〜2年前 | ⑥マニュアル整備と権限移譲/④MVVと⑤中長期戦略を言葉にする |
| 半年〜1年前 | ⑦数字類のとりまとめ/⑧簿外債務・偶発債務の洗い出し/⑨契約の確認/⑩出口を固める |
| 検討開始後 | 買い手探し・交渉・デューデリジェンス・契約 |
「3年も待てない」という場合でも、③財務の見える化と⑧債務の確認だけは先に進めてください。この2つは交渉に入る前提条件になります。
自社にどんな買い手候補がいるのか、いくらぐらいの案件が動いているのかは、準備の途中でも見ておく価値があります。国内最大級のM&A・事業承継マッチングプラットフォーム「TRANBI(トランビ)」では、無料の会員登録で実際に掲載されている案件や買い手候補の動きを確認できます。
よくある質問(FAQ)
会社を売る準備について、よく寄せられる疑問にお答えします。
売る予定がなくても、準備しておく意味はありますか?
あります。この記事の10項目のうち、①〜⑤は売る・売らないに関係なく経営が良くなる取り組みです。財務が見え、不採算部門が整理され、社長が現場から手を離せる状態は、それ自体が経営の目標になります。
そのうえで、いざ譲る判断をしたときには、残る準備が最小限で済む。これが理想の順番です。
何から手をつければいいですか?
③財務情報の見える化から始めることをおすすめします。部門別・商品別の採算が見えないと、②の不採算部門の整理も⑤の中長期戦略も判断材料がそろわないためです。
同時に⑧債務状況の確認も進めておくと安心です。簿外債務や個人保証の金額を把握しておかないと、あとで前提が崩れます。
マニュアルはどこまで作り込む必要がありますか?
清書された文書である必要はありません。社長以外の人が読んで動ける状態であれば十分です。
進め方としては、幹部社員に実際の業務を任せてみて、質問された内容をその都度書き出していく方法が現実的です。質問が出た部分にこそ、社長の頭のなかにしかない情報が眠っています。
赤字でも会社は売れますか?
売れる場合があります。買い手が評価するのは利益だけではないためです。取引先・技術・従業員・許認可・拠点といった要素も評価の対象になります(許認可そのものを目的とする買収は、会社ごと引き継げる株式譲渡が前提です)。自社では活かしきれていない資産が、別の会社では収益を生むこともあります。
ただし赤字の状態では選択肢が狭まるのも事実です。立て直せる見込みがあるなら、改善してから動くほうが条件は良くなります。
準備を誰にも知られずに進められますか?
進められます。10項目の多くは通常の経営改善として説明できる作業であるため、この段階で従業員に売却の意図を伝える必要はありません。
ただし、⑧で経営者保証について金融機関に相談する場合や、⑦で名義株や分散した株式を整理するために株主本人に接触する場合は、検討していること自体が相手に伝わります。誰にどこまで話すかを決めてから動いてください。
誰にいつ伝えるかは、進め方や契約の内容によって変わります。早い段階で情報が広がると従業員や取引先に不安を与えるため、準備・交渉の段階では共有する範囲を限定するのが一般的です。
一方で、幹部社員への説明が交渉やデューデリジェンスの過程で必要になったり、主要取引先のチェンジオブコントロール条項によって最終契約の前に承諾や通知が必要になったりする場合もあります。伝える相手と時期は、専門家や買い手と相談しながら決めてください。
準備が整ったかどうかは、どう判断すればいいですか?
ひとつの目安は、デューデリジェンスで求められる資料をすぐに出せるかです。決算書3期分、月次試算表、株主名簿、主要な契約書、許認可の証書。これらが1か所にそろっていれば、交渉に入れる状態です。
もうひとつは、自分が1か月現場を離れても事業が回るかです。回るなら、引き継げる会社になっています。
まとめ|整えることは、売る準備であり経営そのもの
会社を売りたいと思ったとき、最初にやるべきことは買い手を探すことではありません。自社を引き継げる状態に整えることです。
本記事のポイントを整理します。
- 準備すべき10項目は、経営者業務として5つ、M&Aの事前準備として5つ。後半5つは、マニュアル整備・数字類のとりまとめ・債務状況の確認・契約関連のとりまとめ・出口の明確化
- 前半5つ(バリューアップ・不採算部門の整理・財務の見える化・MVV・中長期戦略)は売る予定がなくてもやる価値がある
- 前半を進めておくと、M&Aを具体的に検討するときの準備の負担を大きく減らせる
- 時間がかかるのは不採算部門の整理・バリューアップ・権限移譲・経営者保証の解除。逆算して1〜3年を見込む
- 迷ったら③財務の見える化と⑧債務の確認から着手する
- 「売らない」と決めても、整えた分だけ会社は強くなっている
準備を進めながら、実際にどんな会社がどんな条件で動いているのかを見ておくと、判断の解像度が上がります。後継者が見つからない、買い手の当てがないという方は、「TRANBI(トランビ)」で買い手候補を探してみてください。国内最大級のM&A・事業承継マッチングプラットフォームとして、中小企業や個人事業の譲渡・譲受を無料の会員登録から始められます。
