2022-01-18

TRANBIはただの「売り買いの場」じゃない!優秀な経営者との出会いで、16年大事に育ててきた英会話教室の未来が開けた

売り手(法人):匿名

<中小企業の事業売却・スモールM&A事例>

 

関東圏で2005年から英会話スクールを運営してきたA社。子どもから大人まで幅広い世代を対象に、外国人講師とのコミュニケーションの場や海外文化に触れることのできるこだわりの環境を提供してきた結果、地元で長年愛されるスクールに育っていました

しかし、競合企業の進出や時代の移り変わりによる生徒のニーズの変化、さらにはコロナ禍という逆風が押し寄せます。経営が厳しくなるほど、オーナーのAさんは私生活の時間を削って仕事に全力を注ぐことになり、「働き方を見直さなければ」と考えて、16年間大切に育ててきた事業を譲ろうとTRANBIへの掲載を決意します。

掲載したその日にお申し込みが殺到。そして資本力と経営力を兼ね備えた買い手と出会い、従業員の待遇やスクールの環境は維持したままという最高のスタートを切ることができました。Aさん自身も余裕をもった働き方で再び英会話教室の運営に携われているそう。M&Aの過程では経営者との出会いにも恵まれ、「単なる売り買いではない貴重な経験だった」と語るAさんにお話を伺ってきました。

 

【従業員と生徒のことを考えると、英会話スクールの閉鎖はできなかった】

- まずは、英会話スクールの立ち上げ背景について教えてください。
私自身が帰国子女であるため、英語に関連する仕事がしたいと思う中で、2005年に外国人の友人数名と一緒に立ち上げました。大きな事業や会社にするつもりもなく、「仲間内で楽しいことができれば」と始めた事業です。

友人たちはとても顔が広かったため、地元の多くの人に知ってもらうことができました。また、開校当時は小学校で英語教育が必修化されておらず街で外国人に会うことも珍しい状況でした。そのため「外国人の先生と気軽に英語で話せる」こと自体が魅力と感じていただけて、予想以上に多くの人が通ってくれるようになりました。

- 他の英会話スクールにはない強みはどんなところですか。
「海外の文化に楽しく触れてほしい」、「英語を話せることは楽しいと知ってほしい」という思いで設立したスクールなので、英会話レッスン以外に海外文化に触れるイベントなどを大切にしていることです。

たとえばクリスマス時期には、海外のクリスマスでよく食べられる料理を提供してパーティーを開いたり、英語を用いてクリスマスにちなんだ工作を体験してもらったりする機会を設けてきました。

ただ、16年前と比べると英語教育の環境は大きく変わり、近隣に塾が増えて、塾が英会話レッスンを提供するようになりました。

また、生徒さんのニーズにも変化があって、大人も子どもも、仕事や他の習い事、生活に忙しい中で「いかに早く英語を上達するか」が第一になってきました。そのため、レッスンへのニーズが増す一方で、「当スクールらしさ」であったイベントへの参加率が下がってきたのです。結果的に、近年は売上を大きく伸ばすことはできていませんでした。

- そんな中、今回のタイミングで事業売却を決意するに至ったのはなぜですか。
実は5年ほど前から、「事業を誰かに譲ろう」と考え始めていました。

一緒に事業を始めた外国人の友人が全員母国に帰って私1人になったものの、「これだけたくさんの生徒さんが通ってくれているし、せっかくここまでやってきたんだから、もったいない」と続けてきました。

ただ、私にも家族がいます。5年前はまだ小さな子どもを抱えていたので、家族の協力を得て、ずいぶん私生活を削ってスクールに費やしてきました。そうした日々を送る中で、「どこかのタイミングで働き方を変えなければ」と思うようになりました。そして、「2021年度を区切りにして、従業員に事業を譲ろう」と決めていたのです。

しかし、2020年にコロナ禍を迎え、状況が変わりました。スクールは2か月休業して、売上ももちろん下がりました。もともと利益はそれほど出てなかったのですが、経営がさらに厳しくなりました。

当面はコロナ関連の支援策などを活用して乗り切れそうですが、「この状況がいつまで続くのか…」と考えると、ここから新たに融資を受けて経営を立て直す自信がなくなりました。それに、「良い状態で従業員に引き継ぎたい」と考えていたので、経営が最悪の状態の中ではとてもじゃないですが引き継ぐことを考えられませんでした。

自分で立て直す自信はないけれど、身近な人に任せるのは申し訳ない。それなら、資本力のある企業や人に経営をバトンタッチした方がいいのではないか。そう考えるようになり、TRANBIへの掲載に至りました。

- 経営状況が厳しい中でも、英会話スクールを閉鎖することは考えなかったのですか。
私は、経営者としてはあまり優秀じゃないと思っています。おそらく、優秀な経営者の方なら、これまでに何度もスクールを畳む機会があったはずです。

そんな中でも私は、「従業員の働く場所を失くしたくない」、「通い続けてくれた生徒さんを悲しませたくない」という感情論を優先してしまいました。結局自分に負担を掛けてしまっていました。

新規事業を始めるにしても、資本がないので大きなことはできないし、人件費を掛けられないから自分が動くしかない。でも、それではできることに限りがあって中途半端になってしまうのですよね。もしかすると、大胆な投資ができれば成功した事業もあったかもしれません。

投資の勝負どころや、事業の引きどころを上手く判断することができませんでした。そうした意味でも、きちんと判断ができる、経営力のある経営者さんが携わってくれた方が、会社にも従業員にも生徒さんにとっても幸せだと思うようになりました。



(※写真はイメージです)

 

【こだわりと、16年間続けてきた長さが武器に。想像以上に多数の申し込みが!】

- 事業売却を考える中で、TRANBIへ掲載したのはなぜですか。
最初は右も左もわからなかったため、「塾のM&A」で検索してヒットした会社に電話をしました。すると、「●円以上の規模の案件しか仲介していないので、御社の規模ならM&Aプラットフォームを利用してみてください」と案内されました。いくつかサービスを挙げていただいた中にTRANBIが含まれていたのです。

ただ、最初は試しに一度掲載してみようくらいの気持ちでした。「うちみたいな会社、どこも買ってくれないだろう」と思っていたので、まさか申し込みが来るとは思っていませんでした

- 掲載時にはどのような点に気を付けましたか。
「うちみたいな会社、どこも買ってくれないだろう」と思いつつも、長年曲げずにやってきた部分やこだわりは伝えたかったし、アピールポイントはそこしかないと思っていました。だからこそ、生徒数や集客方法、提供レッスンなどの説明に加えて、スクールの雰囲気や運営にあたって大事にしてきた思いを細かく記載しました。

すると、16年続けてきた経験とノウハウが評価されたのと、私の思いやスクールの特徴が伝わったようで、思いのほかたくさん反響がありました。うれしかったのですが、毎日新しい問い合わせが来るので、一人ひとりへの対応で手いっぱいになって、パニック状態になりました。途中で新規申し込みを一度停止したのです。

ただ、私は性格上、全員と器用にやり取りしたり、一方である程度お話が進んでいる状況の中で新しく申し込みをしてくれた人をいつまでも待たせたりすることが苦手なタイプでした。そのため、申し込み停止直前に連絡をくれた方には「すでに話が進んでいるため、●月末に一度状況をご連絡します。それまで、この話は保留にしてください」と連絡を入れました。

- 多くの応募の中から、どのようにして買い手様を決定されたのですか。
実際にオンラインや対面でお話をしたのは4社です。うち1社は、お会いして少し話した時点でお互い「ちょっと違う」と思ってしまったので、そこで交渉がストップしました。

2社目は諸々の条件などから契約には至らなかったのですが、経営者の方がとても良い方で、いろいろなお話をさせていただき、とても勉強になりました。今でも「何かあったらいつでもお話聞きますよ。」と言ってくださっています。

そして、最終的には2社に絞りました。B社は業種も近く、こちらを配慮した上でさまざまな提案をくれたのでとてもありがたかったのですが、買い手さんもM&Aに慣れていなかったため、話がなかなか進みませんでした。

私もM&Aは初めてなので、どちらが主導するかが決まらないまま曖昧なやりとりが続いてしまって、なかなか金額などの具体的な話に移らなかったのです。

一方、C社はこちらの事情を配慮した上で交渉をうまくリードしていただいたため、スイスイと話が進んでいきました

B社は遠方だったため、先方も「会って話さなければ」と思ったのか「来週、伺ってもいいですか?」とおっしゃられたんです。ただ、その頃にはC社と話がかなり進んでしまっていたので、遠方から来ていただいたあげく断るのは申し訳ないと思い、その時点で断りを入れました。



(※写真はイメージです)

【約半数の株を持ち合う業務提携。協力関係でビジネスを続けられることに】

- 買い手に決定されたC社からは、どのような条件を提示されたのですか。
私が買い手様にお願いしたのは、「従業員が同じ条件で仕事を続けられること」と「生徒さんが同じ条件で通い続けられること」だけでした。

これらはもちろん快諾いただいた上で、「譲渡形態は株式譲渡」、デッドロックを防ぐために「過半数の株を買い手様で持ち、残り半分は私が持つこと」、「私が残って事業に携わること」という提案を受けました。そのため、現在は買い手様が一株だけ多く持っている状況で、形としてはグループ会社になったような感じです。

私は自分が退こうが残ろうがどちらでもいいと思っていました。ただ、これまで通り仕事にべったり張りついてないといけない状況は改善したかったのです。そのため、「働き方を変えていきたい」、「娘が学校から帰ってくる時間には家に居たい」といった希望も伝えました。すると、そうした事情も配慮した条件を提示してくださったのです。

譲渡金額も、買い手様の提案を受け入れました。従業員の雇用維持など私から提示した要望さえ汲んでいただけるなら、金額にこだわりはなかったからです。

- 条件面以外に、買い手様のどんな点に好感を持ちましたか。
「仲間として一緒にやっていきましょう」と言ってくださったことが心に残っています。買い手様は英会話や海外文化に関わる事業にご興味をお持ちでいらっしゃっていて、うちの経験と力と人材が必要と言っていただきました。私が目指していたスクールのスタイルも気に入ってくださったようです。

一方、うちが四苦八苦していたお金や人材や私の時間のやりくりについては、買い手様が持っている資金やリソースを生かしてサポートしていただけるとのことでした。「お互いが持っている物を活用し合っていきましょう」という気持ちがうれしかったです。



(※写真はイメージです)

【M&Aに挑戦したからこそ、得た数々の経営者とのつながり】

- M&A成立後の状況はいかがですか。
これまで事務や接客は私1人でやっていたのですが、現在は買い手様の会社に在籍の従業員の方がこちらの仕事をサポートしてくださっていて、業務のデジタル化を進めつつ、私が自分の時間を取れるようにするための環境を整えています。ただ、M&Aが成立してまだ2か月で、準備を進めている最中なので、今が一番忙しいかもしれません(笑)

ただ、もしM&Aをせず何もアクションを起こさないまま今に至っていたら、少しコロナ禍が落ち着いたとは言え立て直しに大きな苦労があったと思うので、気持ち的には楽ですね。

また、スクールの活気も増しました。従業員は、最初に説明した時こそ、「今までとやり方や雰囲気が変わるのではないか」と抵抗感を示した者もいたのですが、買い手様のオーナーと会うとすぐに打ち解けて、今は仲良くやっていますし、スクールが明るくなりました。

- 買い手様のオーナーの方も協力的なのですね。
以前、時代のニーズに合わせるためと経営改善のためにオンラインレッスンのシステムを導入したものの、宣伝活動に手が回りきらず大きな利益を生むに至っていませんでした。しかし、オーナー様が広告宣伝に力を入れてくださったり、お持ちのコネクションを通じて広く周知してくださったりしています。

オーナー様とは、週の半分くらいは会っています。いろんな企画を持ってきていただけるだけでなく、うちのチラシ撒きまで手伝ってくれています。すごく元気で行動力がある方です。

何より、今までのスクールのスタイルを守りながら、新しいことに挑戦できていることがうれしいです。人の出入りが多くなったので、生徒さんから「どうしたの?」と聞かれることはありますが、「うちも新しい取り組みをしようと思っていて、協力者が集まってくれているんですよ」と説明すると、生徒さんも「いいわね、頑張ってね」と言ってくださいます。

- 振り返ってみて、どんなところにM&Aのメリットを感じますか。
一番は、事業が継続できていることですね。環境が変わらないまま、従業員の雇用を守れて、生徒さんに通い続けてもらえていることにホッとしています。

また、これまでスクールのメンバーは日本人が私だけでしたし、事務仕事もすべて1人でやっていたので、従業員は皆仲間でありつつも、どうしてもシェアできないことがありました。

でも、今回M&Aに挑戦したことで、現在のオーナー様はもちろんのこと、さまざまな経営者の方、これまであまり繋がりを持つことがなかった同業のオーナーの方たちにTRANBIを通じて出会えたことをうれしく思っています。M&Aの挑戦はただの売り買いじゃなくネットワークを得られることにもつながるのだな、と感じています。

オーナー様はとにかくエネルギッシュな方なので、彼と一緒にいると私も元気になりますし、「新しいことを始めてみようかな」、「もう少し頑張ってみようかな」という気持ちになります。買い手様の新しい目標に一緒に加わらせてもらえることは、すごくありがたいことですね。

もし今、廃業を考えているオーナー様がいたら、事業を辞める以外の選択肢があるんだと知ってほしいですし、M&Aは決して「事業を辞めるために売る」ものではなくて、売った後に新しい可能性が広がることもあると伝えたいです。


 
 

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  • 倉本祐美加
  • ライター紹介倉本祐美加

    関西学院大学卒業後、クラウド製品を扱うIT企業のインサイドセールス職を経て2016年にライターとして独立。企業取材を中心としたインタビュー原稿の制作に従事していますが、エンタメ・スポーツ・文化等幅広く好みます。

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