2020-07-28

【売り手編】2つの視点から見る事業承継 ~期待以上の成果、廃業費用どころか事業資金を獲得できた音楽教室

売り手(個人):倉田雅夫さん

(左手:売り手である音楽教室オーナーの倉田雅夫さん、右手:M&Aを仲介した税理士の都さん)

<戦略見直しを目的とした売却事例>

 

M&Aには必ず売り手と買い手が存在します。当然ながら、売り手は高く売りたいと思い、買い手は安く買いたいと思うもの。そんなそれぞれの想いは、どのようにまとまっていくのでしょうか? そんな疑問にお答えするために、ある音楽教室の事業承継について、売り手様と買い手様にそれぞれインタビューを行いました。本記事は売り手編です。
お話を伺ったのは、大阪市内の音楽教室「ムジークドルフ」のオーナーである倉田雅夫さんと、M&Aのお手伝いをされた明和マネジメント税理士法人の都さん。今回の譲渡では、2教室を運営されて来られたうちの1つ、南森町教室を譲渡されました。買い手編は追って公開しますので乞うご期待ください!

【コロナウイルスが事業の閉鎖に追い打ちをかけた音楽教室】

- 譲渡された事業について教えて下さい。
倉田さん:「ムジークドルフ」という音楽教室です。ピアノや弦楽器を教える教室は多いのですが、管楽器や声楽なども教えているのが特徴です。

- 教室は始められて長いんですか?
倉田さん:ちょうど30歳のときに始めたので、35年ですね。当時持っていたビルの1フロアが空いたので、自分で商売しようと考えたんです。私はもともとフルートの演奏家として活動していたのですが、大学や他所の音楽教室でレッスンを受け持った経験がありました。自分で教えることもできるし、演奏家仲間の仕事になればいいなとも思って、教室を開きました。

- 生徒さんはどんな方が多いんですか?
倉田さん:いろんな方がいらっしゃいます。趣味で音楽を楽しむ会社員の方や主婦の方、大学や高校の音楽科の受験を目指す方、小さなお子様といろいろです。基本的にはお近くに住んでいる方や勤めている方ですね。

- 今回、譲渡を考えられたのは?
倉田さん:教室は2つ経営していたのですが、どうしても手が回らなくなり、一つに集中したいなとここ2~3年ずっと考えていたんです。講師の誰かに譲れたらいいなとのんびり考えていたのですが、今回のコロナウイルスの件で休業することになり、教室を維持するにしても費用がかかるので、急いで手放さなければという状況になってしまいました。でも最初はM&Aという発想は全くなく、単に撤退するつもりでした。


(待合室の様子)

【原状回復して撤退するつもりが、掲載1ヶ月でスピード成約】

- そこからM&Aを検討されるようになったきっかけは?
倉田さん:顧問税理士をお願いしている都さんに相談したら、「売却できる可能性がある」と教えてくれて。当初は「そんな方法があるの??」という驚きでした。

都さん:撤退する場合、原状回復の費用がかかります。特に「ムジークドルフ」の場合は防音設備を入れていたので、元に戻すには数百万円以上かかることになり、通常より大変です。それなら、音楽教室としてそのまま使いたい方を探してみませんかというお話をしました。せっかく長く続けてこられた事業なので、倉田先生のお手元にいくらかでも残したかったというのもありました。

倉田さん:せっかくのお話なので、お願いしてみることにしました。過度に期待せずに、原状回復費用を節約できるとうれしいなというくらいの気持ちでしたね。

- 心配事はありませんでしたか?
倉田さん:コロナで自粛している期間はお金が出ていくだけですので、早く手放したいという焦りはありましたね。価格を高くして何ヶ月も買い手を探すくらいなら、早く決断いただける方にお譲りしたいと考えていました。

- そのご希望どおり、TRANBI掲載から1ヶ月で成約に至りました。
倉田さん:基本的に都さんにお任せしていたので、うまくやっていただいたなと思っています。

都さん:私自身、今回の音楽教室のM&Aは少し不安がありました。管楽器はどうしても飛沫がつきもので、コロナ禍でどこまで買い手がつくだろうと。でも蓋を開けてみると大きな反響があって、音楽を仕事にしたい方って多いんだなと驚きました。また、ちょうど休業中で交渉や現地見学の日程調整がしやすかったのもスピード成約に至った理由の1つです。

あとはTRANBIさまさまですね(笑)。実は他社さんのM&A仲介サービス2つにも同時並行で掲載したのですが、引き合いの7割がTRANBIでしたから。


(各部屋に続く廊下の様子)

【買い手も売り手も、謙虚な姿勢が良い取引を引き寄せる】

- どういう方が興味を示されていたのですか?
都さん:やっぱり1番多いのは、音楽関係のお仕事をされている方ですね。すでに音楽教室を経営されている方、楽団を運営されている方、ギタリストの方とは対面での交渉までしました。もちろん異業種の方もいましたよ。税理士の方とか。ただ譲渡金額が折り合わなかったりなどの理由でお断りさせていただきました。

- 最終的に買い手になられたのはお医者様だとか?
倉田さん:はい。お医者様のお父様と、音大出身で海外留学経験もあるピアノ奏者のお嬢様です。教室の運営はお嬢様が主体になると聞いています。

- はじめてお会いされたときの印象は?
倉田さん:お嬢様とお話したのですが、お若いのに人の話をよく聞ける素直な方だなと感じました。こういうと少し偏見になるのですが、音大出身者、特に海外暮らしが長い人のなかには、自分の言いたいことだけ言って相手の意見を聞かないような人も多くて……。私自身が音大出身なので、周りにそういう方が多くいました(笑)

そんな事情もあって、気難しいところがあるのかなと少し身構えていたのですが、全くそんなことはなく、気持ちのいい方で安心しました。

- 都さんはいかがでしょうか?
都さん:私は譲渡に関する具体的な条件などをお話する立場ですので、主にお父様とお話しましたが、柔らかい雰囲気の方で、安心して倉田先生にご紹介できました。講師の継続雇用も条件としてお伝えしていましたが、買い手さんからはむしろ「講師の方からの希望があれば聞きますのでどんどんおっしゃってください」と言っていただき、私としてはこれ以上何も言うことのないお相手でした。

たまに、「買ってやる」と言わんばかりの横柄な態度の買い手さんがいらっしゃるのですが、そういった方は仲介する立場として「売り手さんに会わせたくないな」とさえ思います。経験上、そういった方とお話がまとまることはまずありません。これは売り手側にも言えることですが、謙虚に礼儀正しく振る舞う方のほうがよい取引をできているように思います。

【「売れっこない」と思っているのは自分だけかも知れない】

- 良い条件で売れるように工夫された点はありますか?
都さん:基本的なことですが、セールスポイントになりそうなことはしっかりと記載しました。駅の商圏人口だったり、少額ではありますがきちんと利益が出ていることだったり……。防音設備も、原状回復するうえではコストですが、そのまま使うなら資産です。同等の設備をイチからつくろうと思うと、一千万円弱くらいはかかるそうなので。

- 交渉のなかで気を付けられたことはありますか?
都さん:他にも交渉中の方がいることはお伝えしていました。「誰がどの条件で」というような具体的な話はできませんが、ライバルの存在や進捗具合を都度伝えることで、決断を後押しできればとは考えましたね。

- 満足行く取引になりましたか?
倉田さん:はい、もちろん。当初の考えどおり撤退していたら大きなお金がかかっていたところを、逆にまとまった金額で買っていただけたので。

- 最後に、倉田さんと同じように撤退や廃業を考えている方にアドバイスをいただければと思います
倉田さん:自分では「売れる」と思っていなくても、廃業するくらいなら思い切ってトライしてみてもいいのではないかと思います。

都さん:売るという選択肢自体が発想にない方も多いと思うので、税理士など周囲の人に相談されることをオススメします。その人自身にはM&Aの知識がない場合も、人脈のなかから適切な人を紹介してもらえるかと思います。

自分では「どうせ売れっこない」と思っていた事業が、思いがけず高く評価されるかもしれません。せっかく長く大事に続けて来られた事業ですから、引継ぎを検討されることをオススメします。



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  • 田中 ヤスヒロ(typo)
  • ライター紹介田中 ヤスヒロ(typo)

    コピーライター/京都大学理学部卒業後、広告制作会社にてコピーライターとして勤務。WebサイトやSNSなど、デジタル媒体を中心に広告コンテンツの企画・制作を担当する。ビジネス、科学など固いものを柔らかく伝えることが得意。2018年より屋号「typo(誤字脱字)」として独立。その名の通り、ケアレスミスが多いタイプ。