2020-08-18

M&A仲介のプロが、自ら副業経営する人材事業を売って気付いたこと。 ~ 当事者になると冷静でいられない

売り手(個人):都さん

(※写真はイメージです)

 

<本業集中を目的とした個人の副業売却事例>

 

売り手または買い手の代理人となり、譲渡に関わる業務を遂行してくれるM&A専門家。普通の人は人生のなかで1、2度経験するかどうかというM&Aを、何十回・何百回と経験している頼れる存在です。
明和マネジメント税理士法人の都さんもその一人。以前から業務でTRANBIを利用いただいていて、今回は仲介としてではなく、売り手当事者として副業で経営していた人材派遣会社を数百万円で売却(株式譲渡)されました。百戦錬磨の専門家も、自分の事業を売るのは初体験。当事者になってみてどのようなことを感じたのでしょうか?


(今回の売り手である、明和マネジメント税理士法人の都さん。本業とは別に経営していた副業を売ることに。)

【運営1人、クライアント1社。スモールな人材派遣会社】

- 今回の売却を考えられたきっかけを教えていただけますか?
都さん:以前から、売り手の立場を経験したいとは思っていたんです。普段は専門家として、事業を譲りたいという売り主さんに、いろいろとアドバイスをさせていただいています。それで、自分でも売却を経験したら、売り主さんの気持ちがより分かるようになるんじゃないかなと。

- 売却された会社は、副業で経営されていたということですが、どんな会社ですか?
都さん:人材派遣会社です。大手電機メーカーさんの子会社であるコールセンターに、カスタマーサポート人材を派遣していました。

- 副業としては珍しいお仕事ですね。
都さん:実はそのコールセンターの管理部門に、友人が配属されたことをきっかけにはじめたんです。飲みに行ったときに仕事の内容を聞いて、自分でもできそうだなと思ったので。そのコールセンターへの派遣ありきでつくった会社なので、5年経営してお客さんはその1社だけという特殊な経営実態です。

- お一人で経営されていたんですか?
都さん:はい。求人、面接、研修、コールセンターと契約まわりのやりとり、給料の振り込みまで全部やっていてました。

- 税理士さんのお仕事だけでもお忙しいと思うので、相当大変だったのでは?
都さん:ええ、すごく(笑)。コールセンターは長続きする人が少ないのが課題で、平均すると5ヶ月くらいでしょうか。それでもウチはケアをしっかりしていて長くいていただけるのが強みですが、それでも常に求人を出している状態でしたね。応募が来て面接のアポを入れても、ドタキャンされちゃうことも多く、自分の時間がどんどん割かれていくのが悩みの種でした……。

- 収益としてはいかがでしたか?
都さん:一応黒字で、副業収入としては悪くないくらいの金額にはなっていました。ただ、かかる手間に見合うかというと悩ましいところでした。でもそれ以上の金額を稼ぐのは、自分では難しいなとも感じていましたね。

人材派遣の売上は、派遣先からいただく給料のマージンだけです。人材によって単価感は多少違うものの、基本的には人数で決まるので、大きくするには大勢採用するしかありません。そうすると当たり前ですが、採用や管理の手間が大きくなります。副業じゃそこまでできないなと。


(※写真はイメージです)

【M&Aプラットフォームは複数利用する】

- それで手放されることにされたんですね。廃業は考えませんでしたか?
都さん:それは全く考えなかったですね。コールセンターにご迷惑をかけたくなかったですし、働いてくれている人たちに対する責任感もあったので。さっきウチは勤続が長めだと言いましたが、譲渡時点で残ってくれている人たちはみんな責任者クラスに昇格していたんです。お互いハッピーな状態だったので、そこは崩さず残したいと思いました。

- 売却を考えられてからは、どんなアクションを取りましたか?
都さん:TRANBIを含む、M&Aプラットフォーム3つに掲載しました。この3つは本業でもよく利用しています。重複ユーザーはもちろんいますが、一つのプラットフォームだけ利用している方も多いことに加え、売り手として管理できる数の限界が3つであることもあります。

僕の感覚では、引き合いの数はTRANBIが7で、他2つを足して3くらいの比率です。手間を惜しむならTRANBIだけでもいいのかもしれませんが、間口は広いに越したことがないので併用しています

- 掲載後の反応はいかがでしたか?
都さん:多くの方から交渉希望をいただいて、最終的に面談に至ったのは企業5社と個人の方1名でした。
企業で関心を持ってくださったのは、通信キャリアの代理営業の会社や、不動産販売の会社、ウォーターサーバーの会社などです。営業や広告が強い業界なので、新規顧客開拓や求人面でのシナジーを期待したのかと思います。個人の方は、大手企業のコーポレート部門で働いている方で、まもなく定年を迎えるからその後の仕事として考えているということでした。

- 最終的には、個人の方への譲渡が決定したと伺っています。
都さん:はい。理由としては、誠実そうなお人柄と、金額面での条件が一番マッチしたからです。企業さんについては、思わせぶりに交渉して来たのに、最終的にこちらの希望を大幅に下回る金額を掲示して来る会社もありました。こういったことはアドバイザーとして関わる案件もよくありますが、当事者として経験するとより気落ちしますね。

- なにか想定外なことはありましたか?
都さん:今回株式譲渡という形で、会社の有利子負債は買い手さんに引き継いだのですが、連帯保証人から外れることができず、まだ私のままなんです。金融機関からすれば実際にお金を貸した相手は私ということで、買い手さんに貸したわけではないという理屈です。ですので、譲渡したとはいえ、会社が今後もきちんと運営できるかをずっと見守っていかなくてはならないんです(苦笑)。


(※写真はイメージです)

【M&Aはばかしあいじゃない。マイナス面も包み隠さず伝える】

- プラットフォームへの情報の掲載時や、対面交渉時に気を付けられているポイントは?
都さん:1~100まで正直に言うことですね。マイナス面は包み隠さず伝えておくべきだと思います。株式譲渡にしろ、事業譲渡にしろ、売れた後も引き継ぎやらなにやらで人間関係が続きます。経験上、ウソは後から絶対バレます。後でトラブルになって、こんなはずじゃなかったといわれるのが一番つらいですよね。

- 今回の場合は、どのような伝え方をしたんでしょうか?
都さん:会社ではありますが、技術や設備があるわけではなく、あるのはお客さん1社と派遣業の免許、派遣社員の方だけですよということですね。特に、お客さんが1社だというのは特殊だと思うので、事情を含めて丁寧にお伝えしました。1社であることはリスクかもしれませんが、優良なお客さんなのは間違いないので、ちゃんとポジティブな部分も理解してもらえるように意識しましたね。

- 良い部分も悪い部分も含めて、正確に理解してもらうということですね。逆に、買い手の良し悪しを見抜くコツのようなものはあるんでしょうか?
都さん:これは難しいですね。アドバイザーとして入っていると、本当に買えるのかどうかをまず判断するために、企業なら経営状態、個人なら財力を細かく聞くんですが、売り手の立場だとちょっと聞きづらいなと思いました。今回は金額も小さいので、「本当に買えますか?」と聞くこと自体が失礼になっちゃう側面もありますし……。

1つ確実に言えるのは、調子のいいことを言う人に対しては、慎重に接したほうがいいということですね。思わせぶりな態度で資料を作らせるだけ作らせて、最後にはハシゴを外す方がいるのでご注意ください。

- もし今回の交渉がうまく決まらず、長期化する場合も想定していましたか?
都さん:コロナ禍で求職ニーズが高まり派遣登録される方も増える一方、私のクライアント先の人材ニーズは変わらずあったため、すぐのタイミングで決まらなくてもある程度問題はないだろうなと思っていました。

ただ、一般的にいうと長期化する案件は売れ残っているとみなされるため、注目度は下がります。そのためにも、最初の案件を掲載する段階で、適正な譲渡金額を含めた条件設定が肝心です。高い譲渡金額を設定し過ぎると、成功したときのリターンは大きいですが交渉数が減り、M&Aが成立しにくくなりますのでリスクと比較して、よく気を付けたほうがいいです。

【客観的な“値付け”だけでもアドバイザー報酬を払う価値がある】

- 今回、はじめて売り手の立場を経験されたわけですが、アドバイザーとして関わるのとはやっぱり違いますか?
都さん:違いましたね。やることは基本的に同じではあるんですが、やっぱり当事者になると冷静ではいられないタイミングがありました。交渉希望がどれくらい来てるかのチェックをいつもより頻繁にしちゃったり、買い手候補さんからの資料が欲しいという依頼に丁寧に対応し過ぎて時間がかかってしまったり……。

- やっぱりアドバイザーは必要だと思いますか?
都さん:そうですね、客観的に見れる人をそばに置いておくのは意味があると思います。M&A経験のない方は特に。

売り手さんの関心事として上位に上がるのが金額だと思うのですが、客観的に適正な値付けができるという1点だけでもアドバイザーを入れる意味があると思います。

買い手は絶対になんでこの値段なの?と理由を求めて来ますが、高すぎると説明がつかないので成約に至りづらくなります。かといって、安くしすぎると損をしてしまいます。1,000万円以下の案件でも数百万の差が出ることはザラですので、アドバイザー報酬を差し引いても実入りが大きくなると思いますよ。

- アドバイザーさんにも良し悪しはあるのでしょうか?
都さん:残念なんですが、すごくありますね。個人的には、仲介業でリテーナー契約(月額報酬)形式のアドバイザーは要注意だと思っています。この世界は成功報酬が一般的で、成約しなければ無報酬だからこそ、アドバイザーも本気でクロージングします。そんな中で稼働費を取るのって、どういう意図なのかなと同業者として思いますね。

利用された方にお話を聞くと、何件提案に行ったとかそういう活動報告が出てくるらしいのですが、そんなことは成功報酬制のアドバイザーも当たり前にやっていることなので、お金を取る分の価値は何なのか説明を求めてもいいんじゃないかなと思います。

- 良いアドバイザーの条件のようなものはありますか?
都さん:業種は特に問いませんが、同等の規模のM&A案件のアドバイザー経験があることと、ちゃんとコミュニケーションしてくれることですね。普段から付き合いのある税理士や会計士がM&A経験が豊富なら、その方にお願いすると間違いがないと思うのですが、なかなか経験のある方は少ないのが現状です。

アドバイザーを決める際は複数の方に会ってから決めることをオススメします。何人か見比べれば、決定的に合わない方は避けられると思うので。



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  • 田中 ヤスヒロ(typo)
  • ライター紹介田中 ヤスヒロ(typo)

    コピーライター/京都大学理学部卒業後、広告制作会社にてコピーライターとして勤務。WebサイトやSNSなど、デジタル媒体を中心に広告コンテンツの企画・制作を担当する。ビジネス、科学など固いものを柔らかく伝えることが得意。2018年より屋号「typo(誤字脱字)」として独立。その名の通り、ケアレスミスが多いタイプ。