2021-03-23

ワンルームサロン事業を約1000万円で売却!8年の運営で実感した女性経営者の悩みとは?

売り手(個人):中村真梨さん

<個人の事業売却事例>

 

中村真梨さんが、都内近郊の人気エリアで女性専用のリラクゼーションサロンを開業したのは8年前のこと。
地元で評判のサロンに育て上げたものの、経営者という立場にストレスを感じて、2019年に手放すことを決意。一度はM&Aを諦めましたが、2020年に改めて交渉にのぞみ、成約に至りました。なぜ一度目の事業売却は見送り、二度目では事業の売却に至ったのでしょうか。

【金融業界から美容業界へ転身。でも苦手なマネジメントで疲弊…】

- まずご自身の経歴と今回売却された事業について教えてください。
大学卒業後、銀行と金融系ベンチャー企業に勤務した後、2013年に独立し、このアロマリンパトリートメントのリラクゼーションサロンを開業しました。リラクゼーションや美容といった業界を選んだ理由は2つあります。ひとつは母がセラピストの仕事をしていたということ。もうひとつは参入しやすい業界だったということです。

ご存知の通り、整体やリラクゼーションは、一定期間勉強すれば民間資格の取得が可能で、自宅サロンやマンションサロンであれば、開業資金も抑えられる。これは初めての起業には大きなメリットでした。

2013年、自宅サロンからスタートし、アメーバブログでの集客効果もあって、半年から1年で生活できる水準になりました。2年目は、もう少し単価の高い事業を求めてセラピストを育成するスクール事業をスタート。3年目となる2016年には、自宅サロンから3部屋施術ルームをもうけるマンションサロンに規模拡大し、接客をスタッフに委託するようになりました。

規模を拡大すると当然ながら、固定費やスタッフなどの支払いも増えます。お客様が定着して資金繰りが安定するまでに1年間はかかりましたが、売り上げは順調に伸びていきました。

- 事業は順調なのに、なぜ売却しようとお考えになったのでしょうか。
経営は好きですが、とにかく人のマネジメントが苦手で、人に指示するぐらいなら自分でやってしまったほうが早いと考えるタイプ。売却理由は「人の上に立つことに疲れた」というのが正直なところです。

もともと「みんながwin-winで幸せになるビジネスモデルをつくりたい」という理想から起業し、一定の成果もあって、お客様にもスタッフにも愛されるお店をつくることができたと感じています。でもwin-winって聞こえはいいのですが、それを極めるのはとても難しく、一歩間違うと馴れ合いや甘えが生じてしまい、自身のやり方に限界を感じることも多く、マネジメントの難しさを何度も突き付けられました。

やはりこのやり方では、ある程度まではうまくいっても、一定以上の収益を求めることは中々難しく、実際、売り上げは横ばいでした。だからといって、利益追求に向けて厳しく経営改革をするのはこれまで進めてきた私の主義ともずれるし、ここまでやってきた満足感も信念もあったので、それは違うなって。ならばいっそ誰か他の人が入って改革してくれたら、と思ったんです。



(最初にはじめたワンルームでのリラクゼーションサロン)

【1度目の譲渡を考えるも安すぎてガクゼン、原因は…】

- 具体的に譲渡を考えたのはいつごろでしょうか。また実際に動いたのは?
事業譲渡という考えが、最初に思い浮かんだのは2019年の秋です。今、思うと金融業界に長くいましたので、M&Aという選択肢があることは頭の片隅にあったんだと思います。そのときは美容やリラクゼーションに強いM&Aの仲介業者に問い合わせて、当時の事業がいくらで売れるか査定してもらいました。

しかし査定金額は約300万円と、想像以上に低かった。その一番の理由は、私の売り上げと店舗ブランドへの関与度が非常に高いからということでした。当時、お客様の半分ほどが私のお客様で、私が経営から抜けると、非常に影響が大きいだろうということでした。売り急ぐつもりはなかったので、そのときは見送りましたが、そこからは今後の選択肢のためにも、私のお客様を少しずつスタッフに引き継ぎ、私の売り上げとお客様への直接的な関与度を減らしていきました。

最初の査定を受けてから約1年かけて、より良い条件で事業を売却できるような形に事業を磨き上げながら、2020年9月、いよいよ本格的に売却しようとTRANBIに登録、掲載しました。

TRANBIは偶然、ネット検索で見つけました。M&Aの仲介業者にお願いしたほうが、法律面、手続き面等で楽だろうと思いましたが、手数料がもったいないし、加えて、自分で交渉できるほうがスタンスにあっていると考え、TRANBIで進めていくことにしました。

最初にM&Aを考えた2019年は少し投げやりなきっかけでしたが、今回は、お店のことも自分のことも良く考えたうえで冷静に取り組むことが出来たと思います。

- 売却する際に、買い手側に求めたことは?また売却金額はどのように設定しましたか?
買い手様に一番望んだことは、今までの私のやり方を打破して、新しい形でお店を導いてくれること。能力があって、誠実な方にお譲りできればと思っていました。

屋号や場所にこだわりはなかったので変更いただいても問題はなかったですし、スタッフは自然な形で引き継がれるだろうと想定していました。もちろん今回も売り急ぐつもりはなかったので、価格の部分も大事にしていました。

売却金額は、現在の収益状況から設定しましたが、資産として盛り込んだのは、スタッフの数と技術、ブランドの認知度です。スタッフは8名いましたが、技術スタッフを育てるには時間がかかりますので、そこは大きな価値となりました。

また都内近郊にありますが地元では特に知られたお店になっていましたので、ブランドの認知度もポイントに。売り上げもまだまだ伸びしろがありますので、そのあたりの将来性も含めて評価していただけたらなと思っていました。



(現在のリラクゼーションサロン)

【今回、事業を託したのは自分にはないものを持つ年下の女性】

- 実名交渉はどのように進みましたか?
他業種の経営者の方から個人のサラリーマンの方まで、いろいろな方からお問い合わせいただき、お話ししました。それぞれの方の視野の広さや発想の仕方にふれて、とても刺激を受けました。正直、M&Aが成約しなくてもいいぐらい勉強になりましたね。

そんな中で感じたのは、買い手様は、創業オーナーが抜けたときの影響を不安視されるものだということ。お会いした方の3分の1ぐらいの方から、譲渡後も私に残ってほしいと言われました。会社であれば、その会社に参画する形で残ってほしいという感じでしたね。またスタッフが残るかどうかを懸念される方も多かった。やはり“人”は、買い手様の関心が非常に高いポイントである印象を受けました。

私自身、売却するときは、漠然といつかまた何か新しいことを始めたいという気持ちがありながら、「とにかくリセットしたい」気持ちが強かったので、そういった買い手様からのご提案はありがたいと思いながら、今後の私のビジョンとして、それでいいのかなという戸惑いはありました。

- いろいろな方との交渉を経て、今回の買い手さんに決定された理由は?
買い手オーナー様は若い女性ですが、何でも直感とイメージで考える私と違って、きちんと数字を含めた経営感覚の強い方。かつそのエネルギッシュさとカリスマ性で人を率いることが出来て、私にないものを持っている魅力的な方だと感じました。

私と同じようにマンションサロンから始めて、今や複数店舗を運営する企業の社長に。高い実績をつくってこられた点も信頼感がありました。これからリラクゼーション業界にも参入して事業拡大したいという、買い手オーナー様ご自身に強い向上心とビジョンがあり、その方に私の事業を託すことには楽しみしか感じませんでした。

買い手様は女性にこだわっていたわけではなく、改革してもらえれば男女問わずと思っていましたが、女性専用サロンなので、結果的に女性のほうが、お客様にとってもスタッフにとっても、不安が少なくてよかったかなと思っています。

今回、譲渡した金額は1,000万円弱で、当初のこちらの希望金額を下回るものでしたが、これは今後も一緒に仕事をしていくことが条件に含まれているからです。実は譲渡後に、買い手オーナー様と会社を設立し、そこから私は一定の報酬をいただくことになったのです。

先程も申し上げたように、私自身、譲渡後に残ることに躊躇していました。でも買い手オーナー様とお話しするうちに彼女の高い向上心とビジョンに触れ、私の中ではリセットからリスタートへ、だんだんと気持ちが傾いていきました。

譲渡金額に、コロナ禍の影響はほとんどありませんでした。交渉を進めていた2020年9月頃は、コロナ禍の影響で月あたりの売上額が前年比2〜3割減という状況でした。こうした状況は共有しましたが、買い手オーナー様は細かい数字はあまり気にせず、これまでの実績と将来性を評価してくださった。それは、とてもありがたかったですね。



(売り手様と買い手様とのお食事会のワンシーン)

【売り手の罪悪感。海外の譲渡では「経営疲れ」が当たり前と聞いて楽になれた】

- 事業譲渡にあたり、引き継ぎ面で苦労されたことは?
まず店舗の賃貸契約や広告媒体、電子決済など、細かい引き継ぎが必要になりました。店舗の賃貸契約については、再契約の必要はありましたが、敷金や礼金といった金額面の負担が限定的であったこともあり、問題なく受けていただくことができました。広告媒体は契約者変更だけで引き継げましたが、電子決済は再契約、再審査となったので、空白期間ができないように調整に苦労しました

引き継ぎで最も懸念していたのは、やはりスタッフのことです。創業オーナーである私が離脱することへのスタッフへのインパクトはとても心配でした。そのため2019年、最初に譲渡を考えたときから徐々に、スタッフには「私が経営から外れて新しい人に入ってもらう可能性もある」といった私の考えを少しずつ伝えていました。

それもあって2020年の売却時に伝えたときは、最低限のインパクトですんだかなと思いましたが、あとあと聞くと、ほとんどのスタッフが驚いて、なかなかすぐには事態を飲み込めなかったということでした。それでも私の決定を理解し、尊重してくれとことに、心から感謝しています。今は新しい体制で、スタッフみんな、これまで通り、生き生きと働いてくれています。

- 今後の展開は?また今回のM&Aを振り返ってみていかがでしたか?
事業譲渡したものの、結果的に買い手オーナー様と新しい会社を立ち上げて、また新しい形のリラクゼーションサロンを展開しようとしていますので、また同じ苦労を背負うことになるのはないかという心配はあります

ただ買い手オーナー様は、すごく人のマネジメントも得意で前述の通り私に無い能力のある方。適材適所でうまく役割分担することで、効率の良い、また成果の高い経営が出来るのではと、今はプラスの効果に期待し今後がとても楽しみです。

今回は、とにかくリセットしたい、楽になりたい、という私自身の身勝手な思いから譲渡を決めたことに、少なからず後ろめたい思いがありましたが、あるM&Aの専門家の方から「アメリカのM&A市場で、譲渡理由として多いのは『飽きた』『疲れた』であること」「そうした理由でもM&Aを活用し事業が継続してくことには高い意義がある」と聞いて、無理をしなくてもいい、能力と意欲のある人に引き継いでもらうことには価値があるんだと聞いて、とても安堵しました。

「飽きた」「疲れた」が出発点でも、世の中には広い視野とアイディアを持ったすぐれたビジネス家の方がたくさんおり、そうした方が入ってくださることで、お客様もスタッフもまた新しい形で導かれる選択肢があっても良いのかなと思います。

今回まさにそういう形で事業を引き継いていただけて、本当に感謝しています。これからも、よい形でつながっていくことを心から願っています。同時に今、事業で悩んでいる方も、そういう選択肢もあるんだことを知ってもらえたらと、思います。





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  • 池田純子)
  • ライター紹介池田純子

    大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーのライター・編集者に。暮らしやお金、子育てにまつわる雑誌記事の執筆や単行本の製作に携わる。さまざまな生き方を提案するインタビューサイト「いま&ひと」を主宰。

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