2021-11-24

継続赤字で廃業目前の老舗清掃事業者が無事に事業承継へ。会社を救った大きな“強み”とは?

売り手(法人):匿名

<中小企業の事業売却・スモールM&A事例>

 

ビルやマンション、工場の清掃を手掛ける創業50年の清掃事業者Aは、経営者の高齢化や後継者の不在、売上の減少などを理由に廃業を検討していました。しかし、顧問税理士経由で相談を受けたM&Aコンサルタントが「売却は可能」と判断し、M&Aに挑戦。同じく都内にある、清掃ビルメンテナンス事業者への株式譲渡が成立しました。

ここ数年、赤字に苦しんでいた清掃事業者が、わずか3カ月ほどでM&A成立に至った背景には、ある“強み”がありました。そして、適切な譲渡希望金額を設定したり、交渉がスムーズに進むように調整を手掛けたりした、M&A経験豊富なコンサルタントの存在も大きかったようです。

今回はM&Aを支援したスクエアワン株式会社のコンサルタント・加藤さんに、本案件でM&Aの成功を見込めた理由や、交渉のキーになったポイントなどについて、お話を伺いました。

 

【M&A・売却を可能にした、“取引先に上場企業”という強み】

- まずは今回M&Aによる株式譲渡をサポートされた、清掃事業者さんについてご紹介いただけますか。
設立から約50年の都内にある清掃会社です。手掛けているのは通常清掃で、ビルなどの定期清掃を中心に担っています。特別な器具を用いる清掃や、高所の清掃などは行っていません。

現社長は女性ですが、創業されたのはご主人です。かつてはご主人が営業活動やマネジメントなど経営全般を手掛けられ、現社長は経理や事務作業を手伝っていました。3年ほど前にご主人が亡くなって以降、奥様が社長に就任して経営を行っています。

- どのような経緯から、スクエアワン様に相談が来たのですか。
弊社は約120の税理士事務所と連携しているので、最初のきっかけは清掃会社の顧問税理士の方からの相談でした。「財務状況もあまり良くないので、私と社長の間では廃業を考えている。M&Aの可能性はありますか?」とのことだったため、まずは会社概要と決算資料を見せてもらったんです。

財務状況が良くないのは、営業活動ができないという背景もあったようです。というのも、前社長は亡くなる3年ほど前から体調が悪くて、新規の取引先を開拓したり、既存の取引先とのコミュニケーションを深めたりすることが十分に出来なかったようで。

前社長が元気だった時は売上数億規模、従業員も数十名いたようですが、近年では営業活動ができなかったり、取引先のオフィスや工場の移転などが重なったりして、売上が減り、スタッフも正社員1名、パート10名程の体制になっていたんですね。

とはいえ、「従業員も取引先もいるから、彼らのためにもなんとか事業を続けよう」と現社長が引き継いだんです。ただ、現社長は経営の経験が無いため、ビジネスにおいて新たな取り組みをすることまでは出来ていなくて

結果的に、直近3期はほぼ赤字で、実質債務超過に近い状態。足りない分は社長個人の貯金を会社に貸し付けて補填しているような状況でした。最近では、年間400万円ほど手出しがあったようです。ただ、私は会社概要や決算資料を見て、「これは廃業せず、事業承継に繋げられる」と思いました。

- なぜ、廃業を防ぐことができると思ったのですか。
まず、債務超過ではあったものの、銀行借り入れが無かったことが大きな理由です。そしてもう1つは、定期清掃を請け負っている主要取引先のうち1社が大企業だったためです。

その取引先は、上場している食品加工メーカーで、かなり古くから取引がありました。この規模の企業の口座を開くことはかなり難しいため、こうした取引先を抱えていることが武器になって、M&A市場で評価されるのではないかと思ったのです。

顧問税理士さんにM&Aを検討していただきたい旨をお伝えしたところ、社長に伝達いただき、三者で面談の場を設けた後にM&Aを進めていくことが決まりました。

- 廃業ではなく事業売却という選択肢を提示した際、社長様はどんな反応でしたか。
もともと「この先長くは続けられない」と思っていたようで。数年前から退職金の用途で生命保険にも加入するなど、清算を見越した手続きを顧問の先生と相談してある程度は準備していたみたいなんです。

そのため、最初はM&Aが意外な選択肢だったようで驚いていました。そもそもM&Aは「一生に一度あるか無いか」かみたいな世界なので、よくわかってなかったとも思います。ただ、「もし、いいところが引き継いでくれるなら、ありがたい」というお返事をいただきました。

何より、顧問税理士さんが後押ししてくれたことが本件においては大きかったと思います。社長にとって、顧問税理士は基本的な財務・会計に限らず経営全般の相談相手であるため、信頼できる顧問税理士さんから勧められたことで、「先生が言うんだったら」と決断してくれたのかなと。

それに、廃業を選ぶと従業員に「辞めてくれ」と伝えたり、取引先に「会社を閉じます」と案内しなければいけなかったりするでしょう。精神的に負担が掛かることであるため、悩んでいたと思うんです。だから、「夫が立ち上げた会社を、誰かに渡したくない」といった抵抗感はまったく無かったです。

顧問税理士さんのおかげで、初めて社長とお会いしてからわずか2週間というスピード感で仲介契約を締結できました。もし、我々と社長の直接のやり取りだったとしたら、このようなスピード締結は無理だったと思います。



(写真はイメージです)

 

【譲渡金額設定は純資産を基に、現状の経営状況に合わせ幅を持たせてうまく着地】

- 買い手探しはどのように進めましたか?
本件はスピード感が重要なケースでしたので、自社のクライアントへの紹介と同時に、TRANBIのプラットフォームを使ってマッチングしました。

TRANBIに案件を掲載すると、案件によっては1週間~2週間以内で10~20以上の買い申し込みがありますよね。法人だけでなく個人の方からも連絡が来ますし、想像もしていない買い手候補と出会うことができる。幅広く買い手を募り、多くの候補の中から譲渡先を検討できるという点で魅力的に感じます。

急ぎの案件を抱えていたとして、我々が1社ずつ企業を訪問して依頼している時間は無いので、短期間で候補者と出会えて交渉できる点は非常に助かっています。

- TRANBIに案件を掲載されるにあたり、買い手を募るために、どんな見せ方の工夫をしましたか。
優良取引先の存在が一番の強みだと思ったので、タイトルは「上場食品メーカーの定期清掃を請負う清掃事業者」としました。

また、弊社では案件ごとに事業フローや人員構成、取引先との契約内容をまとめた企業概要書という書類を細かく作成しているので、実名交渉に移った買い手様にはそれらの情報も伝えさせていただきました。

- 「譲渡希望金額:500~750万円」はどのように設定されましたか。
清掃業でしっかり実績がある法人はもちろん、これから清掃業を始めたい個人の方まで、さまざまな方を譲渡先候補にしたいと思っていました。そのため、まずは積極的に面談をさせていただいたんです。

選定の際に、買い手様の姿勢は見ていました。中には、財務状況が悪化していたため、初回交渉からとにかく値引きを要求してくる方、「他社の動向を見ながら考えます」と歯切れの悪い方もいて

買い手が売り手に対して、尊敬の念を持って接することは非常に大事だと思っていて。初期段階でそれが出来ていないと、交渉過程でブレイクする可能性が高まるため、仲介者である私が誠意や尊敬の気持ちが感じ取れない場合には初期選定の時点で選びませんでした。

面談を踏まえて絞り込んでいき、法人・個人合わせて4つほど譲渡先候補をピックアップした後に、社長を含めた面談をセッティングしたんです。

最終的には、清掃実績が豊富な法人様が買い手に決まりました。社長としては、「個人に引き継ぐのは不安だ」という思いが拭い切れなかったようで、実績があって会社規模も大きな法人を選ばれたようです。



(写真はイメージです)

【「雇用継続が無理なら破談」交渉の鍵となった、中核社員の説得】

- 買い手様との面談の際、売り手の社長様はどんな点を気にされていましたか。
清掃実績について詳しく尋ねていました。あとは、どのような体制で清掃事業を行っているのかが気になっていたようですね。引き継いですぐに今の体制をがらりと変えられてしまうのか、一旦様子を見てくれるのかどうかも気掛かりだったようで。

実は、最終面談に残らなかった方の中には、勿論重要な事ではあったのですが、財務状況の改善について「すぐにオフィスを移転します」「財務面改善のため、早急にコストカットします」という条件を提示してきた方もいて。財務的に厳しい状況なのでもちろんテコ入れは必要なのですが、売り手や従業員のことは二の次という姿勢が見えてしまったので、社長と相談してそういった方もお見送りしたんです。

一方、今回の買い手様は「一旦はそのまま引き継ぎますので、ご安心ください」、「今後どこかのタイミングで今の拠点を整理することがあるかもしれません。ただ、従業員の方の考えをしっかり確認した上で、検討するようにします」などと話してくださる方だったので、社長も安心されたのだと思います。

- 交渉過程で特に難しかったことはありますか。
本来であれば、クロージングしてから従業員にM&Aの旨を案内する流れが一般的ですよね。ただ、売り手企業は正社員1名、パート10名という体制であり、正社員の方が現場を取り仕切っていたこともあって、買い手様から「正社員の方に辞められたら困るので、事前に会って意向を確認したい」とリクエストがあったんです。

そこで、弊社、社長、正社員の方、買い手様の4社で面談を行うことになりました。「正社員の方に受け入れてもらえなかったら、この商談を降りる」と買い手様はおっしゃっていて。破談になっては困るので、面談をスムーズに進めるために、私から社長には「M&Aに至った経緯を、正社員の方にしっかり伝えてほしい」とお願いしました。

自分でやっていきたい気持ちはあったけれど財務面や体調面での不安要素が大きいこと、ただ従業員や取引先のことを考えると、なんとか事業を継続したくてM&Aを検討していることが伝われば、正社員の方も問題無く納得してくれるだろうと思ったからです。

一方、買い手様には「正社員の方に安心していただくために、今後の雇用やビジョンについて、しっかりお話ししてほしい」とお願いしました。三者間でこうした共通認識を持った上で、正社員の方との面談に臨んだのです。

- 正社員の方の反応はどうでしたか?
「会社の経営状況が大変だ」ということは知っていたようで、「廃業するのかな?どうするんだろう」という漠然とした不安はあったようです。M&Aについて伝えた時も、驚きこそあれど拒否感は無いようで、了解していただけました。

買い手様からは、「今以上の雇用条件を提示できるようにしていく」という話をしていただきました。かつ、正社員の方は60歳くらいで清掃業務のキャリアが豊富な方であるため、「ゆくゆくは教育担当に就いて、うちのスタッフにも指導してほしい」といったお話もされて。期待感が明確に示されたことで、正社員の方は安心されたのではないかと思います。
 

- 他に成約がうまくまとまった要因はありますか?
買い手の社長様が売り手社長のお話を良く聞いて、丁寧に今後のビジョンをお話頂けたことです。安心してお任せできると最後に売り手が判断する時に、会社規模は勿論のこと相性という点は重要であり、本件においては買い手社長様と売り手の人間関係も良好に進められた点が挙げられると思います。



(写真はイメージです)

【言いづらくても伝えてほしい、経営者には身近な方からM&Aという選択肢を】

- 買い手様の今後のビジョンなどは伺われていますか。
雇用環境や雇用契約書の整備がこれまで十分に出来てはいなかったため、ゆくゆくは買い手様の企業のルールに合わせて、正規の雇用形態に巻き直すことで、コンプライアンス体制を確立される予定のようです。

また、「上場会社を含めた主要な取引先に対しては、タイミングを見て訪問し、提案を行いたい」と話されていました。買い手様の企業は、通常清掃から不動産管理やビルメンテナンスまで幅広く対応しているため、支援できる領域が広がるからです。

さらに、数百名のパートさんを抱えているため、売り手企業側の社員が急に出勤できなくなった際には人員を派遣することも可能なようで。こうした連携は今後どんどん進めていきたいとおっしゃっておられました。

- 無事M&Aを終えられて、売り手様はどんな感想をお持ちでしたか。
ここ数年は精神的にも金銭的にもすごく負担が大きかったと思うので、肩の荷が降りてホッとしたんじゃないでしょうか。3カ月ほどでクロージングできたので、「こんなに短期間で決まるとは思ってなかった」と、感謝の言葉もいただきました。

- 今回の売り手様同様、経営者の方が高齢で後継者がおらず、廃業するか悩んでいる方がまだまだ多くいらっしゃいます。その方たちに向けて、メッセージをいただけますか。
実際にするかしないか、いつ実行するのかは、さまざまな要素を考慮して決断するとして、M&Aという選択肢には目を向けてほしいと思います。今はインターネットでもセミナーでも、たくさんM&Aに関する情報が得られるので、早いうちから進んで知識を身に付けておいて損はないかなと。

一方で情報量が膨大になってきている昨今、その中から正確な情報を入手する事も困難である事も事実です。そんな時は身近な信頼できる顧問の税理士含め相談されてみてはいかがでしょうか。

我々に相談が来る案件の中にも、すでに手遅れなものもけっこうあるんです。例えば借入が増えている、売上が下がっているという下降局面の場合、数か月遅れるだけで価値がそのまま目減りするため、譲渡金額を大幅に低くするか売れなくなるということは容易に想像がつきますよね。

後継者の有無や廃業危機にあるかないかに関わらず、資本提携やM&Aは経営の選択肢のひとつだと思っているので、経営者の方には自ら情報収集をしてほしいなと。そして、顧問税理士さんや我々のようなアドバイザーは、たとえ言い出しづらくても経営手段の選択肢としてM&Aも案内していくべきだと思います。

特に顧問税理士さんにとって、数十年付き合っている経営者に対してM&Aを提案することは、非常に勇気が要ることだと思います。しかし、一人で悩まれている経営者に寄り添って提案をすることによって、本意ではない廃業に至る企業が減ると思うので。

また、 良く経営者の方とご面談すると経営者が気づいていない“自社の強み・弱み”が必ずあります。自らは気づいていない事も、顧問税理士やアドバイザーと定期的に意見交換しながら、理解を深めたり、整理する事でM&A交渉がスムーズに出来ると思います。

今回の買い手様の場合は、上場会社と取引があること、正社員の方の長年のノウハウが強みになり、M&Aの成功に繋がったからです。

***TRANBI掲載案件はこちら**********

「上場食品メーカーの定期清掃を請負う清掃事業者」

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  • 倉本祐美加
  • ライター紹介倉本祐美加

    関西学院大学卒業後、クラウド製品を扱うIT企業のインサイドセールス職を経て2016年にライターとして独立。企業取材を中心としたインタビュー原稿の制作に従事していますが、エンタメ・スポーツ・文化等幅広く好みます。

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