買収された会社に起きる変化。経営者や社員の待遇は買い手次第?

買収された会社に起きる変化。経営者や社員の待遇は買い手次第?

他社に会社や事業が買収されると、買収された側(売り手)にはさまざまな変化が生じます。経営陣・社員の待遇や、取引先との関係性はどうなるのでしょうか?株式譲渡と事業譲渡を例に挙げ、買収後に起きる変化について解説します。

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他社に「買収される」とは?

ひと昔前までは『他社に買収される』というと、『身売り』や『乗っ取り』といったマイナスのイメージが少なからずありました。M&A(会社の合併・買収)への認知が高まる昨今、経営戦略の一つとして買収・売却を選択する会社が増えています。

買収の定義

買収とは、他社の株式の過半数を獲得して経営権を取得したり、事業の一部または全部を買い取ったりする行為のことです。

株式会社の場合、『株主総会』が会社の意思決定機関です。原則的に1株につき1議決権があり、議決権を多く保有すればするほど、経営への影響力が増します。

会社法において、子会社は『会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人』と定義されており、法人による会社の買収は『ある会社を子会社にすること』と同義と考えられるでしょう。

また、会社の経営権を取得せずに、他社の事業部門のみを買収することも可能です。この場合、『事業譲渡』と呼ばれるスキームを用いるのが一般的です。

参考:会社法 | e-Gov法令検索

会社・事業を売却する目的

会社・事業の買収には、売り手と買い手が存在します。買い手は既存事業の拡大や新規事業への参入といった目的で買収をするのに対し、売り手はどのような目的で会社を売却するのでしょうか?

  • 後継者不在による廃業の回避
  • 創業者利益の獲得
  • 主力事業への集中

会社・事業を売却する目的は会社によってさまざまです。日本の中小企業の多くは『後継者不在による廃業』という問題を抱えており、廃業回避のために売却を検討する経営者が増えているのが現状です。

会社を売却すれば、従業員の雇用を維持できる上、廃業に関わるコストも節約できます。売却で得た資金を元手に新たな事業を始めるオーナーや、早期退職をするオーナーも少なくありません。

複数の事業を展開する会社の場合は、主力事業に集中するために『不採算事業』や『ノンコア事業』を売却するケースがあります。

買収された会社の末路を決める要素

会社・事業の売却には多くのメリットがありますが、『従業員の雇用はきちんと維持されるのか』『会社は消滅してしまうのか』といった不安を持つ経営者は少なくないようです。買収された会社の将来は、さまざまな要素によって左右されます。

M&Aのスキーム

買収された会社の在り方は『M&Aのスキーム』によって異なります。M&Aのスキームは複数ありますが、『2018年版 中小企業白書』によると、中小企業においては、事業譲渡が41.0%、株式譲渡が40.8%を占めています。

『株式譲渡』とは、保有する株式を対価と引き換えに他社へ譲渡するスキームです。株式の半数以上を買い手に譲渡することで、経営権が売り手から買い手へと移動します。

株式の一部のみを売却することもできますが、中小企業が経営権を移転させる場合は、全株式を売却するケースが多いでしょう。

『事業譲渡』は、事業部門の一部または全部を他社に売却する手法で、経営権の移動を伴いません。承継する事業の選択が可能です。

M&Aのスキームに関しては、以下のコラムでも詳しく説明しています。

M&Aにはどんな種類がある?株式譲渡、事業譲渡、合併の違い
手法
M&Aにはどんな種類がある?株式譲渡、事業譲渡、合併の違い

昨今は多くの企業においてM&Aが成長戦略として位置付けられています。M&Aと一口にいっても複数のスキーム(手法)があるため、目的によって最適なものを選択する必要があります。株式譲渡や事業譲渡など、M&Aの種類とその特徴について解説します。

参考:第6章 M&Aを中心とする事業再編・統合を通じた労働生産性の向上|2018年版 中小企業白書|中小企業庁

買い手の経営方針や考え方

売り手の経営者・役員・社員に対する待遇は、買い手の経営方針や考え方、経営者同士の関係性などによって左右されます。

買収後に『自社ブランドに変更して営業をする』『会社の方針に従ってもらう』という買い手も多く、抵抗感を覚える売り手の社員も多いものです。とはいえ、経営者同士の関係性が良好であれば、売り手の経営者・役員・社員が嫌な思いをする選択は少ないと考えてよいでしょう。

一方で、上場企業は『TOB(株式公開買い付け)』という手法で『敵対的買収』を仕掛けられる場合があります。経営陣の同意なしに買収を強行する、いわゆる『会社の乗っ取り』です。

敵対的買収では、社員やステークホルダーが必ずしも不利益を被るとは限りませんが、経営陣や役員は退陣を迫られるケースが大半です。買い手が友好的か敵対的かで、売り手の末路が変わる点も覚えておきましょう。

契約書の合意内容

株式譲渡では『株式譲渡契約書』、事業譲渡では『事業譲渡契約書』を締結します。買収後の売り手の待遇は契約内容に基づいたものとなるため、交渉は慎重に行う必要があるでしょう。

スキームによっては、従業員の働き方が大きく変化します。別事業への人事異動や勤務地の変更などによって、将来のキャリアプランを変えざるを得ない人も出てくるでしょう。

従業員の好待遇を望む場合は、できるだけ有利な条件になるように交渉を進めていかなければなりません。条件の交渉や契約書の締結に当たっては、M&Aの専門家のサポートを得るのが望ましいといえます。

株式譲渡と事業譲渡ではどう変わる?

中小企業のM&Aでは、株式譲渡や事業譲渡のスキームが用いられます。それぞれを選択した場合、会社にはどのような変化が起こるのでしょうか?『会社の存続』『経営陣の待遇』『従業員の雇用』『取引先との関係』の四つの面で比較してみましょう。

会社の存続

他社に買収されると、会社が消えてなくなってしまうと考える人も多いのではないでしょうか?結論としては、株式譲渡や事業譲渡をしても、会社が消滅することはありません。

株式譲渡は、『経営者(株主)』の交代です。経営者は売り手から買い手に移りますが、会社そのものは存続します。売り手の資産や負債は全て買い手に引き継がれるため、会社自体に大きな変化はないと考えてよいでしょう。

事業譲渡は経営権の移動を伴わず、会社の法人格は引き続き維持されます。既存の事業を全て売却した場合でも法人格は消滅しないため、新たな事業をスタートさせることが可能です。

経営陣の待遇

株式譲渡の場合、経営者は『引退』か『続投』のいずれかです。すぐに引退するケースもあれば、事業が軌道に乗るまでの数年間は『顧問』や『会長』という形で会社にとどまるケースもあります。いずれにしても、経営陣の待遇は買い手主導で決定されます。

売り手の取締役を解任する場合、株主総会を開き『解任の決議』を行う必要があります。ただし、売り手による解任を行うことは稀であり、一般的には株式譲渡時点での従来の経営者が辞任をし、新たな買い手が指名する経営者を役員に選任するという手続きがとられることとなります。

事業譲渡は、会社から事業の一部または全部を切り離すだけのスキームであるため、経営陣に変化はありません。

社員の雇用

株式譲渡は、資産や負債をそのまま引き継ぐ『包括承継』です。社員の労働契約も維持されるため、基本的に労働条件が変わることはありません。

とはいえ、買い手が人事評価制度を変更すれば、社員の待遇が変わる可能性があります。社員を混乱させないように、数年かけて徐々に変えていくパターンが大半でしょう。

他方、事業譲渡は売り手の権利義務が個別に承継される『特定承継』です。買い手と社員の間で新たに雇用契約を結び直すため、労働条件や待遇、退職金などがこれまでと大きく変わる可能性があります。

M&Aの交渉段階で、いかに有利な条件を取り付けられるかがポイントとなるでしょう。

取引先との関係

株式譲渡では、取引先との契約関係がそのまま買い手に承継されます。売り手経営者の中には、M&Aをきっかけに「長年お世話になっている仕入れ先を買い手が勝手に変えてしまうのではないか」と不安になる人もいるようです。

長年の取引先や仕入れ先を失えば、事業の継続に影響を与えるため、買い手が取引先をすぐに大きく変える可能性は少ないでしょう。

事業譲渡では、取引先との契約関係は買い手に引き継がれません。既存の取引先に引き続きお世話になるのか、新たな取引先を利用するのかは、買い手次第です。

買い手が既存取引先との契約を望むのであれば、売り手が再契約をサポートする必要があります。

他社に売却する際の注意点

売却をする際はさまざまなトラブルを想定し、プロセスが円満に進むように尽力することが大切です。事業を譲渡した売り手は、事業領域に制限を受ける可能性があります。事業売却が事業計画に影響を及ぼす点にも留意しましょう。

社員の離職が増える可能性も

会社・事業の売却において、社員がすぐにリストラされることは、ケースとして少ないといえます。一方で、売却に不安や不満を持った社員が、売却前に自ら離職してしまうケースのほうが見られる傾向にあります。

特に、長年働いてきた社員は新たな会社の組織文化になじめず、多くの精神的ストレスを抱える可能性が高いでしょう。将来のキャリアプランが描けなくなり、「買収される前に離職しよう」と考える社員が増えてしまうのです。

売り手経営者は社員のその後を考えた上で、慎重に買い手の選定を行う必要があります。売却を社員に公表するタイミングにも注意すべきでしょう。

事業譲渡は競業避止義務に注意

会社が事業を譲渡する場合、会社法の『競業避止義務』に注意が必要です。以下は、会社法21条の条文です。

第二十一条 事業を譲渡した会社(以下この章において「譲渡会社」という。)は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村(特別区を含むものとし、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市にあっては、区又は総合区。以下この項において同じ。)の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から二十年間は、同一の事業を行ってはならない。

2 譲渡会社が同一の事業を行わない旨の特約をした場合には、その特約は、その事業を譲渡した日から三十年の期間内に限り、その効力を有する。

3 前二項の規定にかかわらず、譲渡会社は、不正の競争の目的をもって同一の事業を行ってはならない。

競業避止義務とは、譲渡した事業と同一の事業を行うことを一定期間・一定の範囲において禁止するルールです。事業売却後、売り手が同じ事業分野に参入してくると、買い手は大きな損失を被る恐れがあるでしょう。

事業譲渡では原則、売り手に20年間の競業避止義務が課されますが、双方の交渉によって期間の延長・短縮が可能です。

一定期間は売却した事業領域には関われなくなることを念頭に、慎重に売却の可否を決めましょう。競業避止義務を定める際のポイントは、以下のコラムで詳しく解説しています。ぜひお役立てください。

M&Aにおける競業避止義務をわかりやすく解説。トラブルになる点は?
手法
M&Aにおける競業避止義務をわかりやすく解説。トラブルになる点は?

競業避止義務はM&Aの売り手に課せられる義務です。買い手の利益の保護を目的として契約書に盛り込まれるものの、内容によっては有効性が認められない場合もあります。トラブルの事例や書き方のポイントを交えて、競業避止義務をわかりやすく解説します。

参考:会社法21条 | e-Gov法令検索

円満な売却を実現するポイント

会社・事業の売却は経営陣が一方的に決めるものであり、会社で働く社員の意向が反映されることはありません。社員を不安にさせないためには、どのような配慮が必要なのでしょうか?円満な売却を実現するポイントを解説します。

社員に売却を開示するタイミング

社員に売却を開示するタイミングが早過ぎると、社員の間に不安が広がり、離職者の増加につながります。通常は、最終契約書の締結後に行うのが一般的ですが、引き続き経営を続けるうえで欠かせないキーマンなどについては、それより前に開示することもあり得ます。また、買い手からのデュー・デリジェンスを受け入れるうえで、資料の収集やインタビューなどの対応を経営者のみでできない場合には、それを行う部門の責任者などに対して、このタイミングで開示することがあります。

M&A専門家の活用

売り手の待遇は、M&Aのスキームや契約内容によって決まります。交渉で有利な条件をできるだけ多く獲得することが、売却後の不安を減らすポイントといえるでしょう。

M&Aが初めての売り手は、交渉で不利になるケースが多いのが実情です。価値を安く見積もられて買いたたかれたり、従業員の雇用を守れなかったりする場合も珍しくありません。

リスクや混乱を回避するためにも、M&Aの専門家にサポートを仰ぎましょう。M&Aのアドバイザーは売り手と買い手の間に入って仲を取り持つ『仲介方式』と、売り手または買い手のいずれかをサポートする『アドバイザリー方式』があります。

まとめ

買収された会社の将来は、M&Aのスキームや買い手との関係性、契約内容などによって変わります。売り手の思いを引き継いでくれるか、社員の待遇が維持されるかは、買い手次第ともいえるため、買い手の本音や自社との相性をしっかり見極める必要があるでしょう。

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