会社を売却する際にかかる税金の種類。株式譲渡、事業譲渡の違いは?

会社を売却する際にかかる税金の種類。株式譲渡、事業譲渡の違いは?

会社売却時にかかる税金は、M&Aスキームにより種類や税額が異なります。会社の売却を検討している場合は、売却時に発生する税金についてしっかり理解しておくことが重要です。会社売却時の税金や節税方法について解説します。

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会社売却時にかかる税金の注意点

会社を売却した際に課される税金は、M&Aの手法により種類や税額が異なることを理解しましょう。税額を抑える方法や納税のタイミングについても解説します。

M&Aスキームにより税額・種類が異なる

M&Aを行う場合は、M&Aスキームを選定しなければなりません。代表的な株式譲渡や事業譲渡以外にもさまざまなスキームが存在し、一般的には案件の特性に合わせて最適な手法が選定されます。

M&Aで得られる利益や必要な手続き、税務・会計上のメリットは、選定するスキームごとに異なります。税金の種類や税額もスキーム次第のため、無駄な税金を納めないようにするためにも、各スキームにおける税金の知識を知っておく必要があるでしょう。

会社売却時には税金が高額になりやすく、場合によっては一番のコストになる可能性もあります。最低限のM&A税務を理解し、税金面でより有利な手法を選ぶことが重要です。

第三者割当増資を活用するのも有効

会社を売却せずに第三者割当増資を行えば、M&Aで発生する税金を抑えられます。第三者割当増資とは、新たに発行する株式を特定の第三者に引き受けてもらう手法です。

売り手のオーナーが100%の株式を保有している場合、新たに株式を発行して第三者にオーナーを超える比率の株式を取得させます。第三者の株式保有割合は50%を超えることになり、支配権を移転できます。

第三者割当増資では、オーナーと第三者のどちらにも税金が発生しません。売り手が株主のまま、会社経営に関われるメリットもあります。自社に活用できる可能性があるため、M&Aの一手法として覚えておきましょう。

納税のタイミング

会社売却時にかかる税金を考える際は、納税のタイミングにも注意する必要があります。おおよその売却益や税額を把握した上で、納税分の現金を手元に残すことを考えておかなければなりません。

例えば個人株主が会社を売却する場合は、所得税と復興特別所得税、住民税の納税義務が発生します。復興特別所得税は、2037年の12月31日までに生じる所得へ課せられます。

所得税の納税のタイミングは「売却翌年の確定申告期間(原則3月15日まで)」、住民税は「確定申告後の6月(一括・分納1期は原則6月末日まで)」です。

事業承継の節税でよく聞く事業承継税制は、会社売却時には利用できません。事業承継税制とは、事業を承継した後継者にかかる相続税や贈与税が全額猶予または免除される制度です。適用されるのは、生前贈与または相続で株式が渡されたケースに限られます。

個人株主が非上場株式を譲渡した際の税金

会社売却時にかかる税金の種類や税額は、M&Aスキームにより異なります。まずは、個人株主が非上場株式を譲渡する場合の税金について確認しましょう。

譲渡所得に対する所得税・復興特別所得税・住民税

個人株主が非上場株式を譲渡した際の売却益は、譲渡所得に該当します。譲渡所得にかかる税金の種類は、所得税・復興特別所得税・住民税の三つです。株式譲渡で消費税は発生しません。

譲渡所得は「譲渡収入金額−(取得費+譲渡費用)」の計算式で求めます。収入金額は会社売却時に受け取った金額、取得費は株式などを取得した際に支払った金額です。

譲渡費用とは、会社売却時に発生した諸費用を指します。株式譲渡の際に発生する代表的な譲渡費用は、M&A仲介会社へ支払う手数料や、領収書に課される印紙税です。

取得費が不明である場合

相続で会社を引き継いだようなケースでは、取得費が分からない場合もあるでしょう。取得費が不明である場合は、取得費を「収入金額×5%」とすることも可能です。

取得費を計算できるケースでも、実際の取得費の代わりに収入金額×5%を使えます。「実際の取得費」と「収入金額×5%」を比較し、税金面で有利になる方を選択するのが一般的です。

なお、実際の取得費の代わりに収入金額×5%を適用できるのは、個人の株主のみです。法人株主による株式譲渡の場合、収入金額×5%は使えません。

所得税・住民税の税率

譲渡所得にかかる税金の税率は、所得税15%・復興特別所得税0.315%(所得税に対して2.1%上乗せ)・住民税5%です。それぞれの税率を譲渡所得に掛ければ税額を算出できるため、税金の合計は「譲渡所得×20.315%」で計算できます

売却価格1億円・取得費500万円・譲渡費用500万円の場合、譲渡所得は1億円−(500万円+500万円)=9,000万円です。税額は9,000万円×20.315%=1,828万3,500円となります。

所得金額が増えるほど税率が高くなる給与所得と違い、譲渡所得は収入が増えても税率は変わりません。会社の売却価格がいくらであっても、税金の合計税率は20.315%です。

参考:No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)|国税庁

他の損失と相殺はできない

給与所得・事業所得・不動産所得は、所得同士を合算して課税される「総合課税」の対象です。例えば副業の不動産経営で赤字が出た場合、赤字分の不動産所得を給与所得と相殺すれば給与所得が減るため、所得税も減ります。

一方、株式を売却した際に得られる所得は、単独で税額を計算する「申告分離課税」の対象です。他の所得とは相殺できないため、株式譲渡による利益で他の所得の損失は減らせません。

また、非上場株式と上場株式との間で、譲渡所得を相殺することも不可能です。非上場株式の売却時に得られる譲渡所得を合算できるのは、同じ非上場株式の譲渡所得のみとなります。

参考:No.1465 株式等の譲渡損失(赤字)の取扱い|国税庁

法人株主による株式譲渡の場合

法人が株式譲渡で会社を売却する場合の税金について解説します。個人株主のケースとは、税金の種類が違う点を押さえておきましょう。

法人税等がかかる

法人株主が個人や法人へ会社を売却した場合、株式譲渡による利益は法人の利益となります。法人における他の所得と同様に、法人税・法人住民税・法人事業税がかかります。

譲渡所得の計算式は、個人株主のケースと同じ「収入金額−(取得費+譲渡費用)」です。法人税・法人住民税・法人事業税の税率を合計した実効税率は、約30~35%となります。

非上場株式と上場株式で適用率に差はありませんが、事業区分や所得額でそれぞれの税率が変動します。譲渡所得に実効税率を掛ければ、株式譲渡で利益を得た法人株主に課される税額を計算することが可能です。

総合課税として課税される

法人株主の株式譲渡にかかる法人税は「総合課税」として課税されるため、法人の通常事業で得た利益に譲渡所得を合算して税額を計算します。

事業で赤字が発生している場合も会社売却により利益を得ているなら、事業所得と譲渡所得を相殺して税額を減らすことが可能です。

なお、個人株主のケースでは収入金額×5%を取得費にできますが、法人株主には認められない点に注意しましょう。消費税に関しては、法人の場合も個人と同様に非課税です。

会社分割を絡めた株式譲渡の場合

会社分割をした後に株式譲渡を行えば、節税につなげられるケースがあります。会社分割を絡めた株式譲渡で税金が安くなる仕組みを理解しましょう。

事業に関係のない資産を売却対象から外す

単純な株式譲渡で会社を売却する場合、売りたいものだけでなく売りたくないものや買い手にとって不要なものまで売却対象になります。売却が成立すれば利益に課税されるため、売り手は税金を納めなければなりません。

このようなケースで、売りたくない資産を売却対象から外せるスキームが会社分割です。分割型分割と呼ばれる手法を用いれば、事業に関係のない資産を新会社に移して手元に残せます。

実質的には社長の私有物となっている会社名義の車がある場合や、買い手にとって不要資産となる積立型の役員生命保険に加入している場合は、会社分割を絡めた株式譲渡が適しているでしょう。

会社分割について詳しく解説している以下も、ぜひご覧ください。

組織再編行為の「会社分割」とは?吸収分割や新設分割を行うケース  組織再編行為の「会社分割」とは?吸収分割や新設分割を行うケース
用語説明
組織再編行為の「会社分割」とは?吸収分割や新設分割を行うケース

『会社分割』は、会社の事業構造を大きく変える際に用いられる『組織再編行為』の一種です。吸収分割と新設分割の2種類があり、活用に適したシチュエーションが異なります。事業譲渡との違いや会社分割にあたっての注意点を解説します。

税制適格分割の条件に注意

分割型分割で節税できるのは、「税制適格分割」と呼ばれる会社分割に該当するケースです。税制適格分割型分割のスキームを用いれば、資産の移転において税金が発生しません。

事業に関係のない資産や買い手が欲しがらない資産を、既存または新規の別会社に移すだけで、大幅な節税を実現できます。例えば、移転する資産に保険積立金がある場合も、含み益に税金はかかりません。

ただし、分割型分割で節税を目指すためには、税制適格分割の条件を必ず満たす必要があります。手続きに失敗すると税引き後の手取り額が大幅に減ってしまうため、税制適格分割型分割のスキームを使う場合は、専門知識を有する税理士に相談しましょう。

株式を発行会社に売却する場合

株式の発行会社を買い手として株式譲渡を行った場合、どのような税金がかかるのでしょうか。発行会社に株式を売却したケースでの税金について解説します。

譲渡所得に対する所得税・復興特別所得税・住民税

発行会社への株式の売却は、発行会社にとっては自社株の取得になります。株式の発行会社が買い取った自己株式を「金庫株」と呼びます。

金庫株は、事業承継や会社の相続における節税対策として有効です。例えば、株式を相続で譲り受けると相続税が高額になる可能性がありますが、発行会社に売却することで利益が譲渡所得として扱われ、税率を20.315%まで抑えられます。

金庫株として株式を売却した場合、売却金額から取得価額を差し引いた残りは、みなし配当と譲渡所得に分けられます。譲渡所得にかかる税金は、所得税・復興特別所得税・住民税の3種類です。

みなし配当にも課税される

株主は出資比率に応じて、配当金の形で利益の分配を受けられます。発行会社へ株式を売却した際に得られる利益の一部は、実質的な利益の分配とみなされるため、みなし配当として課税されます。

みなし配当は配当所得であり、給与所得や不動産所得と合算して課税される総合課税の対象です。最高税率は55%(所得税45%・住民税10%)まで上昇する可能性があるため、他の所得が多い人にとっては不利といえます。

ただし、相続における「みなし配当の特例」が適用される場合、課税方式は申告分離課税です。配当所得のみで所得税を計算すればよく、税率を20.315%に抑えられます。

参考: 配当所得の課税方法|国税庁

参考: No.1477 相続により取得した非上場株式を発行会社に譲渡した場合の課税の特例|国税庁

株主が法人の場合は?

法人株主が株式を発行会社に売却した場合、会計上みなし配当は「営業外利益」に計上しますが、税務上は「益金不算入の規定」が適用される場合があります。

益金不算入とは、一定以上の株式を保有している場合に、会計上では収益に算入される収入が、税法上では益金として算入されない制度のことです。法人税の課税対象となる利益に算入しないため、みなし配当に税金はかかりません。

みなし配当に益金不算入が適用される理由は、配当金が既に税金を納めた後の利益から支払われるためです。二重課税を防ぐため、法人の受取配当金は益金不算入の対象となります。

事業譲渡でかかる税金は株式譲渡と違う?

株式譲渡に次いで選ばれるケースが多いM&Aスキームが、事業譲渡です。事業譲渡ではどのような税金が発生するのでしょうか。

法人税等がかかる

売り手が事業の一部または全部を売却する事業譲渡では、株主ではなく売り手企業が対価を受け取ることになるため、売却益に対して法人税等がかかります。

契約書に印紙税がかかる点もポイントです。株式の売買契約書には印紙が不要ですが、事業譲渡契約書には記載金額に応じた印紙税が発生します。譲渡金額が5万円以上なら、株式譲渡の場合と同様に、領収書にも印紙が必要です。

事業譲渡でかかる税金が高額になりそうだと予想される場合は、決算の期首にM&Aを実行するのがおすすめです。決算までの間にじっくりと節税対策を講じやすくなるでしょう。

参考:No.7141 印紙税額の一覧表(その2)第5号文書から第20号文書まで|国税庁

損金の額によっては税負担を抑えられる

事業譲渡では実効税率約30~35%の法人税等がかかります。

ただし、事業譲渡による利益は、事業で発生した他の損失との相殺が可能です。事業譲渡益を相殺できる程度の損金が発生していれば、税負担を大幅に抑えられます。

例えば、事業譲渡で利益を得た年度に事業譲渡益と同等の広告宣伝費を使えば、法人税等の発生をゼロに近づけられるでしょう。節税を意識して損金を発生させる場合は、意味のあることに経費を回すのがポイントです。

対象の資産には消費税も

事業譲渡では、消費税が課される可能性があります。消費税がかかるのは、譲渡する資産の中に消費税の課税対象となる資産があるケースです

「課税資産」と「非課税資産」は以下のように分類されます。

課税資産 非課税資産
  • 有形固定資産(土地以外)
  • 無形固定資産
  • 棚卸資産
  • のれん(営業権)
  • 土地
  • 有価証券
  • 債権
  • 現預金
  • 売掛金

消費税は事業譲渡で得た利益ではなく、課税資産に課せられるものです。例えば、事業譲渡で得た対価が5億円で、そのうちの1億円が消費税の課税資産だった場合、納税額は1,000万円(1億円×10%)です。

消費税の納税者は売り手ではありますが、実質的な負担者は買い手であることも覚えておきましょう。買い手が支払う対価は、売却代金に消費税額が上乗せされたものです。

個人の事業譲渡では、売り手には所得税と消費税の納税義務が生じます。消費税の課税対象は上記で述べたものと同様です。

事業譲渡について詳しく解説している以下も、ぜひご覧ください。

 事業売却の方法を解説。事業譲渡の利点、流れ、税金などを把握しよう
手法
事業売却の方法を解説。事業譲渡の利点、流れ、税金などを把握しよう

事業売却は会社が持っている事業の全部や一部を譲渡する取引です。その他のM&Aスキームとの違いや、メリット・デメリットを把握し、自社に適切な取引を検討しましょう。事業譲渡の基本的な流れや、事業価値の算定方法も紹介します。

役員退職金を活用して税額を抑える仕組み

会社売却時に役員退職金を支払えば、税額を抑えることが可能です。役員退職金を活用して節税につなげる仕組みを解説します。

売却益を役員退職金と相殺する

法人が株式譲渡を行った場合、売却益に対して法人税がかかります。しかし、会社の経営者や役員が会社売却と同時に退職する場合において、株式譲渡対価の一部を役員退職金とすれば、経費計上した退職金を売却益と相殺して節税することが可能です。

ただし、役員退職金をいくらでも増やせるわけではない点に注意が必要です。法令はありませんが、企業ごとに定める「退職金規定」の範囲を超えて役員退職金を支給すると税務上退職金が損金として取り扱われない場合があるので注意が必要です。

退職所得控除など税負担が軽くなりやすい

役員退職金には、退職金にかかる税率が適用され、退職所得控除が適用される点もポイントです。勤続年数が長いほど控除金額も増えます。さらに、退職金総額から控除した金額を1/2にしたものが課税所得となるため、退職金なら税額を大幅に抑えられる可能性があります。

ただし、1/2の適用は役員として5年以上勤続した場合に限られます。会社売却の直前に親族を役員にしても、1/2の適用は受けられない点に注意しましょう。

参考: No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁

買い手に課される税金

売り手だけでなく買い手にも課される税金があります。交渉をスムーズに進めるためにも、買い手にどのような税金がかかるのか知識として覚えておきましょう。

不動産取得税・登録免許税

会社売却時には課されませんが、事業売却時に買い手に課される税金としては「不動産取得税」や「登録免許税」があります。取得資産のうち不動産にかかる税金が不動産取得税、譲り受けた不動産や許認可事業について登記を行う際にかかる税金が登録免許税です。

会社分割で譲り受けた場合は、不動産取得税や登録免許税が一定の軽減がされます。例えば、事業譲渡により土地や住宅を譲り受けた場合、税率は通常の3.0%から2.5%に下がります。

税率の軽減措置を受ける場合は、2024年3月31日までに譲渡が完了していなければなりません。経営力向上計画を作成して地方農政局長等の認定を受けることも条件です。

参考: M&Aにより経営者から事業を譲り受ける場合~登録免許税・不動産取得税の軽減 | 農林水産省

みなし贈与に対する贈与税

個人が個人へ株式譲渡を行う場合、時価より低い価額で譲渡されるケースでは、みなし贈与として課税される可能性があります。取引価額と時価との差額を贈与されたとみなされるのです。

例えば株式の適正時価を1,000万円、買い手の取得価額を200万円とした場合、1,000万円−200万円=800万円の部分に贈与税がかかります。

贈与税の計算式は「(贈与額−基礎控除額110万円)×税率−控除額」です。税率と控除額は、国税庁のホームページにある贈与税の速算表で確認できます。

参考: No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁

まとめ

会社売却時に課される税金は、選択するM&Aスキームにより税額・種類が異なります。M&Aにおける税金の仕組みを理解し、税金面から最適なスキームを選ぶことが重要です。

役員退職金を活用すれば、株式譲渡で発生する税金を軽減できる可能性もあります。スキームごとに有効な節税方法を知り、できるだけ多く手取りを残しましょう。

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