事業譲渡の税金は?売却益の計算方法・税率・節税策をわかりやすく解説
事業譲渡の税金は、売却益に約30〜34%の法人税等がかかり、課税資産には消費税も発生します。税率と計算方法、譲渡価額別のシミュレーション、株式譲渡との違い、手取りを増やす節税策、買い手側の負担までわかりやすく解説します。
長年育ててきた事業の一部を手放すと決めたとき、多くの経営者がまず考えるのは譲渡価額の交渉でしょう。しかし実際に取引を終えた後、想定していた金額と手元に残る金額が大きく違っていた、という声は少なくありません。その差を生んでいるのが税金です。
事業譲渡では、売り手企業の譲渡益に法人税等がかかり、さらに譲渡する資産の内容によっては消費税や印紙税も発生します。株式譲渡とは税金を負担する人も税率もまったく異なるため、同じ「会社を売る」でも手残りは大きく変わります。本記事では、事業譲渡でかかる税金の計算方法と税率、消費税の考え方、そして手取りを最大化するための具体的な節税策までを、譲渡価額別のシミュレーションを交えて解説します。
事業の一部売却を検討している中小企業の経営者、事業譲渡と株式譲渡のどちらを選ぶか迷っている方、譲渡後に手元にいくら残るのかを具体的に把握したい方に向けた内容です。
事業譲渡でかかる税金の全体像|誰に・いつ・何がかかるのか
事業譲渡の税金でつまずく最大の原因は、「誰に」税金がかかるのかを取り違えてしまうことです。まずは全体像を押さえ、売り手と買い手それぞれに発生する税金の種類を整理しましょう。
売り手企業に法人税等、買い手に消費税|税金を負担する人が分かれる
事業譲渡とは、会社の事業の一部または全部を、個別の資産や負債の集合体として売買する手法です。ここで重要なのは、対価を受け取るのが株主個人ではなく会社そのものである点です。
そのため事業譲渡では、売却益に対して法人税・法人住民税・法人事業税が課されます。これら3つをまとめて「法人税等」と呼びます。経営者個人の口座にお金が入るわけではないため、オーナーが現金を手にするには、その後に役員退職金や配当といった形で会社から個人へ移す手続きが別途必要になります。
一方、買い手側にも税負担は発生します。譲り受ける資産の中に建物や機械、のれんなどが含まれていれば消費税がかかり、不動産が含まれていれば不動産取得税や登録免許税も生じます。売り手と買い手で負担する税目が異なることを、交渉に入る前に把握しておきましょう。
事業譲渡で発生する主な税金は、次のとおりです。
- 売り手企業:法人税・法人住民税・法人事業税(譲渡益に対して)
- 売り手企業:消費税(課税資産の譲渡に対して。納税義務者は売り手)
- 売り手企業:印紙税(受け取った対価の領収書に対して)
- 売り手・買い手の双方:印紙税(事業譲渡契約書に対して。連帯して納税義務を負う)
- 買い手:消費税(売り手へ上乗せして支払う)
- 買い手:不動産取得税・登録免許税(不動産を引き継ぐ場合)
納税のタイミングは決算後|手取りが確定するまでにタイムラグがある
事業譲渡による売却益は、譲渡が実行された事業年度の益金に算入されます。つまり納税は事業譲渡の直後ではなく、その事業年度の決算を締めた後の法人税申告のタイミングです。
法人税の申告・納付期限は、原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内です。譲渡から納税までに数か月から1年近い間隔が空くケースもあるため、受け取った対価をそのまま設備投資や返済に充ててしまうと、納税時に資金が足りなくなるおそれがあります。
消費税についても、課税期間の末日の翌日から2か月以内が申告・納付期限です。買い手から預かった消費税は自社の売上ではなく、後日まとめて納める預り金の性質を持つと考え、別枠で確保しておくことをおすすめします。
事業譲渡益(売却益)の計算方法と税率
事業譲渡でいくら税金がかかるのかは、譲渡価額そのものではなく「譲渡益」で決まります。計算式と税率、そして譲渡価額別の目安を確認しましょう。
事業譲渡益の計算式は「譲渡価額−譲渡資産の簿価」
事業譲渡益は、譲渡価額から譲り渡した資産・負債の帳簿価額(簿価)を差し引いて求めます。
計算式にすると次のとおりです。
【事業譲渡益の計算式】
事業譲渡益 = 譲渡価額 − 引き継ぐ純資産(資産−負債)の帳簿価額
ここで生まれる差額の多くは、いわゆる営業権(のれん)に相当する部分です。長年の顧客基盤やブランド、技術力といった帳簿に載っていない価値が価格に上乗せされるため、簿価の小さい事業ほど譲渡益は大きくなり、結果として税負担も重くなります。
たとえば譲渡価額5,000万円、譲渡する資産の簿価が1,500万円、引き継いでもらう負債の簿価が500万円であれば、事業譲渡益は5,000万円−(1,500万円−500万円)=4,000万円です。
法人税等の実効税率は約30〜34%
事業譲渡益は、その事業年度の他の損益と合算されたうえで法人税等の課税対象となります。法人税・法人住民税・法人事業税を合計した法人実効税率は、おおむね30〜34%程度です。
実効税率は一律ではなく、資本金の額や所得金額、事業所の所在地によって変動します。資本金1億円以下の中小法人には所得800万円以下の部分に軽減税率が適用されるため、小規模な事業譲渡ほど実質的な負担率は下がる傾向にあります。
また、株式譲渡の譲渡所得のように単独で税額を計算する申告分離課税ではなく、他の事業の損益と通算される総合的な課税である点も大きな特徴です。この性質が、後述する節税策の出発点になります。
譲渡価額別の税額シミュレーション
譲渡資産の簿価を譲渡価額の20%と仮定し、実効税率を33%として計算した場合の目安が次の表です。実際の税額は簿価や他の損益によって変わるため、あくまで概算としてご覧ください。
| 譲渡価額 | 譲渡資産の簿価 | 事業譲渡益 | 法人税等の概算(33%) | 税引後の残額 |
|---|---|---|---|---|
| 500万円 | 100万円 | 400万円 | 約132万円 | 約368万円 |
| 1,000万円 | 200万円 | 800万円 | 約264万円 | 約736万円 |
| 3,000万円 | 600万円 | 2,400万円 | 約792万円 | 約2,208万円 |
| 5,000万円 | 1,000万円 | 4,000万円 | 約1,320万円 | 約3,680万円 |
| 1億円 | 2,000万円 | 8,000万円 | 約2,640万円 | 約7,360万円 |
表のとおり、譲渡益のおよそ3分の1が税金として出ていく計算になります。ただしこれは他に損益がない前提の数字であり、赤字や繰越欠損金がある会社であれば税額はさらに小さくなります。
事業譲渡にかかる消費税|課税資産と非課税資産の分け方
事業譲渡が株式譲渡と決定的に違う点のひとつが、消費税がかかることです。譲渡価額が大きいほど金額も大きくなるため、契約前に必ず確認しておきたい項目です。
課税資産と非課税資産の分類
消費税は事業譲渡で得た利益にかかるのではなく、譲り渡す資産のうち「課税資産」に該当するものに対して課されます。譲渡対象を課税資産と非課税資産に分け、課税資産の合計額に税率を乗じて計算します。
| 区分 | 該当する資産の例 |
|---|---|
| 課税資産 | 建物・機械装置・車両などの有形固定資産(土地を除く)、ソフトウェアや特許権などの無形固定資産、商品・製品などの棚卸資産、のれん(営業権) |
| 非課税資産 | 土地、有価証券、売掛金などの債権、現預金 |
見落とされやすいことが、のれん(営業権)も課税資産に含まれるという点です。事業譲渡では譲渡価額のうち相当部分がのれんに配分されるケースが多く、ここに消費税がかかることで想定より納税額が膨らむことがあります。
逆に、譲渡対象の中心が土地や売掛金であれば消費税はほとんど発生しません。譲渡する資産の構成によって負担額が大きく変わるため、契約書では譲渡価額の内訳をどう配分するかが実務上の論点になります。
消費税を納めるのは売り手、実質的に負担するのは買い手
消費税の納税義務者は売り手企業です。ただし買い手から受け取る対価に消費税額を上乗せして請求するため、実質的な負担者は買い手となります。
たとえば譲渡価額が5,000万円で、そのうち課税資産が3,000万円だった場合、消費税は3,000万円×10%=300万円です。買い手は5,300万円を支払い、売り手はそのうち300万円を後日国に納めることになります。
ここで注意したい点が、買い手側の資金計画です。譲渡価額だけを見て予算を組んでいると、契約直前になって消費税分が上乗せされ、資金が不足する事態になりかねません。交渉の初期段階から、提示されている金額が税込みなのか税抜きなのかを明確にしておきましょう。
なお、買い手が課税事業者であれば、支払った消費税は原則として仕入税額控除の対象になります。負担が最終的に残るかどうかは買い手の課税区分によって変わるため、この点も含めて交渉するとよいでしょう。
印紙税と諸費用|事業譲渡で出ていくお金
法人税や消費税に比べれば少額ですが、事業譲渡では印紙税も発生します。あわせて、税金以外に必要となる費用も整理しておきましょう。
事業譲渡契約書の印紙税
株式の売買契約書には印紙が不要ですが、事業譲渡契約書には印紙税がかかる場合があります。これは、譲渡対象に不動産や無体財産権が含まれるかどうかで、契約書の分類(号数)が変わるためです。
印紙税法では、不動産の譲渡に関する契約書のほか、特許権・実用新案権・商標権・意匠権・商号・著作権といった無体財産権の譲渡に関する契約書も第1号文書に区分されます。事業譲渡では商標や商号を引き継ぐケースが多いため、第1号文書に該当する場面は少なくありません。
税額は契約書に記載された金額によって変わり、記載金額が1万円未満であれば非課税です。たとえば第1号文書で記載金額が1,000万円を超え5,000万円以下の場合、本則の税額は2万円となります。
さらに、不動産の譲渡に関する契約書については、2014年4月1日から2027年3月31日までに作成されるもので記載金額が10万円を超える場合、軽減税率が適用されます。先ほどの1,000万円超5,000万円以下の区分であれば、2万円が1万円に軽減されます。全区分の税額は国税庁「印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」で確認できます。
ここで押さえておきたいことが、印紙税を負担するのは売り手だけではないという点です。印紙税を納める義務があるのは課税文書の作成者であり、事業譲渡契約書のように売り手と買い手が共同で作成する文書については、双方が連帯して納税義務を負います。
負担割合について法律上の定めはないため、実務では契約書を2通作成し、各自が保管する1通分の印紙代をそれぞれ負担する折半が一般的です。ただし当事者の合意で自由に決められるため、後々のトラブルを避けるには、契約書のなかで印紙税の負担者を明記しておくとよいでしょう。
一方、対価を受け取った際に発行する領収書は第17号文書に該当し、記載金額が5万円以上であれば印紙が必要です。こちらは作成者が売り手となるため、売り手側の負担です。なお、契約書や領収書を電子データで作成・交付する場合、印紙税は課されません。
税金以外にかかる費用
手取りを正確に見積もるには、税金以外の支出も織り込む必要があります。事業譲渡で発生しやすい費用は次のとおりです。
- 仲介手数料・成功報酬:M&A仲介会社やアドバイザーを利用した場合の費用
- 専門家報酬:税理士・弁護士・司法書士への相談料や登記費用
- 登記関連費用:不動産や商号の名義変更に伴う登録免許税・司法書士報酬
- 許認可の再取得費用:事業譲渡では許認可が原則として引き継がれないため、買い手側で取り直しが必要
- 従業員の再雇用手続きに伴う費用:従業員一人ひとりから同意を取得する手続きや労務対応にかかる実務コスト
特に見落とされやすいのが仲介手数料です。譲渡価額の数%が成功報酬として発生する場合、税金と合わせると手取りが想定を大きく下回ることもあります。M&Aの手数料の水準を事前に把握し、税引後の手残りから逆算して譲渡価額の希望を設定しておくと安心です。
事業譲渡と株式譲渡、税金はどう違う?
同じ「会社を売る」でも、事業譲渡と株式譲渡では課税される人も税率もまったく異なります。どちらのスキームを選ぶかは、税引後の手取りを左右する最重要の判断です。
課税関係の比較
株式譲渡は株主が保有する株式を売却する手法であり、対価を受け取るのは株主個人です。一方の事業譲渡では会社が対価を受け取ります。この違いが、そのまま課税関係の違いにつながります。
| 比較項目 | 事業譲渡 | 株式譲渡(個人株主) |
|---|---|---|
| 対価を受け取る人 | 売り手企業(法人) | 株主個人 |
| 課される税金 | 法人税・法人住民税・法人事業税 | 所得税・復興特別所得税・住民税 |
| 税率の目安 | 実効税率 約30〜34% | 一律 20.315% |
| 課税方式 | 他の損益と通算される | 申告分離課税(他の所得と通算不可) |
| 消費税 | 課税資産部分に発生する | 発生しない |
| 契約書の印紙税 | かかる場合がある | 不要 |
| 赤字との相殺 | 可能(損金・繰越欠損金と通算) | 不可 |
| 個人が現金を得るまで | 会社から個人へ移す手続きが別途必要 | 売却と同時に個人へ入金される |
税率だけを見れば、20.315%の株式譲渡のほうが有利に見えます。ただし事業譲渡には赤字と相殺できるという強みがあり、業績や譲渡の目的によって最適解は変わります。
手取りで比べると株式譲渡が有利になりやすい理由
事業譲渡がオーナーにとって不利になりやすい最大の理由は、会社に入ったお金を個人へ移す段階でもう一度課税されることにあります。法人段階と個人段階で課税が生じる問題です。
たとえば事業譲渡益4,000万円に約33%の法人税等が課され、残った約2,680万円を配当としてオーナーが受け取ると、配当所得として総合課税の対象になります。所得水準によっては最高税率が適用され、最終的な手取りは譲渡益の半分程度まで目減りする可能性もあります。
これに対し株式譲渡であれば、譲渡所得に20.315%が課されて完結します。会社ごと引き継いでもらえるのであれば、税務上は株式譲渡が有利になるケースが多いといえるでしょう。
それでも事業譲渡が選ばれるのは、次のような事情があるためです。
- 複数事業のうち一部だけを切り出して売却したい
- 買い手が簿外債務や偶発債務のリスクを引き継ぎたくないと考えている
- 売り手が会社そのものは残し、別の事業を続けたい
- 個人事業主のため、そもそも譲渡できる株式が存在しない
つまり事業譲渡は、税負担と引き換えに柔軟性を得るスキームです。事業譲渡のM&A案件一覧を見ると、店舗単位や事業単位での譲渡がどのような条件で取引されているかを具体的に把握できます。相場観をつかんだうえでスキームを検討するとよいでしょう。
事業譲渡の税金を抑える4つの方法
事業譲渡の税負担は、事前の設計次第で大きく変わります。ここでは実務でよく使われる4つの方法を、それぞれの注意点とあわせて解説します。
損金・繰越欠損金と相殺する
事業譲渡益は他の損益と通算されるため、同じ事業年度に損金があれば、その分だけ課税所得を圧縮できます。これは申告分離課税の株式譲渡にはない、事業譲渡ならではの強みです。
典型的なのが繰越欠損金の活用です。過去の赤字を繰り越している会社であれば、事業譲渡益と相殺することで法人税等をゼロに近づけられる可能性があります。中小法人であれば、繰り越した欠損金を所得の全額まで控除できる点も有利に働きます。
また、譲渡と同じ年度に予定していた設備投資や広告宣伝、修繕などを前倒しで実行し、損金を作るという考え方もあります。ただし節税だけを目的に不要な支出をすれば、手元資金を減らすだけで本末転倒です。もともと必要だった支出のタイミングを寄せるという発想で検討しましょう。
役員退職金を活用する
経営者が事業譲渡を機に退任する場合、役員退職金の支給は有力な選択肢です。支給額は会社の損金となるため事業譲渡益と相殺でき、受け取る個人側でも税負担が軽くなるという二重のメリットがあります。
個人が受け取る退職金は退職所得に区分され、勤続年数に応じた退職所得控除が適用されます。さらに控除後の金額を2分の1にしたものが課税対象となるため、配当として受け取る場合に比べて手取りが大きく変わります。
ただし、いくらでも支給できるわけではありません。役員退職金が不相当に高額と判断された部分は損金に算入されず、節税効果が失われます。実務では、最終報酬月額・勤続年数・功績倍率を用いた功績倍率法によって適正額を算定するのが一般的です。
また、2分の1課税の適用には役員としての勤続年数が5年を超えていることが要件となります。譲渡直前に親族を役員に就任させても適用は受けられないため、早い段階からの設計が欠かせません。
実行時期を決算期首に寄せる
事業譲渡を実行する時期も、税額に影響します。決算期末の直前に譲渡すると、対策を講じる時間がほとんど残りません。
これに対し、事業年度が始まった直後に譲渡を実行すれば、決算までの期間を使って損金を作る施策を検討できます。設備投資の実行、役員退職金の支給、不要資産の処分など、選択肢を比較しながら進められるのは大きな利点です。
実際の交渉スケジュールは相手のあることなので思いどおりにはなりませんが、譲渡時期に幅を持たせられる場合は、決算月との関係を意識して調整してみてください。
会社分割を組み合わせて対象資産を絞る
譲渡したくない資産が事業に紛れている場合は、会社分割を組み合わせる方法があります。分割によって事業を別会社に切り出し、その株式を譲渡するという設計です。
この手法の利点は、税制適格分割の要件を満たせば、資産の移転時点で譲渡損益が発生しない点にあります。実質的に経営者の私物となっている車両や、買い手が引き継ぎたがらない保険積立金などを手元に残したまま、必要な事業だけを移すことが可能です。
さらに、切り出した会社の株式を譲渡する形にできれば、課税関係は株式譲渡と同じ20.315%の枠組みに乗せられます。事業譲渡の柔軟性と株式譲渡の税率を両立させる設計といえるでしょう。
ただし、税制適格の要件は支配関係の継続や事業の関連性など細かく定められており、判定を誤ると想定外の課税が生じます。手続きの失敗は税引後の手取りを大きく減らすため、必ず組織再編に精通した税理士に相談したうえで進めてください。
買い手に課される税金と節税メリット
事業譲渡は売り手にとって税負担の重いスキームですが、買い手にとっては税務上のメリットがある手法でもあります。交渉を有利に進めるためにも、相手側の事情を理解しておきましょう。
資産調整勘定(税務上ののれん)は5年で損金算入できる
買い手にとって事業譲渡の最大の利点が、譲渡価額のうちのれんに相当する部分を「資産調整勘定」として計上し、5年間で均等に損金算入できる点です。
たとえばのれんが5,000万円であれば、毎年1,000万円ずつ5年間にわたって損金にできます。実効税率を33%とすると、年間330万円、5年間で約1,650万円の節税効果が生まれる計算です。
一般的な株式譲渡ではこの効果が得られません。買収した会社の株式はあくまで資産として計上されるだけで、会計上ののれん償却も税務上は損金になりません。営業権の扱いがスキームによって大きく異なることは、買い手が事業譲渡を選ぶ強い動機になります。
売り手としては、この点を交渉材料にできます。買い手が将来的に受け取る節税メリットを踏まえて、譲渡価額に反映してもらう余地があるためです。
不動産取得税・登録免許税と軽減措置
譲り受ける資産に不動産が含まれる場合、買い手には不動産取得税と登録免許税が課されます。名義変更の登記に伴って発生する費用であり、事業譲渡では避けられないコストです。
ただし中小企業庁の「事業承継等に係る不動産取得税の特例」を活用すれば、負担を軽くできます。経営力向上計画の認定を受けたうえで事業譲渡を実行した場合、不動産取得税の税率が次のとおり軽減されます。
| 取得する不動産 | 通常の税率 | 計画認定時の税率 |
|---|---|---|
| 土地・住宅 | 3.0% | 2.5% |
| 住宅以外の家屋 | 4.0% | 3.3% |
いずれも6分の1の減額に相当します。この特例の適用期限は2027年度(2028年3月31日)までとされており、適用を受けるには事業譲渡の事前合意の後に経営力向上計画を策定し、不動産の所在地の都道府県を経由して主務大臣の認定を受ける必要があります。
手続きは譲渡の実行前に完了させておかなければならないため、不動産を含む事業譲渡を検討している場合は、スケジュールに余裕を持って準備を始めましょう。なお、合併や一定の会社分割によって取得する場合は非課税となります。
個人事業主が事業譲渡する場合の税金
ここまでは法人が売り手となるケースを前提にしてきましたが、個人事業主が事業を譲渡する場合は課税の枠組みが変わります。
資産の種類ごとに所得区分が分かれる
個人事業主の事業譲渡では、譲渡する資産の種類に応じて所得区分が分かれ、それぞれ異なる計算方法で所得税・住民税が課されます。法人のように一括して法人税等が課されるわけではない点が大きな違いです。
- 棚卸資産(商品・製品):通常の販売と同様に事業所得として扱われる
- 機械・車両などの固定資産:譲渡所得として計算する
- 営業権(のれん):原則として譲渡所得に区分される
- 土地・建物:分離課税の譲渡所得となり、所有期間によって税率が変わる
譲渡所得には特別控除が設けられており、保有期間が5年を超える資産であれば課税対象が2分の1になるなど、区分によって扱いが優遇される場合もあります。事業所得は総合課税として他の所得と合算されるため、所得水準によっては税率が高くなる点にも注意が必要です。
また、個人事業主であっても課税事業者であれば消費税の納税義務は法人と同様に発生します。譲渡対象に課税資産が含まれていれば、消費税を上乗せして請求し、後日納付することになります。
なお、自社株を発行会社に売却するようなケースではみなし配当の問題が生じます。事業譲渡とは異なる論点ですが、オーナー個人が現金を得る手段を比較検討する際には押さえておきたいテーマです。
事業譲渡の税金に関するよくある質問
事業譲渡の税金についてよく寄せられる疑問にお答えします。
Q. 事業譲渡の税金は誰が払うのですか?
A. 売り手が法人の場合、譲渡益に対する法人税等を納めるのは売り手企業であり、経営者個人ではありません。
消費税も納税義務者は売り手ですが、買い手から預かった税額を納付する形になるため、実質的な負担者は買い手です。不動産取得税や登録免許税は買い手の負担となります。
Q. 事業譲渡益にはどのくらいの税金がかかりますか?
A. 法人が売り手であれば、実効税率でおおむね30〜34%が目安です。
たとえば事業譲渡益が4,000万円であれば、法人税等はおよそ1,300万円前後になります。ただし他の事業の損益や繰越欠損金と通算されるため、赤字を抱えている会社であれば税額はさらに小さくなります。
Q. 事業譲渡で消費税がかからないケースはありますか?
A. 譲渡する資産がすべて非課税資産であれば、消費税は発生しません。
土地や売掛金、有価証券のみを譲渡する場合が該当します。ただし実務では建物や設備、のれんが含まれることがほとんどのため、まったくかからないケースは限定的です。売り手が免税事業者である場合も納税義務は生じません。
Q. 赤字の会社が事業譲渡した場合も税金はかかりますか?
A. 譲渡益が出ていても、同じ事業年度の赤字や繰越欠損金と相殺できるため、税金がかからない場合があります。
これは事業譲渡益が他の損益と通算される仕組みによるものです。ただし消費税は利益ではなく課税資産の譲渡に対して課されるため、赤字であっても納税義務は残ります。
Q. 事業譲渡と株式譲渡、税金面ではどちらが有利ですか?
A. オーナー個人の手取りだけで比較すると、税率20.315%で完結する株式譲渡が有利になりやすいといえます。
事業譲渡では会社に法人税等が課され、そこから個人へ資金を移す際にもう一度課税されるためです。一方で、一部の事業だけを切り出したい場合や、買い手が簿外債務を引き継ぎたくない場合には事業譲渡が選ばれます。役員退職金や繰越欠損金を活用できる状況であれば、事業譲渡でも差は縮まります。
Q. 事業譲渡の税金はいつまでに納めればよいですか?
A. 法人税等は、譲渡が行われた事業年度の決算日の翌日から2か月以内が申告・納付期限です。
消費税も課税期間の末日の翌日から2か月以内となります。譲渡の直後に納税するわけではないため、受け取った対価をすべて使ってしまわないよう、納税資金を別途確保しておくことが大切です。
まとめ|事業譲渡の税金は「誰に・いくら・いつ」で整理する
事業譲渡の税金が複雑に見えるのは、複数の税目が売り手と買い手に分かれて発生するためです。しかし「誰に」「いくら」「いつ」という3つの軸で分解すれば、全体像はそれほど難しくありません。対価を受け取るのは会社であり、その譲渡益に実効税率30〜34%程度の法人税等が課される。課税資産には消費税が乗り、契約書には印紙税がかかる。この骨格さえ押さえておけば、専門家との打ち合わせも格段にスムーズになります。
そして事業譲渡は、事前の設計しだいで手取りが大きく変わるスキームでもあります。繰越欠損金との相殺、役員退職金の活用、実行時期の調整、会社分割との組み合わせ。いずれも交渉が始まってから慌てて検討するのでは間に合わないものばかりです。譲渡価額の希望を決める段階から、税引後にいくら残るのかを逆算しておくことをおすすめします。
一方で、税制適格の判定や役員退職金の適正額といった論点は、判断を誤れば数百万円単位で結果が変わります。本記事で全体像をつかんだうえで、実際の意思決定にあたっては必ず税理士など専門家に相談してください。
- 事業譲渡益には実効税率およそ30〜34%の法人税等が課される
- のれんを含む課税資産には消費税がかかり、実質的な負担者は買い手
- 繰越欠損金・役員退職金・実行時期の調整で手取りは大きく変えられる
譲渡価額の相場観をつかむには、実際に取引されている案件を見るのが近道です。事業譲渡のM&A案件一覧では、業種や地域、譲渡価額などの条件で絞り込みながら、どのような事業がいくらで売買されているかを確認できます。自社と近い規模の案件を眺めるだけでも、税引後の手取りを見積もる際の材料になるはずです。
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