事業承継とM&Aの違いは?メリット・デメリットと承継方法の選び方を解説
事業承継とM&Aは比べて選ぶものではありません。事業承継は事業を次の担い手へ引き継ぐこと、M&Aはその実現に使われる手段のひとつです。両者の関係を表で整理し、事業承継型M&Aのメリット・デメリット、親族内承継・従業員承継との比較、進め方、成約事例4件までを解説します。
「事業承継」と「M&A」。どちらも会社を引き継ぐ話として語られますが、この2つはどういう関係にあるのでしょうか。M&Aは事業承継の一種なのか、それとも別のものなのか。調べても、両者を並べて説明している記事は意外と多くありません。
結論から言えば、事業承継は「事業を次の担い手へ引き継ぐこと」であり、M&Aはその実現に使われる手段のひとつです。両者の関係をわかりやすく整理すると、事業承継が目的、M&Aが手段という並びになります。親族に継がせるのも、従業員に継がせるのも、第三者に引き継ぐのも、すべて事業承継です。そのうち第三者へ引き継ぐ場合には、M&Aが主な手段として用いられます。
本記事では、2つの違いを表で整理したうえで、事業承継型M&Aのメリット・デメリット、親族内承継や従業員承継との比較、実際の成約事例までを解説します。後継者が決まっていない経営者の方が、自社に合う道を選べるようになることを目指した内容です。
事業承継とM&Aの違い
まず、2つの言葉の関係をはっきりさせておきましょう。ここを取り違えたまま検討を進めると、選択肢を狭めてしまうことがあります。
事業承継は「目的」、M&Aは「手段」
事業承継とは、会社の経営を後継者へ引き継ぐことです。引き継ぐ対象は代表者の肩書きだけでなく、経営を担う「人」、自社株や事業用資産といった「資産」、理念や技術・取引先との関係といった「知的資産」の3つに分かれます。
これに対してM&Aは、Mergers(合併)and Acquisitions(買収)の略で、企業の合併・買収を総称する言葉です。株式譲渡や事業譲渡といった具体的な手法がここに含まれます。
関係を整理すると、事業承継が「何のために」、M&Aが「どうやって」にあたります。「事業承継とM&A、どちらを選ぶべきか」という問いの立て方をすると混乱しますが、正しくは「事業承継の手段として、M&Aを使うかどうか」という問いになります。
なお、M&Aは事業承継以外の目的でも使われます。大企業が成長戦略として同業を買収する、事業の選択と集中のために一部を売却する、といったケースです。M&Aのすべてが事業承継というわけではありません。
2つの関係|承継先3つのうち、第三者承継でM&Aを使う
事業承継は、誰に引き継ぐかによって3つに分かれます。この構図を押さえると、M&Aの位置づけが見えてきます。
- 親族内承継:子どもや親族へ引き継ぐ。生前贈与や相続で株式を移すため、M&Aは使いません
- 従業員承継:役員や従業員へ引き継ぐ。株式を買い取る形になるため、MBOやEBOという広義のM&A手法が使われることがあります
- 第三者承継:社外の相手へ引き継ぐ。株式譲渡や事業譲渡などのM&Aが主な手段として用いられます
この3つを俯瞰すると、M&Aは「後継者が社内に見つからなかったときの選択肢」ではなく、「引き継ぎ先を社外まで広げるための手段」だと理解できます。親族に候補者がいる場合でも、会社の成長や本人の意向を踏まえてM&Aを選ぶケースはあります。
事業承継全体の進め方は事業承継の進め方の記事で、第三者承継そのものは第三者承継の記事で扱っています。
違いを表で整理する
2つの言葉を同じ軸で並べると、性質の違いがはっきりします。
| 項目 | 事業承継 | M&A |
|---|---|---|
| 意味するもの | 事業を次の担い手へ引き継ぐこと | 企業の合併・買収という手段の総称 |
| 引き継ぎ先 | 親族・従業員・第三者 | 買い手となる個人・法人。社外だけでなく役員による買収も含む |
| 対価 | 親族内承継では発生しないことが多い | 譲渡の対価が発生する |
| 目的 | 事業の存続 | 事業承継のほか、成長戦略や事業再編にも使われる |
| 主な課題 | 後継者がいるか、税負担をどうするか | 条件の合う相手が見つかるか、手数料をどうするか |
| 2つの関係 | M&Aを手段として使うことがある | 事業承継を実現する手段のひとつ |
表のとおり、両者は単純に比較して選ぶものではなく、事業承継の手段としてM&Aが使われる領域があります。事業承継には親族内承継のようにM&Aを使わないものがあり、M&Aにも成長戦略のように事業承継ではないものがあります。重なり合う部分が「事業承継型M&A」だと捉えてください。
混同されやすい言葉との違い
事業承継とM&Aのまわりには、似た場面で使われる言葉が並んでいます。それぞれの位置づけを整理しておきましょう。
事業譲渡・株式譲渡との違い
事業譲渡と株式譲渡は、M&Aの中の具体的な手法です。つまりM&Aより1段階下の概念にあたります。
- 株式譲渡:会社の株式を売買して経営権を移す方法。法人格はそのまま続きます
- 事業譲渡:事業に必要な資産・負債・契約上の地位などを個別に移転する方法。契約や債務の移転には相手方などの承諾が必要になる場合があり、譲渡元の法人も存続します
中小企業の事業承継では、手続きが比較的シンプルな株式譲渡が選ばれることが多くあります。ただし両者は、許認可の引き継ぎ、雇用契約の扱い、税金の負担者がすべて異なります。「譲渡」とひとまとめにせず、必ず分けて考えましょう。手法ごとの選び方は事業承継M&Aの種類・選び方の記事で解説しています。
会社売却・買収との違い
会社売却と買収は、同じ取引を立場を変えて呼んだものです。
| 言葉 | 位置づけ |
|---|---|
| 会社売却 | 売り手から見た表現。M&Aの一部で、事業承継の手段になる |
| 買収 | 買い手から見た表現。M&AのAcquisitionにあたる |
| 合併 | 2社以上が1社になること。M&AのMergerにあたる |
| 第三者承継 | 社外へ引き継ぐ事業承継のこと。手段としてM&Aを使う |
| 廃業 | 事業をやめること。承継が成立しなかった場合の選択肢 |
「会社売却」という言葉に抵抗を感じる経営者は少なくありません。ただ、事業承継を目的とした会社売却であれば、呼び方は違ってもM&Aによる第三者承継にあたります。かつては「身売り」と受け取られることもありましたが、現在は後継者不在を解決する前向きな手段として定着しています。
「事業継承」という表記との違い
検索していると「事業継承」という表記も見かけます。読み方は「じぎょうけいしょう」で、指す内容は事業承継とほぼ同じです。
ただし、国の制度名や法律で使われているのは「承継」の字です。事業承継ガイドライン、事業承継・M&A補助金、事業承継税制、いずれも「承継」で統一されています。表記に迷ったときは「事業承継」を選んでおけば問題ありません。使い分けの詳細は事業承継と事業継承の違いの記事で整理しています。
事業承継型M&Aのメリット
M&Aを事業承継の手段として選んだ場合、売り手・買い手の双方に利点があります。それぞれの立場から見ていきましょう。
売り手(譲る側)のメリット
後継者不在に悩む経営者にとって、M&Aには次のような利点があります。
- 後継者の選択肢が広がる:親族や社内に限定せず、全国から候補を探せます。事業を最も成長させてくれる相手に託せる可能性が生まれます
- 従業員の雇用を維持しやすい:中小企業のM&Aでは、買い手が従業員の継続雇用を望むケースが多くあります。雇用維持を譲渡の条件として交渉に含めることもできます
- 創業者利益を得られる:株式や事業を譲渡した対価を受け取れます。引退後の生活資金や、新たな挑戦の原資になります
- 製品やサービス、ブランドを残せる:長年築いた技術・顧客・信用を、買い手に引き継いでもらえます
- 個人保証から解放される可能性がある:会社の借入に付けている個人保証を、M&Aの交渉のなかで金融機関や買い手と協議して外せる場合があります
とくに個人保証に関しては見落とされがちです。多くの中小企業の経営者は会社の借入に個人保証を負っており、退任しても自動的には消えません。M&Aは、この保証を整理する現実的な機会になります。保証の解除の考え方は経営者保証ガイドラインの記事で解説しています。
なお、個人株主が株式を譲渡して得た譲渡益は、原則として申告分離課税の対象となり、所得税・復興特別所得税・住民税を合わせた税率は20.315%です(2026年8月時点)。役員退職金と組み合わせて手取りを設計する方法もありますが、適用の可否は状況によって変わるため、税理士に個別に試算してもらってください。
買い手(引き継ぐ側)のメリット
買い手にとっても、既存の事業を引き継ぐことには合理性があります。
- 事業規模を短期間で拡大できる:ゼロから立ち上げるより、時間とコストを抑えて規模やシェアを広げられます
- 人材をまとめて確保できる:経験のある従業員や専門技術を持つ人材を、採用活動を経ずに引き継げる可能性があります
- 技術やノウハウを獲得できる:自社にない製造技術や特許を取り込み、製品開発力を強化できます
- 新規事業へ迅速に参入できる:実績が求められる業界にも入りやすくなります。ただし許認可の扱いはM&Aの手法や許認可の種類によって異なります
- 低いリスクで成長分野へ進出できる:顧客基盤や事業モデルが確立された会社を引き継ぐため、新規参入の不確実性を下げられます
売り手と買い手の利点が噛み合うと、承継後に事業が伸びることがあります。買い手の販路や資金力によって、前の体制では実現できなかった成長が起きるケースは珍しくありません。
廃業と比べたときの違い
後継者が見つからない場合、もうひとつの選択肢が廃業です。M&Aと比べると差は明確になります。
- お金の向き:廃業では設備の処分や原状回復などの出費が発生します。M&Aでは譲渡対価を受け取れる可能性があります
- 従業員:廃業では職を失います。M&Aでは雇用を維持できる可能性があります
- 取引先:廃業では仕入先や販売先が代わりを探すことになります。M&Aでは取引関係を継続できる可能性があります
- 技術・信用:廃業では引き継ぐ相手がいないため失われます。M&Aでは次の担い手へ引き継げる可能性があります
- 希望条件に合う相手が見つかるとは限らない:事業価値を正しく評価し、雇用や企業文化の維持といった条件を満たす買い手が、すぐに現れるとは限りません
- 時間がかかる:相手探しから成約まで、半年から1年以上を要することがあります。長期戦になる前提で準備が必要です
- 情報漏えいのリスクがある:検討中であることが外部に漏れると、従業員の不安による離職や、取引先との関係悪化を招く可能性があります
- 譲渡後に経営方針が変わることがある:買い手の方針によって企業文化や労働条件が変わり、従業員が戸惑うことがあります
- 譲渡益に課税される:売却で得た利益には所得税・復興特別所得税・住民税がかかります。手取り額は税引き後で考える必要があります
- 簿外債務や偶発債務を引き継ぐリスク:決算書に載っていない簿外債務や、将来発生し得る偶発債務を、買収後に負う可能性があります
- 従業員の離職が起きることがある:経営方針の変更や企業文化の違いから、主要な役員や従業員が離れ、事業の継続に影響することがあります
- 期待した成果が出ないことがある:見込んでいたシナジーが生まれず、投資に見合う収益を得られない場合があります
- 統合後に文化の摩擦が起きる:異なる歴史や価値観を持つ組織が一緒になるため、業務の進め方をめぐって対立が生じることがあります
- PMIに時間とコストがかかる:人事制度や情報システムの統合など、成立後の統合作業には相応の労力が必要です
- 情報管理を徹底する:検討段階で開示する社内関係者を必要最小限に絞り、秘密保持契約を結んでから詳細を出します
- 譲れない条件を先に言語化する:従業員の雇用維持、屋号の継続など、価格以外の条件を交渉の入口で伝えます
- 不都合な事実も先に開示する:調査で後から発覚するほうが、信頼を損ないます
- 税負担を事前に試算する:手取り額を把握してから価格の交渉に入ります
- 早めに動き出す:時間があるほど相手を選べる側に回れます
- 現状分析と準備:経営状況・財務内容・強みを整理し、企業価値を把握します。譲渡条件や従業員の処遇についての希望もこの段階で整理します
- 方針の決定と依頼先の選定:M&Aを進めるかを判断し、仲介会社・FA・プラットフォームなどから依頼先を決めます。買い手候補向けの企業概要書を作成します
- 相手探しと交渉:候補が見つかったら秘密保持契約を結び、詳細を開示して交渉に入ります。条件が合意できたら基本合意を結び、買い手によるデューデリジェンスを受けます
- 最終契約と引き継ぎ:条件を最終調整し、株式譲渡契約などを締結します。対価の決済と経営権の移転を行い、従業員・取引先へ引き継ぎます
- 事業承継=目的、M&A=手段。重なり合う領域が「事業承継型M&A」
- M&Aの利点は選択肢の広さと対価、課題は相手探しと条件調整
- 赤字や債務超過でも、強みがあれば引き継ぎ手が見つかることはある
利益が出ている会社であっても、引き継ぐ人がいなければ事業は続けられません。廃業を決める前に、M&Aで事業を残せないかを検討する価値はあります。手取りの比較まで含めた内容は廃業とM&Aの比較の記事にまとめています。
事業承継型M&Aのデメリット・注意点
利点がある一方で、M&Aには注意すべき点もあります。双方が事前に把握し、対策を講じながら進めることが成否を分けます。
売り手(譲る側)のデメリット
譲る側が直面しやすい課題は次のとおりです。
このうち譲渡価格面と時間的コストについては、準備によって大きく変わります。財務や契約書、労務関係の書類を整えておくほど、買い手からの信頼を得やすくなり、調査や交渉も進めやすくなります。「相手が見つからない」の原因が、自社の情報が整理されていないことにある場合は少なくありません。
買い手(引き継ぐ側)のデメリット
引き継ぐ側にもリスクがあります。
簿外債務のリスクを抑えるための調査がデューデリジェンスです。売り手にとっても、隠さず開示することが結果的に信頼につながります。
デメリットへの備え方
挙げたリスクは、事前の対応でかなりの部分が小さくなります。
「時間に追われて条件を飲む」状況を作らないことが、最大の対策です。
3つの承継方法をメリット・デメリットで比較
M&A(第三者承継)を、親族内承継・従業員承継と同じ軸で並べてみましょう。自社にどれが向くかを判断する材料になります。
親族内承継の特徴
子どもや親族へ引き継ぐ方法です。関係者の理解を得やすく、早い段階から後継者を決めて育成できるのが利点です。相続や生前贈与で株式を移せるため、後継者が多額の買取資金を用意せずに済む場合もあります。
課題は税金です。自社株の評価額が高い会社では、受け取った側に多額の相続税・贈与税がかかります。加えて、後継者以外の相続人との間で遺留分の調整も必要になります。そもそも継ぐ意思があるかどうかも前提です。
従業員承継の特徴
役員や従業員を後継者にする方法です。事業の中身をよく知る人が引き継ぐため、取引先や現場の従業員にとって安心感があります。日ごろの働きぶりから適性を見極められるのも強みです。
課題は資金です。後継者が株式を買い取る場合、役員報酬の範囲で貯められる金額との間に開きが出やすくなります。会社の借入に付いた個人保証を引き継ぐかどうかも、承継を断られる理由になりがちです。詳しくは従業員承継(EBO・MBO)の記事で扱っています。
第三者承継(M&A)の特徴
社外の相手へ引き継ぐ方法です。候補者を広く探せることと、譲渡の対価を受け取れることが、他の2つにはない特徴になります。マッチングプラットフォームの普及により、以前より相手を見つけやすくなりました。
課題は相手探しと譲渡条件の調整です。売り手と買い手の条件が合わなければ成立しませんし、専門家への手数料も発生します。
3つの比較と、選び方の判断軸
同じ軸で並べると、自社に向くものが見えてきます。
| 項目 | 親族内承継 | 従業員承継 | 第三者承継(M&A) |
|---|---|---|---|
| 後継者の探しやすさ | 候補が限られる | 社内から選べる | 社外から広く探せる |
| 主な課題 | 相続税・贈与税と株式の分散 | 買取資金と個人保証 | 相手探しと譲渡条件の調整 |
| 準備期間の目安 | 5〜10年 | 3〜5年 | 半年〜2年 |
| 経営者が受け取るもの | 対価は発生しないことが多い | 株式の売却代金 | 譲渡の対価(創業者利益) |
| 経営の継続性 | 保たれやすい | 保たれやすい | 買い手の方針により変わる |
| 個人保証の扱い | 後継者が引き継ぐことが多い | 引き継ぎが障壁になりやすい | 交渉で解除できる場合がある |
準備期間はあくまで一例で、後継者の育成状況や会社の規模によって大きく変わります。そのうえで選ぶ際の軸は、「継ぐ意思のある適任者がいるか」と「必要な資金を確保できるか」の2つが中心になります。加えて、後継者の経営能力、株主構成、税負担、会社の将来像も踏まえて判断します。
注意したい点は、第三者承継が「他の2つが難しかった場合の最後の手段」とは限らないことです。親族に候補者がいる場合でも、事業の成長や本人の意向を踏まえてM&Aを選ぶケースはあります。3つを比べたうえで決めてください。
事業承継型M&Aの流れ
M&Aは思い立ってすぐ実行できるものではありません。全体の流れをつかんでおきましょう。
4つのステップ
検討の開始から承継の完了までは、おおむね次の順で進みます。
かかる期間の目安
相手探しから成約までは、半年から2年程度が一つの目安です。ただし条件や業種によって差が大きく、この期間どおりに進むとは限りません。
また、成約は終わりではありません。従業員や取引先への説明、金融機関との関係の引き継ぎ、業務の統合が済んで、はじめて新体制が動き出します。前経営者が一定期間、顧問や相談役として残るケースが多いのはこのためです。
各ステップの詳細はM&Aの流れの記事で、承継全体の準備は事業承継の進め方の記事で解説しています。
事業承継型M&Aを成功させるポイント
手順どおりに進めても、結果には差が出ます。実務で効いてくる要点を整理します。
依頼先を比較して選ぶ
相談先には、M&A仲介会社、FA、マッチングプラットフォーム、金融機関、事業承継・引継ぎ支援センターなどがあります。それぞれ手数料の体系も、得意な規模・業種も異なります。
比較するときは、着手金の有無、成功報酬の算定基準、最低手数料の設定、途中で終わった場合の扱いを並べて確認してください。相談先ごとの特徴はM&Aの相談先の記事で比較しています。
企業価値を把握し、譲れない条件を整理する
自社がどう評価されるかを先に知っておくと、提示された条件の妥当性を判断できます。あわせて、価格以外に譲れない条件も言語化しておきましょう。
「従業員の雇用を守ってほしい」「屋号を残してほしい」「取引先との関係を継続してほしい」といった条件は、面談の段階で伝えておくことで、後の交渉がぶれません。価格だけで比較すると、承継後に後悔が残りやすくなります。
情報管理を徹底する
検討中であることが漏れると、従業員の動揺や取引先の離反を招きます。開示する社内関係者は必要最小限に絞り、秘密保持契約を結んでから詳細を出すのが基本です。
ただし、デューデリジェンスや統合の準備では、一部の役員やキーパーソンに早い段階から関わってもらう場合もあります。誰に、いつ、何を伝えるかを計画しておいてください。
デューデリジェンスに誠実に対応する
調査で不都合な事実が後から発覚すると、条件の見直しや破談につながります。訴訟リスクや未払い残業代のような問題があっても、隠さずに開示するほうが結果的に有利です。
日ごろから決算書・契約書・労務関係の書類を整えておくことが、そのまま準備になります。資料が整っている会社は、買い手からの信頼を得やすく、調査や交渉も進めやすくなります。
従業員・取引先への説明とPMIを見据える
成約後の統合(PMI)がうまくいかないと、従業員の離職や業績の悪化を招きます。成約前から買い手と統合の方針をすり合わせておくことが、後のトラブルを防ぎます。
従業員への公表は、成約の見通しが立った段階で経営者から直接伝えるのが基本です。何が変わり、何が変わらないのかを具体的に示すと、不安は小さくなります。
TRANBIを活用した事業承継型M&Aの成約事例
マッチングプラットフォームの普及により、これまで相手が見つからなかった会社が承継を実現する例が増えています。実際の成約事例を4件紹介します。
事例①:長野県のリゾートホテル|「価値ゼロ」評価から7,500万円での譲渡へ
長野県でリゾートホテルを経営していたオーナー夫妻は、高齢のため引退を検討していました。自然災害の影響で客足が遠のき、娘たちへの承継も断念。大手M&A仲介会社からは「価値はゼロ円、仲介手数料2,000万円」と提示され、廃業の危機に直面します。
藁にもすがる思いでTRANBIに登録したところ、初日に7件、最終的に21社から問い合わせがありました。プラットフォーム経由で紹介された専門家の支援を受けながら複数の候補と交渉し、隣県でホテル経営を新規事業として検討していた不動産会社への譲渡が決まりました。
ゼロ円と評価されたホテルが、7,500万円で成約。事業と従業員の雇用を守ることができました。
成約インタビュー:大手仲介会社のゼロ円評価から一転、数千万円での譲渡に成功
事例②:茨城県の老舗製作所|技術力を評価する同業者と出会う
茨城県で創業50年の製作所を経営する84歳のオーナーは、予定していた親族への承継が白紙になり、従業員や取引先にも引き受け手が見つからない状況にありました。
金融機関の紹介で複数の買い手候補と面談。最終的に、同種の事業を展開するグループ会社を持つ企業とマッチングします。決め手になったのは、正式なM&A交渉の前に実際の仕事を先行して発注してもらい、お互いの技術力とシナジーを具体的に確認できたことでした。
希望額である数千万円で成約し、全従業員の雇用も維持。譲渡後は買い手からの発注が増え、新たな設備投資も検討されるなど、事業は成長を続けています。
成約インタビュー:創業50年の製作所、一度は後継者が白紙になるも金融機関が「これなら相手が見つかる」と確信した2つの理由とは?
事例③:切削・研磨加工業|数年見つからなかった相手が半年で決まる
従業員10名ほどの切削・研磨加工業を営む70歳の社長は、体力の限界を感じ第三者への承継を決意しました。しかし専門機関に相談しても数年間、譲渡先が見つかりません。
信用金庫の紹介でTRANBIに登録すると、すぐに多数の申し込みが集まり、交渉が進み始めます。社員の雇用継続を最優先条件に据え、相手企業の財務状況も決算書で確認。創業者同士で苦労を理解し合える人柄を重視して相手を選びました。
登録から半年以内に、事業内容と社風を理解する企業と成約。全社員の雇用を守り、自社製品の海外展開という新たな展望も託すことができました。
成約インタビュー:社員の雇用と事業を守るM&Aに成功!製造業を営む売り手がこだわった事業承継の条件とは?
事例④:清掃業|赤字・債務超過からの逆転
創業50年の清掃業A社は、先代の急逝後に3期連続の赤字と債務超過に陥り、廃業を覚悟していました。しかし顧問税理士とコンサルタントの助言で、「大手上場企業との取引口座」という他社が欲しがる強みに気づきます。
TRANBIで買い手を募ったところ、わずか2週間で20件近いオファーを獲得。財務の数字ではなく、長年培った信用と顧客基盤を評価する同業者とのマッチングが実現しました。
ベテラン従業員の雇用も守られ、社長は廃業の手続きと心理的な重圧から解放されました。「赤字だから廃業しかない」という思い込みが、大きな機会損失になり得ることを示す事例です。
成約インタビュー:継続赤字で廃業目前の老舗清掃事業者が無事に事業承継へ。会社を救った大きな"強み"とは?
事業承継とM&Aに関するよくある質問
事業承継とM&Aについて、経営者からよく寄せられる疑問にお答えします。
Q. 事業承継とM&Aはどちらを選ぶべきですか?
A. 比べて選ぶものではありません。
事業承継は「事業を次の代へ引き継ぐ」という目的、M&Aはそれを実現する手段のひとつです。正しくは「事業承継の手段としてM&Aを使うかどうか」という問いになります。親族や社内に継ぐ意思のある適任者がいるか、その人が必要な資金を確保できるかが、最初の判断軸です。
Q. 自社にどの方法が向いているか、見極めるポイントは?
A. 後継者候補の有無が最大の判断材料です。
親族や社内に経営を担う意思と資質のある人材がいれば、親族内承継や従業員承継が選択肢になります。見つからない場合はM&Aが有力です。あわせて、業界の動向、会社の成長戦略、経営者の引退後の計画も踏まえて総合的に判断してください。
Q. M&Aの手数料や費用の相場はどれくらいですか?
A. 依頼先と案件の規模によって大きく変わります。
仲介会社に依頼する場合、取引金額に料率を掛けるレーマン方式で成功報酬が算出されることが多くあります。あわせて最低手数料が設定されている場合が多く、譲渡金額が小さい案件ほど実質の手数料率は高くなります。費用の全体像は事業承継の費用の記事で解説しています。
Q. 赤字や債務超過でもM&Aはできますか?
A. 可能な場合があります。
買い手は現在の利益だけでなく、顧客基盤・技術・立地・人材・許認可といった事業の価値を評価します。取引先との口座や独自の技術があれば、赤字でも引き継ぎ手が見つかることはあります。まずは自社の強みを整理することから始めてください。
Q. M&Aで従業員の雇用はどうなりますか?
A. M&Aの手法によって扱いが異なります。
株式譲渡では会社自体が存続するため、原則として雇用契約もそのまま存続します。一方事業譲渡では、雇用契約は当然には移らず、従業員から個別に同意を得る必要があります。中小企業のM&Aでは買い手が継続雇用を望むケースが多く、雇用の維持を譲渡の条件として交渉に含めることもできます。
Q. 承継の方法を決める段階で起きやすいトラブルは?
A. 経営者と後継者候補の間で意見が食い違うことです。
親族内承継を進めようとしても子どもに継ぐ意思がない、経営方針をめぐって対立する、といったケースがあります。候補者が複数いる場合は、選定をめぐって親族や従業員の間で争いが起きることもあります。早い段階で関係者と話し合い、必要に応じて第三者の専門家に入ってもらってください。
まとめ|事業承継は目的、M&Aは手段
事業承継とM&Aは、比べて選ぶものではありません。事業承継は「事業を次の代へ引き継ぐ」という目的を指し、M&Aはそれを実現する手段のひとつです。親族に継がせるのも、従業員に継がせるのも、第三者に引き継ぐのも、すべて事業承継にあたります。そのうち第三者へ引き継ぐ場合には、M&Aが主な手段として用いられます。
M&Aを選んだ場合、売り手には後継者の選択肢が広がる、雇用を維持しやすい、創業者利益を得られる、個人保証を整理できる可能性があるといった利点があります。一方で、条件の合う相手が見つかるとは限らない、時間がかかる、情報漏えいのリスクがあるといった課題も伴います。準備を整えておくほど、この課題は小さくなります。
どの方法を選ぶかの軸は、継ぐ意思のある適任者がいるか、必要な資金を確保できるかの2点が中心です。ただしM&Aは「他が難しかったときの最後の手段」ではありません。3つを比べたうえで、自社にとって最も現実的な道を選んでください。
親族にも従業員にも適任者が見つからない場合でも、第三者へ引き継ぐ道があります。国内最大級のM&A・事業承継マッチングプラットフォーム「TRANBI(トランビ)」では、事業を譲りたい経営者と、引き継ぎたい方が直接出会えます。まずはM&A案件一覧を見て、どのような事業がどう引き継がれているのかを確かめてみてください。
