2018-03-05
大手仲介会社のゼロ円評価から一転、数千万円での譲渡に成功
森のホテル|長野県
今回ご紹介する事例は、長野県南木曽で長年経営されてきたリゾートホテル「森のホテル」のM&Aによる事業承継の成功事例です。
売上1億円ほどのこのリゾートホテル、60歳を越えたオーナー夫妻が住込みで経営をしていましたが、そろそろ引退をと考えたところで幾多の困難が待ち受けていました。今回は、引退を考え始めた経緯から、トランビ上でマッチングした会社様と無事成約に至るまでの道のりをお伺いしました。
20代で思いがけずホテルの経営を父から引き継ぐことに
「50年ほど前、町が払い下げた施設を父が買い取ってスタートしたのがこのホテルです。当時は、古い民家を移築しただけのもので、民宿に毛が生えた程度でしたけどね。」
今回ご紹介する「森のホテル」は、東に木曽駒ケ岳、西に御嶽山を仰ぎ、古くは中山道の宿場町として栄えた人口1万2000人ほどの小さな町に位置する。
高度経済成長期には、日本の原風景を求めて都会から多くの観光客がこの小さな町に詰めかけるようになる。
中心部から林道を進むと、名門ゴルフコースや大企業の保養所が立ち並ぶ一角にアイボリーの壁に赤い瓦屋根が印象的な、瀟洒な佇まいのホテルが姿を現す。
多くのお客様が訪れ忙しいけれども穏やかな空気が流れるホテルの毎日。そんな日々を見て成長した少年時代の社長の心にも、「いずれ自分がこのホテルを継ぐんだ」という気持ちが芽生えていたという。しかし、その時は思いもよらないタイミングで早くに訪れた。
「大学2年生の時に、オーナーだった父が倒れた、という知らせを受けまして。急遽学業を取りやめて実家を継がなければならなくなったんです。そこから右も左も分からない状態での経営でしたが、木曽には豊かな自然がありますので、夏にはゴルフ、冬にはスキーと、季節ごとに訪れてくれるお客様のおかげでやってこれました。よく2月・8月は閑散期といいますが、うちは逆でしたね(笑)。」
こうして20代でスタートしたリゾートホテルの経営だったが、世間は逆に、ゆっくりと停滞期に向かっていた。
バブル崩壊後の長引く不況でゴルフやスキーなどのレジャー客の足が遠のいたのが主な理由だった。1992年に137万人だったスキー客が現在では約20万人と、約7分の1にまで減少している。
前オーナーの田屋氏
「近くにあったスキー場も先ごろ廃業しました。……来訪客がピークの頃には、どこも羽振りがよかったんです。周りの同業も皆、改築したり増築したりして。うちもその時に、今の形に改築しました。けれど、うちは町の施設を払い下げてもらって開業したという経緯があったので、土地が町からの借地だった。なので、銀行から融資を得るときに担保にならなかった。それでとても苦労しました。多くの人の協力を得て、義父に保証人になってもらい、なんとか銀行から数億の融資を得るまでに、2年もかかりました。そうして新館を建て、月に数百万円の返済も、返し続けることができた。本当に苦しいときは、妻に内緒でカードのキャッシングまで使って。私の給料はゼロ。それでも、うちは客層がよくて。厳しいながらも楽しく、幸せにやっていました。」
後を継いでも良いと言ってくれた娘ではなく、第三者への譲渡を決断
「住込みで働きながらホテルを切り盛りし、忙しくも楽しい毎日を過ごしているうちに、気づけば20年以上の年月が流れていました。自分もそろそろ引退して第二の人生を考える頃になっていました。」
父の代から数10年に渡って経営してきたホテル、自分の人生そのものと言っても過言ではないホテル の後継者をどうしようかと考え始めた頃に、事件が起きます。それは、木曽町の西にそびえる御嶽山の噴火でした。
「私には娘が2人いるのですが、『お父さんとお母さんの後を継いでホテルの運営をしても良いよ』と言ってくれていました。しかし、2人とももう都会に嫁に行っており、旦那の仕事もあるのでそんなに簡単に進む話ではない。しかも、御嶽山の噴火で客足も遠のいている。父親としては後を継いでも良いと言ってくれる娘2人の気持ちは嬉しかったですが、都会で安定した家庭を築いているのにそれを捨てさせてまで、苦しい事業環境になっているこのホテルを継がせることはできませんでした。そこで、M&Aで第三者に事業承継をしようと考えたんです。」
ホテル館内に飾られている、田屋氏の二人のお嬢さんの肖像画。
お客さんである有名な画家の方が描いた作品とのこと。
大手M&A仲介は中小企業の相手をしてくれない
娘さんへの事業承継をしないことに決めたオーナーは、その旨をメインバンクの地銀に報告しM&Aの進め方についてアドバイスを求めました。
メインバンクの担当者から某大手のM&A仲介会社に相談してみてはどうかと言われ、長年世話をしてくれた銀行が紹介してくれるのだからとそのM&A仲介会社の担当者と会うことになりました。
しかし、紹介された某最大手のM&A仲介会社と面談して言われたのは衝撃的な内容でした。
「ゼロ円なら買い手が見つかるかもしれませんが、仲介手数料として最低2,000万円を頂戴します。」
なんと、長年手塩にかけて育ててきたホテルの価値をゼロ円と評価されてしまったのです。
「もう銀行に借金はないし、そもそも借金で潰れたなんて言われたくないから今まで頑張ってきた。そういう自負はありますし、まさか譲渡した上に自分の手出し資金が必要とは……。結局、ああいうところは大企業しか相手にしてくれないんですね。うちみたいな中小企業の事業承継の相談はカネにならないからやらないんですよ。」と、譲渡が決まった後のインタビューにも関わらず、オーナーは、そのときの様子を悔しそうに語ってくださいました。
オーナーはこの仲介会社に見切りをつけ、他の方法で相手を探してみようとしたものの、ホテルの運営は毎日続けなければならず、「もう廃業するしかないのか」と不安ばかりが募る日々が続きます。そんなときに新聞で偶然見つけたのが、廃業問題・事業承継問題をインターネットの力で解決するサービスを展開していたTRANBI(トランビ)でした。
ゼロ円と評価されたホテルに1億円近い値段が付いた
「偶然知ったトランビを使ってみようと思い、ピックアップ案件という所に登録してみたんです。そうしたら、その日のうちに7件も問い合わせが舞い込んできた。1年くらい、色々なところにあたってみても全く話が出てこなかったのに、今までのはなんだったんだというくらい問い合わせがあり、本当に驚きました。
最終的には21社の買い手候補から問い合わせが入り、逆にどこの相手先に譲渡するかを選ばなければいけない嬉しい悲鳴とも言える状態になりました。
まさにインターネットを使って広くマッチング先を募集したからこその結果となったのです。
オーナーは、そこからトランビ上でのメールのやり取りや面談などを経て、3社にまで譲渡候補先を絞り、最終的な交渉を始められました。
「最終交渉の段階では、譲渡スキームや譲渡価額の算定など複雑なやりとりが続いたのですが、トランビから紹介を受けた専門家の方が親身になって交渉にあたってくれて。1年以上話し合いを続けた結果、なんとか、判を押すことができました。」
実は、M&Aの専門家である某大手仲介会社に実質的な謝絶をされていたオーナーですが、最終交渉では、トランビから紹介されたM&Aを専門とする会計士のアドバイスを受けて交渉に臨まれました。
なぜこの会計士は、案件を引き受けることができたのでしょうか。
最大のポイントは、多くの買い手候補からオファーが届いたことにより、オーナー側が買い手を選べる状態になったことでした。一般的に、M&A仲介会社は、売主から案件を引き受けた後に買い手探しを行うため、買い手を見つけ辛い案件や値段をつけ辛い案件を積極的には引き受けたがらない傾向があります。一方で、会計士などの財務の専門家は、会社の財務状態のチェックやスキーム設計は得意ですが、ネットワークを保有していないため買い手を探すことが苦手です。
このケースでは、オーナー側が買い手を選べる程に買い手が殺到したことにより、専門家がマッチング先となる買い手を探す必要がなくなったことから、財務の専門家である会計士をトランビから紹介することが可能になったのです。
そして、最終的には、専門家のサポートを受けながら交渉を進めた結果、ゼロ円と評価されたホテルを1億円に近い金額で売却することができたのです。
事業を引き継いだのは不動産会社
ホテル事業を承継したのは、企業は隣県の不動産会社でした。ホテルの買収を決めた背景には、多角化の一貫として新規事業に取り組みたいとの想いがあったそうです。
このケースでは、ホテルや旅館などの宿泊業を営んでいる同業者ではなく、新規でホテル事業に参入をしようとしていた企業が事業承継先となりました。新規事業にチャレンジしようとしている企業は、業務経験も、顧客も、従業員もないゼロの状態から事業の立ち上げをしなければいけません。そのような会社からすれば、何十年もの業歴を持つ事業には、とても大きな魅力があるのです。これまで蓄積してきた経験やノウハウ、リピーターのお客様は会社の非常に大きな資産です。新規参入を考えている会社にとっては、事業を引き継ぐことでこれらを手に入れられるのであれば、そこに大きな価値を見出すことができるのです。
M&A仲介会社をはじめとする専門家は、同業種・同地域の会社が有力なマッチング先になると考えがちです。しかし、このケースのようにトランビでは、異業種や他地域の会社による事業承継の事例が多数あります。トランビは、M&A仲介会社のフィルターを通すことなく、マッチング先となる買い手候補にアプローチができるサービスです。そのため、意外な先だけれども有力な先から声がかかることも少なくありません。
中小企業の事業承継・M&Aマッチングにおいては、多額の人件費がかかるやり方よりも、インターネットの力を活用して短期間で多数の候補先を集める方法が、時間とコストの両面から有効なのです。
※本事例は、Biglife21の許諾を得て加筆修正しております。
別の成約者インタビュー記事を読みたい方はコチラ:
▶「高齢でやむなく印刷代行業社を事業継承。辣腕サラリーマンが経営者の思いを引き継ぐ」▶「1,000万円をかけて作り上げた事業を数十万円で譲渡した理由 ~お金よりも相手の夢を応援したい~」