後継者のいない会社を買うリスクは?事業承継で廃業を回避する

後継者のいない会社を買うリスクは?事業承継で廃業を回避する

M&Aには『後継者のいない会社を買う』という選択肢があります。昨今の日本は、黒字経営でありながら、後継者が見つからずに廃業を余儀なくされる中小企業が多いのが現状です。事業承継に悩む企業を買収する意義や、売り手の見つけ方を解説します。

後継者不在問題の現状

かつてM&Aは大企業や上場企業が行うものでしたが、近年は個人によるスモールM&Aが増加しています。その背景には、後継者不足で廃業を選択せざるを得ない中小企業が日本全国で増えていることが挙げられます。

中小企業経営者は高齢化している

日本の企業の99%以上は、中小企業で占められています。大企業と呼ばれる会社は1%にも満たず、我が国の産業や雇用は中小企業が支えているといっても過言ではありません。

しかし近年は、中小企業が廃業の危機にひんしています。企業によって事情は異なりますが、経営者が70代、80代と高齢化し、経営を継続することが困難になるケースが増えているのです。

中小企業庁が公開する『事業承継ガイドライン』によると、中小企業の経営者の年齢層は、2020年の時点で60~74歳に集中しています。

後継者に経営を譲り、引退するのが本来ですが、日本は深刻な後継者不足に直面しているのが現状です。70代、80代に入ると、体力的な面で経営を続けていくのが難しくなるため、最終的には廃業を選択せざるを得ないのです。

参考:最近の中小企業の景況について|中小企業庁

参考:事業承継ガイドライン|中小企業庁

60万社以上が黒字廃業の危機に

中小企業庁の資料によると、後継者不在により黒字廃業を余儀なくされる中小企業は、2025年までに60万社以上になると見込まれています。

廃業予定のある企業のうち、約3割が『同業他社よりも良い業績を上げている』、約4割が『少なくとも現状維持は可能』と回答しており、赤字で廃業をする企業は半数以下にとどまります。

この状況を放置した場合、2025年までに約22兆円のGDPが失われると見込まれています。この危機的状況を受け、中小企業庁は2021年4月、小規模・超小規模M&Aを後押しするための『中小M&A推進計画』を発表しました。

事業継続の手段としてM&Aに大きな期待が寄せられている昨今、会社や事業を買収したい個人や企業にとっては、またとないチャンスといえるでしょう。

参考:中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題|中小企業庁

参考:事業承継ガイドライン|中小企業庁

なぜ後継者がいないのか

中小企業の後継者不足が深刻な要因は一つだけではありません。多くの中小企業が『親族』を後継者として選ぶ傾向がありますが、円滑な承継ができないさまざまな理由があります。

事業承継対策が遅かった

後継者不在の背景には、事業承継対策の遅れが関係しています。

かつては、子どもや孫が家業を継ぐのが当たり前と考えられていました。しかし考え方や生き方が多様化した現代では、家業を継ぐよりも、自分の好きな道を選択して、後悔のない生き方をしたいという人が増えているようです。

後継者を育成するには、多くの時間とコストがかかります。いくら子どもや孫がいても、本人に継ぐ気がなければ育成は先に進みません。その結果、現経営者が高齢になっても事業承継の準備が行われず、現経営者の急病や死去と同時に会社も消滅してしまいます。

後継者による株式の買い取りが困難

親族以外に後継者候補がいても、会社の引き継ぎが困難なケースもあります。日本における事業承継で最も一般的なのは、後継者に自社株の全部または大半を取得させて筆頭株主にする方法です。株式会社の場合、株式の過半数を取得すると経営を実質的に支配できます。

親族以外の後継者には株式を買い取るだけの資金力が求められますが、後継者に資金力がない、または自社株の評価額が非常に高額な場合、株式の買い取りは困難を極めます。

特に、創業からの歴史が長い会社は多額の内部留保を抱えている可能性があり、株式の買い取りに数億円の資金が必要になるケースもあります。

会社に借金がある

黒字廃業を選択する企業がある一方で、負債を抱える中小企業も少なくありません。

負債を抱えた赤字企業を引き継ぐと、後継者が債務の返済に苦労することになります。場合によっては、後継者自身の財産も失ってしまうため、負債のある企業を引き継ぐには相当の覚悟が必要です。

一方で、M&Aでは負債を抱えた中小企業を第三者が買収するケースも多く見受けられます。メガネ製造販売チェーン『OWNDAYS』代表取締役社長の田中修治氏は2008年、当時14億円もの負債を抱えていた同社を実質0円で買収し、経営の立て直しに成功しました。

負債を抱えた企業は、M&Aでの取引価格が低くなるのが一般的です。金額を抑えるためにあえて業績の悪い企業を買収する選択肢もありますが、立て直しができるかどうかは、後継者の経営力次第です。

後継者のいない事業や会社を買う意味

近年は、第三者への事業承継を望む中小企業が増加傾向にあり、国や民間の事業承継サポートも充実しつつあります。後継者のいない会社の買収は、買い手や売り手にとって、どのような意味やメリットがあるのでしょうか?

優れた技術やノウハウの伝承

中小企業の中には、優れた技術やノウハウを保有する企業が多くあります。特にものづくりの現場では、昔ながらの製法を現在まで受け継いできた小さな企業が廃業の危機にさらされているのが現状です。

後継者のいない事業を第三者が買収すれば、これまで培ってきた技術やノウハウが維持されるでしょう。会社買収を考える人の中には、『日本の素晴らしい技術と歴史を後世に残していきたい』という志を持つ人も多くいます。

日本のものづくりを支える中小零細企業が廃業となれば、社会全体に損失を招きかねません。加えて、中国をはじめとする海外勢が買収に加わる結果となり、日本から技術力やノウハウが流出する結果にもつながるでしょう。

従業員の雇用を守る

これは売り手にとってのメリットともいえますが、第三者による会社買収には『従業員の雇用を守る』という役割があります。M&Aで第三者が経営を引き継いでくれれば、従業員の雇用が維持される可能性が高いでしょう。

中小企業の資料によれば、後継者不在問題を放置した場合、2025年までに約650万人の雇用が失われるとされています。雇用が失われると、国や自治体の税収が激減し、日本経済全体の衰退につながるでしょう。

後継者のいない企業を買収することは、社会全体を活性化させる意味合いも含んでいるのです。

事業承継に悩む事業、会社の探し方

上場企業や大手のM&Aに対し、規模が小さな中小企業のM&Aは『スモールM&A』と呼ばれています。売り手を探す主な方法としては、『事業承継・引継ぎ支援センターへの相談』と『M&Aプラットフォームの活用』が挙げられます。

事業承継・引継ぎ支援センターに相談

事業承継・引継ぎ支援センターとは、『独立行政法人中小企業基盤整備機構』が運営する公的な相談窓口です。後継者不足に悩む企業と事業を買収したい人をつなぐ役目を担っており、各都道府県に窓口があります。

『後継者人材バンク』に登録・相談すると、後継者不在の事業者とのマッチングが行われます。通常、M&Aの仲介会社を利用すると、相談料や着手金、リテイナーフィーなどの費用が発生しますが、事業承継・引継ぎ支援センターは登録や相談が無料です。

トップ|事業承継・引継ぎポータルサイト

M&Aプラットフォームの活用

M&Aプラットフォームとは、売り手と買い手をつなぐマッチングサイトのことです。相手探しから成約まで、ほぼオンライン上で完結できる点において、案件探しに十分な時間が割けないという多忙なオーナーや会社員に向いています。

検索画面では、買収価格や地域、業種などの条件が設定できるため、自分が希望する案件が見つかりやすいでしょう。

『TRANBI(トランビ)』は、『M&Aプラットフォームサイトランキング2021』『M&Aプラットフォームサイトランキング2022』と2年連続で総合第1位を獲得したM&Aマッチングサイトです。掲載案件数は2,500件以上で、未経験者のM&A成約率は約75%を誇ります。

2021年からは事業承継・引継ぎ支援センターとの連携が始まり、サイト内で『事業承継・引継ぎ支援センターM&A案件』の検索も可能です。

M&A案件一覧|トランビ 【M&Aプラットフォーム】
案件一覧
M&A案件一覧|トランビ 【M&Aプラットフォーム】

M&Aに挑戦する登録者数10万人以上、常時M&A案件数は2,500件以上を掲載中

後継者不在の案件は成立しやすい?

M&Aが成立するには需要と供給、すなわち売り手と買い手のバランスが重要です。後継者不在の中小企業が増えている現状は、買い手にとって『案件が成立しやすい』といえるのでしょうか?

譲受希望者の増加により売り手市場

後継者不在の企業が増えているといっても、全ての企業が第三者への譲渡を選択するわけではありません。日本政策金融公庫による『事業承継マッチング支援』の実績を見てみましょう。

2019年 2020年 2021年(4~9月)
譲渡希望数 93件 70件 615件
譲受希望数 238件 306件 1,193件

現時点では、譲受希望数が譲渡希望数を大きく上回っており、中小企業のM&Aは『売り手市場』といえます。優良案件は競争率が高いため、常に最新情報をチェックし、申し込みのタイミングを逃さないことが肝要です。

参考:「事業承継マッチング支援」の申込みが増加 |日本政策金融公庫

個人の買い手も参入

売り手市場である要因として、『個人の買い手』がM&Aに参入している点が挙げられます。

2019年の働き方改革関連法の施行以降、副業や兼業が促進され、会社員が二足のわらじを履くケースも増えてきました。もはや終身雇用が保証されない昨今、一国一城の主となる選択肢は、決して珍しいものではなくなってきています。

『ゼロからの起業に比べて手間が少ないこと』も、個人がM&Aを選択する理由です。既に完成されたビジネスモデルを買収するため、経営を軌道に乗せるまでの時間を大幅に短縮できます。

後継者不在に悩む業界は?

日本では、ほぼ全ての業種・業界で後継者不足が進行していますが、特に深刻度が高いのはどのような業界なのでしょうか?『業績が好調なのにもかかわらず、後継者の不在率が高い』という業界は、買い手にとって大きなチャンスです。

建設業、サービス業、小売業など

帝国データバンクが2021年に実施した後継者動向の調査によると、全国・全業種約26万 6,000社のうち、後継者が「いない」または「未定」と答えた企業は約16万社でした。

後継者不在率は全業種で過去最低の61.5%となり、中でも『建設業』『サービス業』『小売業』では、後継者不足が顕著です。

  • 建設業:67.4%
  • サービス業:66.5%
  • 小売業:63.7%
  • 不動産業:62.8%
  • 卸売業:59.1%

参考:特別企画:全国企業「後継者不在率」動向調査(2021 年)|帝国データバンク

飲食店は特に深刻

飲食業界は、人手不足と後継者不足のダブルの困難に見舞われています。地元で長年愛されてきた名店や老舗、個人経営の飲食店が次々と廃業となり、商店街の活動を継続できないエリアが増えているのが現状です。

後継者が見つからない要因としては、収入の割には仕事がハードな点が挙げられるようです。また、従業員に経営を引き継ごうとしても、『料理の腕前は良くても経営能力がない』という場合、適任者が見つからないまま廃業となってしまいます。

大手に買い取ってもらう手もありますが、店の味や伝統が守られる保証がないことから、売却に二の足を踏む経営者も多いようです。

信頼できる個人に自分の思いを引き継いでもらいたいオーナーと、思いを受け継ぎながら収益拡大を目指したい個人の目的が一致すれば、事業承継が成立します。従業員数の少ない店舗の場合、取引価格は1000万円以内に収まる可能性があるでしょう。

廃業寸前の飲食店を救った事例

飲食店を開業するとなると、内装・外装・許認可の取得・スタッフの育成などで、数千万円の資金が必要となりますが、M&Aであれば数百万円の自己資金でオーナーになることが可能です。

実際、地元で愛されるフランス菓子店を個人が約800万円で買収した事例があります。買い手は、菓子の知識や経験はほとんどない状態でしたが、パティシエを継続雇用し、前経営者をアドバイザーとして迎えることで、休業なしのスムーズな引き継ぎが実現しました。

本件のように、黒字で利益が出ているにもかかわらず、後継者不足で店を閉めざるを得ない飲食店は数多く存在します。廃業間近の個人経営店もあり、案件探しや交渉にはスピーディーさが求められています。

成功事例インタビュー | 事業承継・M&Aプラットフォーム TRANBI【トランビ】
成功事例
成功事例インタビュー | 事業承継・M&Aプラットフォーム TRANBI【トランビ】

“あと1~2週間で廃業”の洋菓子店を救った、20代若者の即断力

まとめ

日本はこれまでにない後継者不足の危機に直面しており、国も大々的に事業承継のためのM&Aを推進しています。買い手にとってはチャンスといえますが、実際は売り手市場で、優良案件は競争率が高いのが実情です。

中小企業の買収を考えている人は、『ライバルが多い』という事実を念頭に置きましょう。売り手に後継者として選んでもらうためには、自分の熱意を伝える意識が欠かせません。

TRANBIでは、M&Aの成功事例や経営者のインタビュー、初心者向けのノウハウ動画などを公開しています。M&A戦略を立てる上での参考として活用しましょう。

成約・成功事例インタビュー|トランビ 【M&Aプラットフォーム】
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成約・成功事例インタビュー|トランビ 【M&Aプラットフォーム】

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記事監修:小木曽公認会計士事務所 小木曽正人(公認会計士、税理士)
【プロフィール】
1999年公認会計士2次試験合格後、大手監査法人にて法定監査、IPO支援等に従事したのち、2004年より東京と名古屋にてM&A専門チームの主力メンバーとして100件以上のM&A案件に従事。2014年12月に独立開業し、M&A、事業承継、株価評価といった特殊案件のみを取り扱った会計事務所を展開している。