ファンドとは?PE・VC・事業承継ファンドの違いをわかりやすく解説
「ファンドが入る」と聞いても、何が起きるのかは分かりにくいものです。PEファンド・VC・事業承継ファンドは、投資する相手も目的も関わり方も異なります。それぞれの違いを比較表で整理しながら、株主が変わると経営がどう変わるのか、判断に必要な視点を解説します。
「ファンドが入る」「ファンドに売る」という言葉を耳にしても、それが具体的に何を指すのかは分かりにくいものです。ひとくちにファンドといっても、投資する相手も、目的も、関わり方もまったく異なります。
本記事では、ファンドの基本的な仕組みを押さえたうえで、PEファンド・VC(ベンチャーキャピタル)・事業承継ファンドという代表的な3つの違いを比較します。それぞれの特徴、企業にファンドが入るとどうなるのか、活用するメリットと注意点までを解説します。
資金調達や事業承継の相談先としてファンドを検討している経営者の方、ファンドという言葉の整理をしたい方に向けた内容です。
ファンドとは?意味・仕組み・役割をわかりやすく解説
まずは言葉の意味と、お金がどう流れているのかという仕組みを整理します。ここが分かると、後で見る3つの違いも理解しやすくなります。
ファンドとは投資家から集めた資金を運用する仕組み
ファンドとは、複数の投資家から資金を集めてひとつにまとめ、専門家が運用して、得られた利益を投資家に分配する仕組みを指します。日本語では「基金」と訳されることもあります。
資金を出すのは、年金基金、金融機関、事業会社、富裕層などです。PEファンドやVCなどで用いられる組合型のファンドでは、運営を担う主体をGP(General Partner)、資金を出す投資家をLP(Limited Partner)と呼びます。
PEファンドやVCなどの多くは運用期間が定められており、期間の終わりに投資先を売却して資金を回収し、投資家へ分配します。
この「期限がある」という点は、企業側にとって重要です。ファンドが自社に投資した場合、いつかは株式を手放すことが前提になっているからです。
「ファンドが入る」とは何を意味するのか
経営の場面で「ファンドが入る」と言うとき、多くはファンドが自社の株式を取得し、株主として経営に関与する状態になることを指します。
持ち株の割合によって関わり方は変わります。過半数の議決権を取得すれば、株主総会の普通決議を単独で成立させられるなど、経営への影響力が大きくなります。少数出資の場合でも、議決権や投資契約上の権利を通じて経営に関与することがあります。
あわせて、役員の派遣、月次での業績報告、投資契約に基づく取り決めなど、社内の仕組みが変わることもあります。何がどう変わるのかは、後の章で詳しく扱います。
なぜファンドが企業に投資するのか
ファンドの目的は、投資した企業の価値を高めて、最終的に売却して利益を得ることです。この最終的な売却をイグジット(エグジット/EXIT)と呼びます。
ここが銀行融資との根本的な違いです。融資は貸したお金に利息を付けて返してもらう取引ですが、ファンドは株主として企業の価値そのものが上がることで利益を得ます。だからこそ、経営に関与して業績を伸ばそうとします。
ここで押さえておきたいのが、お金の流れが2通りあることです。増資による出資であれば、企業は返済義務のない資金を調達できます。一方、既存株主から株式を買い取る形では、原則として売却代金を受け取るのは既存株主であり、会社に資金が入るわけではありません。どちらの形になるかで、企業にとっての意味は変わります。
ファンドの主な種類|PEファンド・VC・事業承継ファンドの違いを比較
ファンドにはさまざまな種類がありますが、企業の経営に関わってくるのは主に3つです。まず全体像を比較表で確認してから、それぞれの特徴を見ていきます。
3つのファンドを一覧で比較
投資する相手の段階が違い、目的が違い、その結果として関わり方も変わります。
| 比較項目 | VC(ベンチャーキャピタル) | PEファンド | 事業承継ファンド |
|---|---|---|---|
| 投資する相手 | 創業から成長初期のスタートアップ | 中堅から成熟期の企業 | 後継者が見つからない企業 |
| 主な目的 | 急成長によるリターンの獲得 | 企業価値を高めてから売却する | 事業を止めずに次へつなぐ |
| 出資の割合 | 少数株主にとどまることが多い | 過半数を取得することが多い | 案件により幅がある |
| 経営への関与 | 助言や紹介が中心 | 役員を送り込み深く関与 | 経営を支えながら承継を進める |
| 保有する期間 | 上場や売却まで数年 | おおむね数年 | 比較的長め |
| リスクの性質 | 当たれば大きいが失敗も多い | 既存事業の改善が前提 | 事業の継続を重視 |
この表は一般的な傾向を整理したものです。出資割合や保有期間はファンドの方針や個別の案件によって変わるため、実際に検討する際は相手ごとに条件を確認することになります。
違いを分けているのは「投資する相手の段階」
3つの違いを整理するときは、分類の軸が2つあることを押さえておくと理解しやすくなります。VCとPEファンドは主に投資対象の成長段階や投資手法による違い、事業承継ファンドは後継者不在という課題への対応に重点を置いた分類です。
VCが相手にするのは、これから伸びるかどうか分からないスタートアップです。実績がないぶん失敗も多いので、多くの会社に少しずつ投資して、当たった1社で全体を回収する形になります。だから1社ごとの関与は浅くなります。
PEファンドが相手にするのは、すでに事業が回っている中堅・成熟企業です。すでに事業基盤を持つ企業に投資し、経営改善や成長施策によって企業価値の向上を目指します。そのため、過半数の株式を取得するなどして、経営に深く関与するケースが多くあります。
事業承継ファンドが相手にするのは、事業に問題はないのに引き継ぐ人がいない企業です。企業価値の向上を図りながら、後継者不在という課題を解決し、事業を次の担い手へつなぐことに重点があります。
VCとPEファンドは投資する相手の段階が違うから目的が変わり、関わり方も変わります。事業承継ファンドは、そこに後継者不在という課題への対応が重なる形になります。
PEファンドの特徴|企業価値を高めて売却する
3つのうち、経営への関与が最も深いのがPEファンドです。ここでは比較のうえで押さえておきたい点に絞って説明します。
中堅・成熟企業の株式を取得して経営に関わる
PEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)は、未上場企業や上場企業の株式を取得し、経営に関与して企業価値を高めたうえで売却するファンドです。
対象になるのは、すでに事業が確立している中堅・成熟企業です。過半数の株式を取得して議決権を握り、役員を派遣したり、事業計画を作り直したりして、収益力を高めていきます。
買収資金の一部を借入でまかなう手法が使われることもあり、これをLBOと呼びます。経営陣が自社を買い取るMBOを支援する形で関わることもあります。
経営者にとっての意味
PEファンドが入ると、経営の進め方は大きく変わります。数字の管理は厳しくなり、意思決定にも株主としての合意が必要になります。一方で、人材の紹介、取引先の開拓、資金調達といった面で支援を受けられます。
売却前提であることも押さえておく必要があります。数年後には別の相手に株式が渡るため、その先の経営をどうするかまで含めて考えることになります。仕組みや実際の流れは下記の記事で詳しく扱っています。
VC(ベンチャーキャピタル)の特徴|成長への投資
VCは3つのなかで最も早い段階の企業に投資します。関わり方も、PEファンドとは対照的です。
スタートアップに出資して成長を後押しする
VC(ベンチャーキャピタル)は、創業から成長初期のスタートアップに出資し、企業価値が高まった段階で株式を売却して利益を得るファンドです。
投資する時点では、事業が成功するかどうか分かりません。そのため複数の企業に投資し、その中で大きく成長した企業から得るリターンがファンド全体の収益を支えることがあります。1社あたりの出資は少数株主にとどまることが多く、PEファンドのように経営支配権の取得を前提としないケースが一般的です。
企業側から見れば、返済義務のない資金を得られる点が大きな利点です。担保も保証も求められないため、実績のない段階でも資金調達ができます。
経営者にとっての意味
VCの関与は助言や紹介が中心で、日常の経営は経営者に委ねられます。ただし出資を受けた以上、成長への期待に応える必要があります。投資契約の中で、上場を目指す時期や、株式の扱いについての取り決めが置かれることもあります。
個人投資家から出資を受けるエンジェル投資との違いや、資金調達の進め方は下記の記事にまとめています。
事業承継ファンドの特徴|後継者不在の企業を引き継ぐ
3つめは、後継者が見つからない企業を対象にしたファンドです。企業価値の向上を図りながら、事業承継の支援に重点を置いている点が特徴です。
事業を止めずに次の担い手へつなぐ
事業承継ファンドは、後継者が見つからない企業の株式を取得し、経営を支えながら次の担い手へ引き継ぐことを目的としたファンドです。
対象になるのは、事業そのものは回っているのに、継ぐ人がいない企業です。ファンドが一度株式を引き受け、経営人材を派遣したり組織を整えたりしたうえで、事業会社への譲渡や経営陣への譲渡といった形で次へつなぎます。
PEファンドと重なる部分も多く、事業承継という課題に重点を置いたPE投資と捉えるとわかりやすくなります。企業価値の向上を図る点は共通しており、そのうえで事業と雇用の維持を重視するのが特徴です。政府系や地方銀行系など、地域の企業を支える立場のファンドも存在します。
経営者にとっての意味
売却によって創業者利益を得られること、個人保証が外れる可能性があること、従業員の雇用を守れることが、経営者にとっての主な利点になります。一方で、審査を通らない場合があること、ファンドが次の相手へ売却する際に所有者がもう一度変わることは、あらかじめ理解しておく必要があります。
ファンドの種類や選び方、実際の手順は下記の記事で詳しく解説しています。
サーチファンドという選択肢もある
近年広がっているのがサーチファンドです。経営者を目指す個人(サーチャー)が投資家から資金を集め、承継先を探して、自ら経営者として引き継ぐという仕組みです。
PEファンドなどと異なり、サーチャー自身が買収先を探し、買収後は自ら経営者として経営に携わる点が特徴です。後継者不在の企業にとっては、事業承継ファンドと並ぶ選択肢になります。サーチファンドに関して詳しくは下記の記事をご覧ください。
ファンドが企業に入るとどうなる?
「ファンドが入る」と聞いたとき、実際に社内で何が起きるのかは気になるところです。種類によって程度の差はありますが、共通して変わる点を整理します。
株主が変わり、経営の決め方が変わる
最も大きな変化は、株主にファンドが加わることです。持ち株の割合によっては、これまで経営者ひとりで決めていた事項に、株主としての同意が必要になります。
具体的には、大きな投資、役員の選任、事業の売却といった重要な決定が対象になりやすい部分です。投資契約の中で、どの範囲を株主の同意事項にするかが取り決められます。
数字の管理と報告が細かくなる
ファンドは投資先の状況を継続的に把握する必要があるため、月次での業績報告や、資金繰りの提出を求めることが一般的です。
これまで年に一度の決算だけで済ませていた会社にとっては、負担が増える面があります。一方で、数字を毎月見る習慣がつくこと自体が経営の改善につながるという側面もあります。
人材やノウハウが持ち込まれる
役員や管理部門の人材が派遣されることがあります。特にPEファンドや事業承継ファンドでは、経営を支える人材の投入が支援の柱になります。
取引先の紹介、金融機関との調整、業務の仕組みづくりなど、資金以外の支援を受けられるのもファンドが入る意味のひとつです。
いつかは株式が手放されることを前提にする
PEファンドやVCなどの多くは運用期間が定められているため、投資先の株式を長期にわたって持ち続けることは想定されていません。数年後には、事業会社への譲渡、経営陣による買い取り、株式市場への上場といった形でイグジットが行われます。
次にどこへ渡るのかは、その時点の状況によって決まります。従業員の雇用や取引先との関係を大事にしたい場合は、この点をどう扱うかを事前に話し合っておくことになります。M&A全体の流れは下記の記事で詳しく説明しています。
ファンドを活用するメリットと注意点
ファンドの活用には利点と負担の両方があります。判断のために、両面を並べて確認します。
メリット:資金調達と経営支援を同時に得られる
増資による出資であれば、企業は返済義務のない資金を調達できます。担保や個人保証も原則として不要なため、財務に余力がない企業でも資金を確保できる可能性があります。なお既存株式の譲渡による場合は、売却代金を受け取るのは既存株主であり、会社に資金が入るわけではありません。
資金以外の支援も見逃せません。経営人材、業界のネットワーク、管理体制づくりのノウハウなど、自社だけでは用意しにくいものを受け取れます。事業承継の場面では、後継者がいなくても事業を続けられるという意味があります。
メリット:個人保証や創業者利益の面での効果
株式を譲渡する形をとる場合、経営者は保有株式の対価を受け取れます。あわせて、金融機関との協議によって個人保証の解除や差し替えが行われることもあります。
ただし個人保証の扱いは金融機関との取り決めによって変わるため、譲渡の条件を詰める段階で確認しておく必要があります。
注意点:経営の自由度が下がる
株主が加わるということは、意思決定に他者の視点が入るということです。経営者の判断だけで進められない場面が出てきます。
スピードを重視してきた会社ほど、この変化は負担に感じられるかもしれません。何を株主の同意事項にするかは契約で決まるので、納得できる範囲かどうかを契約前に確認することが大切です。
注意点:審査があり、必ず投資を受けられるとは限らない
ファンドは投資家から預かった資金を運用しているため、投資先の選定には審査があります。事業の将来性、財務の状況、経営体制などが見られ、条件が合わなければ投資に至りません。
規模の小さい企業では、そもそもファンドの投資対象に入らないこともあります。その場合は、事業会社への譲渡やM&Aマッチングプラットフォームの活用など、別の選択肢を検討することになります。
注意点:数年後にもう一度所有者が変わる
PEファンドやVCなどの多くはイグジットを前提としているため、数年後に保有株式が売却される可能性があります。次の相手がどこになるかは、その時点で決まります。
この点は仕組み上避けられないので、ファンドを選ぶ段階で、将来の売却先についての方針を聞いておくことが判断材料になります。
ファンドに関するよくある質問
ファンドの違いや活用について、よく寄せられる疑問にお答えします。
Q. PEファンドとVCの違いを一言でいうと何ですか?
A. 投資する相手の段階が違います。
VCは創業から成長初期のスタートアップに出資し、少数株主として成長を後押しします。PEファンドは中堅から成熟期の企業の株式を過半数取得し、経営に深く関与して価値を高めてから売却します。この違いから、関与の深さも保有期間も変わってきます。
Q. 事業承継ファンドとPEファンドは何が違いますか?
A. 目的の重心が違います。
どちらも企業の株式を取得して経営に関わる点は共通しています。PEファンドは企業価値を高めて売却することが軸なのに対し、事業承継ファンドは後継者不在の企業の事業と雇用を維持し、次の担い手へつなぐことに重心があります。
Q. ファンドが入ると経営者は退任することになりますか?
A. 案件によって異なり、必ず退任するわけではありません。
一定期間そのまま経営を続けてもらう形や、引き継ぎのために残ってもらう形もあります。事業承継ファンドの場合は、経営者の意向を踏まえて役割を決めることが多くあります。条件は交渉の中で取り決めます。
Q. 銀行から融資を受けるのと、ファンドから出資を受けるのはどちらがよいですか?
A. 資金の性質が違うため、目的によって選ぶことになります。
融資は返済義務がある代わりに、株主構成は変わりません。出資は返済義務がない代わりに、株主が加わって経営に関与します。設備投資のように返済計画が立てられる資金は融資、事業承継や成長投資のように経営体制ごと変えたい場面は出資、という整理ができます。
Q. 小さな会社でもファンドを活用できますか?
A. 規模によっては投資対象に入らないことがあります。
ファンドには投資する金額の目安があり、小規模な企業は対象外となる場合があります。その場合は、事業会社への譲渡やM&Aマッチングプラットフォームの活用が現実的な選択肢になります。規模の小さいM&Aについては「スモールM&Aとは?」の記事で扱っています。
まとめ|PE・VC・事業承継ファンドの違いを理解しよう
ファンドは、投資家から集めた資金を運用して利益を投資家へ返す仕組みです。企業の経営に関わってくるのは主に3種類です。VCとPEファンドは投資対象の成長段階や投資手法に違いがあり、事業承継ファンドは後継者不在という課題への対応に重点を置いています。
VCは創業期のスタートアップに少額を分散して投資し、成長を後押しします。PEファンドは中堅・成熟企業の経営権を取得し、深く関与して価値を高めます。事業承継ファンドは後継者不在の企業を引き受け、事業と雇用を維持しながら次の担い手へつなぎます。
どのファンドを検討する場合でも、共通して押さえておきたいのは次の3点です。
- 増資による出資では返済義務のない資金を調達できる一方、ファンドが株主として経営に関与すること
- 何を株主の同意事項にするかは、契約で決まること
- PEファンドやVCなどの多くには運用期間があり、将来的なイグジットを前提としていること
後継者不在を理由に検討している場合は、ファンド以外の選択肢もあわせて比べることをおすすめします。事業会社への譲渡は、ファンドへの譲渡と異なり一定期間後のイグジットを前提としていないことが一般的で、M&Aマッチングプラットフォームを使えば規模の小さい会社でも相手を探せます。まずはどのような選択肢があるかを知るところから始めてみてください。
